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任意後見と法定後見(後見・保佐・補助)の優劣について

2023-05-01

はじめに

任意後見においては、本人の自己決定権を最大限尊重して契約により本人が後見人を自由に選ぶことができます。一方で、法定後見においては裁判所が職権で後見人等を選任することになっています。

このように両者には違いがあるのですが、両者とも利用可能なときにはどちらの制度が優先されるのか、または併存することはできるかといった相互の関係について説明したいと思います。

任意後見が優先される(原則)

任意後見契約に関する法律第10条第1項

任意後見契約が登記されている場合には、家庭裁判所は、本人の利益のため特に必要があると認めるときに限り、後見開始の審判等をすることができる。

後見開始の審判等とは、後見開始、保佐開始又は補助開始の審判を総称したものです。契約は判断能力を有していなければ締結することはできません。法定後見制度を利用しなければならない状況においては、任意後見契約を締結することはできないわけです。

よって、任意後見契約が登記されている場合には、本人は任意後見制度による保護を選択したものといえますので、その意思を尊重して家庭裁判所は原則として後見開始の審判等をすることができないのです。

本人の利益のため特に必要があると認めるときとは?(例外)

任意後見契約が登記されている場合であっても、本人の保護に欠けるようなときには家庭裁判所は例外として後見開始の審判等をすることができます。具体的には以下のようなときに該当すると考えられます。

・任意後見人の権限が不十分な場合
任意後見人は代理権目録に記載されている行為の代理権を有しているに過ぎません。任意後見契約締結後に代理権の範囲を拡張する必要が生じたのに本人の判断能力が欠けているようなときには、後見開始または保佐開始・代理権付与の審判などの法定後見による保護を要することになります。

また、任意後見人は同意権・取消権を有していませんので、その権利行使をして本人保護を適切にしなければならないときも同様です。なお、以前の記事「任意後見契約のメリットとデメリット」にて、そのことについて触れていますのでご参照いただければ幸いです。

・受任者に不適格事由がある場合
任意後見受任者が、未成年者、家庭裁判所で免ぜられた法定代理人、保佐人又は補助人、破産者、行方の知れない者、本人に対して訴訟をし、又はした者並びにその配偶者及び直系血族、不正な行為、著しい不行跡その他任意後見人の任務に適しない事由がある者の場合となります。

任意後見と法定後見が併存することはありません

任意後見監督人が選任された後に、法定後見開始の審判がされたときには任意後見契約は終了するとされています。併存させることで後見人等の権限が抵触してしまい、本人保護に支障が生じるからです。条文の反対解釈として、任意後見監督人選任前の任意後見契約は、法定後見開始の審判があっても終了することなく存続します。

では、法定後見が開始された後に任意後見監督人が選任されたときにはどうなるのでしょうか。本人が成年被後見人、被保佐人又は被補助人であるときは、家庭裁判所は、当該本人に係る後見開始、保佐開始又は補助開始の審判を取り消さなければならないと定められています。結論として、両者が併存することはないのです。

任意後見契約のメリットとデメリット

2021-11-15

任意後見制度について

任意後見制度は、判断能力のあるうちに予め自らの契約によって後見人を選任する制度です。

その契約を任意後見契約と言い、自ら(委任者)が、受任者(任意後見受任者)に対し、認知症などにより判断能力が不十分な状況における自己の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務の全部又は一部を委託し、その委託に係る事務について代理権を付与する委任契約であって、家庭裁判所により任意後見監督人が選任された時からその効力を生ずる旨の定めのあるものを指します。(任意後見契約に関する法律第2条第1号)

非常に分かりにくいと思いますので、具体例を挙げて説明したいと思います。

A(78歳)の家族には、認知症で施設入所中の夫Bと子供C(50歳)がいます。Cは、Aが将来認知症になって、財産の管理、医療・介護などの契約ができなくなることを危惧してAを委任者、Cを受任者とする任意後見制度を利用することにしました。

Aが認知症になってしまうとどのような問題が生じるのでしょうか。

普通預金については、子供がキャッシュカードを管理するなどして必要に応じて預金を引き出すことができますが、定期預金や投資信託は本人以外の者が解約することはできません。Aの入院、介護などでまとまったお金が必要となった場合に困ることになります。Aが不動産を所有しているときは自身が売却することができませんから、同様の問題が生じます。

Bが亡くなった場合に、生命保険金の受取人がAになっていると保険金の請求ができないことがあります。詳しくは、生命保険の手続きをご覧ください。Bの遺産分割協議は、Aの代わりとして家庭裁判所が選任した任意後見監督人とCとの間ですることになります。

このような場合に備えてAの判断能力があるうちに、AC間で、預貯金、不動産などの財産の管理・処分、日常生活の関連取引に関する事項、医療契約、入院契約、介護契約その他の福祉サービス利用契約、福祉関係施設入退所契約に関する事項などについて、Cに代理権を付与する委任契約を締結します。

認知症によって判断能力が著しく低下してしまうと契約を結ぶことはできませんので、転ばぬ先の杖として将来に備えるための制度と言えるでしょう。 直近の政府調査によると契約締結者(委任者)の平均年齢は約80歳であり、亡くなる直前に契約する方が多いようです。認知症の発症リスクを考えると締結が遅すぎると思いますが、制度自体があまり知られていないのが原因かもしれません。

任意後見契約のメリット

信頼できる後見人

任意後見制度と比較されるものとして法定後見制度があります。家庭裁判所が、本人や親族などの申立てに基づき、後見人等を選任することによって判断能力が不十分な人を保護する制度です。

法定後見制度では、自らが後見人を選任することはできません。したがって、全く面識のない司法書士、弁護士、社会福祉士などの専門職が後見人の地位に就くこともあり得るわけです。 任意後見制度では、一定の事由(同法律第4条第1項第3号)に該当する者を除いて、自らが一番信頼できる人(親族等)を任意後見人にすることができます。上記の専門職や、社会福祉法人などの法人を後見人にすることも可能です。

移行型任意後見契約

高齢者の全てが認知症になるわけではないのは言をまたないですが、身体的な衰えは避けることができません。また、疾病により身体が不自由になることもあります。いずれの場合も本人(委任者)が判断能力を有していれば、任意後見契約が機能することはありません。

そのような場合に備えて、通常の「委任契約」を締結し、かつ、任意後見契約をも締結する方法があります。両方を組み合わせて締結しておけば、身体的能力または判断能力低下のどちらの事態にも対処できるので安心です。

そして、判断能力が衰えた場合には、通常の委任契約に基づく本人の療養看護及び財産管理等に関する事務処理から、任意後見契約に基づく事務処理へ「移行」することになります。 最近では、任意後見契約はこの移行型で締結されることが多いようです。

任意後見契約のデメリット

公正証書の作成

任意後見契約を締結するには、公正証書でしなければならないとされています。(同法律第3条)

作成費用は以下のとおりです。
① 公証役場の手数料 1万1000円
② 法務局に納付する印紙代 2600円
③ 法務局への登記嘱託手数料 1400円
④ 正本謄本の作成手数料や登記嘱託書の郵送料等 数千円程度

移行型の場合は、通常の委任契約公正証書作成費用として上記①の1万1000円が加算されます。委任契約が有償のときは、①の額が増額される場合があります。

任意後見契約を解除する場合には、任意後見監督人が選任される前後によって手続きが異なります。

・任意後見監督人が選任される前
公証人の認証を受けた書面によっていつでも解除できます。
合意解除(本人と任意後見受任者の合意による解除)の場合には、合意解除書に認証を受ければすぐに解除の効力が発生し、当事者(本人及び任意後見受任者)の一方からの解除の場合は、解除の意思表示のなされた書面に認証を受け、これを相手方に送付してその旨を通告することが必要です。(同法律第9条第1項)

・任意後見監督人が選任された後
任意後見監督人が選任された後は、正当な理由があるときに限り、かつ、家庭裁判所の許可を受けて、解除することができます。(同法律同条第2項)

移行型任意後見契約特有のもの

任意後見契約は、上記のとおり家庭裁判所により任意後見監督人が選任された時から効力が発生します。任意後見契約が登記されている場合において、精神上の障害により本人の事理を弁識する能力(判断能力)が不十分な状況にあるときは、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族又は任意後見受任者の請求により、任意後見監督人を選任するとされています。(同法律第4条第1項柱書)

任意後見監督人が、任意後見人の事務処理などの仕事について、それが適正になされているか否かをチェックし、任意後見監督人からの報告を通じて、家庭裁判所も、任意後見人の仕事を間接的にチェックする仕組みになっています。

通常の委任契約を締結する移行型においては、本人の判断能力が低下した場合に任意後見監督人の選任申立てがなされずに、委任契約の受任者が代理権を濫用するおそれが出てきます。

任意後見監督人への報酬

任意後見監督人が選任されない限り任意後見契約の効力が発生しませんので、任意後見制度を利用しているときには必ず任意後見監督人が存在します。任意後見監督人は、本人の親族等ではなく、司法書士、弁護士、社会福祉士などの専門職が選ばれることが多くなっています。そのために、専門職に支払う報酬が必要となり、報酬額は家庭裁判所が定めることになっています。目安は月額1~3万円とされています。

報酬の支払いが負担になりますとデメリットとなり得ますが、法定後見(後見・保佐・補助)を利用した場合でも専門職が後見人等やそれらの監督人に就任した場合には、同様の問題が生じます。

任意後見人に同意権、取消権がない

任意後見によって本人の行為能力(契約などの法律行為を単独で確定的に有効に行うことができる能力のことをいいます。)は制限されません。自己決定権を尊重し、ノーマライゼーションの理念を重んじることから、本人は売買契約などの法律行為を自由にできるのです。法定後見類型の補助人に代理権のみが付与された場合の被補助人の立場と酷似しています。

一方で、本人が散財するような契約をしてしまった場合には任意後見人はそれを取消すことができません。また、本人が重要な法律行為をするにあたり、任意後見人の同意も不要となります。任意後見人は代理権のみを有しているのであり、その代理権の範囲は任意後見契約で定めることになります。

管理困難な財産や本人の扶養親族の保護

莫大な収益を生む不動産の管理など任意後見制度における財産管理等に関する事務処理とは別に当該財産を管理運用する必要がある場合には、任意後見契約単独で対処することができません。

また、任意後見制度に限らず法定後見制度にも言えることですが、どちらも後見人の身上監護等によってあくまでも本人自身を保護・支援する制度であり、それによって本人の配偶者や子供の生活支援までをカバーすることはできません。

まとめ

以上、任意後見契約のメリット、デメリットについてご説明しました。それらを考慮した上で任意後見制度を利用すべきか否か、またどのような契約内容とするのかといったことについて疑問を抱かれる方も多いと思います。
当事務所では、終活の手段の一つとしての任意後見制度に関するご相談に応じていますので、お気軽にお問い合わせください。

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