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はじめに
日本放送協会(NHK)放送受信規約の改正によって、正当な理由なく期限までに受信契約の申込みをしなかった場合は受信機設置の月の翌月から受信契約を締結した月の前月までの受信料に加え、その受信料の2倍に相当する額の割増金の支払いを請求されるおそれがあることになりました。
なお、割増金の対象となるのは、2023年4月以降の期間分の受信料の2倍に相当する額となります。一部SNS等において、制限なく過去に遡って割増金を請求されると誤解するような情報を発信しているものが見られますが、そのようなことはありません。
平成29年12月6日最高裁判決について
受信契約締結義務を定めた放送法第64条第1項の合憲性等が争われた裁判ですが、受信料支払についてのポイントとなる判旨は以下の3点となります。
- 放送法第64条第1項は、NHKの放送を受信することのできる受信設備を設置した者に対しその放送の受信についての契約の締結を強制する旨を定めた規定であり、NHKからの上記契約の申込みに対して上記の者が承諾をしない場合には、NHKがその者に対して承諾の意思表示を命ずる判決を求め、その判決の確定によって上記契約が成立する。
- 上記判決の確定により同契約が成立した場合、同契約に基づき、受信設備の設置の月以降の分の受信料債権が発生する。
- NHKの放送の受信についての契約に基づき発生する、受信設備の設置の月以降の分の受信料債権(上記契約成立後に履行期が到来するものを除く。)の消滅時効は、上記契約成立時から進行する。
例えば、20年前に受信設備を設置したものの受信契約を締結しなかった場合に請求される受信料は過去20年分の合計額であり、契約成立(判決確定)時が消滅時効の起算日となるために、時効の援用ができないことになります。
NHKの民事訴訟提起
2023年11月6日、NHK広報局より、報道資料として東京都内の3世帯について、放送受信契約の締結と受信料及び割増金の支払いを求める民事訴訟を東京簡易裁判所に提起したことが公表されました。
証明責任について
証明責任とは、ある事実が真偽不明であるときに、その事実を要件に生じる自己に有利な法律上の効果が認められないことによる不利益をいいます。
民事訴訟においては、原告、被告それぞれの主張を聞き、証拠調べを行います。その結果、どちらが本当のことを言っているのか分からない(真偽不明)場合に裁判所は判決を下すことを拒絶することはできません。
NHKの提起した民事訴訟を例にしますと、判決によって受信契約を締結したものとするためには、原告側が特定受信設備(テレビ、ワンセグ携帯、カーナビ等)の設置を主張立証しなければなりません。被告側がその不設置を主張立証するわけではありません。また、過去に遡って受信料を請求するためには設置日を主張立証しなければなりません。
被告側が認否において原告の主張する事実を争わなければ、自白となり不要証事実になるのです。一方、被告が原告の主張する事実を争い、真偽不明の状態に持ち込めば原告敗訴となります。
最後に
この記事はNHKとの受信契約を締結していない方に対し、糾弾することを目的とするものではありません。放送法ができたのは昭和25年です。未だに私的自治の原則が適用されない特別法を拠り所にして、国民に対して受信料の負担をさせることはいかがなものでしょうか。