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はじめに
令和4年9月1日から、DV被害者等である会社代表者等からの申出により、登記事項証明書等におけるDV被害者等の住所を非表示とすることが可能になりました。
先ず、前提として会社の登記事項証明書は誰でも取得することができます。会社代表者(株式会社の代表取締役、有限会社の取締役、合同会社の代表社員など)の住所は登記事項とされていますから、配偶者に住所を知られることによりDV被害者は生命または身体に危害を受けるおそれがありました。改正によって、そのような被害の発生を防止する措置が講じられたといえます。
申出ができる被害者等とは
登記事項証明書に記載された自然人(個人)の住所の非表示の申出(以下「住所非表示措置申出」といいます。)の対象となる「被害者等」は、住所が登記記録に記録されている個人に限られます。法人は合同会社等の持分会社の社員になることはできますが、法人の住所(本店)は含まれません。
被害者等の範囲は、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(「DV防止法」)に規定する配偶者からの暴力を受けた被害者、ストーカー行為等の規制等に関する法律(「ストーカー規制法」)に規定するストーカー行為等に係る被害を受けた者、その他これらに準ずる者とされています。
申出方法
被害者等又は登記の申請人は、申出書に必要事項を記載し、必要な書面を添付し、登記の申請人が申出をするときは申出書又は委任による代理人の権限を証する書面に当該申請人が登記所に提出している印鑑を押印しなければなりません。なお、登記の申請と同時に行う住所非表示措置申出は、オンラインにより行うことができます。
添付書面
①住所が明らかにされることにより被害を受けるおそれがあることを証する書面
市区町村が発行しているDV等支援措置決定通知書や、ストーカー規制法に基づく警告等実施書面、配偶者暴力相談支援センターのDV被害者相談証明といった公的書面がこれに該当します。
②申出書に記載されている被害者等の氏名及び住所が記載されている市町村長その他の公務員が職務上作成した証明書
被害者等の住民票の写し、戸籍の附票又は外国に居住する取締役等の氏名及び住所が記載されている日本国領事が作成した在留証明書のほか、運転免許証やマイナンバーカード等のコピーであって、被害者等が原本と相違ない旨を記載したものなどです。
③代理人によって住所非表示措置の申出をするときは、当該代理人の権限を証する書面
委任状などが該当します。
最後に
そもそも、代表取締役個人の住所を公示する必要があるのかといった問題があるかとも思いますが、商業登記法の条文には、「会社法(平成十七年法律第八十六号)その他の法律の規定により登記すべき事項を公示するための登記に関する制度について定めることにより、商号、会社等に係る信用の維持を図り、かつ、取引の安全と円滑に資することを目的とする。」と定められています。
ところで、不動産登記においては現状、DV被害者等の登記名義人の住所の変更登記をすることを要しない、前住所を住所として登記をすることも認めたり、住所の閲覧を特別に制限する取扱いなどがされています。
こちらについては改正が決まっており、令和6年4月1日から、DV被害者等についても相続登記や住所変更登記等の申請義務化の対象となることに伴い、現在の取扱いについて必要な見直しをした上で、DV被害者等の保護のための措置が法制化されます。
具体的には、対象者が載っている登記事項証明書等を発行する際に現住所に代わる事項を記載することとされ、委任を受けた弁護士等の事務所や被害者支援団体等の住所、あるいは法務局の住所などを想定しています。詳細は、今後不動産登記規則等の省令で規定されることになるでしょう。