Author Archive
連帯保証人の相続人として請求された場合の対処法
裁判となった事案
M銀行が金銭消費貸借契約に基づき主債務者に対して貸金等の支払いを求めるとともに、連帯保証契約に基づき、連帯保証人であるAに対して、連帯保証債務として各8,000万円の支払いを求める訴えを提起しました。その後、M銀行の請求を認める判決が出されて確定します。
判決確定後にAは死亡し、Aには子Cと弟Bがいました。CはAの死亡日から3ヶ月の熟慮期間内に相続放棄をして、BがAの相続人となりましたが、BがAの相続の承認・放棄をしないまま死亡します。Bには、子Dがいました。
Aの死亡から3年経過後に、M銀行はDに対する強制執行(差押え等)を可能にするための手続をとり、B名義の不動産を差し押さえました。Dは裁判所から送られてきた書面により、自分が8,000万円の債務を負担していることを知り、当該書面を受け取った日から3ヶ月の熟慮期間内に相続放棄をしました。
Dは、M銀行を被告として、Dに対する強制執行を可能にするための手続に対する異議の訴え(承継執行文付与に対する異議の訴え)を提起しました。相続放棄の熟慮期間は3ヶ月とされていますから、Dの相続放棄の効力の有無が熟慮期間の起算点をいつの時点とするかによって決するために、裁判ではそこが争点となりました。
※実際の事案ではM銀行が債権譲渡をしたり、相続人となった当事者の数が多くなっていますが、話を分かりやすくするために簡略化しています。
最高裁の判断(令和元年8月9日判決)
従来の考え方は、第1の相続(Aの相続)の熟慮期間の起算点は第2の相続(Bの相続)と同じであり、同時に進行するというものでした。ただ、それではあまりにもDに酷であることから、AとB・Dが疎遠であったなどの特段の事情があった場合には起算点を遅らせるという例外を認めていたのです。
対して、直近の最高裁判決では、DがBを相続したことを知っても、それをもってBがAを相続したことを知るわけではないので、D自身が、BがAの相続人となったことを知る必要があると示しました。要するに、従来の考え方を覆したわけですが、結果的には相続人の保護を優先するというものでした。
相続を承認するか放棄するかを選択する機会は保障されるべき
自分が8,000万円の債務を負担することになったという事実を突きつけられたときに、相続を放棄する余地がなかったとしたら、あまりにも酷なことでしょう。
上記判決の理由では、相続の承認又は放棄の制度は、相続人に対し、被相続人の権利義務の承継を強制するのではなく、被相続人から相続財産を承継するか否かについて選択する機会を与えるものであると述べられています。
1日でも早くご相談ください
ページタイトルに回答するなら、できるだけ早くご相談くださいということになります。相続放棄は、明らかに要件を満たしていないような場合を除いて受理されます。詳しくは、3ヶ月(熟慮期間)を超えた相続放棄についてをご参照ください。
相続放棄をしたからそれで終わりということではなく、単純承認をしたとみなされる場合や3ヶ月を超えて相続放棄をした場合には、後に債権者から訴訟を提起されて相続放棄の効力を争うことを余儀なくされる可能性があるのです。
ただ、そのような事態になったとしても、相続放棄の時期が早ければ裁判において立証を要する事項が減るのです。今回掲載した裁判は、1審、2審とも原告が勝訴しましたが、被告債権者の上訴により、最高裁まで争うことになりました。結果が覆ることはありませんでしたが、原告の相続人は多くの時間と労力を費やすことになりました。
叔父叔母に多額の借金や連帯保証債務があり、知らぬ間にご自身が相続人になっていたということは身近に起こり得ます。繰り返しになりますが、できるだけ早くご相談いただきたいと思います。

司法書士の藤山晋三です。大阪府吹田市で生まれ育ち、現在は東京・三鷹市で司法書士事務所を開業しています。人生の大半を過ごした三鷹で、相続や借金問題など、個人のお客様の無料相談に対応しています。
「誰にも相談できずに困っていたが、本当にお世話になりました」といったお言葉をいただくこともあり、迅速な対応とお客様の不安を和らげることを心掛けています。趣味はドライブと温泉旅行で、娘と一緒に車の話をするのが楽しみです。甘いものが好きで、飲んだ後の締めはラーメンではなくデザート派です。
三鷹市をはじめ、東京近郊で相続や借金問題でお困りの方は、ぜひお気軽にご相談ください。
家族信託の活用例-子供のいない夫婦のケース
具体的事例
以前の記事(遺言公正証書の作成方法)で、子供のいない夫婦の一方が公正証書遺言を作成するという事例を紹介しました。 今回は、遺言者Xの弟Bに子供がいた場合の家族信託の活用法を見ていきたいと思います。

Xからの相談
私は、甲土地とその敷地上の乙建物を所有し、妻Aと暮らしています。
私が亡くなった後には、Aが生活に困らないように甲土地と乙建物及び預貯金を全てAに相続させたいと思っています。
Aが亡くなった後は、私たち夫婦には子供がいないので甲土地と乙建物を甥Cにあげたいのですが、遺言を作成することでそのようなことが可能でしょうか?
二代先の遺言はできない
結論からいうとXだけの遺言ではできません。X死亡後、Aが「甲土地と乙建物をCに遺贈する」旨の遺言書を作成すれば可能ですが、夫婦間といえども遺言書の作成を強要することはできません。
さらに、Xが「全財産をAに相続させる」旨の遺言書を作成しても確実に相続させることができないことは、以前の記事(遺言公正証書の作成方法)で紹介しました。
遺言に代わる家族信託の活用例
家族信託とは?
信託とは、文字通り「信じてあることを託す」ことです。何を託すのかですが、不動産や金銭などの財産です。
委託者(財産を託す人)が信託契約など(自己信託、遺言信託もあります)によって受託者(委託者が信頼する親族など)に対して、財産を移転します。受託者は、信託の利益を受ける人(受益者)のために託された財産の管理・処分等をします。
抽象的な表現では分かりにくいと思いますので、上記事例に沿って説明します。
委託者Xは受託者Cに対して、財産を託します。不動産の名義は、X→Cに移転しますがCの固有財産になるわけではなく、言わば誰のものでもない信託財産となります。
当初の受益者(第一次受益者)をXと定めて、Cは、信託の目的に従ってXの安定した生活の確保のため不動産の管理をし、必要に応じて生活費等をXに交付します。 X死亡後の後継の受益者(第二次受益者)をAと定め、Cは、Aが亡くなるまで、同様の不動産管理、生活費等交付を行います。A死亡後の信託財産はCに帰属させます。
単なる財産管理制度ではない
上記事例において、甲土地が先祖代々のものであり、XとしてはAの親族(姻族)に渡したくないということもあるでしょう。つまり、家族信託の活用は単なる受益者のための財産管理ではなく、委託者が希望する者に財産を受け継がせる機能を有しているとも言えます。
また、そのような後世に継がせる不動産ではない場合には、Aの死亡後には乙建物は空き家となってしまいます。信託契約にX、A両名の死亡後に不動産売却(譲渡所得税はCの負担)や建物の取壊しをCにさせるという条項を組み入れて、生前に空き家対策を講じておくこともできます。
税金はどうなる?
上記事例において、どのような税金が課されるのかみていきましょう。
・信託設定時
登録免許税: 固定資産税評価額の0.4%(土地については、軽減措置により0.3%、令和5年3月31日まで)
固定資産税: XからCに納税義務者が変わります。
信託財産から支払うようにすることもできるので、Cの実質的負担をなくせます。
・X死亡時
相続税: Aに課税
・信託終了時
登録免許税: 固定資産税評価額の2%
相続税(2割加算): Cに課税
不動産取得税: Cに課税
まとめ
家族信託のメリット
・遺言や後見制度の隙間を埋めることができる
家督承継や本人の親族支援など、同じ生前対策である遺言や任意後見で実現できないことが可能となります。
・節税対策にはならないが、多額の課税がされることもない
上記事例において、家族信託を利用せずにX→Aの相続、A→Cの遺贈という流れになった場合、かかる税金は変わりません。むしろ、相続登記の税率は0.4%ですから、軽減措置の分だけ信託登記の方が安くなります。
・認知症対策に有効
認知症で判断能力を欠くことになると遺言、任意後見契約、家族信託全て利用することはできません。認知症と診断されたら即アウトということではなく、程度の問題です。医師の診断書が「後見相当」以外であれば、利用可能な場合が多いと思われます。
家族信託のデメリット
・信託財産が収益不動産(アパート、賃貸マンション等)の場合、損益通算ができない
信託財産の収支がマイナスの場合に、他の事業等の収益と損益通算はできません。
・何でもできる万能な制度ではない
遺言・任意後見でしかできないこともありますし、それらと併用することで最も有効な生前対策をとることができる場合もあります。
生前対策が重要
結局のところ、生前対策が重要なのです。もっと言えば、認知症になる前に備えましょう。
「転ばぬ先の杖」という言葉があります。判断能力のあるうちにしっかり対策しておけば、自分や親族だけでなく、子孫をも護ることに繋がるのです。

司法書士の藤山晋三です。大阪府吹田市で生まれ育ち、現在は東京・三鷹市で司法書士事務所を開業しています。人生の大半を過ごした三鷹で、相続や借金問題など、個人のお客様の無料相談に対応しています。
「誰にも相談できずに困っていたが、本当にお世話になりました」といったお言葉をいただくこともあり、迅速な対応とお客様の不安を和らげることを心掛けています。趣味はドライブと温泉旅行で、娘と一緒に車の話をするのが楽しみです。甘いものが好きで、飲んだ後の締めはラーメンではなくデザート派です。
三鷹市をはじめ、東京近郊で相続や借金問題でお困りの方は、ぜひお気軽にご相談ください。
任意後見契約のメリットとデメリット
任意後見制度について
任意後見制度は、判断能力のあるうちに予め自らの契約によって後見人を選任する制度です。
その契約を任意後見契約と言い、自ら(委任者)が、受任者(任意後見受任者)に対し、認知症などにより判断能力が不十分な状況における自己の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務の全部又は一部を委託し、その委託に係る事務について代理権を付与する委任契約であって、家庭裁判所により任意後見監督人が選任された時からその効力を生ずる旨の定めのあるものを指します。(任意後見契約に関する法律第2条第1号)
非常に分かりにくいと思いますので、具体例を挙げて説明したいと思います。
A(78歳)の家族には、認知症で施設入所中の夫Bと子供C(50歳)がいます。Cは、Aが将来認知症になって、財産の管理、医療・介護などの契約ができなくなることを危惧してAを委任者、Cを受任者とする任意後見制度を利用することにしました。
Aが認知症になってしまうとどのような問題が生じるのでしょうか。
普通預金については、子供がキャッシュカードを管理するなどして必要に応じて預金を引き出すことができますが、定期預金や投資信託は本人以外の者が解約することはできません。Aの入院、介護などでまとまったお金が必要となった場合に困ることになります。Aが不動産を所有しているときは自身が売却することができませんから、同様の問題が生じます。
Bが亡くなった場合に、生命保険金の受取人がAになっていると保険金の請求ができないことがあります。詳しくは、生命保険の手続きをご覧ください。Bの遺産分割協議は、Aの代わりとして家庭裁判所が選任した任意後見監督人とCとの間ですることになります。
このような場合に備えてAの判断能力があるうちに、AC間で、預貯金、不動産などの財産の管理・処分、日常生活の関連取引に関する事項、医療契約、入院契約、介護契約その他の福祉サービス利用契約、福祉関係施設入退所契約に関する事項などについて、Cに代理権を付与する委任契約を締結します。
認知症によって判断能力が著しく低下してしまうと契約を結ぶことはできませんので、転ばぬ先の杖として将来に備えるための制度と言えるでしょう。 直近の政府調査によると契約締結者(委任者)の平均年齢は約80歳であり、亡くなる直前に契約する方が多いようです。認知症の発症リスクを考えると締結が遅すぎると思いますが、制度自体があまり知られていないのが原因かもしれません。
任意後見契約のメリット
信頼できる後見人
任意後見制度と比較されるものとして法定後見制度があります。家庭裁判所が、本人や親族などの申立てに基づき、後見人等を選任することによって判断能力が不十分な人を保護する制度です。
法定後見制度では、自らが後見人を選任することはできません。したがって、全く面識のない司法書士、弁護士、社会福祉士などの専門職が後見人の地位に就くこともあり得るわけです。 任意後見制度では、一定の事由(同法律第4条第1項第3号)に該当する者を除いて、自らが一番信頼できる人(親族等)を任意後見人にすることができます。上記の専門職や、社会福祉法人などの法人を後見人にすることも可能です。
移行型任意後見契約
高齢者の全てが認知症になるわけではないのは言をまたないですが、身体的な衰えは避けることができません。また、疾病により身体が不自由になることもあります。いずれの場合も本人(委任者)が判断能力を有していれば、任意後見契約が機能することはありません。
そのような場合に備えて、通常の「委任契約」を締結し、かつ、任意後見契約をも締結する方法があります。両方を組み合わせて締結しておけば、身体的能力または判断能力低下のどちらの事態にも対処できるので安心です。
そして、判断能力が衰えた場合には、通常の委任契約に基づく本人の療養看護及び財産管理等に関する事務処理から、任意後見契約に基づく事務処理へ「移行」することになります。 最近では、任意後見契約はこの移行型で締結されることが多いようです。
任意後見契約のデメリット
公正証書の作成
任意後見契約を締結するには、公正証書でしなければならないとされています。(同法律第3条)
作成費用は以下のとおりです。
① 公証役場の手数料 1万1000円
② 法務局に納付する印紙代 2600円
③ 法務局への登記嘱託手数料 1400円
④ 正本謄本の作成手数料や登記嘱託書の郵送料等 数千円程度
移行型の場合は、通常の委任契約公正証書作成費用として上記①の1万1000円が加算されます。委任契約が有償のときは、①の額が増額される場合があります。
任意後見契約を解除する場合には、任意後見監督人が選任される前後によって手続きが異なります。
・任意後見監督人が選任される前
公証人の認証を受けた書面によっていつでも解除できます。
合意解除(本人と任意後見受任者の合意による解除)の場合には、合意解除書に認証を受ければすぐに解除の効力が発生し、当事者(本人及び任意後見受任者)の一方からの解除の場合は、解除の意思表示のなされた書面に認証を受け、これを相手方に送付してその旨を通告することが必要です。(同法律第9条第1項)
・任意後見監督人が選任された後
任意後見監督人が選任された後は、正当な理由があるときに限り、かつ、家庭裁判所の許可を受けて、解除することができます。(同法律同条第2項)
移行型任意後見契約特有のもの
任意後見契約は、上記のとおり家庭裁判所により任意後見監督人が選任された時から効力が発生します。任意後見契約が登記されている場合において、精神上の障害により本人の事理を弁識する能力(判断能力)が不十分な状況にあるときは、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族又は任意後見受任者の請求により、任意後見監督人を選任するとされています。(同法律第4条第1項柱書)
任意後見監督人が、任意後見人の事務処理などの仕事について、それが適正になされているか否かをチェックし、任意後見監督人からの報告を通じて、家庭裁判所も、任意後見人の仕事を間接的にチェックする仕組みになっています。
通常の委任契約を締結する移行型においては、本人の判断能力が低下した場合に任意後見監督人の選任申立てがなされずに、委任契約の受任者が代理権を濫用するおそれが出てきます。
任意後見監督人への報酬
任意後見監督人が選任されない限り任意後見契約の効力が発生しませんので、任意後見制度を利用しているときには必ず任意後見監督人が存在します。任意後見監督人は、本人の親族等ではなく、司法書士、弁護士、社会福祉士などの専門職が選ばれることが多くなっています。そのために、専門職に支払う報酬が必要となり、報酬額は家庭裁判所が定めることになっています。目安は月額1~3万円とされています。
報酬の支払いが負担になりますとデメリットとなり得ますが、法定後見(後見・保佐・補助)を利用した場合でも専門職が後見人等やそれらの監督人に就任した場合には、同様の問題が生じます。
任意後見人に同意権、取消権がない
任意後見によって本人の行為能力(契約などの法律行為を単独で確定的に有効に行うことができる能力のことをいいます。)は制限されません。自己決定権を尊重し、ノーマライゼーションの理念を重んじることから、本人は売買契約などの法律行為を自由にできるのです。法定後見類型の補助人に代理権のみが付与された場合の被補助人の立場と酷似しています。
一方で、本人が散財するような契約をしてしまった場合には任意後見人はそれを取消すことができません。また、本人が重要な法律行為をするにあたり、任意後見人の同意も不要となります。任意後見人は代理権のみを有しているのであり、その代理権の範囲は任意後見契約で定めることになります。
管理困難な財産や本人の扶養親族の保護
莫大な収益を生む不動産の管理など任意後見制度における財産管理等に関する事務処理とは別に当該財産を管理運用する必要がある場合には、任意後見契約単独で対処することができません。
また、任意後見制度に限らず法定後見制度にも言えることですが、どちらも後見人の身上監護等によってあくまでも本人自身を保護・支援する制度であり、それによって本人の配偶者や子供の生活支援までをカバーすることはできません。
まとめ
以上、任意後見契約のメリット、デメリットについてご説明しました。それらを考慮した上で任意後見制度を利用すべきか否か、またどのような契約内容とするのかといったことについて疑問を抱かれる方も多いと思います。
当事務所では、終活の手段の一つとしての任意後見制度に関するご相談に応じていますので、お気軽にお問い合わせください。

司法書士の藤山晋三です。大阪府吹田市で生まれ育ち、現在は東京・三鷹市で司法書士事務所を開業しています。人生の大半を過ごした三鷹で、相続や借金問題など、個人のお客様の無料相談に対応しています。
「誰にも相談できずに困っていたが、本当にお世話になりました」といったお言葉をいただくこともあり、迅速な対応とお客様の不安を和らげることを心掛けています。趣味はドライブと温泉旅行で、娘と一緒に車の話をするのが楽しみです。甘いものが好きで、飲んだ後の締めはラーメンではなくデザート派です。
三鷹市をはじめ、東京近郊で相続や借金問題でお困りの方は、ぜひお気軽にご相談ください。
遺言公正証書の作成方法
遺言公正証書のメリット
作成された遺言公正証書は公証役場で保管されますので、遺言書の破棄、隠匿、改竄などの心配が不要となります。
交付された遺言公正証書の謄本を紛失してしまっても、再交付を受けることができます。 また、法律の専門家である公証人が遺言の形式面をチェックしますので、その不備が原因で遺言が無効になることはありません。
さらには、家庭裁判所における検認が不要となりますので、相続人の負担を減らすことができます。
作成費用
作成するには、原則として最寄りの公証役場に出向く必要があります。
高齢などの理由によりそれが困難な場合には、遺言者の自宅、高齢者施設、病院などに公証人が出張してその場で作成することもできます。
作成費用(公証人手数料)についてですが、全国一律に定められており、以下のとおりとなります。 その他、証人二人の日当、公証人の出張手数料(出張した場合)を負担することがあります。
財産の価額 | 手数料 |
100万円まで | 5000円 |
100万円超200万円まで | 7000円 |
200万円超500万円まで | 1万1000円 |
500万円超1000万円まで | 1万7000円 |
1000万円超3000万円まで | 2万3000円 |
3000万円超5000万円まで | 2万9000円 |
5000万円超1億円まで | 4万3000円 |
手数料の計算方法
相続人・受遺者ごとに、相続させ又は遺贈する財産の価額により目的価額を算出し、それぞれの手数料を算定し、その合計額が手数料の額となります。
目的価額の合計額が1億円までの場合は、さらに1万1000円が加算されます。
具体例① 妻1人に総額5000万円の財産を相続させる場合
29,000円+11,000円=40,000円
具体例② 長男に3000万円の財産を相続させ、長男の妻に1000万円の財産を遺贈する場合
23,000円+17,000円+11,000円=51,000円
遺言公正証書のデメリット
登記をしなければ第三者に権利を主張できない場合がある
民法の改正(2019年7月1日施行)により、法定相続分を超える部分を承継した場合,その法定相続分を超える部分については,登記等の対抗要件を備えなければ第三者に対抗することができないものとされました。(民法第899条の2第1項)
具体的事例をあげて説明したいと思います。
被相続人Xが死亡し、相続人は妻A及び弟Bです。 Xは、生前「全遺産をAに相続させる」旨の遺言公正証書を作成しましたが、遺産の不動産につきBは、単独で相続の登記を申請してその法定相続分(持分4分の1)を第三者Yに売却しました。

2019年7月1日より前に開始した相続であれば、相続させる旨の遺言のうち遺産分割方法の指定がされたもの(特定財産承継遺言といいます。)や相続分の指定がされた場合のように、遺言による不動産の権利変動のうち相続を原因とするものについては、Aが登記を備えなくてもその権利取得をYに主張することができます。(最二小判平成14年6月10日)
法改正により、AがYに対して法定相続分(持分4分の3)を超える部分を主張するためには、Yの持分移転登記より先にAの単独相続登記(共同相続登記が先にされた場合は、更正登記や持分移転登記など)を備えなければならなくなりました。
また、遺言執行者がある場合には、Bの処分行為は原則無効となりますが、Yが善意のときはAとYは対抗関係に立つことになります。(民法第1013条第2項)
YがXの遺言書の存在を知らなかったときは、AとYのうち先に登記をした方が権利を取得するということです。
つまり、旧法下では相続させる旨の遺言公正証書を作成し、遺言執行者を定めておけば、あぐらをかくことができたわけですが、法改正により遺言の絶対的な効力が失われ、そうもいかなくなったのです。
遺言の内容を必ず実現できるとは限らない
上記事例において、BがAに対し、自己の取り分(相続分)を要求することがあります。
世の中全ての人が兄弟に遺留分がないことを知っているわけではないからです。
Xの立場:Aに全財産を相続させて、Bには一銭も渡したくない。
Aの立場:法律上Bに何も渡す必要はないのかもしれないが、Bの要求を拒むことで今までの良好な関係を壊したくない。また、BはAの近所に住んでおり、ほぼ毎日のように顔を合わせるので尚更である。
Bの立場:自分に遺留分がないことは知らないが、老後の生活資金として法定相続分相当額をAに要求したい。
これらの事情を踏まえて、AB間で遺言内容と異なる遺産分割協議を成立させることが可能です。
Xの意思を厳格に尊重するなら、公正証書遺言を含む遺言制度で100%叶えることはできません。
けれども、遺言者であるXの通常の意思は、相続をめぐって相続人間に無用な紛争が生ずることを避けることにありますから、これと異なる内容の遺産分割が全相続人によって協議されたとしても、直ちにXの意思に反するとはいえないでしょう。(さいたま地判平成14年2月7日)
まとめ
デメリットの方が長くなってしまいましたが、だからといって全く使えない制度だとは思いません。「争続」と呼ばれる相続トラブルのほとんどが、遺言書が遺されていないケースで発生しています。
トラブルの回避においては十分すぎるほどの威力を発揮しますが、遺言者の意思を叶えるには隙間があると言わざるを得ません。 隙間を埋めるための方策については、別の記事(家族信託の活用例-子供のいない夫婦のケース)で紹介したいと思います。

司法書士の藤山晋三です。大阪府吹田市で生まれ育ち、現在は東京・三鷹市で司法書士事務所を開業しています。人生の大半を過ごした三鷹で、相続や借金問題など、個人のお客様の無料相談に対応しています。
「誰にも相談できずに困っていたが、本当にお世話になりました」といったお言葉をいただくこともあり、迅速な対応とお客様の不安を和らげることを心掛けています。趣味はドライブと温泉旅行で、娘と一緒に車の話をするのが楽しみです。甘いものが好きで、飲んだ後の締めはラーメンではなくデザート派です。
三鷹市をはじめ、東京近郊で相続や借金問題でお困りの方は、ぜひお気軽にご相談ください。