Archive for the ‘不動産登記’ Category

遺産分割前に法定相続分での相続登記を申請した場合の登記手続

2024-06-03

改正(令和5年4月1日施行)前の取扱い

法定相続分での相続登記後に遺産分割協議が成立した場合には、遺産分割を登記原因として、他の相続人の持分の移転の登記を申請する必要がありました。

例えば、甲土地の所有者であるAが死亡し、妻B・子Cが相続人であるとき、共同相続登記後にBC間の遺産分割協議によって、甲土地はCが単独で取得する合意がされたとしましょう。

この場合、登記権利者Cと登記義務者Bの共同申請により、「B持分全部移転」の登記を申請することになります。登録免許税の税率は、相続による所有権移転登記と同様0.4%です。

改正後の取扱い

法定相続分での相続登記(民法第900条及び第901条の規定により算定した相続分に応じてされた相続による所有権の移転の登記をいう。以下同じ。)がされている場合において、遺産分割協議による所有権の取得に関する登記をするときは、所有権の更正の登記によることができるものとした上で、登記権利者が単独で申請することができるものとされました。

上記設例では、Cが単独で所有権更正登記を申請することができますので、Bの登記識別情報、印鑑証明書の添付は不要となります。登録免許税は、不動産1個につき1,000円となります。

相続登記が義務化されることによる相続人等の負担軽減を図るため、登記手続を簡略化したものと言えます。また、以下に掲げる登記を申請する場合も同様となります。

①遺産の分割の審判又は調停による所有権の取得に関する登記
②他の相続人の相続の放棄による所有権の取得に関する登記
③特定財産承継遺言(遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人又は数人に承継させる旨の遺言)による所有権の取得に関する登記
④相続人が受遺者である遺贈による所有権の取得に関する登記

添付情報

上記設例の場合、登記原因証明情報として遺産分割協議書(当該遺産分割協議書に押印した申請人以外の相続人の印鑑に関する証明書を含む。)を添付しなければなりません。

登記手続上、Bのみが実印を押印することで足りますが、実務上、BC両名の実印を押印した遺産分割協議書とBCの印鑑証明書を添付します。

また、法定相続分での相続登記後に所有権全体またはB持分を目的として抵当権を設定した場合等、登記上の利害関係を有する第三者がいるときは、その者の承諾書を必ず添付します。住所移転があった場合、相続放棄によって更正前後に同一性がない場合等、別途登記を要することや、更正登記申請の可否に関わる問題が生じることがありますので注意が必要です。

登記申請書の記載例

上記設例における登記申請書の主要部分の記載例を掲げます。

登記申請書
登記の目的 ○番所有権更正
原因 令和○年○月○日遺産分割
更正後の事項 所有者 住所 C
権利者(申請人) 住所 C
義務者 住所 B
添付情報 登記原因証明情報 代理権限証明情報
登録免許税 金1,000円
不動産の表示 甲土地の表示

胎児の名義とする相続登記

2024-05-27

胎児の表示の変更

先例(令和5年3月28日法務省民二第538号)により、令和5年4月1日以後にされる登記の申請から、胎児を相続人とする相続による所有権の移転の登記の申請において、申請情報の内容とする申請人たる胎児の表示は 「何某(母の氏名)胎児」とすることになりました。

従前の取扱いでは、「亡甲某(被相続人)妻乙某胎児」と表示することとしていましたが、登記手続の見直しが行われたのです。

胎児の権利能力

人(自然人)は、出生と同時に権利能力を取得します。この原則を貫けば、胎児はまだ生まれていませんので、権利能力を有しているとは言えないことになります。ところで、胎児と生まれた子の間に相続することの可否について差異が生じるとなると両者に不公平が生じます。

そこで、民法は、「不法行為に基づく損害賠償請求権」、「相続」及び「遺贈」の3つの場合については、胎児は既に生まれたものとみなすという規定を設け、出生の前後によって不公平が生じることがないようになっています。

生まれたものとみなす

胎児は、相続については既に生まれたものとみなされますので、胎児を登記名義人とする相続の登記を申請することができます。判例は、胎児である間には権利能力はなく、生きて生まれた場合、遡って権利能力を取得する見解である停止条件説を採っています。この説では、父母は法定代理人として、出生前に胎児を代理することはできないことになります。

しかしながら、登記実務においては未成年者の法定代理の規定を準用して母が胎児の代理人として登記申請することが認められています。

相続登記申請

登記原因証明情報として、懐胎の事実を証する医師の診断書等を提供する必要はありません。被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本等を添付することで足ります。

生きて生まれた場合

相続登記申請後に胎児が無事に生まれた場合には、登記名義人の住所、氏名の変更登記を申請します。その子の戸籍謄本、住民票の写しを登記原因証明情報として提供します。

死産であった場合

胎児が死産であったときは、民法第886条第2項によりはじめから相続人ではなかったことになりますので、錯誤を原因として所有権更正登記を申請します。

胎児のみを相続人として登記した場合にその者を被相続人の直系尊属とする更正登記は、登記の前後に同一性がないためにできません。その場合には、一旦相続登記を抹消し、改めて直系尊属、兄弟姉妹等の後順位相続人への所有権移転登記を申請することになります。

外国人である所有権登記名義人のローマ字氏名併記について

2024-05-20

令和6年4月1日施行

外国人(日本の国籍を有しない自然人をいう。 以下同じ。)を所有権の登記名義人とする登記及び外国人の氏名の変更又は更正登記を申請する際には、ローマ字氏名(氏名の表音をアルファベット表記したもの)を申請情報として提供しなければならないこととする改正がなされました。

申出をすべき場合

所有権の保存若しくは移転の登記、所有権の登記がない不動産について嘱託によりする所有権の処分の制限の登記、合体による登記等(不動産登記法(平成16年法律第123号)第49条第1項後段の規定により併せて申請をする所有権の登記があるときに限る。)又は所有権の更正の登記(その登記によって所有権の登記名義人となる者があるときに限る。)及び所有権の登記名義人の氏名についての変更の登記又は更正の登記を申請する場合において、所有権の登記名義人となる者・所有権の登記名義人が外国人であるときは、当該登記の申請人は、登記官に対し、当該外国人のローマ字氏名を申請情報の内容として、当該ローマ字氏名を登記記録に記録するよう申し出るものとするとされました。

申出ができる場合

日本の国籍を有しない所有権の登記名義人は、登記官に対し、そのローマ字氏名を登記記録に記録するよう申し出ることができるとされました。つまり、登記申請を伴わない場合であってもローマ字氏名併記の申出は可能です。

ローマ字氏名証明情報

登記申請に伴うローマ字氏名併記の申出をする場合には、ローマ字氏名を証する情報をその申請情報と併せて登記所に提供しなければなりません。

  • 住民基本台帳に記録されている外国人の場合
    ローマ字氏名が記載されている住民票の写し。
  • 住民基本台帳に記録されていない外国人の場合
    パスポートを所持しているときは、ローマ字氏名が表記されたページが含まれているパスポートの写しであって、①登記申請の受付の日において有効なパスポートの写しであること、②ローマ字氏名並びに有効期間の記載及び写真の表示のあるページの写しが含まれていること及び③当該パスポートの写しに原本と相違がない旨の記載及び所有権の登記名義人となる者等の署名又は記名押印がされていることの3つの要件を満たすもの。

    パスポートを所持していないときは、所有権の登記名義人となる者等のローマ字氏名、当該ローマ字氏名が当該者のものであることに相違ない旨及びパスポートを所持していない旨が記載された当該者の作成に係る上申書であって、当該者の署名又は記名押印がされているもの。
  • 登記所に提出する住民票の写し以外の書面のうち、外国語で作成されたものについては、その訳文を添付しなければなりません。

登記記録例

併記するローマ字氏名は、ローマ字のみを使用して表示することになっており、それ以外の文字又は記号の使用は認められません。また、原則として全て大文字で表示、ローマ字氏名の氏と名の間にはスペースを付すこととし、「・(中点)」等の記号による区切りはできません。ローマ字氏名は登記記録に記録された氏と名の順に従って表示します。

母国語による所有権の登記名義人の氏名に「Ⅲ」、「Ⅳ」又は「Ⅸ」等のローマ数字が含まれる場合には当該ローマ数字について「Ⅰ」、「V」又は「X」等のローマ字を組み合わせて表示することができます。

※所有権移転登記と同時に併記する場合

※登記申請を伴わないローマ字氏名併記の申出をする場合

不動産登記事項証明書に住所を表示しないこと(代替措置申出)について

2024-05-13

令和6年4月1日施行

以前の記事「代表取締役の住所の非表示措置について」で、DV被害者等である会社代表者等からの申出により、登記事項証明書等におけるDV被害者等の住所を非表示とすることに関する手続を解説しました。

令和6年10月1日施行

登記申請と同時に申し出ること、所定の書面を添付することを要件として代表取締役等住所非表示措置制度が創設されます。この改正により、住所非表示対象者はDV被害者等に限定されないことになり、よりプライバシー保護を重視したものと言えるでしょう。

 

今回は、不動産の登記記録に記録されている者(自然人であるものに限る。)の住所が明らかにされることにより人の生命又は身体に危害を及ぼすおそれがある場合等に該当するときには、その者からの申出により、登記事項証明書等にその者の住所に代わって公示用住所(登記記録に記録されている者と連絡をとることのできる者の住所等)を記載する措置を講ずるものとする制度の概要を説明します。

誰でも請求できる登記事項証明書

登記事項証明書(登記事項要約書を含みます。)は誰でも交付請求することが認められています。その点において、DV被害者等の住所を調べるために住民票、戸籍の附票の写しを請求する場合と異なります。

また、配偶者からの暴力(DV)の被害者等の方については、市区町村に対してDV等支援措置を申し出て、支援の必要性が確認された場合には、申出の相手方からの住民票、戸籍の附票の写しの交付請求があっても、これを制限する措置を講じることができます。

不動産登記においてもDV被害者等の保護は特例措置によってなされていましたが、この度の不動産登記法の改正によって明文化されたのです。

代替措置申出

登記記録に記録されている者(自然人に限ります。)に限って申出をすることができます。現在の所有権登記名義人のほか、抵当権の債務者、信託目録に記録されている受益者、合筆により閉鎖された登記記録の名義人等が挙げられます。

申出の方法は申出書を登記所に持参、郵送(書留郵便による。)する方法により行います。オンラインによる申出はできません。

登記申請と同時に代替措置申出をする場合には、代替措置がされる前に登記が実行されることのないよう、登記申請に係る申請情報と代替措置の申出書にそれぞれ「代替措置申出あり」、「登記申請あり」のように補記する必要があります。

代替措置申出は全国どの登記所の登記官に対してもすることが可能です。

添付書面について

  • 申出人が申出書又は委任状に記名押印した場合におけるその印鑑証明書
    申出人が運転免許証その他の本人確認書面を登記官に提示した場合には、印鑑証明書の添付は不要です。その際、本人確認書面の提示をした上で、提示をした書面の写しの提出をします。
  • 申出人の氏名又は住所が登記記録に記録されている氏名又は住所と異なる場合にあっては、そのつながりを証する住民票、戸籍の附票の写し等
    代替措置等申出をする前提として氏名又は住所の変更の登記をする必要はありません。
  • 代理人によって代替措置申出をするときは、当該代理人の権限を証する書面
    代理人の権限を証する書面には、代替措置等申出についての具体的な委任事項が記載されていることを要します。
  • 措置要件に該当する事実を明らかにする書面
    加害者から受けた被害の日時、場所及び態様、登記記録に記録されている者の住所が公開されることにより更に被害を受けるおそれの内容及び当該おそれが生ずる理由の詳細等を記載し、作成者である申出人が記名押印又は署名をした陳述書を提出します。

    また、原則として、これに加えて過去の被害の事実を裏付ける公的書面又は客観的書面を提出することになります。公的書面としては、①市区町村によるDV等支援措置決定の通知書、②ストーカー行為等の規制等に関する法律に基づく警告等の実施書面、③配偶者暴力相談支援センター等のDV保護に関する証明書等が想定されます。

    客観的書面としては、①医師の診断書、②怪我の写真(撮影時期が明らかなもの) 、③申出人に対する脅迫等を内容とするSNSの画像(投稿時期が明らかなもの)等が想定されます。

    公的書面又は客観的書面の添付がされていない場合や、添付された書面の内容のみでは措置要件に該当する事実が認められないときは、登記官は、申出人に出頭を求めた上で、対面調査を行うことがあります。
  • 公示用住所及び公示用住所提供者の氏名又は名称を証する書面
    公示用住所とされた住所が記録された印鑑証明書、住民票の写し、戸籍の附票の写し、法人の登記事項証明書等の公的書面等のほか、公示用住所とされた営業所、事務所その他これらに準ずるものの所在地(以下「営業所等」といいます。 )が記載されたホームページを印刷した書面その他の営業所等を証する書面であって、公示用住所提供者による公示用住所提供者の営業所等であることに相違ない旨の奥書が付され、記名押印又は署名がされたものが該当します。
  • 公示用住所提供者の承諾を証する当該公示用住所提供者が作成した書面(公示用住所提供者が法務局又は地方法務局であるときを除きます。 )
    公示用住所を提供することを承諾する旨等を記載した上で当該公示用住所提供者が記名押印しなければなりません。原則として、記名押印した者の印鑑証明書(住所地の市町村長若しくは登記官が作成するもの又はこれに準ずるものに限られます。)を添付する必要があります。
  • 法務局又は地方法務局を公示用住所提供者とするときは、申出人に宛てて当該法務局又は地方法務局に送付された文書その他の物の保管、廃棄その他の取扱いに関し必要な事項として法務大臣が定めるものを記載した書面
    公示用住所提供法務局等が受領した文書は、当該受領の日から1か月間に限り公示用住所提供法務局等で保管するものとし、申出人本人又はその代理人がその期間内に当該文書を受領しないときは、公示用住所提供法務局等において当該文書を廃棄することを承諾する旨等が該当します。

不動産登記においても旧姓(旧氏)の併記が可能になりました

2024-05-07

令和6年4月1日施行

不動産登記規則等の一部を改正する省令(令和6年法務省令第7号)により、現在の所有権の登記名義人の氏名に旧氏を併記することができるようになりました。旧氏は現在の所有権の登記名義人の氏名にのみ併記することができます。したがって、地上権者等の所有権以外の権利の登記名義人や抵当権設定登記の登記事項である債務者等は対象にはなりません。

併記することができる旧氏は婚姻前の氏に限らず、氏に変更があった者が過去に称していた氏であって、その者に係る戸籍又は除かれた戸籍に記載又は記録がされているものとなります。

不動産登記以外の旧姓(旧氏)併記のできるもの

以前の記事「役員の氏名と旧姓の併記について」で、商業・法人登記における旧氏併記手続を解説しましたが、それ以外の併記できるものについて簡単に説明したいと思います。

先ず、令和元年11月5日に「住民基本台帳法施行令等の一部を改正する政令」が施行され、手続きを行うことで住民票、印鑑登録証明書、マイナンバーカードなどに旧姓(旧氏)が併記できるようになりました。後述しますが、この手続が完了しているときに住所証明情報として住民票の写しを提供する場合には旧氏を証する情報である戸籍謄本等を添付することを要しません。

その後、令和元年12月1日から運転免許証に旧姓を併記できるようになっています。持っている運転免許証の場合には裏面の備考欄に旧姓を使用したフルネームが表記され、新しい免許証の交付を受ける場合には表面の氏名欄に括弧書きで旧姓を使用したフルネームが併記されます。

旧氏が併記される場合

新たに所有権の登記名義人となる登記等の申請に伴い、旧氏の併記の申出をする場合と所有権の登記名義人が、登記の申請を伴わずに旧氏の併記の申出をする場合があります。

例えば、不動産を購入し、所有権移転登記を申請して所有権の登記名義人となる者が登記の申請人である場合に、登記官に対し、旧氏(1つに限られます。以下、同様です。)を申請情報の内容として、当該旧氏を登記記録に記録するよう申し出ることができます。

また、現在の所有権の登記名義人から登記官に対し、同様の申出をすることも可能です。

所有権移転登記の申請をする場合に旧氏併記の申出をする場合の記載例

登記申請書
(略)
権利者 ○○市○○町一丁目5番6号
    法務花子(登記花子)
添付情報 (他の添付情報は省略)旧氏を証する情報
(以下略)

旧氏を証する情報として登記花子が記載された戸籍謄本等を添付します。住所を証する情報に申出に係る旧氏が記録されているときは、これをもって旧氏を証する情報を兼ねることができます(新しく所有者となる法務花子の住民票に旧氏(登記)が記載されていて、その旧氏を併記したい場合)。この場合には、添付情報の表示として「旧氏を証する情報(省略)」の例によりその旨を明らかにします。

旧氏併記の申出書の記載例(一部省略)

旧氏併記申出書
申出の目的 ○番所有権登記名義人表示変更
変更後の事項 氏名 法務花子(登記花子)
申出人 ○○市○○町一丁目5番6号
    法務花子
添付情報 旧氏を証する情報

旧氏を証する情報は、申出に係る旧氏が記載された戸籍謄本等及び当該戸籍謄本等に記載された旧氏が申出人に係るものであることを証する市町村長その他の公務員が職務上作成した情報(本籍の記載のある住民票の写し、戸籍の表示の記載のある戸籍の附票等)が該当します。

申出人の住所と所有権の登記名義人の住所が異なる場合にあっては、申出人と所有権の登記名義人が同一であることを証する市町村長その他の公務員が職務上作成した情報(住所の連続性を確認することができる住民票の写し、戸籍の附票等)を提供します。この情報を提供したときは、旧氏併記の申出の前提として住所変更の登記をすることを要しません。

対して、申出人の氏名と所有権の登記名義人の氏名が異なる場合には、旧氏併記の申出の前提として氏名変更の登記をしなければなりません。

自分でする相続人申告登記・司法書士が解説!

2024-04-22

相続登記義務化スタート

以前の記事「相続登記が義務化されます!罰則規定もあります。」で、相続登記の義務化や相続人申告登記について説明しています。先ずは、その記事をご参照いただけますと幸いです。そのうえで今回は、所有権登記名義人が死亡し、その子が相続人申告登記を自分でする方法について解説したいと思います。

相続人申告登記の注意点

権利関係を公示するものではない

相続人申告登記は、所有権登記名義人の相続人からの申出に基づき、登記官が職権で、申出があった相続人の住所・氏名、相続開始年月日等を付記登記により行うものです。

したがって、所有権登記名義人は引き続き被相続人として扱われますので、不動産を売却するためには相続登記を申請する必要があります。

遺産分割に基づく相続登記の申請義務を履行することはできない

以前の記事でも触れましたが、遺産分割により不動産の所有権を取得したとき(法定相続分による相続登記がされた後に遺産分割により所有権を取得したときを除きます。)は、遺産分割の日から3年以内に相続登記を申請しなければなりません。この場合に相続人申告登記をしても義務を履行したことにはなりません。

相続人申出書の記載例

申出手続は書面による他、「かんたん登記申請」の利用によってWebブラウザ上で手続することも可能です。その場合、他の手続と異なり電子署名は不要です。相続人申出書の記載例は法務省ホームページに掲載されていますが、そこに記載されている注意点のうち分かりにくいものをピックアップして解説します。

・申出人
住民票上の申出人の氏名のふりがな及び生年月日を記載した場合は、添付情報として住所証明情報(住民票の写し)の提出を省略することができます。ただし、住民票コードの提供による添付省略は認められません。

・申出人が登記名義人の相続人であることを証する情報
1通の戸籍証明書に被相続人の死亡した日が記載され、かつ、申出人が被相続人の子として記載されている場合(申出人につきその戸籍から除籍された旨の記載があるものを除く。)には、その証明書の添付で足ります。子が未婚、離婚により復籍した等の場合が該当します。

婚姻、養子縁組により除籍の記載があるときは、被相続人の死亡した日以後に発行された申出人についての戸籍の証明書が必要になります。被相続人の死亡日以後に戸籍の改製があったときは、死亡事項の記載がある改製原戸籍謄本を取得します。

相続登記申請に必要な戸籍謄本等と異なる点は、相続人全員を特定する必要がなく相続人であることを証明することで足りるということです。

第一順位である子及び常に相続人となる配偶者については、添付する戸籍謄本等は少なくてすみますが、直系尊属、兄弟姉妹が申出人となるときは、先順位の相続人がいないことを証明する必要がありますので、その分通数が多くなります。

戸籍謄本等は原本を返してもらうこと(原本還付)ができますが、その場合にはコピーを添付しなければなりません。通数が多くなりますとコピーを添付することも煩雑となりますので、相続関係説明図を提出することによって、当該相続関係説明図を戸籍謄本等のコピーとして取り扱うこととなります。

・被相続人と登記名義人の同一性を証する情報
被相続人(死亡した方)の最後の氏名及び住所が登記記録上の氏名及び住所と異なる場合や被相続人の本籍が登記記録上の住所と異なる場合には、被相続人が登記名義人(登記記録上の所有者)であることが分かる被相続人の本籍の記載のある住民票の除票又は戸籍の表示の記載のある戸籍の附票の写し等が必要となります。

保存期間の経過により前記公的書面等の取得ができないときは、登記済権利証、「所有権の登記名義人と戸籍謄本等に記載された被相続人とは同一である」旨の印鑑証明書付きの申出人の上申書等を添付します。

・不動産の表示
不動産所在事項の表示に関する登記の登記事項(土地の地目及び地積並びに建物の種類、構造、床面積等)は提供することを要しません。土地の所在・地番、建物の所在・家屋番号の記載で足ります。不動産番号を記載したときは、それらの記載も省略することができます。

※登記記録例

海外居住者を所有権の登記名義人とする登記の申請に関する改正(令和6年4月1日施行)

2024-04-15

はじめに

以前の記事「法人を所有権の登記名義人とする登記の申請に関する改正(令和6年4月1日施行)」で、所有権の登記名義人が国内に住所を有しないときは、その国内における連絡先となる者の氏名又は名称及び住所その他の国内における連絡先に関する事項として法務省令で定めるものが登記事項とされたことについて言及しました。この記事では、手続面における詳細を解説します。

申請情報に追加する事項

国内連絡先となる者は自然人でも法人でも構いませんが、複数を定めることはできません。親族、不動産関連業者、司法書士等が想定されます。

1.自然人の氏名及び住所を申請情報の内容とする場合
「国内連絡先 何市何町何番地【住所】
甲某【氏名】」

2.自然人の氏名並びに事務所の所在地及び名称を申請情報の内容とする場合
「国内連絡先 何市何町何番地【所在地】 (○○司法書士事務所)【名称】
甲某【氏名】」

3.法人の名称、営業所の所在地及び名称並びに会社法人等番号を申請情報の内容とする場合
「国内連絡先 何市何町何番地【所在地】 (○営業所)【名称】
甲株式会社【法人の名称】
会社法人等番号 1234-56-789012」

4.国内連絡先となる者がない旨を申請情報の内容とする場合
「国内連絡先 なし」

添付情報

添付情報として、国内連絡先事項証明情報及び国内連絡先承諾書を提供する必要があります。また、承諾書には作成者の実印(職印、会社実印等)を押さなければなりませんので、印鑑証明書(職印証明書も可)を添付します。

国内連絡先となる者が法人である場合には、法人の代表者の氏名を追記した上で、代表者の資格を証する法人の登記事項証明書を添付する必要がありますが、国内連絡先となる者が会社法人等番号を有する法人である場合には、法人の登記事項証明書及び印鑑証明書(登記官が作成可能な印鑑証明書に限ります。)の添付は不要です。

国内連絡先事項証明情報

国内連絡先となる者の氏名若しくは名称及び住所が記載された印鑑証明書、住民票の写し、戸籍の附票、法人の登記事項証明書及び国内連絡先となる者の氏名若しくは名称並びに営業所、事務所その他これらに準ずるものの所在地及び名称が記録されたホームページの内容を書面に出力したもの等が該当します。

なお、国内連絡先となる者が会社法人等番号を有する法人であって、当該法人について会社法人等番号等を申請情報の内容としたときは、当該会社法人等番号の提供をもって、国内連絡先事項証明情報の提供に代えることができる場合があります。

国内連絡先となる者がないときは、国内連絡先事項証明情報には、国内連絡先となる者がない旨の所有権の登記名義人となる者等の署名又は記名押印がされた上申書が該当します。なお、当該上申書には、印鑑証明書を添付することを要しません。代位による登記等、所有権の登記名義人となる者等が申請人とならない登記の申請の場合には当該上申書の提出は不要です。

国内連絡先承諾書

国内連絡先事項が登記される不動産の所有権登記名義人の国内における連絡先となることを承諾する旨を記載した書面等を提供する必要があります。当該書面には、原則として作成者が記名押印をし、押印は上述したように実印でしなければなりません。

法人を所有権の登記名義人とする登記の申請に関する改正(令和6年4月1日施行)

2024-04-08

所有権の登記の登記事項

不動産登記法の改正により、新たに所有権の登記の登記事項となったものがあります。所有権の登記名義人が法人であるときは、会社法人等番号が登記事項となりました。次に、所有権の登記名義人が国内に住所を有しないときは、その国内における連絡先となる者の氏名又は名称及び住所その他の国内における連絡先に関する事項として法務省令で定めるものが登記事項とされています。

この記事では、主に法人を所有権の登記名義人とする登記の申請に関する改正後の条文を掲載します。国内における連絡先に関する事項については、別の記事「海外居住者を所有権の登記名義人とする登記の申請に関する改正(令和6年4月1日施行)」をご参照ください。

不動産登記法第73条の2

所有権の登記の登記事項は、第五十九条各号に掲げるもののほか、次のとおりとする。
一 所有権の登記名義人が法人であるときは、会社法人等番号(商業登記法(昭和三十八年法律第百二十五号)第七条(他の法令において準用する場合を含む。)に規定する会社法人等番号をいう。)その他の特定の法人を識別するために必要な事項として法務省令で定めるもの
二 所有権の登記名義人が国内に住所を有しないときは、その国内における連絡先となる者の氏名又は名称及び住所その他の国内における連絡先に関する事項として法務省令で定めるもの
2 前項各号に掲げる登記事項についての登記に関し必要な事項は、法務省令で定める。

不動産登記令第3条

登記の申請をする場合に登記所に提供しなければならない法第十八条の申請情報の内容は、次に掲げる事項とする。
一~十(略)
十一 権利に関する登記を申請するときは、次に掲げる事項
イ~へ(略)
ト 所有権の保存若しくは移転の登記を申請するとき又は所有権の登記がない不動産について所有権の処分の制限の登記を嘱託するときは、次に掲げる事項
(1)所有権の登記名義人となる者が法人であるときは、法第七十三条の二第一項第一号に規定する特定の法人を識別するために必要な事項として法務省令で定めるもの(別表において「法人識別事項」という。)
(2)所有権の登記名義人となる者が国内に住所を有しないときは、法第七十三条の二第一項第二号に規定する国内における連絡先に関する事項として法務省令で定めるもの(別表において「国内連絡先事項」という。)

不動産登記規則

第156条の2
法第七十三条の二第一項第一号の法務省令で定める事項は、次の各号に掲げる所有権の登記名義人の区分に応じ、当該各号に定める事項とする。
一 会社法人等番号を有する法人 当該法人の会社法人等番号
二 会社法人等番号を有しない法人であって、外国(本邦の域外にある国又は地域をいう。以下この号において同じ。)の法令に準拠して設立されたもの 当該外国の名称
三 前二号のいずれにも該当しない法人 当該法人の設立の根拠法の名称

第156条の3
前条第二号又は第三号に定める事項を申請情報の内容とする登記の申請をする場合には、当該事項を証する情報をその申請情報と併せて提供しなければならない。

 

会社法人等番号を有する法人の場合には、会社法人等番号を提供することで足り、別途添付情報を要しません。

対象となる登記

  • 所有権保存登記
  • 所有権移転登記
  • 所有権の登記がない不動産に対する所有権の処分の制限の登記(裁判所等の嘱託により登記官の職権で、所有権の保存登記をするとき。)
  • 所有権更正登記(所有権の登記名義人となる者があるとき。)
  • 所有権登記名義人の氏名若しくは名称又は住所についての変更の登記又は更正の登記

特に、注意を要するのは最後に掲げた登記を申請するときです。商号変更、本店移転等による名変登記を申請する場合にも、法人識別事項の登記がされていないときは、上記の申請情報・添付情報が必要となります。

海外在住の相続人がいる場合の相続登記

2024-03-18

設例

Aが死亡して相続人は子B・C(Cは海外在住、日本国籍)の2人の場合に、A名義の不動産をBの単独名義にしたいケースを想定します。

遺産分割協議書の作成

相続人が複数いる場合の不動産の名義変更を含んだ相続手続を進めるためには、遺産分割協議書の作成が必要となります。ただし、遺言書がある場合にはその必要はありませんが、実務上遺言書が作成されているケースは少ないです。

相続人全員が遺産分割協議に参加しなければなりませんし、相続人の印鑑証明書を取得することが求められます。相続人が海外に居住しているときは、日本における住民登録は抹消され、住民票の取得はできなくなります。また、印鑑登録は住民登録地でしかできませんので、印鑑証明書の取得もできません。

したがって、設例のCについては署名証明(サイン証明)を在外公館で取得することが必要となるのです。

署名証明(サイン証明)とは

日本に住民登録をしていない海外に在留している人に対し、日本の印鑑証明に代わるものとして発行するもので、申請者の署名(及び拇印)が確かに領事の面前でなされたことを証明するものです。証明には以下の2種類があります。

形式1(貼付タイプ)は在外公館が発行する証明書と申請者が領事の面前で署名した私文書(遺産分割協議書、委任状等)を綴り合せて割り印を行います。形式2(単独タイプ)は申請者の署名を単独で証明するものです。

形式2は使いまわしができますので便利なのですが、相続登記においては形式1を求められることが多いです。多いと書きましたが、今まで形式2の署名証明を添付して相続登記を申請したことがありませんので、必ず形式1の署名証明を取得していただくように相続人の方にお願いをしております。

相続人の同一性確認

上記設例においては、Bの戸籍謄本と印鑑証明書を登記申請の際に添付します。戸籍謄本には住所の記載がないために、両者に共通する記載事項は氏名と生年月日のみです。つまり、相続人の同一性確認は氏名及び生年月日によって行っているものと考えらえます。

署名証明は印鑑証明書に代わるものとして位置付けられていますが、身分事項等記載欄には氏名、生年月日、日本旅券番号の記載があるのみで住所の記載がありません。

在留証明添付の必要性

ネット上では、在留証明は相続財産を取得する場合のみ必要となるとの情報掲載が多く見られます。しかしながら、当事務所では遺産分割協議書に住所を記載することから、相続財産を取得しない相続人の在留証明も添付しています。

ところで、印鑑証明書は不動産登記手続上、住所を証する書面として使用することが可能です。住民票の代わりとなるのです。ですから、印鑑証明書は在外公館が発行する署名証明と在留証明を兼ねている書面といえるのです。

在留証明の要否については、登記官の立場になって考えてみましょう。印鑑証明書や署名証明は遺産分割協議書の真正を担保するために添付するものです。用意できる資料はできるだけ添付するに越したことはないのではないでしょうか。

署名証明と在留証明は同時に取得することができますので、特に大使館、領事館から遠方に居住してなかなか行くことが出来ない場合には、在留証明も併せて取得しておきましょう。

長期優良住宅、低炭素住宅の登録免許税の税率軽減措置

2024-02-26

はじめに

建物を新築、購入したときに所有権保存、移転登記を申請する際には登録免許税を納めなければなりません。その建物が住宅用家屋である場合には、新築住宅取得の際の負担を軽減するため、住宅用家屋の所有権の保存登記及び移転登記についての登録免許税の税率を軽減する制度が設けられています。さらに、長期優良住宅、低炭素住宅については一般住宅より低い税率が適用されます。

この特例制度の適用期限は令和6年3月31日となっていますが、3年間延長(令和9年3月31日まで)されることが予定されています。(令和6年度税制改正の大綱、令和5年12月22日閣議決定、二 資産課税、2 租税特別措置等(国税)〔延長・拡充等〕(5)~(8))

軽減税率 本則 一般住宅 長期優良住宅 低炭素住宅
戸建 マンション
所有権保存 0.4% 0.15% 0.1% 0.1% 0.1%
所有権移転 2.0% 0.3% 0.2% 0.1% 0.1%

長期優良住宅とは

長期優良住宅認定制度は、長期にわたり良好な状態で使用するための措置が講じられた優良な住宅の建築・維持保全に関する計画を「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」に基づき認定するものです。「長期優良住宅」とは、大きく分けて以下1~5の5つの措置が講じられている住宅を指します。
1.長期に使用するための構造及び設備を有していること
2.居住環境等への配慮を行っていること
3.一定面積以上の住戸面積を有していること
4.維持保全の期間、方法を定めていること
5.自然災害への配慮を行っていること

認定申請は着工前までに行う必要があり、先ずは登録住宅性能評価機関へ長期使用構造等であるかの確認を申請し、確認書等の交付を受けます。その後、所管行政庁に対し、認定申請をして認定通知書の交付を受けます。この認定通知書は、長期優良住宅として住宅用家屋証明書の交付を受けるために必要となります。

登録免許税の税率引き下げ以外のメリットとして、地域型住宅グリーン化事業の補助金受給、住宅ローンの金利引き下げ、住宅ローン減税の控除対象限度額の引き上げ、不動産取得税の課税標準からの控除額の増額、固定資産税の減税措置適用期間の延長、地震保険料の割引等があります。

低炭素住宅とは

都市機能の集約やそれと連携した公共交通機関の利用促進、建築物の低炭素化等の施策を講じることにより、地域における成功事例を蓄積し、その普及を図ることを目的として「都市の低炭素化の促進に関する法律」が制定され、平成24年12月に施行されました。その法律で定める低炭素住宅とは、建築物における生活や活動に伴って発生する二酸化炭素を抑制するための低炭素化に資する措置が講じられている、市街化区域等内に建築される住宅を指します。

以下の1~3のすべてを満たす建築物について、所管行政庁(都道府県、市または区)に認定申請を行うことにより、低炭素住宅としての認定を受けることが可能です。
1.省エネ基準を超える省エネ性能を持つこと。かつ低炭素化に資する措置を講じていること
2.都市の低炭素化の促進に関する基本的な方針に照らし合わせて適切であること
3.資金計画が適切なものであること

認定申請は着工前に行う必要があり、先ずは審査機関に事前の技術的審査を依頼して適合証の交付を受けます。その後、所管行政庁に対し、適合証を添付のうえ認定申請書を提出して認定証の交付を受けます。

まとめ

長期優良住宅、低炭素住宅として登録免許税の税率引き下げを受けるためには、当該住宅が、認定住宅であることを証明した「住宅用家屋証明書」を当該住宅所在地の市町村役場に発行してもらうことが必要です。

司法書士が登記申請を代理人として行う場合には、建築主または売主に対して、登記申請を行う住宅が長期優良住宅または低炭素住宅に該当するかを確認させていただきます。ご理解、ご協力の程、どうぞよろしくお願い申し上げます。

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