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受益債権
受益権とは受益者が有する権利の全てのことを言います。その中のひとつに受益債権というものがあります。受益債権とは「信託財産に属する財産の引渡しその他の信託財産に係る給付をすべきものに係る債権」のことを指します。
以前の記事「家族信託の活用例-子供のいない夫婦のケース」を例にして考えてみます。受託者Cは、信託契約で定めた信託の目的に従って受益者Xの安定した生活の確保のため不動産の管理をし、必要に応じて生活費等をXに交付することになっています。
この場合の受益債権とは、XのCに対する生活費の給付を求める権利や不動産の管理に関する債権(例えば、雨漏りの修理代金や庭木の手入れにかかった費用などをCに対して請求する権利)などを指します。
受益者が受託者を監督する権利
受益者が有する権利には、上記の受益債権の他に受益債権を確保するために受託者を監督する権利があります。
上記の例で、Cが信託財産である居住用不動産を売却してしまうと、Xの住む場所がなくなってしまいます。そのようなCの権限違反行為に対して、Xはその行為を取り消すことができるとされています。(信託法第27条第1項、第2項)
このような受益者の有する受託者監督のための権利は保護されており、信託行為によっても制限することはできません。(信託法第92条)
受益権を譲渡することはできるのか
家族信託においては、多くの場合信託行為に「本件信託の受益権は、受託者の同意を得ない限り、譲渡、質入れその他の処分をすることができないものとする。」などの譲渡制限の定めを設けます。上記の例で、Xが勝手に受益権を全く関わりのない第三者Yに譲渡すると、Xは生活費の給付を受けられなくなり、生活を危うくすることになるからです。
法律の規定はどうなっているかというと、信託法は、受益権は原則として自由に譲渡することができるものとし、できない場合の例外を2つ定めています。(信託法第93条)
一つ目は受益権が一身専属的な権利である場合です。CがXの扶養義務を負っていてその義務の履行としてXに受益権が与えられているときなどが該当するでしょう。
二つ目は原則自由である受益権の譲渡を制限する定めがされたことを知り、又は重大な過失によって知らなかった譲受人(上記の例のY)に対しては受益権に係る履行を拒むことができるというものです。この場合、Yの悪意・重過失につきCが立証責任を負います。
不動産を信託したときには、冒頭で触れた譲渡制限の定めは信託目録に記載します。登記をすることで悪意・重過失を直接立証することにはなりませんが、信託目録を含めた登記事項証明書は誰でも見ることができます。
将来生じうるトラブルは可能な限り回避するべきだと考えますので、譲渡制限(質入制限を含む。)の定めは必ず登記事項にしています。