所有者不明土地・建物管理制度について(令和5年4月1日施行)

対象を「人」とする現行法の財産管理制度

具体的事例を挙げます。甲土地、乙建物の所有者Aが死亡し、登記名義はAのままとなっています。Aには配偶者Bと長男Cがいましたが、B、Cの順番に死亡しました。

この場合に、公共事業の用地取得や空き家の管理など所有者の所在が不明な土地・建物の管理・処分が必要であるケースでは、現行法上、相続財産管理人の選任が必要です。管理の対象は財産全部に及びますので、不動産以外の財産を調査して管理しなければならず、管理の長期化、予納金の高額化が申立人の負担となっていました。

相続人のあることが明らかでない場合における相続財産の清算手続において、①相続財産管理人の選任の公告、②相続債権者等に対する請求の申出をすべき旨の公告、③相続人捜索の公告を順に行うこととしていますが、それぞれの公告手続を同時にすることができない結果、権利関係の確定に最低でも10か月間を要します。改正法では、これらの期間を短縮し、相続財産管理人の名称を「相続財産清算人」に改めることになっています。

対象を「物」とする新たな財産管理制度

特定の土地・建物のみに特化して管理を行う所有者不明土地管理制度及び所有者不明建物管理制度が創設されます。これらにおいては、他の財産の調査は不要となり、管理期間も短縮化する結果、予納金の負担も軽減します。また、所有者を全く特定できない土地・建物についても対応可能です。

申立は利害関係人が行い、不動産所在地の地方裁判所が管轄となります。1か月以上の異議届出期間等を定めて公告をして、管理命令の発令・管理人の選任がなされます。

所有者不明土地・建物管理命令が発せられた事実は、裁判所書記官の嘱託により登記がされます。その結果、登記名義人からの登記申請はできなくなります。

売却には裁判所の許可が必要

民法第264条の3第2項(第264条の8第5項)

所有者不明土地管理人が次に掲げる行為の範囲を超える行為をするには、裁判所の許可を得なければならない。ただし、この許可がないことをもって善意の第三者に対抗することはできない。
一 保存行為
二 所有者不明土地等の性質を変えない範囲内において、その利用又は改良を目的とする行為

 

所有者不明土地・建物管理人は、保存・利用・改良行為を行うほか、裁判所の許可を得て、対象財産の処分(売却、建物の取壊しなど)をすることも可能です。土地・建物の売却等により金銭が生じたときは、管理人は、供託をし、その旨を公告しなければなりません。

まとめ

所有者不明土地・建物管理制度の創設によって、上記事例以外の現行法の制度が利用できなくなるわけではありません。不在者財産管理制度(不在者最後の住所地の家庭裁判所が管轄)、会社法第478条第2項の規定による清算人選任(本店所在地の地方裁判所が管轄)などは引き続き利用できます。

土地・建物の所有者が、調査を尽くしても不明である場合における、土地・建物の管理・処分を容易にするための財産管理制度の選択肢が増えたといえるでしょう。

 

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