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自分でする相続登記・マンション編
土地は登記しなくてもいいの?という疑問
敷地利用権
このような疑問を抱いた方は目の付け所が非常に素晴らしいです。戸建ての相続登記は土地と建物両方登記を申請しますが、マンションの場合はどうでしょう。
前提として建物を所有するためには、敷地を利用する権利を持っていなければなりません。土地を所有している場合だけではなく、借地の場合もあります。その場合には、その土地に地上権や賃借権が設定されているのです。また、土地を親族が所有していてタダで使わせてもらっている(使用借権といいます。)場合もあるでしょう。
このように、マンションの一室(専有部分といいます。)を所有するための建物の敷地に関する権利を敷地利用権といいます。
分離処分の禁止
マンションにはたくさんの専有部分がありますから、その敷地利用権を有する者もたくさんいることになります。多くの場合、敷地は専有部分の所有者の共有となります。所有者の数だけ敷地を分割して、それぞれが単独で所有する分有という形態もありますが、レアケースのためこの記事では触れません。
ここで一つ法律の条文を掲載します。
敷地利用権が数人で有する所有権その他の権利である場合には、区分所有者は、その有する専有部分とその専有部分に係る敷地利用権とを分離して処分することができない。ただし、規約に別段の定めがあるときは、この限りでない。
順に解説していきますが、数人で有するとは共有のことを指します。その他の権利とは、上述したとおり地上権、賃借権、使用借権などです。
本来、土地と建物は別個独立した物ですから、別々に処分することは可能です。マンションの場合には、専有部分の所有者と敷地利用権を有する者が多いので別々に処分をしてしまうと権利関係が複雑になり、混乱が生じます。
例えば、Aさんが、専有部分をBさん、敷地利用権(敷地の共有持分)をCさんに売却したとします。Bさんは敷地利用権を持っていないので、専有部分を所有することはできないことになります。
このようなことから、原則として専有部分と敷地利用権を分けて処分することは禁止されています。例外として、マンションの規約により分離して処分をすることができる旨を定めることができます。
敷地権とは?
敷地利用権(登記されたものに限る。)であって、専有部分と分離して処分することができないものを敷地権といいます。使用借権は登記することができませんので、敷地権とはなりえません。
マンションの登記事項証明書を取り寄せると、敷地権の表示を見ることが多いと思います。敷地権があるときには、表題部(専有部分の建物の表示)に敷地権の表示が登記されます。(不動産登記法第44条第1項第9号)不動産取引の安全と円滑に資するために、分離処分が禁止されているマンションであることを公示しているとも言えます。
分離処分が禁止されるということは、専有部分と敷地利用権を一体として処分しなければならず、登記も一体としてなされます。具体的には、専有部分である建物の登記記録にのみ登記がされ、敷地である土地の登記記録には何も登記はされません。
そして、建物に所有権などの権利に関する登記がされたときは、その登記は一定の例外を除き、土地の敷地権についてされた登記としての効力を有します。(不動産登記法第73条第1項柱書)
冒頭の土地は登記しなくてもいいの?という問いに対しては、する必要はないという回答になります。厳密には、建物の登記により、土地についても同様の登記がされた旨の効力が生じるということです。
登録免許税について
納税通知書と登記事項証明書
登録免許税の計算については、以前の記事である不動産を相続した時の名義変更を自分でする方法で紹介しています。
マンションの相続登記においては、戸建ての場合より計算が複雑となりますので、ご説明をしていきたいと思います。先ずは、固定資産税納税通知書と登記事項証明書を見ていきます。
納税通知書には、非課税部分(公衆用道路など)が載りませんので、登記事項証明書で敷地権の目的となっている土地がないかを確認します。登記事項証明書を見ただけでは、規約共用部分(集会所など)の有無がわかりませんので、納税通知書でそれを確認します。
また、敷地権の目的となっている土地の一部が非課税(道路や公園など)になっていることがありますが、その場合には納税通知書の登記地積と課税地積が一致していません。
敷地権の目的である土地が非課税の場合
・30/100を乗じる場合
評価証明書には、0円または非課税としか記載がされません。このような場合においては、欄外に近傍宅地の平米単価の記載があります。記載がないときは、証明書発行窓口でその旨を申し出て載せてもらうことができる場合があります。
次に、非課税の根拠条文の記載の有無を確認します。法348条2項5号の記載がある場合には、平米単価に地積を乗じたものに30/100を乗じます。条文の記載がなく、現況地目が公衆用道路になっている場合も同様です。
・30/100を乗じない場合
非課税の根拠条文として、法348条1項の記載がある場合などです。一筆の土地の一部が非課税となっていて、登記事項証明書を見ただけでは判明しないところです。
・上記2つの混合型
これは本当に厄介で、評価証明書を取っただけでは足りません。30/100を乗じるところと乗じないところが混在しているので、証明書発行窓口で地積の内訳書を出してもらうようにします。
公衆用道路 〇㎡
それ以外 △㎡
こんな感じで出してもらえます。
規約共用部分がある場合
先ず、共用部分とは、マンションの一室(専有部分)以外の建物の部分のことをいいます。 例えば、廊下、階段、エレベーター、エントランスなどです。これらは、専有部分の所有者の共有に属します。
納税通知書の建物の課税床面積が登記床面積を上回っているのは、共用部分が上乗せされているためです。
規約共用部分とは、専有部分や別棟の建物の集会所などをマンション規約により共用部分としたもののことです。ちなみに、規約共用部分の登記をすると表題部所有者(マンション分譲会社など)の登記は、登記官により職権抹消されます。
規約共用部分の評価額は、建物の評価額に上乗せします。
評価証明書の枚数ですが、リゾート地の分譲マンションやホテルなどは一室につき10枚近くに及ぶこともあります。
借地の場合の税率に注意
敷地権の種類が地上権、賃借権の場合は、税率が2/1000となります。所有権の場合の半分の税率です。
余談ですが、平成31年度の司法書士試験で敷地権の種類が所有権と賃借権である区分建物の登録免許税を計算させる問題が出されました。試験会場には、当然のことながら電卓の持ち込みはできませんので、税率の異なる敷地権の登録免許税の計算を筆算でしなければならなかったのです。酷ですよね。
敷地権付ではないマンションの場合
かなり少数とはなりますが、敷地権付ではないマンションもあります。その場合には、建物の登記に加えて土地の共有持分の移転登記も申請します。
土地の登記事項証明書を取得する場合には、注意が必要です。全部事項証明書(謄本)を請求するとものすごい枚数になることが多いです。
取得したい被相続人の氏名を指定して「何区何番事項証明書(抄本)」を請求しましょう。また、オンライン請求はできませんので、窓口または郵送請求となります。

司法書士の藤山晋三です。大阪府吹田市で生まれ育ち、現在は東京・三鷹市で司法書士事務所を開業しています。人生の大半を過ごした三鷹で、相続や借金問題など、個人のお客様の無料相談に対応しています。
「誰にも相談できずに困っていたが、本当にお世話になりました」といったお言葉をいただくこともあり、迅速な対応とお客様の不安を和らげることを心掛けています。趣味はドライブと温泉旅行で、娘と一緒に車の話をするのが楽しみです。甘いものが好きで、飲んだ後の締めはラーメンではなくデザート派です。
三鷹市をはじめ、東京近郊で相続や借金問題でお困りの方は、ぜひお気軽にご相談ください。
不動産を相続した時の名義変更を自分でする方法
はじめに
相続手続の主なものとして、不動産、株式等の名義変更、預貯金の名義変更や解約及び相続税の申告などがあります。相続人の方が全て自分ですることも可能ですが、最もハードルが高いのは相続税申告でしょう。
税申告が必要な方が自己判断で遺産分割をしてしまうと、予期しない高額な納税をしてしまうことがありますので注意が必要です。遺産分割によって納める相続税が異なってくることについては、2次相続を踏まえた相続税対策を参照して下さい。
相続税申告が不要な方であっても、不動産を相続によって取得される方は多くいらっしゃいますので、今回の記事はそのような方々が自分で名義変更(相続登記)をする方法についてご説明する内容となります。
準備するもの
戸籍謄本と戸籍の附票
相続人が配偶者と子供の場合には、被相続人の出生から死亡までの戸籍(原戸籍、除籍)謄本と相続人の現在戸籍謄本(被相続人の死亡日より後に発行されたもの)と戸籍の附票(住民票の写しでも可)を取得します。
郵送で請求もできますが、手数料は定額小為替証書(額面は1,000円までで、郵便局で購入できます。)で支払いますので、戸籍謄本請求書や返信用封筒と併せて同封します。
被相続人と登記名義人の同一性を証する書面
次の項目で取得する登記事項証明書には、登記名義人の住所と氏名が記録されています。死亡事項の記載ある戸籍(除籍)謄本を添付しただけでは、死亡した者の氏名しかわかりません。
したがって、被相続人の戸籍の附票や住民票の除票の写し(本籍の記載あるもの)を添付しなければなりません。戸籍の附票には本籍・筆頭者氏名の記載が原則省略されますので、申請書に本籍・筆頭者の記載を求める旨を記入するか、窓口で申し出る必要があります。
住所と氏名が一致することで、登記名義人と被相続人が同一人物であると証明することができるのです。
転居等で住所が一致しないことが実務上多く見られます。住民票または戸籍の附票の除票の保存期間が5年とされていたために、被相続人の過去の住所を遡って調べようとしても廃棄済みで入手不可となるのです。ちなみに、改正(令和元年6月20日施行)により保存期間は150年になりました。(住民基本台帳法施行令第34条第1項)
後にも述べますが、住民票の除票等で登記名義人の住所と氏名が一致しない場合には、法務局と事前相談をした方がよいと思います。権利証、不在住不在籍証明書、納税証明書、上申書などの添付を求められる場合があります。
不動産の登記事項証明書
固定資産税納税通知書を参照して法務局で登記事項証明書を取得します。民事法務協会の登記情報提供サービスを使って登記情報を取得しても構いません。
気を付けるべき点は、相続登記を漏らさないことです。納税通知書には、公衆用道路や保安林などの非課税不動産は載りません。その場合には市町村役場の資産税課(東京23区の場合は都税事務所)で名寄帳の写しの請求をします。戸建ての場合の私道部分やセットバックに注意しましょう。
評価証明書
登録免許税を算出するために市町村役場の資産税課(東京23区の場合は都税事務所)で評価証明書を取得します。名寄帳の写しが必要な場合は、一緒に請求すれば一回で用事が済みます。
所有者(納税義務者)の相続人から請求する場合には、戸籍謄本の添付を求められます。ただし、相続人代表者届出書を提出済みであるときは相続人代表者が請求することができます。市町村役場によって取扱いが異なることがありますので、事前に問い合わせをした方がよいでしょう。
収入印紙
登録免許税は収入印紙で納めます。計算方法については、登録免許税の計算を参照してください。
相続登記においては、免税措置が定められています。亡くなった方の名義にする土地の相続登記の登録免許税は課されません。例えば、お父様が亡くなられて登記名義人がご祖父様の場合に、いったんお父様名義にする相続登記には登録免許税はかかりません。注意すべきなのは、土地にのみ適用されて建物には適用されないことです。
他には、市街化区域外の土地で市町村の行政目的のため相続登記の促進を特に図る必要があるものとして法務大臣が指定する土地のうち、不動産の価額が10万円以下の土地に係る登録免許税の免税措置が定められています。詳しくは、知らないと損をする!?相続登記の登録免許税の免税措置についてを参照してください。
免税措置の適用対象が全国の土地に拡充され、不動産の価額が100万円以下(10万円以下から引き上げ)の土地であれば、この免税措置が適用されることになりました。
上記2つの適用期限は、令和7年3月31日までとなっています。
登記申請書と添付書類
法務局の不動産の所有者が亡くなった場合の不動産登記申請手続を参考に作成していきます。色んなケースがあるとは思いますが、最も多いであろう遺産分割協議書を添付した登記申請書の作成方法について述べてみます。
・遺産分割協議書
記載例のように相続財産全てについて協議する必要はなく、不動産の記載だけで登記申請は可能です。もちろん、預貯金などの他の相続財産の記載があっても問題はありません。
氏名は自署ではなく、ワープロ打ち(記名)で構いません。実印で押印して、相続人全員の印鑑証明書(期限はありません。)を添付します。
・相続関係説明図
登記原因証明情報として、戸籍謄本等と遺産分割協議書(印鑑証明書を含みます。)を添付しますが、登記完了後にそれらの原本を返却してもらうためにコピーを付けなければなりません。
戸籍謄本等全てのコピーを付けるのは大変なので、相続関係説明図を添付することでコピーの添付が不要となります。あくまで不要となるのは戸籍謄本等だけであり、住民票や戸籍の附票のコピーは付けなければなりません。
併せて、遺産分割協議書、印鑑証明書及び評価証明書のコピーも付けるようにします。
・住所証明情報
不動産を相続することになった相続人全員の住民票の写しまたは戸籍の附票を添付します。 「準備するもの」の冒頭に記載しています。
法務局での事前相談
登記申請書と添付書類が揃ったら、申請する法務局で予約をして事前相談することをお勧めします。書類に不備がないかをチェックしてもらえます。
登録免許税分の現金を持参し、問題がなければ収入印紙を購入してその日に申請することもできます。
郵送による申請について
直接窓口に登記申請書を提出する以外に、郵送による申請もできます。申請書を入れた封筒の表面に「不動産登記申請書在中」と記載の上、書留郵便により送付します。
登記識別情報を返送してもらう場合には、本人限定受取郵便等(レターパックプラスは使えません。)の方法によります(不動産登記規則第63条第4項第1号)ので、返信用封筒に必要な切手を貼るようにします。申請人が2人以上の場合には、それぞれの住所に登記識別情報を発送しますので、人数分の返信用封筒を用意します。
共有名義で登記申請をする場合には、申請人のそれぞれが登記申請書に押印します。相続人の1人から登記申請をすることもできますが、申請人とならなかった相続人には登記識別情報は交付されませんので、注意が必要です。
最後に
相続登記を含めた不動産登記申請(表示登記を除きます。)は義務ではありません。そのために相続登記がされずに放置され、所有者不明土地問題など社会問題となっています。
上記問題の発生予防の観点から、相続登記がされるようにするための不動産登記制度を見直す民法等の一部を改正する法律が令和6年4月1日に施行され、相続登記の申請が義務化されます。
この記事がご自身で相続登記をされる方の一助となれば幸いです。

司法書士の藤山晋三です。大阪府吹田市で生まれ育ち、現在は東京・三鷹市で司法書士事務所を開業しています。人生の大半を過ごした三鷹で、相続や借金問題など、個人のお客様の無料相談に対応しています。
「誰にも相談できずに困っていたが、本当にお世話になりました」といったお言葉をいただくこともあり、迅速な対応とお客様の不安を和らげることを心掛けています。趣味はドライブと温泉旅行で、娘と一緒に車の話をするのが楽しみです。甘いものが好きで、飲んだ後の締めはラーメンではなくデザート派です。
三鷹市をはじめ、東京近郊で相続や借金問題でお困りの方は、ぜひお気軽にご相談ください。
2次相続を踏まえた相続税対策
事例
被相続人Xの相続人は、同居している妻Y(80歳、資産1億円)、長女A及び長男B(どちらも別居、持ち家あり)です。遺産は、自宅5000万円(土地(200㎡)4500万円、建物(木造、築25年)500万円)とその他の財産5000万円の計1億円です。
このような状況で、Xの相続(1次相続)時にY、A及びB間でどのような遺産分割をするかでYの相続(2次相続)時に負担する相続税の額が違ってきます。したがって、節税のためには1次相続時の税額だけでなく、2次相続を踏まえた対策が不可欠となります。

1.自宅をYに相続させた場合
1次相続時の相続税
自宅をY、その他財産を各2500万ずつAとBが取得したケースで考えてみます。
法定相続人は3人ですから、基礎控除額は4800万円です。小規模宅地の特例により、土地の評価額4500万円の80%が軽減されます。
1億円-4800万円-3600万円=1600万円
1600万円が課税遺産額になります。相続税総額160万円のうち、それぞれの納付税額を求めます。
Y:160万円×14/64=35万円
A:160万円×25/64=62.5万円
B:160万円×25/64=62.5万円
Yの負担額は、配偶者税額軽減の特例により0円です。
よって、1次相続での相続税負担額は、125万円となりました。
特例の適用には相続税申告と遺産分割が必要
上記の小規模宅地、配偶者税額軽減の特例を受けるには、相続税の申告が必要です。小規模宅地の特例により相続税が0円となる場合にも同様となります。
申告期限(被相続人が亡くなってから10か月以内)に遺産分割が終わらないときには、法定相続分で申告します。法定相続分による申告額は以下の通りです。
小規模宅地の特例を受けられないので、課税遺産額は5200万円、相続税総額は630万円となります。
Y:630万円×1/2=315万円
A:630万円×1/4=157.5万円
B:630万円×1/4=157.5万円
申告期限から3年以内に遺産分割をすれば、納めすぎた税金を取り戻すことができます。
2次相続時の相続税
Y死亡時の相続税を計算してみます。法定相続人は2人ですから基礎控除額は4200万円となり、A・B共に別居、持ち家ありですから小規模宅地の特例を受けることはできません。
1億5000万円-4200万円=1億800万円
課税遺産額は1億800万円になりますので、相続税総額は1840万円になります。
1次相続と2次相続の合計納税額
125万円+1840万円=1965万円
2.Yが配偶者居住権のみを取得した場合
1次相続時の相続税
Yが配偶者居住権のみを取得して、残りの財産をA・Bが2分の1ずつ取得したケースで考えてみます。設定期間を終身として、配偶者居住権の評価額を計算しますが、方法については割愛します。
上記事例の配偶者居住権の評価額は1750万円(建物500万円、土地1250万円)となります。配偶者居住権についても小規模宅地の特例を受けることができますので、1250万円の80%が軽減されます。
1億円-4800万円-1000万円=4200万円
4200万円が課税遺産額になります。相続税総額480万円のうち、それぞれの納付税額を求めます。
Y:480万円×750/9000=40万円
A:480万円×4125/9000=220万円
B:480万円×4125/9000=220万円
Yの負担額は、配偶者税額軽減の特例により0円です。
よって、1次相続での相続税負担額は、440万円となりました。
2次相続時の相続税
Y死亡時の相続税を計算してみます。Yが取得した配偶者居住権は死亡と同時に消滅してしまい、A・Bが承継することはありません。A・Bは制限のない完全な所有権を取得しますが、それに対して相続税が課されることはありません。
1億円(Yの遺産総額)-4200万円=5800万円
課税遺産額は5800万円になりますので、相続税総額は770万円になります。
1次相続と2次相続の合計納税額
440万円+770万円=1210万円
3.Yが全財産を取得した場合
これは最もやってはいけないパターンとなります。1次相続時の相続税は、配偶者税額軽減の特例(1億6000万円以下)により0円です。
以下、2次相続時の税額を計算してみます。
2億円-4200万円=1億5800万円
課税遺産額は1億5800万円になりますので、相続税総額は3340万円になります。
1次相続と2次相続の合計納税額
0円+3340万円=3340万円
まとめ
AまたはBが同居、賃貸住まい(いわゆる家なき子の場合)であれば、2次相続時に小規模宅地の特例を受けることができますし、Yの資産が潤沢であったことから配偶者居住権のみを取得させる遺産分割ができました。
したがって、相続税の節税を考える要素として、小規模宅地の特例適用の有無並びにYの資産状況及び余命を挙げることができると言えます。

司法書士の藤山晋三です。大阪府吹田市で生まれ育ち、現在は東京・三鷹市で司法書士事務所を開業しています。人生の大半を過ごした三鷹で、相続や借金問題など、個人のお客様の無料相談に対応しています。
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どうする?実家の家と土地
相続した田舎の実家の家と土地
「【2021年12月22日】
【NHKテレビ・あさイチ】に
【どうする?実家の家と土地】
という番組が放送されていました。」
番組全てを観たわけではないですが、相続した田舎の実家の家と土地について、私の実体験を基に書いてみたいと思います。
私の体験談
2020年に父が亡くなり、東京から遠く離れた父の実家の家と土地を相続しました。家は空き家となっており、土地は宅地以外に農地と山林がありました。
農地(主に田んぼ)は、父の生前には無償で近所の農家に貸していましたが、後継者がいないことや過疎化が大きく影響して、現在ではタダでも借り手はいませんし、雑草の刈取りに多くの費用がかかっています。定期的に刈取りをしないと、猪などの野生動物が田畑に入り込んで土を掘り返したりするなど近隣に迷惑をかけることになるようです。
農地の管理に多額の費用がかかるので処分をしたかったのですが、私の所有地は農地転用(農地を農地以外の目的で使用すること)ができない農地でした。自身が所有している農地がどうなっているのかは、全国農地ナビで調べることができます。
市町村に寄付する方法もあるようですが、ほぼ無理だと思います。不動産は管理費用が高額となりますし、固定資産税は地方税として市町村の収入源となります。ですから、そのまま固定資産税を払い続けてほしいということなのでしょう。
タダで譲渡(贈与)することも貸すこともできませんので、八方塞がりでした。ちなみに、父の遺産は実家以外にもありましたので相続放棄をする選択肢はなかったです。
そこで、宅地と抱き合わせで売却することを近所の不動産会社数社に相談をしましたが、需要がないこと、農地の売買に不慣れであること及び売買価格が高額にはならないことを理由に全て断られました。売買の仲介をする不動産会社は売買価格に応じて手数料を取得しますから、田舎の安価な不動産の仲介などやりたがらないということなのだと思います。
市町村の空き家バンクに登録
私の代で何とか処分しないと、いずれは娘が相続することになってしまいます。民間業者で処分が無理だったことから、実家の家と土地を市町村の空き家バンクに登録しました。もちろん農地抱き合わせです。
市町村のホームページに所有不動産が掲載されることになり、今までに数件の問い合わせがありました。ただ、広すぎる農地抱き合わせがネックとなり、未だ売買成約には至っていません。
相続土地国庫帰属制度が救世主となるのか?
「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」(令和3年法律第25号)について、施行期日を定める政令が2021年12月14日に閣議決定され、2023年4月27日施行とされました。
相続土地国庫帰属制度とは、相続等により土地の所有権を取得した者が、法務大臣の承認を受けて、その土地の所有権を国庫に帰属させることができる制度のことです。
相続した土地が要らない場合に10年分の管理費用を支払うことで、実質的に所有権を放棄して国庫に帰属させることができるわけですが、高いハードルが設定されています。詳細は割愛しますが、要件を満たす土地は普通に売却可能と思われるところがあるのです。あくまでも、私個人の見解なのですが・・。
上記法律の条文には、農地も対象となることを前提とするものが見受けられますが、現時点でははっきりとしたことはわかりません。タダでも要らない土地を国が貰ってくれるのかは疑問ですが、あまり過度な期待はせずに成り行きを見守りたいと思います。

司法書士の藤山晋三です。大阪府吹田市で生まれ育ち、現在は東京・三鷹市で司法書士事務所を開業しています。人生の大半を過ごした三鷹で、相続や借金問題など、個人のお客様の無料相談に対応しています。
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連帯債務者の相続、債務引受による抵当権変更登記について
債務引受を遺産分割協議書に記載することの可否
賃貸マンション、アパートなどの事業用不動産を相続するときに被相続人の債務を相続することがあります。例えば、連帯債務者A・BのうちAが死亡してその子B・Cが相続人となって遺産分割をするケースで考えてみましょう。不動産の所有者はAとします。
Bが事業用不動産を相続することにする遺産分割をBC間ですることには全く問題ありません。ただ、Aの連帯債務については、相続人であるB・Cが法定相続分に応じた割合で相続します。Bは不動産の所有権だけでなくA死亡後の賃料を取得することとなります。対して、Cは連帯債務のみ相続することになるわけですから、両者に不公平感が生じるのです。
このような場合に、Cが相続した連帯債務をBが免責的に引き受けることがあります。要は、Aが生前営んでいた不動産賃貸業をBのみが引き継ぐということです。
被相続人の債務を相続人のうち誰が相続することになるかを遺産分割協議書に記載することは可能です。ただし、債権者に主張することはできません。主張することの可否は方向性の問題ですから、債権者が遺産分割の内容を承諾することはできます。
実務では免責的債務引受契約が必要となる
銀行などの債権者が、被相続人の債務を承継する相続人を定めた遺産分割協議に同意・承諾することは基本的にはありません。債権者の関心事はローンの返済がきちんとなされるかであって、本来B・Cの2名に対して請求できるものがBにしか請求できないことになるのはリスクでしかないからです。
債権者と引受人となる者との間の契約による場合の登記原因証明情報
免責的債務引受契約が三面契約でなされた場合には、今まで通り債務引受契約書を登記原因証明情報にすることが可能です。
三面契約ではなく、債権者と引受人となる者との間で債務引受契約がなされた場合に問題が生じます。上記設例の場合では、債権者とBとの間で免責的債務引受契約をしますと、債権者がCに対してその契約をした旨を通知した時に、その効力が生ずるとされています。
つまり、債務引受契約書のみでは登記原因証明情報として不足していることになります。通知したことを証する情報を提供する必要がありますし、また通知は到達しなければ効力が発生しません。契約書を登記原因証明情報にするには、併せて配達証明付内容証明郵便を提供することになると考えられます。
ただ、銀行などの債権者にそれを要求することは無理だと思いますので、司法書士が報告型の登記原因証明情報を作成するしかないでしょう。
以下に、登記の原因となる事実又は法律行為の記載例を掲げます。
(1)令和〇年〇月〇日、債権者○○及び連帯債務者Bは、上記〇記載の抵当権の被担保債権である○○に対する連帯債務について、Bが免責的に引き受ける旨の免責的債務引受契約(以下「本件契約」という。)を締結した。
(2)同日、債権者○○は、連帯債務者Cに対し、本件契約を締結した旨の通知をし、同日、当該通知は到達した。
(3)本件契約にかかる債務は、令和△年△月△日連帯債務者Aから相続した連帯債務である。
(4)よって、令和〇年〇月〇日、上記〇記載の抵当権の連帯債務者はBに変更された。

司法書士の藤山晋三です。大阪府吹田市で生まれ育ち、現在は東京・三鷹市で司法書士事務所を開業しています。人生の大半を過ごした三鷹で、相続や借金問題など、個人のお客様の無料相談に対応しています。
「誰にも相談できずに困っていたが、本当にお世話になりました」といったお言葉をいただくこともあり、迅速な対応とお客様の不安を和らげることを心掛けています。趣味はドライブと温泉旅行で、娘と一緒に車の話をするのが楽しみです。甘いものが好きで、飲んだ後の締めはラーメンではなくデザート派です。
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ブレーキ操作不要!?セレナe-POWERのワンペダル走行
家族3人で往復2,000㎞のドライブ
2020年に父母が相次いで亡くなったのですが、郷里は2人とも山口県でしたので、私が小中学生の頃には毎年夏休みに帰省していました。菩提寺は、父の郷里にありお墓もお寺の近くにありましたので、父母の納骨法要のために同年暮れに新幹線で山口へ行きました。
2021年7月末に一周忌法要のために、家族3人で山口へ向かうことになったのですが、車好きの娘の希望により、新幹線ではなくレンタカーを借りて車で往復することになりました。その距離、実に2,000㎞、コンパクトな車を借りて安く済ませることもできたのですが、長距離移動のことも考えてミニバンお任せプランに申し込みました。
お任せプランとは、車種を指定することができない代わりに費用が安くなるもので、当日までどの車を借りられるのかわからないというものです。ドキドキしながら当日を迎えたのですが、レンタカー店で家族3人を待っていたのはセレナe-POWERでした。
恥ずかしながら、人生初のハイブリッド車を運転することになったわけですが、とりわけワンペダル走行が印象に残りましたので、そのことについて書いてみたいと思います。
ワンペダル走行とは?
アクセルペダルの操作のみで発進から減速、停車まですべてを行える機能の事です。当然のことながら、ブレーキペダルも付いており、その点においては通常のオートマ車と変わりありません。緊急時の急減速をしなければならないこともあるでしょうし、そのような場合にはブレーキペダルを踏みこむことになります。
ワンペダル走行を体験した感想
セレナe-POWERにはドライブモードというものがあり、ワンペダル走行が可能となるのは、Sモードとエコモードの時となります。
特筆すべきものとして、慣れるまでには非常に違和感を覚えることが挙げられます。通常の車であればアクセルペダルから足を離すとエンジンブレーキがかかりますが、特にオートマ車はマニュアル車に比べてそれによる減速が非常に緩やかとなります。ですから、車間距離を保つためにブレーキを何度も踏まなければならないことが多くありました。
ワンペダル走行では、アクセルから完全に足を離すとエンジンブレーキとは比べものにならないくらいの減速をしますし、そのまま継続すると車は停止します。停止した場合にはクリープ現象がありません。
慣れてしまうと非常に運転操作が楽に感じました。特に、市街地、山道など加速と減速を繰り返す場面では、ペダルの踏みかえがほぼなくなってアクセルペダルに右足を載せておけば済むような状態でした。
ブレーキランプは点くのか?
これについては、東京に帰ってきてから判明しました。ブレーキを踏んでいないのですから、ブレーキランプは点かないものと思っていたのですが、ある一定以上の減速Gによって点灯するようです。
逆に点かないと追突されるおそれがありますし、怖いですよね。ただ、ブレーキを踏んでいないのに点灯するのは、どうしても違和感を覚えます。

司法書士の藤山晋三です。大阪府吹田市で生まれ育ち、現在は東京・三鷹市で司法書士事務所を開業しています。人生の大半を過ごした三鷹で、相続や借金問題など、個人のお客様の無料相談に対応しています。
「誰にも相談できずに困っていたが、本当にお世話になりました」といったお言葉をいただくこともあり、迅速な対応とお客様の不安を和らげることを心掛けています。趣味はドライブと温泉旅行で、娘と一緒に車の話をするのが楽しみです。甘いものが好きで、飲んだ後の締めはラーメンではなくデザート派です。
三鷹市をはじめ、東京近郊で相続や借金問題でお困りの方は、ぜひお気軽にご相談ください。
長期間にわたり相続登記等がされていないことの通知が送られてきた場合の手続について
なぜ送られてきたの?
所有者不明土地問題を解消するためだといえます。
例えば、道路拡張のために土地収用をするとなった場合には、事業者である自治体等は土地の所有者と交渉しなければなりません。登記簿から所有者が判明すればよいのですが、登記名義人が既に死亡しており、相続登記が長期にわたりされていないと現在の所有者を把握することは非常に困難となります。結果として公共事業が滞ることになり、都市計画に影響を及ぼすことになります。
このような場合に、登記官が、公共の利益となる事業を実施しようとする者の求めに応じ、事業を実施しようとする区域内の土地について一定期間相続登記がされていないときは、登記名義人となり得る者を探索します。探索は、市町村役場から戸籍謄本等を取り寄せることによってなされ、相続人となる任意の1名に対して、相続登記等の勧告を行うこととされています。
何もしなくていいの?
送られてきた書面は相続登記を申請してくださいと協力を求めるものであって、強制力はありません。だからといって、何もしないのは2つの理由からお勧めしません。
1つ目は、2021年4月に民法・不動産登記法が改正され、相続登記義務化関係の改正については公布後3年以内に施行されるからです。怠った場合には罰則が設けられています。
次に、相続登記をせずに放置をしますと、第2、第3の相続が発生して相続人の数が膨れ上がってしまいます。そうなると、相続手続が非常に煩雑となり、子孫に負担がかかります。是非、この機会に相続登記を申請しておくことをお勧めします。
相続登記申請の方法
法定相続人情報を取得する
法定相続人情報とは、家系図のようなもので被相続人や相続人などが記載されています。法定相続情報一覧図と名称が似ていますが、全く別のものとなります。
取得するといっても、正確には法務局に行って閲覧申請をしてプリントアウトした書面を受け取ります。したがって、オンラインや郵送で請求することはできません。通知書面(お知らせ)の下部に不動産番号及び不動産所在事項の記載があります。所在事項に記載された不動産を管轄する法務局に直接行く必要があります。管轄する法務局は、管轄のご案内で調べることができます。
遺産分割協議書を作成する
相続人が複数いる場合には、遺産分割協議書を作成して不動産を相続する相続人を決めます。併せて、市役所等で相続人全員の印鑑証明書を取得します。相続人が一人のときは作成不要です。
評価証明書を取得する
登記申請の際に納める登録免許税を算出するために市役所等(東京23区の場合は都税事務所)で評価証明書を取得します。相続人代表者届出書を提出している場合には、相続人から取得することができます。そうでない場合には、相続人であることを証する戸籍謄本等の提示を求められます。
登記申請をする
法定相続人情報の作成番号(12桁)を提供することで、戸籍謄本や相続人の住民票の写しの添付が不要となります。第2の相続が発生している場合には、別途戸籍謄本等の添付が必要となります。
作成番号は通知書面(お知らせ)の下部に記載されているほか、長期間相続登記がされていない土地の登記事項証明書の記載(登記官の職権により、所有権の登記に付記されます。)により確認することもできます。
同じ管轄の不動産(建物など)で、長期相続登記等未了土地の付記登記がされていないものについても同時に申請ができます。ただし、登記名義人の住所・氏名が付記登記された土地と一致していない場合には、別途、被相続人と登記名義人の同一性を証する書面の添付が必要となります。
他管轄の不動産の相続登記を申請する場合には、法定相続人情報の作成番号のほかに法定相続人情報を保有する法務局(支局・出張所)を提供することにより、戸籍謄本等の添付が不要となりますが、登記名義人の住所・氏名が一致していない場合の取扱いは前述のとおりです。

司法書士の藤山晋三です。大阪府吹田市で生まれ育ち、現在は東京・三鷹市で司法書士事務所を開業しています。人生の大半を過ごした三鷹で、相続や借金問題など、個人のお客様の無料相談に対応しています。
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連帯保証人の相続人として請求された場合の対処法
裁判となった事案
M銀行が金銭消費貸借契約に基づき主債務者に対して貸金等の支払いを求めるとともに、連帯保証契約に基づき、連帯保証人であるAに対して、連帯保証債務として各8,000万円の支払いを求める訴えを提起しました。その後、M銀行の請求を認める判決が出されて確定します。
判決確定後にAは死亡し、Aには子Cと弟Bがいました。CはAの死亡日から3ヶ月の熟慮期間内に相続放棄をして、BがAの相続人となりましたが、BがAの相続の承認・放棄をしないまま死亡します。Bには、子Dがいました。
Aの死亡から3年経過後に、M銀行はDに対する強制執行(差押え等)を可能にするための手続をとり、B名義の不動産を差し押さえました。Dは裁判所から送られてきた書面により、自分が8,000万円の債務を負担していることを知り、当該書面を受け取った日から3ヶ月の熟慮期間内に相続放棄をしました。
Dは、M銀行を被告として、Dに対する強制執行を可能にするための手続に対する異議の訴え(承継執行文付与に対する異議の訴え)を提起しました。相続放棄の熟慮期間は3ヶ月とされていますから、Dの相続放棄の効力の有無が熟慮期間の起算点をいつの時点とするかによって決するために、裁判ではそこが争点となりました。
※実際の事案ではM銀行が債権譲渡をしたり、相続人となった当事者の数が多くなっていますが、話を分かりやすくするために簡略化しています。
最高裁の判断(令和元年8月9日判決)
従来の考え方は、第1の相続(Aの相続)の熟慮期間の起算点は第2の相続(Bの相続)と同じであり、同時に進行するというものでした。ただ、それではあまりにもDに酷であることから、AとB・Dが疎遠であったなどの特段の事情があった場合には起算点を遅らせるという例外を認めていたのです。
対して、直近の最高裁判決では、DがBを相続したことを知っても、それをもってBがAを相続したことを知るわけではないので、D自身が、BがAの相続人となったことを知る必要があると示しました。要するに、従来の考え方を覆したわけですが、結果的には相続人の保護を優先するというものでした。
相続を承認するか放棄するかを選択する機会は保障されるべき
自分が8,000万円の債務を負担することになったという事実を突きつけられたときに、相続を放棄する余地がなかったとしたら、あまりにも酷なことでしょう。
上記判決の理由では、相続の承認又は放棄の制度は、相続人に対し、被相続人の権利義務の承継を強制するのではなく、被相続人から相続財産を承継するか否かについて選択する機会を与えるものであると述べられています。
1日でも早くご相談ください
ページタイトルに回答するなら、できるだけ早くご相談くださいということになります。相続放棄は、明らかに要件を満たしていないような場合を除いて受理されます。詳しくは、3ヶ月(熟慮期間)を超えた相続放棄についてをご参照ください。
相続放棄をしたからそれで終わりということではなく、単純承認をしたとみなされる場合や3ヶ月を超えて相続放棄をした場合には、後に債権者から訴訟を提起されて相続放棄の効力を争うことを余儀なくされる可能性があるのです。
ただ、そのような事態になったとしても、相続放棄の時期が早ければ裁判において立証を要する事項が減るのです。今回掲載した裁判は、1審、2審とも原告が勝訴しましたが、被告債権者の上訴により、最高裁まで争うことになりました。結果が覆ることはありませんでしたが、原告の相続人は多くの時間と労力を費やすことになりました。
叔父叔母に多額の借金や連帯保証債務があり、知らぬ間にご自身が相続人になっていたということは身近に起こり得ます。繰り返しになりますが、できるだけ早くご相談いただきたいと思います。

司法書士の藤山晋三です。大阪府吹田市で生まれ育ち、現在は東京・三鷹市で司法書士事務所を開業しています。人生の大半を過ごした三鷹で、相続や借金問題など、個人のお客様の無料相談に対応しています。
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家族信託の活用例-子供のいない夫婦のケース
具体的事例
以前の記事(遺言公正証書の作成方法)で、子供のいない夫婦の一方が公正証書遺言を作成するという事例を紹介しました。 今回は、遺言者Xの弟Bに子供がいた場合の家族信託の活用法を見ていきたいと思います。

Xからの相談
私は、甲土地とその敷地上の乙建物を所有し、妻Aと暮らしています。
私が亡くなった後には、Aが生活に困らないように甲土地と乙建物及び預貯金を全てAに相続させたいと思っています。
Aが亡くなった後は、私たち夫婦には子供がいないので甲土地と乙建物を甥Cにあげたいのですが、遺言を作成することでそのようなことが可能でしょうか?
二代先の遺言はできない
結論からいうとXだけの遺言ではできません。X死亡後、Aが「甲土地と乙建物をCに遺贈する」旨の遺言書を作成すれば可能ですが、夫婦間といえども遺言書の作成を強要することはできません。
さらに、Xが「全財産をAに相続させる」旨の遺言書を作成しても確実に相続させることができないことは、以前の記事(遺言公正証書の作成方法)で紹介しました。
遺言に代わる家族信託の活用例
家族信託とは?
信託とは、文字通り「信じてあることを託す」ことです。何を託すのかですが、不動産や金銭などの財産です。
委託者(財産を託す人)が信託契約など(自己信託、遺言信託もあります)によって受託者(委託者が信頼する親族など)に対して、財産を移転します。受託者は、信託の利益を受ける人(受益者)のために託された財産の管理・処分等をします。
抽象的な表現では分かりにくいと思いますので、上記事例に沿って説明します。
委託者Xは受託者Cに対して、財産を託します。不動産の名義は、X→Cに移転しますがCの固有財産になるわけではなく、言わば誰のものでもない信託財産となります。
当初の受益者(第一次受益者)をXと定めて、Cは、信託の目的に従ってXの安定した生活の確保のため不動産の管理をし、必要に応じて生活費等をXに交付します。 X死亡後の後継の受益者(第二次受益者)をAと定め、Cは、Aが亡くなるまで、同様の不動産管理、生活費等交付を行います。A死亡後の信託財産はCに帰属させます。
単なる財産管理制度ではない
上記事例において、甲土地が先祖代々のものであり、XとしてはAの親族(姻族)に渡したくないということもあるでしょう。つまり、家族信託の活用は単なる受益者のための財産管理ではなく、委託者が希望する者に財産を受け継がせる機能を有しているとも言えます。
また、そのような後世に継がせる不動産ではない場合には、Aの死亡後には乙建物は空き家となってしまいます。信託契約にX、A両名の死亡後に不動産売却(譲渡所得税はCの負担)や建物の取壊しをCにさせるという条項を組み入れて、生前に空き家対策を講じておくこともできます。
税金はどうなる?
上記事例において、どのような税金が課されるのかみていきましょう。
・信託設定時
登録免許税: 固定資産税評価額の0.4%(土地については、軽減措置により0.3%、令和5年3月31日まで)
固定資産税: XからCに納税義務者が変わります。
信託財産から支払うようにすることもできるので、Cの実質的負担をなくせます。
・X死亡時
相続税: Aに課税
・信託終了時
登録免許税: 固定資産税評価額の2%
相続税(2割加算): Cに課税
不動産取得税: Cに課税
まとめ
家族信託のメリット
・遺言や後見制度の隙間を埋めることができる
家督承継や本人の親族支援など、同じ生前対策である遺言や任意後見で実現できないことが可能となります。
・節税対策にはならないが、多額の課税がされることもない
上記事例において、家族信託を利用せずにX→Aの相続、A→Cの遺贈という流れになった場合、かかる税金は変わりません。むしろ、相続登記の税率は0.4%ですから、軽減措置の分だけ信託登記の方が安くなります。
・認知症対策に有効
認知症で判断能力を欠くことになると遺言、任意後見契約、家族信託全て利用することはできません。認知症と診断されたら即アウトということではなく、程度の問題です。医師の診断書が「後見相当」以外であれば、利用可能な場合が多いと思われます。
家族信託のデメリット
・信託財産が収益不動産(アパート、賃貸マンション等)の場合、損益通算ができない
信託財産の収支がマイナスの場合に、他の事業等の収益と損益通算はできません。
・何でもできる万能な制度ではない
遺言・任意後見でしかできないこともありますし、それらと併用することで最も有効な生前対策をとることができる場合もあります。
生前対策が重要
結局のところ、生前対策が重要なのです。もっと言えば、認知症になる前に備えましょう。
「転ばぬ先の杖」という言葉があります。判断能力のあるうちにしっかり対策しておけば、自分や親族だけでなく、子孫をも護ることに繋がるのです。

司法書士の藤山晋三です。大阪府吹田市で生まれ育ち、現在は東京・三鷹市で司法書士事務所を開業しています。人生の大半を過ごした三鷹で、相続や借金問題など、個人のお客様の無料相談に対応しています。
「誰にも相談できずに困っていたが、本当にお世話になりました」といったお言葉をいただくこともあり、迅速な対応とお客様の不安を和らげることを心掛けています。趣味はドライブと温泉旅行で、娘と一緒に車の話をするのが楽しみです。甘いものが好きで、飲んだ後の締めはラーメンではなくデザート派です。
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任意後見契約のメリットとデメリット
任意後見制度について
任意後見制度は、判断能力のあるうちに予め自らの契約によって後見人を選任する制度です。
その契約を任意後見契約と言い、自ら(委任者)が、受任者(任意後見受任者)に対し、認知症などにより判断能力が不十分な状況における自己の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務の全部又は一部を委託し、その委託に係る事務について代理権を付与する委任契約であって、家庭裁判所により任意後見監督人が選任された時からその効力を生ずる旨の定めのあるものを指します。(任意後見契約に関する法律第2条第1号)
非常に分かりにくいと思いますので、具体例を挙げて説明したいと思います。
A(78歳)の家族には、認知症で施設入所中の夫Bと子供C(50歳)がいます。Cは、Aが将来認知症になって、財産の管理、医療・介護などの契約ができなくなることを危惧してAを委任者、Cを受任者とする任意後見制度を利用することにしました。
Aが認知症になってしまうとどのような問題が生じるのでしょうか。
普通預金については、子供がキャッシュカードを管理するなどして必要に応じて預金を引き出すことができますが、定期預金や投資信託は本人以外の者が解約することはできません。Aの入院、介護などでまとまったお金が必要となった場合に困ることになります。Aが不動産を所有しているときは自身が売却することができませんから、同様の問題が生じます。
Bが亡くなった場合に、生命保険金の受取人がAになっていると保険金の請求ができないことがあります。詳しくは、生命保険の手続きをご覧ください。Bの遺産分割協議は、Aの代わりとして家庭裁判所が選任した任意後見監督人とCとの間ですることになります。
このような場合に備えてAの判断能力があるうちに、AC間で、預貯金、不動産などの財産の管理・処分、日常生活の関連取引に関する事項、医療契約、入院契約、介護契約その他の福祉サービス利用契約、福祉関係施設入退所契約に関する事項などについて、Cに代理権を付与する委任契約を締結します。
認知症によって判断能力が著しく低下してしまうと契約を結ぶことはできませんので、転ばぬ先の杖として将来に備えるための制度と言えるでしょう。 直近の政府調査によると契約締結者(委任者)の平均年齢は約80歳であり、亡くなる直前に契約する方が多いようです。認知症の発症リスクを考えると締結が遅すぎると思いますが、制度自体があまり知られていないのが原因かもしれません。
任意後見契約のメリット
信頼できる後見人
任意後見制度と比較されるものとして法定後見制度があります。家庭裁判所が、本人や親族などの申立てに基づき、後見人等を選任することによって判断能力が不十分な人を保護する制度です。
法定後見制度では、自らが後見人を選任することはできません。したがって、全く面識のない司法書士、弁護士、社会福祉士などの専門職が後見人の地位に就くこともあり得るわけです。 任意後見制度では、一定の事由(同法律第4条第1項第3号)に該当する者を除いて、自らが一番信頼できる人(親族等)を任意後見人にすることができます。上記の専門職や、社会福祉法人などの法人を後見人にすることも可能です。
移行型任意後見契約
高齢者の全てが認知症になるわけではないのは言をまたないですが、身体的な衰えは避けることができません。また、疾病により身体が不自由になることもあります。いずれの場合も本人(委任者)が判断能力を有していれば、任意後見契約が機能することはありません。
そのような場合に備えて、通常の「委任契約」を締結し、かつ、任意後見契約をも締結する方法があります。両方を組み合わせて締結しておけば、身体的能力または判断能力低下のどちらの事態にも対処できるので安心です。
そして、判断能力が衰えた場合には、通常の委任契約に基づく本人の療養看護及び財産管理等に関する事務処理から、任意後見契約に基づく事務処理へ「移行」することになります。 最近では、任意後見契約はこの移行型で締結されることが多いようです。
任意後見契約のデメリット
公正証書の作成
任意後見契約を締結するには、公正証書でしなければならないとされています。(同法律第3条)
作成費用は以下のとおりです。
① 公証役場の手数料 1万1000円
② 法務局に納付する印紙代 2600円
③ 法務局への登記嘱託手数料 1400円
④ 正本謄本の作成手数料や登記嘱託書の郵送料等 数千円程度
移行型の場合は、通常の委任契約公正証書作成費用として上記①の1万1000円が加算されます。委任契約が有償のときは、①の額が増額される場合があります。
任意後見契約を解除する場合には、任意後見監督人が選任される前後によって手続きが異なります。
・任意後見監督人が選任される前
公証人の認証を受けた書面によっていつでも解除できます。
合意解除(本人と任意後見受任者の合意による解除)の場合には、合意解除書に認証を受ければすぐに解除の効力が発生し、当事者(本人及び任意後見受任者)の一方からの解除の場合は、解除の意思表示のなされた書面に認証を受け、これを相手方に送付してその旨を通告することが必要です。(同法律第9条第1項)
・任意後見監督人が選任された後
任意後見監督人が選任された後は、正当な理由があるときに限り、かつ、家庭裁判所の許可を受けて、解除することができます。(同法律同条第2項)
移行型任意後見契約特有のもの
任意後見契約は、上記のとおり家庭裁判所により任意後見監督人が選任された時から効力が発生します。任意後見契約が登記されている場合において、精神上の障害により本人の事理を弁識する能力(判断能力)が不十分な状況にあるときは、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族又は任意後見受任者の請求により、任意後見監督人を選任するとされています。(同法律第4条第1項柱書)
任意後見監督人が、任意後見人の事務処理などの仕事について、それが適正になされているか否かをチェックし、任意後見監督人からの報告を通じて、家庭裁判所も、任意後見人の仕事を間接的にチェックする仕組みになっています。
通常の委任契約を締結する移行型においては、本人の判断能力が低下した場合に任意後見監督人の選任申立てがなされずに、委任契約の受任者が代理権を濫用するおそれが出てきます。
任意後見監督人への報酬
任意後見監督人が選任されない限り任意後見契約の効力が発生しませんので、任意後見制度を利用しているときには必ず任意後見監督人が存在します。任意後見監督人は、本人の親族等ではなく、司法書士、弁護士、社会福祉士などの専門職が選ばれることが多くなっています。そのために、専門職に支払う報酬が必要となり、報酬額は家庭裁判所が定めることになっています。目安は月額1~3万円とされています。
報酬の支払いが負担になりますとデメリットとなり得ますが、法定後見(後見・保佐・補助)を利用した場合でも専門職が後見人等やそれらの監督人に就任した場合には、同様の問題が生じます。
任意後見人に同意権、取消権がない
任意後見によって本人の行為能力(契約などの法律行為を単独で確定的に有効に行うことができる能力のことをいいます。)は制限されません。自己決定権を尊重し、ノーマライゼーションの理念を重んじることから、本人は売買契約などの法律行為を自由にできるのです。法定後見類型の補助人に代理権のみが付与された場合の被補助人の立場と酷似しています。
一方で、本人が散財するような契約をしてしまった場合には任意後見人はそれを取消すことができません。また、本人が重要な法律行為をするにあたり、任意後見人の同意も不要となります。任意後見人は代理権のみを有しているのであり、その代理権の範囲は任意後見契約で定めることになります。
管理困難な財産や本人の扶養親族の保護
莫大な収益を生む不動産の管理など任意後見制度における財産管理等に関する事務処理とは別に当該財産を管理運用する必要がある場合には、任意後見契約単独で対処することができません。
また、任意後見制度に限らず法定後見制度にも言えることですが、どちらも後見人の身上監護等によってあくまでも本人自身を保護・支援する制度であり、それによって本人の配偶者や子供の生活支援までをカバーすることはできません。
まとめ
以上、任意後見契約のメリット、デメリットについてご説明しました。それらを考慮した上で任意後見制度を利用すべきか否か、またどのような契約内容とするのかといったことについて疑問を抱かれる方も多いと思います。
当事務所では、終活の手段の一つとしての任意後見制度に関するご相談に応じていますので、お気軽にお問い合わせください。

司法書士の藤山晋三です。大阪府吹田市で生まれ育ち、現在は東京・三鷹市で司法書士事務所を開業しています。人生の大半を過ごした三鷹で、相続や借金問題など、個人のお客様の無料相談に対応しています。
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