徹底解説!遺言書を法務局が保管する制度の注意点

概要

自筆遺言書を法務局で保管する制度が令和2年7月10日から開始されました。テレビ等でも報道されてご存知の方も多いでしょう。

今までは自宅などで保管することが多かった自筆遺言書ですが、無くなってしまったり、偽造されたり、発見されなかったりといった特有の不安を保管制度が解消するのではないかと思います。

便利な制度のようですが、注意すべき点をまとめてみました。

手数料

法務局に自筆遺言書の保管を申請するのに3,900円かかります。

家庭裁判所の検認手続が不要になるのがこの制度のメリットの1つです。自宅で遺言書を保管して、相続開始後に検認手続をする場合は、申立てに800円、検認済証明に150円、切手代数百円の費用がかかります。

自筆遺言書の作成には一切費用がかかりません。(専門家などに相談する場合を除きます。)家庭裁判所で検認をしてもほぼ2,000円以下の出費で済むわけです。

検認が不要ということは、金銭面よりも手続きの煩雑さが解消されるメリットの方が大きいといえます。通常、検認の申立てをしてから検認までに1か月ほどかかります。コロナ禍においては、家庭裁判所の人員削減により3か月以上かかりました。

保管を申請する管轄法務局(令和5年5月29日改正)

どこの法務局で保管をするかですが、管轄は3種類あります。住所地、本籍地及び所有する不動産所在地を管轄する法務局となります。原則として、(地方)法務局の本局(本庁)と支局になります。出張所に保管申請をすることはできませんが、東京の板橋出張所は例外となります。

改正により管轄が拡大されています

令和5年5月29日から、法務局及び地方法務局の支局及び出張所設置規則の改正により、(地方)法務局管内の各遺言書保管所の管轄区域が都道府県(北海道を除く)全域に拡大されています。

管轄/遺言書保管所一覧

例えば、三鷹市・武蔵野市にお住いの方は、東京法務局府中支局に直接出向いて申請することになっていましたが、改正により、東京法務局本局、板橋出張所、八王子支局及び西多摩支局でも申請が可能です。郵送での申請や代理人からの申請はできません。身体に不安を抱えていらっしゃる高齢者にとってはネックとなります。

府中支局には最寄りの駅などありません。バスまたはタクシーが交通手段となりますが、介助のためにご家族の方が付き添うこともできますので、ご家族の車で行くことを考えてもよいでしょう。

予約が必要

オンライン化が進んで法務局に行く人の数はずいぶんと減りました。私もたまに行くことがありますが、毎回そのように感じます。以前は、顔なじみの法務局職員に挨拶をしたりしたものですが、現在では一切ありません。便利な世の中になるのもよいのでしょうが、少々寂しいですね。

遺言書保管申請の内容に不備がない場合には原則として即日処理をしますので、混雑回避と待ち時間減少のために予約が必要です。法務局手続案内予約サービスの専用HPでの予約、または、予約を取りたい遺言書保管所への電話又は窓口での予約が方法となります。
法務局手続案内予約サービスの専用HP

遺言書保管所(法務局)の電話番号や所在地を確認する。

顔写真付き身分証明書

本人確認書面として顔写真付きの身分証明書の提示を求められます。運転免許証とマイナンバーカードが主なものですが、これも高齢者の方にとってはネックとなります。仕事柄、身分証明書の提示をお願いすることが多いのですが、高齢者の方が顔写真付きのものをお持ちのケースは非常に稀です。

法務省のHPには、持ってない人はマイナンバーカードを取って下さいと書かれていますが、身体に不安を抱えていらっしゃる高齢者の方には簡単ではないはずです。外出することが困難な方もいらっしゃいます。

顔写真のない身分証明書2種類で確認するなどの代替手段を是非取り入れて欲しいとは思いますが、なりすまし防止のためには致し方ないでしょう。

用紙のサイズと余白

遺言書の用紙サイズにも注意しなければなりません。A4サイズのみと指定されています。おそらく、保管する側の都合であって同じサイズに限定した方が管理しやすいのでしょう。 私が今までに目にしてきた自筆遺言書で一番多いのは、便箋に書かれたものです。一般的な便箋はA4よりひと回り小さいサイズなので、気を配る必要があります。

遺言書といえば封がされている封筒に入っているというイメージですが、封をしてはいけません。法務局において、自筆遺言書が形式的な要件を満たしているかチェックをするためです。法的に無効な遺言書を保管することがないように、全文(財産目録を除きます。)自筆、日付、署名及び捺印を確認します。

余白については、左は20㎜以上、上と右は5㎜以上、下は10㎜以上と定められています。 画像データだけではなく、遺言書の原本を保管するので、登記簿が紙だった頃のように左側の綴じ代が必要になるということなのでしょう。
法務省HP上の遺言書の用紙例

上記の用紙例の罫線に沿って記載すれば、余白を確保できるようになっています。右下の枠内には“1/2、2/2”のように、総ページ数の分かるよう通し番号でページ数を記載します。1枚の場合には“1/1”と記載します。

また、裏面に記載することはできませんので、併せて注意しましょう。両面に記載がある遺言書が法的に無効になることはありませんが、法務局で保管することはできないということです。

本籍及び筆頭者の記載ある住民票

作成後3か月以内の住民票が必要です。戸籍の附票でも本籍と住所の確認ができるので、それを用意してもよいでしょう。

住民票・戸籍の附票の請求時に本籍及び筆頭者記載を希望するようにします。そうしないと本籍及び筆頭者記載のない住民票・戸籍の附票が発行されてしまいます。自動交付機以外の窓口で請求する場合には、本籍を載せるかどうかを聞かれることが多いですが、全ての職員が聞いてくるわけではありません。

3か月の期限があるので、最後に取得するのがよいと思います。
※スケジュールの一例
マイナンバーカードの交付申請→遺言書作成→マイナンバーカードの受け取りと住民票の取得

遺言書の原本は返却されません

法務局に預けた遺言書の原本は家族(相続人)に返却されません。自筆遺言書を家族(相続人)の手元に残しておきたい場合には、自宅等を保管場所にしなければならないでしょう。

遺言書の内容についての相談は不可

前述したように、法務局は形式的な面のみをチェックします。
「遺言執行者を選任したほうがいいですよ。」
「この遺言内容は遺留分を侵害しているので、トラブルになるかもしれませんよ。」
上記のようなアドバイスなどはしませんし、遺言者からの内容面での相談に応じてくれることもありません。

最後に

保管制度ができるまでは圧倒的に遺言公正証書を作成される方のほうが多かったです。遺言書保管制度により、自筆遺言書を作成される方との差は縮まるかもしれませんが、逆転することはないと思っています。

原因としては、本人確認の厳格性と法務局への出頭です。遺言公正証書を作成するのであれば、実印と印鑑証明書で本人確認できますし、公証役場へ出頭困難な遺言者のために公証人が高齢者施設や医療機関等に出張してくれます。

まだまだ、元気なうちに認知症・相続対策をされる方は少数です。そういった対策としての選択肢が1つ増えたと考えて、これからも遺言を含めた最善の方法をご提案させていただければと存じます。

 

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