家族信託の活用例-子供のいない夫婦のケース

具体的事例

以前の記事(遺言公正証書の作成方法)で、子供のいない夫婦の一方が公正証書遺言を作成するという事例を紹介しました。 今回は、遺言者Xの弟Bに子供がいた場合の家族信託の活用法を見ていきたいと思います。

Xからの相談

私は、甲土地とその敷地上の乙建物を所有し、妻Aと暮らしています。
私が亡くなった後には、Aが生活に困らないように甲土地と乙建物及び預貯金を全てAに相続させたいと思っています。
Aが亡くなった後は、私たち夫婦には子供がいないので甲土地と乙建物を甥Cにあげたいのですが、遺言を作成することでそのようなことが可能でしょうか?

二代先の遺言はできない

結論からいうとXだけの遺言ではできません。X死亡後、Aが「甲土地と乙建物をCに遺贈する」旨の遺言書を作成すれば可能ですが、夫婦間といえども遺言書の作成を強要することはできません。
さらに、Xが「全財産をAに相続させる」旨の遺言書を作成しても確実に相続させることができないことは、以前の記事(遺言公正証書の作成方法)で紹介しました。

遺言に代わる家族信託の活用例

家族信託とは?

信託とは、文字通り「信じてあることを託す」ことです。何を託すのかですが、不動産や金銭などの財産です。
委託者(財産を託す人)が信託契約など(自己信託、遺言信託もあります)によって受託者(委託者が信頼する親族など)に対して、財産を移転します。受託者は、信託の利益を受ける人(受益者)のために託された財産の管理・処分等をします。

抽象的な表現では分かりにくいと思いますので、上記事例に沿って説明します。

委託者Xは受託者Cに対して、財産を託します。不動産の名義は、X→Cに移転しますがCの固有財産になるわけではなく、言わば誰のものでもない信託財産となります。

当初の受益者(第一次受益者)をXと定めて、Cは、信託の目的に従ってXの安定した生活の確保のため不動産の管理をし、必要に応じて生活費等をXに交付します。 X死亡後の後継の受益者(第二次受益者)をAと定め、Cは、Aが亡くなるまで、同様の不動産管理、生活費等交付を行います。A死亡後の信託財産はCに帰属させます。

単なる財産管理制度ではない

上記事例において、甲土地が先祖代々のものであり、XとしてはAの親族(姻族)に渡したくないということもあるでしょう。つまり、家族信託の活用は単なる受益者のための財産管理ではなく、委託者が希望する者に財産を受け継がせる機能を有しているとも言えます。

また、そのような後世に継がせる不動産ではない場合には、Aの死亡後には乙建物は空き家となってしまいます。信託契約にX、A両名の死亡後に不動産売却(譲渡所得税はCの負担)や建物の取壊しをCにさせるという条項を組み入れて、生前に空き家対策を講じておくこともできます。

税金はどうなる?

上記事例において、どのような税金が課されるのかみていきましょう。

・信託設定時
登録免許税: 固定資産税評価額の0.4%(土地については、軽減措置により0.3%、令和5年3月31日まで)
固定資産税: XからCに納税義務者が変わります。
信託財産から支払うようにすることもできるので、Cの実質的負担をなくせます。

・X死亡時
相続税: Aに課税

・信託終了時
登録免許税: 固定資産税評価額の2%
相続税(2割加算): Cに課税
不動産取得税: Cに課税 

まとめ

家族信託のメリット

・遺言や後見制度の隙間を埋めることができる
家督承継や本人の親族支援など、同じ生前対策である遺言や任意後見で実現できないことが可能となります。

・節税対策にはならないが、多額の課税がされることもない
上記事例において、家族信託を利用せずにX→Aの相続、A→Cの遺贈という流れになった場合、かかる税金は変わりません。むしろ、相続登記の税率は0.4%ですから、軽減措置の分だけ信託登記の方が安くなります。

・認知症対策に有効
認知症で判断能力を欠くことになると遺言、任意後見契約、家族信託全て利用することはできません。認知症と診断されたら即アウトということではなく、程度の問題です。医師の診断書が「後見相当」以外であれば、利用可能な場合が多いと思われます。

家族信託のデメリット

・信託財産が収益不動産(アパート、賃貸マンション等)の場合、損益通算ができない
信託財産の収支がマイナスの場合に、他の事業等の収益と損益通算はできません。

・何でもできる万能な制度ではない
遺言・任意後見でしかできないこともありますし、それらと併用することで最も有効な生前対策をとることができる場合もあります。

生前対策が重要

結局のところ、生前対策が重要なのです。もっと言えば、認知症になる前に備えましょう。
「転ばぬ先の杖」という言葉があります。判断能力のあるうちにしっかり対策しておけば、自分や親族だけでなく、子孫をも護ることに繋がるのです。

 

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