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募集株式の発行(増資)の登記手続について

2024-10-28

募集株式の発行(増資)の登記とは

登記申請書の登記の事由に募集株式の発行と記載しますが、登記簿に「募集株式の発行」と登記されるわけではありません。

では、募集株式の発行の登記とは何なのかというと、募集株式の発行の結果、発行済株式の総数と資本金の額が増加したことによる「発行済株式の総数並びに種類及び数」と「資本金の額」を変更する登記であると言えます。

したがって、それらの変更登記がされているときは、登記記録だけで募集株式の発行がされたのだろうと見当をつけることはできますが、そうではない可能性もあるのです。

登記すべき事項

「発行済株式の総数並びに種類及び数」
「発行済株式の総数」○○○株
「原因年月日」令和○年○月○日変更
「資本金の額」金○○○万円
「原因年月日」令和○年○月○日変更

募集株式の発行は払込みによって効力が生じますが、効力発生日を変更の日として登記するわけではありません。変更の年月日は、払込期日又は払込期間の末日となります。

登録免許税

資本金の額の増加分に1000分の7を乗じた額です。ただし、この額が3万円に満たない場合は、3万円になります。例えば、増加額1,000万円の場合は金7万円、300万円の場合は金3万円となります。

添付書面

全てのパターンを解説することはせずに、ここでは株式の譲渡制限を設けた取締役会を置かない非公開会社が第三者割当をし、募集事項の決定を取締役に委任していない、かつ、割当ての決定について定款に別段の定めがない場合について触れておきます。

  • 株主総会議事録
    募集事項を決定する株主総会議事録を添付します。通常は、募集事項の決定と同時に割当ての決定をした旨の記載がある議事録を作成します。

    募集事項と割当ての決定機関が同じであれば、募集株式の引受けの申込みがあることを条件として募集事項の決定と同時に割当ての決定を行うことも可能だからです。
  • 募集株式の引受けの申込みを証する書面
    通常は、募集株式の引受人1名につき株式申込証を1通添付します。銀行又は信託会社等の株式申込取扱証明書を用いることもできます。

    引受けの申込みの手続ではなく、募集株式の総数を引き受ける契約を締結した場合には、その契約を証する書面を添付します。なお、総数引受契約の承認が必要となりますので、その旨の記載がある株主総会議事録を添付する必要があります。
  • 払込みがあったことを証する書面
    具体的な書面として、払込取扱機関の作成した払込金受入証明書又は代表取締役が作成した払込みを受けたことを証明する旨を記載した書面に預金通帳の写しや取引明細書を合わせてとじたもの等が該当します。

    実務上、通帳のコピーと代表取締役の証明書を合綴したものを添付することが多いです。
  • 資本金の額の計上に関する証明書
    増加する資本金の額は、会社法及び会社計算規則の規定に従って計上しなければなりませんので、それを証するために添付します。また、自己株式の処分を行った場合には、処分した自己株式数等を記載しなければならず、株式会社の代表者が証明書を作成します。

募集株式の発行(増資)について・実体法の解説

2024-10-21

会社成立後の出資

新たに出資者を募ることで資本金の額を増やすことができます。具体的には、新たに株式を発行して株主となる者に出資金を払い込んでもらう方法があります。

自己株式を処分することでも出資を募ることができますが、非上場会社が自己株式を保有していることは稀ですからここでは触れません。ちなみに、新たに株式を発行せずに自己株式を処分しただけでは資本金の額、発行済株式の総数に変更はないので、登記すべき事項は存在しないことになります。

事例

募集株式の発行においてはいくつかのパターンがありますが、ここでは株式の譲渡制限を設けた取締役会を置かない非公開会社が第三者割当をする方法による場合を解説します。

したがって、公開会社、取締役会設置会社、株主割当による場合には該当しない記述となりますし、場合分けもしませんので、ご了承ください。なお、第三者割当によって既存株主に株式を交付することも可能です。

募集事項の決定

株主総会の特別決議によって以下の募集事項を決定しなければなりません。
1.募集株式の数
2.募集株式の払込金額又はその算定方法
3.金銭以外の財産を出資の目的とするときは、その旨並びに当該財産の内容及び価額
4.募集株式と引換えにする金銭の払込み又は前号の財産の給付の期日又はその期間
5.株式を発行するときは、増加する資本金及び資本準備金に関する事項

上記2の払込金額が募集株式を引き受ける者に特に有利な金額である場合には、取締役は、株主総会において、当該払込金額でその者の募集をすることを必要とする理由を説明しなければなりません。

決定の委任

株主総会の特別決議により募集事項の決定を取締役に委任することができます。その際、委任に基づいて募集事項の決定をすることができる募集株式の数の上限及び払込金額の下限を定めなければなりません。

また、委任が有効となるのは、払込期日または払込期間の末日が委任の決議の日から1年以内の日である場合に限られます。

株式の申込み・割当て

株式会社から引受けの申込みをしようとする者に対する通知、申込みをする者からの申込みの手順を踏む必要があります。申込みは原則として書面でしなければならず、株式申込証に申込者の住所、氏名、引き受けようとする募集株式の数等を記載します。

割当ての決定機関は株主総会の特別決議となりますが、定款で決定機関を取締役に変更することも可能です。変更している場合には、登記申請の際に定款を添付しなければならず、株主総会で割当ての決議をした場合は株主総会議事録を添付します。

なお、引受けの申込みがあることを条件として割り当てる旨をあらかじめ決議することで、割当てと募集事項の決定を同時に行うことも可能です。ただし、割当てと募集事項の決定機関が異なる場合には、割当ての決定を別途行う必要があります。

総数引受契約

総数引受契約とは、募集株式を引き受けようとする者と発行会社との間で、発行予定の募集株式の総数の引受けを行う契約のことです。

この契約により、上述した株式の申込み・割当ての手続を省略できます。また、払込期間の初日又は払込期日の前日までに申込者に対して割り当てる株式数を通知することとされていますが、総数引受契約を締結する場合には適用されませんので、払込期日を割当決議に係る株主総会当日とすることが可能です。

なお、株主総会の特別決議によって、契約の承認を受けなければなりません。ただし、定款で承認機関を別途定めることができます。

代表取締役の住所非表示措置について(令和6年10月1日施行)

2024-09-24

現行制度の問題点

登記事項証明書や登記事項要約書の取得、登記情報提供サービスの利用によって誰でも代表取締役の住所を確認することができます。住所という個人情報を公開しなければならないことから、会社設立を躊躇う、ストーカー被害者となることや営業行為の対象となる等が懸念されていました。

現行制度はプライバシーの保護よりも取引の安全を重視するものであったといえるでしょう。

商業登記規則等の改正

一定の要件の下、株式会社の代表取締役等の住所の行政区画以外の部分につき登記事項証明書等において非表示とする改正がなされました。

代表取締役等住所非表示措置が講じられた場合、登記事項証明書等において、代表取締役等の住所は市区町村まで(東京都においては特別区まで、指定都市においては区まで)記載されます。例えば、「東京都三鷹市」、「東京都杉並区」、「神奈川県横浜市中区」のように記載されます。

既に登記された住所を非表示にできない

代表取締役の重任の登記や本店を他の登記所の管轄区域内に移転した場合の新本店所在地における登記であって、既に登記されている代表取締役の住所から変更がない場合であっても、代表取締役等住所非表示措置の申出をすることができます。

しかし、登記された全ての住所を非表示にするわけではありませんので、注意が必要です。履歴、閉鎖事項証明書は誰でも取得することができますので、住所に変更がない場合には他人に知られてしまうおそれがあります。

結局のところ、設立並びに代表取締役の新任、住所変更を伴う重任及び住所変更登記等申請時に効果を発揮する制度ではないかと考えます。

添付書面

上場会社以外の株式会社の場合の添付書面は以下のとおりです。

1.株式会社の本店所在場所における実在性を証する書面
代表取締役等住所非表示措置の申出をする株式会社が受取人として記載された配達証明書及び当該株式会社の商号及び本店所在場所が送付先として記載された郵便物受領証を添付します。

また、登記の申請を受任した資格者代理人(登記の申請の代理を業として行うことができる代理人に限られます。)において株式会社の本店所在場所における実在性を確認した書面で確認した日時及び具体的な方法等を記載した当該資格者代理人の職印(当該資格者代理人が法人の場合は、当該法人が登記所に提出している印鑑)を押印したものも該当します。

2.代表取締役等の氏名及び住所が記載されている市町村長等による証明書
住民票の写し、戸籍の附票の写し、印鑑証明書等のほか、運転免許証やマイナンバーカード等の写しであって、当該代表取締役等が原本と相違ない旨記載し、記名したものが該当します。

なお、これらの証明書が代表取締役等住所非表示措置の申出と併せて行う登記の申請書に添付されている場合には、当該申出のための改めての添付は要しません。

3.株式会社の実質的支配者の本人特定事項を証する書面
(1)登記の申請を受任した資格者代理人(司法書士又は司法書士法人に限られます。)が犯罪による収益の移転防止に関する法律(平成19年法律第22号)の規定に基づき確認を行った実質的支配者の本人特定事項に関する記録の写し

(2)本人特定事項についての当該株式会社の代表取締役等の供述を記載した書面であって当該申出と併せて行う登記の申請の日の属する年度又はその前年度において公証人法(明治41年法律第53号)第58条の2第1項の認証を受けたものや公証人法施行規則(昭和24年法務府令第9号)第13条の4第1項の規定に基づき申告した本人特定事項についての申告受理及び認証証明書(当該申出と併せて行う登記の申請が当該株式会社の設立の日の属する年度又はその翌年度に行われる場合に限ります。)が該当します。

なお、当該株式会社について、当該申出と併せて行う登記の申請の日の属する年度又はその前年度において、商業登記所における実質的支配者情報一覧の保管等に関する規則(令和3年法務省告示第187号)第7条に規定する実質的支配者情報一覧の写しの交付又は同告示第2条の申出がされており、かつ、その旨が当該登記の申請書に記載されている場合には、本人特定事項を証する書面の添付は要しません。

休業、廃業に伴う有限会社の清算結了登記について

2024-09-09

休眠、解散

会社の事業活動を継続していくことが困難になった場合、一時的に休眠状態とするか、または、解散したうえで清算手続をすること等が考えられます。清算手続においては会社債務の弁済をし、残った財産を株主に分配することをしなければなりません。休眠状態にするためにも、やはり会社債務を弁済することが求められるでしょう。

負債をゼロにすることができなければ、破産手続等の別の手続を執ることが求められますので注意が必要です。

休業届

休眠状態にするためには、本店所在地を管轄する税務署、都道府県及び市町村に休業届を提出しなければなりません。休業届を提出しても、決算期における確定申告は必要となりますし、法人住民税の均等割が課税されます。ちなみに、三鷹市に本店がある資本金1,000万円以下等の会社では年間7万円となっています(三鷹市5万円、東京都2万円)。

会社に資産が無く支払えない場合でも、会社代表者が支払義務を負うことはありません。法人と会社代表者は別人格だからです。ただし、金融機関から融資を受ける際に会社代表者が会社の(連帯)保証人になっている場合等、会社代表者が債務を負うこともあります。

有限会社のみなし解散について

有限会社(特例有限会社)には「みなし解散」の規定は適用されません。株式会社等においては適用があり、解散(みなし解散を含みます。)の登記をした後十年を経過したときは、登記官によって登記記録を閉鎖することができる規定となっています。

有限会社も株式会社ですから、ここでは「株式会社」とは特例有限会社以外の株式会社を指すこととします。

何が言いたいのかといいますと、株式会社を休眠状態で放置すれば、登記記録が閉鎖される可能性が高いのですが、特例有限会社では、登記記録を見ただけでは実際に事業を行っているか否かの判別はできず、永久に登記記録が残ってしまうということです。

登記記録を閉鎖するには

結論から申し上げますと、特例有限会社においては清算結了登記を申請しなければなりません。清算が結了し、決算報告書について株主総会による承認を受けますと法人格が消滅すると解されています。

つまり、登記によって清算結了の効果が生じるのではありませんが、登記申請をしますと登記記録が閉鎖されますので、永久に登記記録が残ってしまうことが避けられるのです。

まとめ

休眠会社が特例有限会社である場合には、放置すると登記記録が永久に残ってしまうことになります。登記記録を抹消するには、清算結了登記の申請が必要です。

特例有限会社の事業の承継者がいない、放置状態の特例有限会社がある、一人会社の特例有限会社の取締役が死亡した場合等、お悩み・お困りごとがございましたらお気軽にご相談ください。

有限会社の代表取締役が死亡した場合の登記申請

2024-04-30

事例

取締役A・Bを置き、株主総会の決議によって代表取締役Aを定めた有限会社において、Aが死亡した場合の登記申請について解説します。

Bによる登記申請はできるのか

有限会社の取締役は原則として代表権を有しています。取締役が複数いても同様であり、取締役全てが代表取締役となるのです。その点、取締役会を置かない株式会社と同じなのですが、有限会社では代表権を有しない取締役がいるときに代表取締役の氏名のみが登記されることが相違点となります。

上記事例においては、Bは株主総会の決議によって代表権を剥奪されたものと言えますので、そのままではAの死亡による退任登記を申請することはできません。

登記申請書の記載例

上記事例におけるBを申請人とする登記申請書のうち、主要部分について記載例を掲載します。なお、Bは登記申請と同時に印鑑届書を提出する必要があります。今までの会社実印、新たに作った印鑑のどちらでも構いません。また、印鑑カードを引き継ぐこともできますが、その場合には印鑑カード番号と前任者を印鑑届書に記載します。

登記の事由
取締役及び代表取締役の変更

登記すべき事項
「役員に関する事項」
「資格」取締役
「住所」○県○市○町○丁目○番○号
「氏名」A
「原因年月日」令和○年○月○日死亡
「役員に関する事項」
「資格」代表取締役
「氏名」A
「原因年月日」令和○年○月○日死亡

登録免許税
金10,000円(資本金の額が1億円を超える場合は3万円になります。)

添付書類
株主総会議事録 1通
株主リスト 1通
死亡届 1通(戸籍謄本、法定相続情報一覧図の写しでも可。)
委任状 1通(代理人に登記申請を委任した場合のみ、必要となります。)

株主総会議事録の議案記載例

議案 代表取締役選定の件
 議長は、代表取締役たる取締役Aが死亡したため、本総会で代表取締役の選定の必要がある旨を述べ、その選定方法を諮ったところ、出席株主中から、現在の取締役Bを選定するのが適当であるとの発言があり、議長は、Bにつき可否を総会に諮ったところ、全員一致でこれを承認した。

株主リスト

Aが株主であった場合に株主リストに誰を記載するかの問題が生じるかと思います。Aの相続人がB・Cである場合にはAの所有していた株式はBCの共有となります。株主総会までにBC間で遺産分割協議がされ、株式の承継人が定まっている場合には承継人を記載します。対して、遺産未分割の場合には相続人全員であるBC両名を記載します。

共有株式については、原則として権利を行使する者一人を定め、株式会社に対し、その者の氏名又は名称を通知しなければ、当該株式についての権利を行使することができませんので、株主総会議事録の記載に注意する必要があります。

公告をする方法の変更登記

2024-04-01

公告方法の定め

株式会社(持分会社も同様)は公告方法として、次のいずれかを定款で定めることができます。

  • 官報に掲載する方法
  • 時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙に掲載する方法
  • 電子公告

定めることができるのであって、公告方法を定款で定めなくても構いません。その場合には官報に掲載する方法が公告方法となります。

電子公告

電子公告を公告方法とする場合には、公告をするウェブページのURLを定めなければなりません。URLは、原則として、電子公告による公告を実際に閲覧することができるページのものである必要がありますが、リンクを張り付ける等によってページ遷移できる措置が執られていれば、自社ウェブページのトップページのURLでも差し支えありません。

このURLは定款に定める必要はなく、業務執行として代表取締役が決定することで足ります。登記されたURLを変更することもできますが、定款変更は不要ですし、株主総会議事録等の添付書面も不要となります。

また、電子公告による公告をすることができない場合の公告方法として、官報に掲載する方法か日刊新聞紙に掲載する方法を定めることができます。例えば、「(公告方法)第○条 当会社の公告は、電子公告とする。ただし、電子公告による公告をすることができない事故その他やむを得ない事由が生じた場合は、官報に掲載してする。」のように定めるのが一般的です。

貸借対照表(大会社にあっては、貸借対照表及び損益計算書)の公告については、電子公告とは別のURLを登記することも可能です。

登記申請書の記載例

株式会社が公告方法を官報に掲載する方法から電子公告に変更する場合の登記申請書のうち、主要部分について記載例を掲載します。

登記の事由
公告方法の変更

登記すべき事項
「公告をする方法」
電子公告とする。
http://www.○○○○○
ただし、電子公告による公告をすることができない事故その他やむを得ない事由が生じた場合は、官報に掲載してする。
「原因年月日」令和○○年○○月○○日変更

登録免許税
金30,000円

添付書類
株主総会議事録 1通
株主リスト   1通
委任状     1通(代理人に申請を委任した場合のみ必要です。)

URLは、全て全角で記録(記載)します。代理人に委任した場合、委任状にはURLを記載します。URLの記載がない場合には、別途、代表取締役が作成した「アドレスの決定を証する書面」が必要となります。

貸借対照表に係る情報の提供を受けるために必要な事項の記録抹消

公告方法が官報に掲載する方法か日刊新聞紙に掲載する方法である株式会社は、貸借対照表に係る情報の提供を受けるために必要な事項として、ウェブページのURLを登記することができます。

その会社が公告方法を電子公告に変更した場合には、登記官によって当該URLに下線を付して登記を抹消する記号が記録されます。そのため、公告方法を電子公告に変更する登記を申請する際には、貸借対照表に係る情報の提供を受けるために必要な事項の廃止の登記を申請する必要はありません。

定款認証の48時間処理について解説します

2024-03-11

定款作成支援ツールの公開

株式会社を設立するために最初にすることは定款の作成です。定款において必ず定めなければならない事項があったりするなど、一般の方がご自身で作成することはハードルが高いと思います。

そこで、小規模でシンプルな形態の株式会社をスピーディーに設立したいというニーズに応えるために、日本公証人連合会がスタートアップ支援の観点から、新たな取組を開始しました。その一つが定款作成支援ツールの公開です。2023年12月26日から無料で公開されており、日本公証人連合会のホームページからダウンロードすることが可能です。

ツールには発起人1名用と発起人3名以下用がありますが、発起人3名以下用は、発起人1名用よりやや選択項目・定款記載事項が多くなっています。発起人1名の場合でも、発起人3名以下用を使用することが可能です。

48時間処理

2024年1月10日から、東京都及び福岡県において、この定款作成支援ツールを使用して公証人の定款認証を受けようとする場合について、48時間以内に定款認証手続を完了させる試行運用が開始されました。48時間処理を利用するための要件は以下のとおりです。

  • 東京都又は福岡県に本店を置く株式会社の設立の場合であって、東京都又は福岡県に所在する公証役場において定款認証の嘱託をするものであること
  • 日本公証人連合会が公開する「定款作成支援ツール」で作成した定款であること(定款作成支援ツールを二次利用した民間サービスで作成したものも含まれます。)
  • 発起人が3名以下の自然人であること
  • 定款作成者が定款にマイナンバーカードの署名用電子証明書を利用した電子署名をしていること
  • 定款認証の嘱託に先立ち、公証人に対し、認証に必要な資料に加え、特別処理(48時間処理)によることを希望する旨の申請書が提供されること

48時間の起算点は、必要な資料がすべて公証役場にメールで到達したときです。また、48時間の算定は、土・日・祝日を除きます。資料に不備などがあれば、手続に時間を要する場合があります。

定款認証手続の流れ

1.定款作成支援ツールへの入力
定款作成支援ツールをダウンロードして、必要事項を入力します。

2.電子署名または押印
定款のPDFファイルに、定款の作成者がマイナンバーカードで電子署名を付します。代理人に委任した場合、委任状のPDFファイルに、委任者(定款作成を委任した発起人本人)のマイナンバーカードで電子署名を付し、または、委任状のPDFファイルを印刷した書面に、委任者(定款作成を委任した発起人本人)の実印を押します。

3.事前チェック
定款(電子署名済み)、電子署名済み委任状、実質的支配者申告書、特別処理申請書及び発起人全員の運転免許証、マイナンバーカード等の顔写真付き身分証明書等を公証役場にメールで送信し、事前チェックを受けます。

4.面前審査の予約(以下、4~6は順序に関係なく7までに行います。)
メール送信された資料を公証人が審査し、問題がなければ、公証役場と面前審査(公証人の面前での本人確認や設立意思の確認等)の日程を調整します。面前審査は、ウェブ会議又は公証役場への来所のいずれかを選択することができます。ただし、2024年3月以降は対面実施の希望がない限り、ウェブ会議で実施することが原則化されます。

5.手数料の支払い
面前審査までに手数料をクレジットカード払い(ウェブ上での決済又は面前審査時の公証役場での決済)、銀行振込み、現金払いのいずれかの方法によって支払います。

6.オンライン申請
「登記・供託オンライン申請システム」又は「法人設立ワンストップサービス」(マイナポータル)を通じて、電子公証のオンライン申請をします。

7.面前審査
予約した日時に、公証人による面前審査を受けます。ウェブ会議の場合には、事前に公証役場から、ウェブ会議に接続するためのURLをメール送信します。

8.認証
公証人による面前審査で問題ないことが確認できると、定款データに公証人の電子署名を付し、認証手続が完了します。面前審査をウェブ会議で受けた場合は、認証済みの定款データを登記・供託オンライン申請システムからダウンロードできます。公証役場へ来所した場合には、持参したCDーR等に認証済みの定款データを書き込みます。

48時間処理の環境整備

日本公証人連合会の上述した取り組みを更に充実させるために、公証人との日程調整がうまくいかず、迅速な対応に支障が生じるおそれがある場合に、48時間処理案件を優先して面前審査アポイントを入れるなどの特別な対応可能な環境が整備されています。

具体的には、東京都内の4公証人(連合会役員)が連絡窓口となり、速やかに定款認証を進行させて運用に支障が生じない措置が執られています。

取締役会設置会社が取締役会を廃止する場合の登記について

2024-02-13

代表取締役の扱い

取締役会を置く旨の定款の定めを廃止した場合において、代表取締役の選定方法を特に定めなかった場合には、取締役全員が当然に代表取締役となります。取締役が各自会社を代表することとなるわけです。

一方、代表取締役の選定方法を定めて、引き続き現在の代表取締役のみを代表取締役とすることも可能です。この記事では、株主総会の決議によって取締役の中から代表取締役を定めることとしたうえで現在の代表取締役を選定する場合の登記について解説します。

株式の譲渡制限に関する規定

「当会社の株式を譲渡するには、取締役会の承認を要する。」と登記されている場合には、承認機関を変更する登記申請が必要となります。例えば、「当会社の株式を譲渡するには、株主総会の承認を要する。」のように変更しなければなりません。

ただし、「当会社の株式を譲渡により取得するには、当会社の承認を受けなければならない。」のように登記されている場合には、変更登記は不要です。

登記の事由

取締役会設置会社の定めの廃止
株式の譲渡制限に関する規定の変更

登記すべき事項

「取締役会設置会社に関する事項」
「原因年月日」令和○年○月○日廃止
「株式の譲渡制限に関する規定」
当会社の株式を譲渡するには、株主総会の承認を要する。
「原因年月日」令和○年○月○日変更

登録免許税

取締役会設置会社の定めの廃止分が金3万円、株式の譲渡制限に関する規定の変更分が金3万円となり、合計で金6万円です。

株主総会議事録

以下に議案の記載例を掲げます。

第1号議案 取締役会設置会社の定めの廃止の件
議長は、当会社は定款に取締役会設置会社の定めを設けていたのであるが、諸般の事情から、その定めを廃止することとし、定款の第○条を削除したい旨を述べ、これを諮ったところ、満場一致でこれを承認可決した。

第2号議案 定款変更の件
議長は、株式譲渡の承認方法及び代表取締役の選定方法について、取締役会の決議から株主総会決議に変更することとし、それに伴い定款の第○条及び第○条を下記のとおり変更したい旨を説明し、議場に諮ったところ、満場一致でこれを承認可決した。

(株式の譲渡制限)
第○条 当会社の株式を譲渡するには、株主総会の承認を要する。
(代表取締役)
第○条 当会社は、株主総会の決議により、取締役の中から、代表取締役1名を定めるものとする。

第3号議案 代表取締役改選の件
議長は、第2号議案が可決されたため、本総会で当会社の代表取締役を改めて選定したい旨を述べ、その選定方法を諮ったところ、出席株主中から、現在の代表取締役○○を選定するのが適当であるとの発言があり、議長は、○○につき可否を総会に諮ったところ、全員一致でこれを承認した。

添付書類

株主総会議事録
株主リスト
委任状(代理人に申請を委任した場合のみ必要です。)

最後に

株式会社の機関の変更は会社法の規定に従って行わなければなりません。取締役会設置会社(監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社を除く。)は、監査役を置かなければならないと規定されていますので、取締役会設置会社の定めの廃止と同時に監査役設置会社の定めの廃止の登記をすることも可能です。

その際、監査役は退任することになりますので、監査役の変更登記も申請します。監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがある旨が登記されている場合には、その廃止の登記も申請する必要があります。

株式会社の解散及び清算人選任登記

2024-01-29

解散の事由

株式会社は、次に掲げる事由によって解散するとされています。破産手続開始の決定と解散を命ずる裁判があった場合には、裁判所書記官の嘱託に基づく登記となりますので、当事者が解散の登記を申請することはありません。実務上、最も扱うのは株主総会の決議による解散ですので、それを中心に解説します。

  • 定款で定めた存続期間の満了
  • 定款で定めた解散の事由の発生
  • 株主総会の決議
  • 合併(合併により当該株式会社が消滅する場合に限る。)
  • 破産手続開始の決定
  • 解散を命ずる裁判

解散の登記と清算人の登記

商業登記法の条文上、同時に申請すべき規定は存在しないことから、代表清算人の資格を証する書面を添付して解散の登記のみ申請することもできます。ただ、分けて申請する実益はありませんので、通常は解散の登記と清算人の登記は同時に申請します。

登記の事由

解散
令和○年○月○日清算人及び代表清算人の選任

解散の登記においては、登記の事由で「株主総会の決議により解散」等の解散の事由を記載する必要はありません。清算人会を設置した場合には、「清算人会設置会社の定め設定」も併せて記載します。

登記すべき事項

「解散」
令和○年○月○日株主総会の決議により解散
「役員に関する事項」
「資格」清算人
「氏名」○○○○
「役員に関する事項」
「資格」代表清算人
「住所」○県○市○町○丁目○番○号
「氏名」○○○○

存続期間の満了、解散事由の発生の場合には、「令和○年○月○日存続期間の満了により解散」、「令和○年○月○日定款所定の解散事由の発生により解散」と記載します。清算人会を設置した場合には、[「清算人会設置会社に関する事項」清算人会設置会社]と記載します。

登録免許税

解散の登記が金30,000円、清算人の登記が金9,000円となりますので、合計額の金39,000円を記載します。

添付書類

・定款
必ず必要となります。清算人会設置の有無を定款で確認するからです。ちなみに、特例有限会社においては清算人会を置くことができませんので、添付不要となる場合があります。

・株主総会議事録
株主総会の決議により解散する場合は、株主総会議事録を添付します。定款で定めた解散の事由の発生の場合は、解散の事由の発生を証する書面を添付します。存続期間の満了による解散の場合には、登記簿で存続期間が満了したことが明らかですから、この場合には、解散に係る添付書類は必要ありません。

・株主リスト

・就任承諾書
定款で定めた者と株主総会の決議で選任した者については、清算人の就任承諾書が必要です。定款の定めに基づく清算人の互選で定められた者と清算人会が選定した者については、代表清算人の就任承諾書が必要です。清算人が一人のとき、清算人会を置かない会社が特に代表清算人を定めなかったときは、清算人全員が当然に代表清算人となりますので、別途代表清算人の就任承諾書は不要です。

株主総会または清算人会の席上で被選任者が就任を承諾し、その旨の記載が議事録にある場合には、申請書に就任承諾書を添付することを要しません。この場合、申請書には、「就任承諾書については、株主総会(または清算人会)議事録の記載を援用する。」と記載します。

・委任状
司法書士等の代理人に登記申請を委任したときに必要となります。

・その他
裁判所が選任した者につき、選任決定書正本(又は認証ある謄本)、定款の定めに基づく清算人の互選、清算人会の決議により代表清算人を選定したときは、清算人の過半数の一致があったことを証する書面、清算人会議事録を添付します。

登記記録例

解散の登記申請後、登記官によって取締役、代表取締役、取締役会設置会社である旨の登記等に下線を引き、抹消する記号が記録されます。監査役、監査役会は解散後も置くことができますので、そのまま残されます。清算人の登記申請後、清算人、代表清算人の原因年月日欄は空欄となります。

合同会社から株式会社への組織変更について

2024-01-04

組織変更とは

組織変更とは、株式会社がその組織を変更することにより合名会社、合資会社又は合同会社となること、又は、合名会社、合資会社又は合同会社がその組織を変更することにより株式会社となることをいいます。

この記事では、実務上最も扱うことが多い合同会社が株式会社となる組織変更について説明します。

手続の流れ

組織変更計画の作成

合同会社が組織変更をする場合には、組織変更計画で次の事項を定めなければなりません。

・組織変更後の株式会社の目的、商号、本店の所在地及び発行可能株式総数及び定款で定めるその他の事項
・組織変更後株式会社の取締役の氏名
・組織変更後株式会社の機関設計に応じ、会計参与の氏名又は名称、監査役の氏名、会計監査人の氏名又は名称
・組織変更をする合同会社の社員が組織変更に際して取得する組織変更後株式会社の株式の数又はその数の算定方法、割当てに関する事項
・組織変更後株式会社が組織変更に際して組織変更をする合同会社の社員に対してその持分に代わる金銭等を交付するときは、当該金銭等について必要な事項
・組織変更の効力発生日

組織変更後の株式会社の定款の内容を定めなければなりませんが、この定款について公証人の認証は不要です。

代表取締役は、定款で定める事項として代表取締役の氏名を組織変更計画に記載する方法のほか、取締役会の決議、取締役による互選、株主総会の決議によって選定します。その場合、登記が組織変更の効力要件ではないので、効力発生日以降に取締役会等を開催しなければなりません。

債権者の異議手続

必ず、官報に掲載する方法により必要な事項を公告しなければなりません。公告期間は1か月となります。

知れている債権者に対しては各別の催告が必要ですが、官報のほかに定款で定めた公告方法に従って公告すれば、各別の催告の省略が可能です。ただし、合名会社、合資会社が株式会社に組織変更する場合には、催告の省略はできません。

※官報公告掲載例

組織変更公告
当社は、株式会社に組織変更することにいたしました。
この組織変更に異議のある債権者は、本公告掲載の翌日から一箇月以内にお申し出下さい。
令和五年十二月十九日
東京都三鷹市野崎一丁目一番一号
法務商事合同会社
代表社員 法務太郎

組織変更計画の承認

組織変更をする合同会社は、効力発生日の前日までに、組織変更計画について当該合同会社の総社員の同意を得なければなりません。ただし、定款に別段の定めを設けることができます。

効力発生

組織変更の効力は、組織変更計画で定めた効力発生日に生じます。債権者の異議手続が終わっていない場合には、組織変更の効力は生じません。

登記申請

組織変更による合同会社の解散の登記と組織変更による株式会社の設立登記を申請します。解散の登記と設立の登記は同時に申請しなければなりません。

添付書類(一例)
・定款
・組織変更計画書
・総社員の同意書
・代表取締役の選定に関する書面
・取締役、代表取締役及び監査役の就任承諾書
・取締役、監査役の本人確認証明書
・公告及び催告をしたことを証する書面
・異議を述べた債権者があるときは、異議を述べた債権者に対し弁済若しくは担保を供し若しくは信託したこと又は組織変更をしてもその者を害するおそれのないことを証する書面(異議を述べた債権者がいないときは、「異議を述べた債権者はいない」と記載します。)
・登録免許税法施行規則第12条第4項の規定に関する証明書
組織変更後の株式会社が当該組織変更に際して当該組織変更の直前の会社の株主に対して交付する財産(当該組織変更後の株式会社の株式を除く。)の価額等を記載した書面が該当します。登録免許税法施行規則に規定する額を超過する部分についての登録免許税の税率が異なりますので、添付する必要があります。

組織変更に際して合同会社の社員に交付する財産が株式のみであれば、組織変更による設立登記の登録免許税は、合同会社の資本金の額の1,000分の1.5(3万円未満のときは3万円です。)となります。

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