Archive for the ‘商業・法人登記’ Category

公告をする方法の変更登記

2024-04-01

公告方法の定め

株式会社(持分会社も同様)は公告方法として、次のいずれかを定款で定めることができます。

  • 官報に掲載する方法
  • 時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙に掲載する方法
  • 電子公告

定めることができるのであって、公告方法を定款で定めなくても構いません。その場合には官報に掲載する方法が公告方法となります。

電子公告

電子公告を公告方法とする場合には、公告をするウェブページのURLを定めなければなりません。URLは、原則として、電子公告による公告を実際に閲覧することができるページのものである必要がありますが、リンクを張り付ける等によってページ遷移できる措置が執られていれば、自社ウェブページのトップページのURLでも差し支えありません。

このURLは定款に定める必要はなく、業務執行として代表取締役が決定することで足ります。登記されたURLを変更することもできますが、定款変更は不要ですし、株主総会議事録等の添付書面も不要となります。

また、電子公告による公告をすることができない場合の公告方法として、官報に掲載する方法か日刊新聞紙に掲載する方法を定めることができます。例えば、「(公告方法)第○条 当会社の公告は、電子公告とする。ただし、電子公告による公告をすることができない事故その他やむを得ない事由が生じた場合は、官報に掲載してする。」のように定めるのが一般的です。

貸借対照表(大会社にあっては、貸借対照表及び損益計算書)の公告については、電子公告とは別のURLを登記することも可能です。

登記申請書の記載例

株式会社が公告方法を官報に掲載する方法から電子公告に変更する場合の登記申請書のうち、主要部分について記載例を掲載します。

登記の事由
公告方法の変更

登記すべき事項
「公告をする方法」
電子公告とする。
http://www.○○○○○
ただし、電子公告による公告をすることができない事故その他やむを得ない事由が生じた場合は、官報に掲載してする。
「原因年月日」令和○○年○○月○○日変更

登録免許税
金30,000円

添付書類
株主総会議事録 1通
株主リスト   1通
委任状     1通(代理人に申請を委任した場合のみ必要です。)

URLは、全て全角で記録(記載)します。代理人に委任した場合、委任状にはURLを記載します。URLの記載がない場合には、別途、代表取締役が作成した「アドレスの決定を証する書面」が必要となります。

貸借対照表に係る情報の提供を受けるために必要な事項の記録抹消

公告方法が官報に掲載する方法か日刊新聞紙に掲載する方法である株式会社は、貸借対照表に係る情報の提供を受けるために必要な事項として、ウェブページのURLを登記することができます。

その会社が公告方法を電子公告に変更した場合には、登記官によって当該URLに下線を付して登記を抹消する記号が記録されます。そのため、公告方法を電子公告に変更する登記を申請する際には、貸借対照表に係る情報の提供を受けるために必要な事項の廃止の登記を申請する必要はありません。

定款認証の48時間処理について解説します

2024-03-11

定款作成支援ツールの公開

株式会社を設立するために最初にすることは定款の作成です。定款において必ず定めなければならない事項があったりするなど、一般の方がご自身で作成することはハードルが高いと思います。

そこで、小規模でシンプルな形態の株式会社をスピーディーに設立したいというニーズに応えるために、日本公証人連合会がスタートアップ支援の観点から、新たな取組を開始しました。その一つが定款作成支援ツールの公開です。2023年12月26日から無料で公開されており、日本公証人連合会のホームページからダウンロードすることが可能です。

ツールには発起人1名用と発起人3名以下用がありますが、発起人3名以下用は、発起人1名用よりやや選択項目・定款記載事項が多くなっています。発起人1名の場合でも、発起人3名以下用を使用することが可能です。

48時間処理

2024年1月10日から、東京都及び福岡県において、この定款作成支援ツールを使用して公証人の定款認証を受けようとする場合について、48時間以内に定款認証手続を完了させる試行運用が開始されました。48時間処理を利用するための要件は以下のとおりです。

  • 東京都又は福岡県に本店を置く株式会社の設立の場合であって、東京都又は福岡県に所在する公証役場において定款認証の嘱託をするものであること
  • 日本公証人連合会が公開する「定款作成支援ツール」で作成した定款であること(定款作成支援ツールを二次利用した民間サービスで作成したものも含まれます。)
  • 発起人が3名以下の自然人であること
  • 定款作成者が定款にマイナンバーカードの署名用電子証明書を利用した電子署名をしていること
  • 定款認証の嘱託に先立ち、公証人に対し、認証に必要な資料に加え、特別処理(48時間処理)によることを希望する旨の申請書が提供されること

48時間の起算点は、必要な資料がすべて公証役場にメールで到達したときです。また、48時間の算定は、土・日・祝日を除きます。資料に不備などがあれば、手続に時間を要する場合があります。

定款認証手続の流れ

1.定款作成支援ツールへの入力
定款作成支援ツールをダウンロードして、必要事項を入力します。

2.電子署名または押印
定款のPDFファイルに、定款の作成者がマイナンバーカードで電子署名を付します。代理人に委任した場合、委任状のPDFファイルに、委任者(定款作成を委任した発起人本人)のマイナンバーカードで電子署名を付し、または、委任状のPDFファイルを印刷した書面に、委任者(定款作成を委任した発起人本人)の実印を押します。

3.事前チェック
定款(電子署名済み)、電子署名済み委任状、実質的支配者申告書、特別処理申請書及び発起人全員の運転免許証、マイナンバーカード等の顔写真付き身分証明書等を公証役場にメールで送信し、事前チェックを受けます。

4.面前審査の予約(以下、4~6は順序に関係なく7までに行います。)
メール送信された資料を公証人が審査し、問題がなければ、公証役場と面前審査(公証人の面前での本人確認や設立意思の確認等)の日程を調整します。面前審査は、ウェブ会議又は公証役場への来所のいずれかを選択することができます。ただし、2024年3月以降は対面実施の希望がない限り、ウェブ会議で実施することが原則化されます。

5.手数料の支払い
面前審査までに手数料をクレジットカード払い(ウェブ上での決済又は面前審査時の公証役場での決済)、銀行振込み、現金払いのいずれかの方法によって支払います。

6.オンライン申請
「登記・供託オンライン申請システム」又は「法人設立ワンストップサービス」(マイナポータル)を通じて、電子公証のオンライン申請をします。

7.面前審査
予約した日時に、公証人による面前審査を受けます。ウェブ会議の場合には、事前に公証役場から、ウェブ会議に接続するためのURLをメール送信します。

8.認証
公証人による面前審査で問題ないことが確認できると、定款データに公証人の電子署名を付し、認証手続が完了します。面前審査をウェブ会議で受けた場合は、認証済みの定款データを登記・供託オンライン申請システムからダウンロードできます。公証役場へ来所した場合には、持参したCDーR等に認証済みの定款データを書き込みます。

48時間処理の環境整備

日本公証人連合会の上述した取り組みを更に充実させるために、公証人との日程調整がうまくいかず、迅速な対応に支障が生じるおそれがある場合に、48時間処理案件を優先して面前審査アポイントを入れるなどの特別な対応可能な環境が整備されています。

具体的には、東京都内の4公証人(連合会役員)が連絡窓口となり、速やかに定款認証を進行させて運用に支障が生じない措置が執られています。

取締役会設置会社が取締役会を廃止する場合の登記について

2024-02-13

代表取締役の扱い

取締役会を置く旨の定款の定めを廃止した場合において、代表取締役の選定方法を特に定めなかった場合には、取締役全員が当然に代表取締役となります。取締役が各自会社を代表することとなるわけです。

一方、代表取締役の選定方法を定めて、引き続き現在の代表取締役のみを代表取締役とすることも可能です。この記事では、株主総会の決議によって取締役の中から代表取締役を定めることとしたうえで現在の代表取締役を選定する場合の登記について解説します。

株式の譲渡制限に関する規定

「当会社の株式を譲渡するには、取締役会の承認を要する。」と登記されている場合には、承認機関を変更する登記申請が必要となります。例えば、「当会社の株式を譲渡するには、株主総会の承認を要する。」のように変更しなければなりません。

ただし、「当会社の株式を譲渡により取得するには、当会社の承認を受けなければならない。」のように登記されている場合には、変更登記は不要です。

登記の事由

取締役会設置会社の定めの廃止
株式の譲渡制限に関する規定の変更

登記すべき事項

「取締役会設置会社に関する事項」
「原因年月日」令和○年○月○日廃止
「株式の譲渡制限に関する規定」
当会社の株式を譲渡するには、株主総会の承認を要する。
「原因年月日」令和○年○月○日変更

登録免許税

取締役会設置会社の定めの廃止分が金3万円、株式の譲渡制限に関する規定の変更分が金3万円となり、合計で金6万円です。

株主総会議事録

以下に議案の記載例を掲げます。

第1号議案 取締役会設置会社の定めの廃止の件
議長は、当会社は定款に取締役会設置会社の定めを設けていたのであるが、諸般の事情から、その定めを廃止することとし、定款の第○条を削除したい旨を述べ、これを諮ったところ、満場一致でこれを承認可決した。

第2号議案 定款変更の件
議長は、株式譲渡の承認方法及び代表取締役の選定方法について、取締役会の決議から株主総会決議に変更することとし、それに伴い定款の第○条及び第○条を下記のとおり変更したい旨を説明し、議場に諮ったところ、満場一致でこれを承認可決した。

(株式の譲渡制限)
第○条 当会社の株式を譲渡するには、株主総会の承認を要する。
(代表取締役)
第○条 当会社は、株主総会の決議により、取締役の中から、代表取締役1名を定めるものとする。

第3号議案 代表取締役改選の件
議長は、第2号議案が可決されたため、本総会で当会社の代表取締役を改めて選定したい旨を述べ、その選定方法を諮ったところ、出席株主中から、現在の代表取締役○○を選定するのが適当であるとの発言があり、議長は、○○につき可否を総会に諮ったところ、全員一致でこれを承認した。

添付書類

株主総会議事録
株主リスト
委任状(代理人に申請を委任した場合のみ必要です。)

最後に

株式会社の機関の変更は会社法の規定に従って行わなければなりません。取締役会設置会社(監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社を除く。)は、監査役を置かなければならないと規定されていますので、取締役会設置会社の定めの廃止と同時に監査役設置会社の定めの廃止の登記をすることも可能です。

その際、監査役は退任することになりますので、監査役の変更登記も申請します。監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがある旨が登記されている場合には、その廃止の登記も申請する必要があります。

株式会社の解散及び清算人選任登記

2024-01-29

解散の事由

株式会社は、次に掲げる事由によって解散するとされています。破産手続開始の決定と解散を命ずる裁判があった場合には、裁判所書記官の嘱託に基づく登記となりますので、当事者が解散の登記を申請することはありません。実務上、最も扱うのは株主総会の決議による解散ですので、それを中心に解説します。

  • 定款で定めた存続期間の満了
  • 定款で定めた解散の事由の発生
  • 株主総会の決議
  • 合併(合併により当該株式会社が消滅する場合に限る。)
  • 破産手続開始の決定
  • 解散を命ずる裁判

解散の登記と清算人の登記

商業登記法の条文上、同時に申請すべき規定は存在しないことから、代表清算人の資格を証する書面を添付して解散の登記のみ申請することもできます。ただ、分けて申請する実益はありませんので、通常は解散の登記と清算人の登記は同時に申請します。

登記の事由

解散
令和○年○月○日清算人及び代表清算人の選任

解散の登記においては、登記の事由で「株主総会の決議により解散」等の解散の事由を記載する必要はありません。清算人会を設置した場合には、「清算人会設置会社の定め設定」も併せて記載します。

登記すべき事項

「解散」
令和○年○月○日株主総会の決議により解散
「役員に関する事項」
「資格」清算人
「氏名」○○○○
「役員に関する事項」
「資格」代表清算人
「住所」○県○市○町○丁目○番○号
「氏名」○○○○

存続期間の満了、解散事由の発生の場合には、「令和○年○月○日存続期間の満了により解散」、「令和○年○月○日定款所定の解散事由の発生により解散」と記載します。清算人会を設置した場合には、[「清算人会設置会社に関する事項」清算人会設置会社]と記載します。

登録免許税

解散の登記が金30,000円、清算人の登記が金9,000円となりますので、合計額の金39,000円を記載します。

添付書類

・定款
必ず必要となります。清算人会設置の有無を定款で確認するからです。ちなみに、特例有限会社においては清算人会を置くことができませんので、添付不要となる場合があります。

・株主総会議事録
株主総会の決議により解散する場合は、株主総会議事録を添付します。定款で定めた解散の事由の発生の場合は、解散の事由の発生を証する書面を添付します。存続期間の満了による解散の場合には、登記簿で存続期間が満了したことが明らかですから、この場合には、解散に係る添付書類は必要ありません。

・株主リスト

・就任承諾書
定款で定めた者と株主総会の決議で選任した者については、清算人の就任承諾書が必要です。定款の定めに基づく清算人の互選で定められた者と清算人会が選定した者については、代表清算人の就任承諾書が必要です。清算人が一人のとき、清算人会を置かない会社が特に代表清算人を定めなかったときは、清算人全員が当然に代表清算人となりますので、別途代表清算人の就任承諾書は不要です。

株主総会または清算人会の席上で被選任者が就任を承諾し、その旨の記載が議事録にある場合には、申請書に就任承諾書を添付することを要しません。この場合、申請書には、「就任承諾書については、株主総会(または清算人会)議事録の記載を援用する。」と記載します。

・委任状
司法書士等の代理人に登記申請を委任したときに必要となります。

・その他
裁判所が選任した者につき、選任決定書正本(又は認証ある謄本)、定款の定めに基づく清算人の互選、清算人会の決議により代表清算人を選定したときは、清算人の過半数の一致があったことを証する書面、清算人会議事録を添付します。

登記記録例

解散の登記申請後、登記官によって取締役、代表取締役、取締役会設置会社である旨の登記等に下線を引き、抹消する記号が記録されます。監査役、監査役会は解散後も置くことができますので、そのまま残されます。清算人の登記申請後、清算人、代表清算人の原因年月日欄は空欄となります。

合同会社から株式会社への組織変更について

2024-01-04

組織変更とは

組織変更とは、株式会社がその組織を変更することにより合名会社、合資会社又は合同会社となること、又は、合名会社、合資会社又は合同会社がその組織を変更することにより株式会社となることをいいます。

この記事では、実務上最も扱うことが多い合同会社が株式会社となる組織変更について説明します。

手続の流れ

組織変更計画の作成

合同会社が組織変更をする場合には、組織変更計画で次の事項を定めなければなりません。

・組織変更後の株式会社の目的、商号、本店の所在地及び発行可能株式総数及び定款で定めるその他の事項
・組織変更後株式会社の取締役の氏名
・組織変更後株式会社の機関設計に応じ、会計参与の氏名又は名称、監査役の氏名、会計監査人の氏名又は名称
・組織変更をする合同会社の社員が組織変更に際して取得する組織変更後株式会社の株式の数又はその数の算定方法、割当てに関する事項
・組織変更後株式会社が組織変更に際して組織変更をする合同会社の社員に対してその持分に代わる金銭等を交付するときは、当該金銭等について必要な事項
・組織変更の効力発生日

組織変更後の株式会社の定款の内容を定めなければなりませんが、この定款について公証人の認証は不要です。

代表取締役は、定款で定める事項として代表取締役の氏名を組織変更計画に記載する方法のほか、取締役会の決議、取締役による互選、株主総会の決議によって選定します。その場合、登記が組織変更の効力要件ではないので、効力発生日以降に取締役会等を開催しなければなりません。

債権者の異議手続

必ず、官報に掲載する方法により必要な事項を公告しなければなりません。公告期間は1か月となります。

知れている債権者に対しては各別の催告が必要ですが、官報のほかに定款で定めた公告方法に従って公告すれば、各別の催告の省略が可能です。ただし、合名会社、合資会社が株式会社に組織変更する場合には、催告の省略はできません。

※官報公告掲載例

組織変更公告
当社は、株式会社に組織変更することにいたしました。
この組織変更に異議のある債権者は、本公告掲載の翌日から一箇月以内にお申し出下さい。
令和五年十二月十九日
東京都三鷹市野崎一丁目一番一号
法務商事合同会社
代表社員 法務太郎

組織変更計画の承認

組織変更をする合同会社は、効力発生日の前日までに、組織変更計画について当該合同会社の総社員の同意を得なければなりません。ただし、定款に別段の定めを設けることができます。

効力発生

組織変更の効力は、組織変更計画で定めた効力発生日に生じます。債権者の異議手続が終わっていない場合には、組織変更の効力は生じません。

登記申請

組織変更による合同会社の解散の登記と組織変更による株式会社の設立登記を申請します。解散の登記と設立の登記は同時に申請しなければなりません。

添付書類(一例)
・定款
・組織変更計画書
・総社員の同意書
・代表取締役の選定に関する書面
・取締役、代表取締役及び監査役の就任承諾書
・取締役、監査役の本人確認証明書
・公告及び催告をしたことを証する書面
・異議を述べた債権者があるときは、異議を述べた債権者に対し弁済若しくは担保を供し若しくは信託したこと又は組織変更をしてもその者を害するおそれのないことを証する書面(異議を述べた債権者がいないときは、「異議を述べた債権者はいない」と記載します。)
・登録免許税法施行規則第12条第4項の規定に関する証明書
組織変更後の株式会社が当該組織変更に際して当該組織変更の直前の会社の株主に対して交付する財産(当該組織変更後の株式会社の株式を除く。)の価額等を記載した書面が該当します。登録免許税法施行規則に規定する額を超過する部分についての登録免許税の税率が異なりますので、添付する必要があります。

組織変更に際して合同会社の社員に交付する財産が株式のみであれば、組織変更による設立登記の登録免許税は、合同会社の資本金の額の1,000分の1.5(3万円未満のときは3万円です。)となります。

特例有限会社の登記事項

2023-12-25

特例有限会社とは

2006(平成18)年5月に会社法が施行されましたが、その会社法施行前に有限会社として設立され、会社法施行後も存続が認められている会社のことです。会社法施行により有限会社を規定していた有限会社法が廃止され、会社法には有限会社に関する規定は存在しません。

存続する特例有限会社については、「会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」(以下、「整備法」と言います。)中に規定があります。

商号

特例有限会社は株式会社です。廃止前の有限会社法の規定による有限会社であって会社法の施行の際現に存するものは、会社法の施行の日以後は、会社法の規定による株式会社として存続するものとされました。つまり、会社法上、特例有限会社を株式会社として扱い、原則として株式会社の規定を適用しますが、適用を除外する例外については整備法にその旨が定められています。

商号には「有限会社」の文字をそのまま用いなければなりません。「株式会社」の文字を使用するためには、定款の変更によって通常の株式会社に移行する手続を経る必要があります。

株式の譲渡制限に関する規定

特例有限会社の定款には、その発行する全部の株式の内容として当該株式を譲渡により取得することについて当該特例有限会社の承認を要する旨及び当該特例有限会社の株主が当該株式を譲渡により取得する場合においては当該特例有限会社が譲渡の承認をしたものとみなす旨の定めがあるものとみなされます。

「当会社の株式を譲渡により取得することについて当会社の承認を要する。当会社の株主が当会社の株式を譲渡により取得する場合においては当会社が承認したものとみなす。」のように登記されます。

この株式の譲渡制限に関する規定を定款変更して廃止することはできませんので、株式の譲渡制限に関する規定の廃止の登記もできないことになります。

機関の設置

特例有限会社は、株式会社と同様に株主総会と取締役を必ず置かなければなりません。それ以外に置くことができる機関は監査役のみとなります。取締役会、会計参与、会計監査人などを置くことはできません。また、監査役設置会社である旨、監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがある旨は、登記事項ではありません。

取締役と監査役の住所が登記されること、代表取締役でない取締役がいる場合のみ代表取締役の氏名を登記することが通常の株式会社と異なります。したがって、取締役の退任、代表取締役の就任等によって会社を代表しない取締役がいなくなった場合には、代表取締役の氏名を抹消する登記をしなければなりません。

役員の任期

特例有限会社には、役員の任期の規定がありません。したがって、役員の任期満了による変更登記が不要となりますので、12年以上登記がされないことは普通にあり得るわけです。このことから、休眠会社のみなし解散が適用されることはありません。

組織再編

言うまでもなく、新たに有限会社を設立することはできません。それを踏まえて、存続することとなる吸収合併、他の会社の権利義務の全部または一部を承継する吸収分割はできないことになっています。また、株式交換、株式移転及び株式交付をすることもできません。

上記以外の組織再編行為は可能です。例えば、吸収合併消滅会社、吸収分割会社になること、合同会社などの持分会社に組織変更することなどです。

取締役会を置かない株式会社の取締役の増員について

2023-12-04

はじめに

旧商法時代に設立された株式会社は、取締役3名以上及び監査役1名以上を置き、取締役会の設置が義務付けられていました。会社法の施行によって、取締役会、監査役を置かない株式会社の機関設計が認められるようになりました。取締役が1名のみである一人会社も会社法施行時以降に設立可能となり、実務上よく目にします。

この記事では、取締役会を置かない株式会社の取締役を新たに選任する場合の注意点について触れていきます。

業務の執行と決定

これ以降は、取締役会設置会社以外の株式会社について話を進めていきます。例えば、一人会社が取締役を増員して取締役が2名になったとします。この場合、業務の執行は各取締役が単独で行うことができますが、業務の決定は取締役の過半数で行います。どちらも、定款に別段の定めを設けることができます。

ただし、支配人の選任、解任、支店の設置、移転、廃止などについての決定を各取締役に委任することはできないと定められており、原則通り取締役の過半数によって決定しなければなりません。

代表取締役

取締役を増員した場合には、取締役全員が代表取締役となります。取締役に就任した者は当然に代表取締役にも就任したことになりますので、新たな取締役と代表取締役の就任登記をします。

増員取締役を代表取締役にしない場合

会社法には、株式会社(取締役会設置会社を除く。)は、定款、定款の定めに基づく取締役の互選又は株主総会の決議によって、取締役の中から代表取締役を定めることができると定められています。

つまり、各自代表が原則なのですが、3つの方法によって代表取締役を定めることができるのです。言い換えれば、取締役の代表権を奪うことも可能だということです。

株主総会の決議

代表権を有しない取締役を増員する場合には、改めて代表取締役を選任する決議を要するのでしょうか。第1号議案で新たな取締役を選任し、第2号議案で現代表取締役を選任する決議をした株主総会議事録を添付しても登記申請は可能です。

ただ、株主総会の決議で代表取締役を定めるというのは、株式会社を代表させたくない取締役から代表権を剥奪する行為であるともいえます。このことから、増員取締役を株主総会で選任する際に代表権を有しない取締役であることを決議すれば足りるのです。

以下に、株主総会議事録の議案の記載例を掲載しますが、役員変更登記が補正なく完了することを保証するものではありません。利用される際には自己責任でお願い申し上げます。

第○号議案 取締役の選任に関する件
議長は、取締役を新たに選任する必要がある旨を述べ、その選任方法を諮ったところ、出席株主中から議長の指名に一任したいとの発言があり、一同これを承認したので、議長は下記の者を指名し、この者につきその可否を諮ったところ、満場異議なくこれに賛成したので、下記のとおり選任すること及び代表権を有しない取締役とすることに可決確定した。なお、被選任者は、席上その就任を承諾した。

株主総会以外の機関の設置について

2023-09-19

置くことができる機関

株式会社が必ず置かなければならない機関は株主総会と取締役です。それ以外の機関については定款の定めによって、取締役会、会計参与、監査役、監査役会、会計監査人、監査等委員会又は指名委員会等を置くことができます。

また、定款の定めにおいて、「取締役会を置くことができる」のように置くのか置かないのかわからないような定めは認められず、「取締役会を置く」のように定めなければなりません。

公開会社とは

機関の設置について理解するためには、公開会社とは何かを知ることが大前提となります。株式を譲渡することは原則として自由にできるのですが、株式会社は定款で定めることによって、株式の譲渡を制限することができます。

株式会社がその発行する全部又は一部の株式の内容として譲渡による当該株式の取得について当該株式会社の承認を要する旨の定めを設けている場合における当該株式を譲渡制限株式といいます。そのうえで、会社法は公開会社をその発行する全部又は一部の株式の内容として譲渡による当該株式の取得について株式会社の承認を要する旨の定款の定めを設けていない株式会社をいうと定義しています。

要するに、全部の株式が譲渡制限株式である株式会社以外の株式会社は公開会社となります。これでも分かりにくいかもしれませんので、別の言い方をすれば譲渡制限株式ではない譲渡が自由にできる株式を発行することができる株式会社が公開会社です。

取締役会設置会社

取締役会設置会社とは、取締役会を置く株式会社又は会社法の規定により取締役会を置かなければならない株式会社をいいます。公開会社、監査役会設置会社、監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社は取締役会を置かなければなりません。非公開会社は取締役会を置かなくてもよいのですが、監査役会設置会社である場合には取締役会の設置義務があります。

また、取締役会設置会社(監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社を除く。)は、監査役を置かなければならないと規定されています。監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社では、監査役以外の機関が監査業務を行いますので、監査役を置くことはできません。

一方、取締役会設置会社である非公開会社では、会計参与を置けば監査役を置く必要はありません。つまり、監査役か会計参与のどちらかを置かなければならないのです。

監査役設置会社

監査役設置会社とは、監査役を置く株式会社(その監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがあるものを除く。)又は会社法の規定により監査役を置かなければならない株式会社をいいます。

監査役は業務及び会計の監査を行う機関ですが、非公開会社である株式会社(監査役会設置会社及び会計監査人設置会社を除く。)は、その監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨を定款で定めることができるとされています。

前述した監査役の設置義務に加えて、会計監査人設置会社(監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社を除く。)は、監査役を置かなければなりません。

大会社における機関の設置義務

大会社とは、最終事業年度に係る貸借対照表に資本金として計上した額が五億円以上である、または、最終事業年度に係る貸借対照表の負債の部に計上した額の合計額が二百億円以上である株式会社をいいます。

大会社(非公開会社、監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社を除く。)は、監査役会及び会計監査人を置かなければなりません。一方、非公開会社である大会社は、会計監査人を置かなければならないと規定されています。

つまり、公開会社である大会社は、取締役会、監査役、監査役会及び会計監査人を置かなければならないということになります。そして、非公開会社である大会社は、監査役及び会計監査人の設置が義務となるのです。

実務では

今まで、私が司法書士として商業登記業務を行った株式会社は非公開会社だけです。上述したものは会社法の規定であり、司法書士なら誰もが持っている知識なのですが、実務で必要となるのはほんの一部といえるでしょう。

実務では、会社法施行前に設立した株式会社で監査役の監査の範囲に関する事項を登記すべき場合の知識などが要求されます。

発行可能株式総数と発行可能種類株式総数

2023-09-11

発行可能株式総数

発行可能株式総数とは、株式会社が発行することができる株式の総数のことであり、発起人は、株式会社の成立の時までに、その全員の同意によって、定款でその総数の定めを設けなければならないと定められています。

したがって、発行可能株式総数を超えるような株式の発行は無効となりますので、増資、株式の分割の際には注意が必要です。自己株式の交付により増資、株式の無償割当てでは、発行済株式の総数の増加を抑えることができますが、株式の分割では、自己株式数も他の株式数と同様に増加します。なお、発行可能株式総数は定款で定めますが、その定めを廃止することはできません。

発行可能種類株式総数

発行可能種類株式総数とは、株式会社が発行することができる種類ごとの株式の総数のことであり、種類株式発行会社においては種類ごとに発行可能種類株式総数を定款で定めなければならないとされています。

また、発行可能株式総数との関連性はなく、例えば、発行可能株式総数3,000株の種類株式発行会社が内容の異なる普通株式とA種株式を発行するものとして、それぞれの発行可能種類株式総数を1,000株ずつとすることも可能です。つまり、発行可能種類株式総数の合計が発行可能株式総数である必要はないのです。

発行可能株式総数の上限

株式会社では原則として、株主が会社を所有し取締役が経営をするといった所有と経営の分離がされた形態をとっています。その上で取締役が自由にいくらでも株式を発行することができるとすると、株主の権利が害されるおそれがあります。

それを踏まえて、会社法においては以下の2つの場合に、定款の変更後の発行可能株式総数は、当該定款の変更が効力を生じた時における発行済株式の総数の四倍を超えることができないとして上限を設けています。
①公開会社が定款を変更して発行可能株式総数を増加する場合
②公開会社でない株式会社が定款を変更して公開会社となる場合

上限が問題となるのは上記2つの場合だけであり、自己株式の消却により発行済株式の総数が減少して、結果的に発行可能株式総数が発行済株式の総数の四倍を超えても問題ありません。

対して、株式の併合の際には発行可能株式総数を定めなければなりませんが、必ずしも併合比率に応じて発行可能株式総数を減少させる必要はないものの、公開会社では発行可能株式総数が発行済株式の総数の四倍を超えないように定めなければなりません。

発行可能種類株式総数の上限

発行可能株式総数のような上限はありません。種類株式発行会社であるためには定款で内容の異なる2以上の種類の株式を発行できることが規定されていればよく、その株式会社が現に2以上の株式を発行している必要はありませんので、発行済種類株式の数が「0」の場合もあり得ます。

ですから、発行済種類株式の数の四倍を上限とするような規定を設けることはできないわけです。

下限について

事柄の本質として、発行可能株式総数は発行済株式の総数以上でなければなりません。現在要件を満たしていても、将来満たさないおそれがある場合を考慮して制限が設けられています。

新株予約権を発行している場合には、新株予約権の行使によって株式の発行・交付が可能となるような発行可能株式総数でなければなりません。なお、新株予約権の行使の際に自己株式を交付することもできますので、その数は除外します。

取得請求権付株式・取得条項付株式の対価である株式の数については、発行可能株式総数の下限に影響を及ぼすことはありません。取得により自己株式となり、株式の消却によって発行済株式の総数を減少させることができるからです。

一方、発行可能種類株式総数の下限においては、対価となる種類株式の発行が可能となるようにすることが求められます。取得請求権付株式・取得条項付株式については、自己株式を除外する必要もあります。

代表取締役の住所の非表示措置について

2023-07-24

はじめに

令和4年9月1日から、DV被害者等である会社代表者等からの申出により、登記事項証明書等におけるDV被害者等の住所を非表示とすることが可能になりました。

先ず、前提として会社の登記事項証明書は誰でも取得することができます。会社代表者(株式会社の代表取締役、有限会社の取締役、合同会社の代表社員など)の住所は登記事項とされていますから、配偶者に住所を知られることによりDV被害者は生命または身体に危害を受けるおそれがありました。改正によって、そのような被害の発生を防止する措置が講じられたといえます。

申出ができる被害者等とは

登記事項証明書に記載された自然人(個人)の住所の非表示の申出(以下「住所非表示措置申出」といいます。)の対象となる「被害者等」は、住所が登記記録に記録されている個人に限られます。法人は合同会社等の持分会社の社員になることはできますが、法人の住所(本店)は含まれません。

被害者等の範囲は、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(「DV防止法」)に規定する配偶者からの暴力を受けた被害者、ストーカー行為等の規制等に関する法律(「ストーカー規制法」)に規定するストーカー行為等に係る被害を受けた者、その他これらに準ずる者とされています。

申出方法

被害者等又は登記の申請人は、申出書に必要事項を記載し、必要な書面を添付し、登記の申請人が申出をするときは申出書又は委任による代理人の権限を証する書面に当該申請人が登記所に提出している印鑑を押印しなければなりません。なお、登記の申請と同時に行う住所非表示措置申出は、オンラインにより行うことができます。

添付書面

①住所が明らかにされることにより被害を受けるおそれがあることを証する書面
市区町村が発行しているDV等支援措置決定通知書や、ストーカー規制法に基づく警告等実施書面、配偶者暴力相談支援センターのDV被害者相談証明といった公的書面がこれに該当します。

②申出書に記載されている被害者等の氏名及び住所が記載されている市町村長その他の公務員が職務上作成した証明書
被害者等の住民票の写し、戸籍の附票又は外国に居住する取締役等の氏名及び住所が記載されている日本国領事が作成した在留証明書のほか、運転免許証やマイナンバーカード等のコピーであって、被害者等が原本と相違ない旨を記載したものなどです。

③代理人によって住所非表示措置の申出をするときは、当該代理人の権限を証する書面
委任状などが該当します。

最後に

そもそも、代表取締役個人の住所を公示する必要があるのかといった問題があるかとも思いますが、商業登記法の条文には、「会社法(平成十七年法律第八十六号)その他の法律の規定により登記すべき事項を公示するための登記に関する制度について定めることにより、商号、会社等に係る信用の維持を図り、かつ、取引の安全と円滑に資することを目的とする。」と定められています。

ところで、不動産登記においては現状、DV被害者等の登記名義人の住所の変更登記をすることを要しない、前住所を住所として登記をすることも認めたり、住所の閲覧を特別に制限する取扱いなどがされています。

こちらについては改正が決まっており、令和6年4月1日から、DV被害者等についても相続登記や住所変更登記等の申請義務化の対象となることに伴い、現在の取扱いについて必要な見直しをした上で、DV被害者等の保護のための措置が法制化されます。

具体的には、対象者が載っている登記事項証明書等を発行する際に現住所に代わる事項を記載することとされ、委任を受けた弁護士等の事務所や被害者支援団体等の住所、あるいは法務局の住所などを想定しています。詳細は、今後不動産登記規則等の省令で規定されることになるでしょう。

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