Archive for the ‘相続手続’ Category
相続した実家を貸すという選択肢について
避けたいのは空き家の放置
実家を相続した場合、その後どのようにするかは、居住、売却、賃貸、放置の大まかに4種類になるかと思います。一番してはいけないのが空き家のまま放置することです。
他の記事でも放置してはいけない理由について触れていますので、ここでは賃貸する場合の注意点を中心に書いてみたいと思います。
相続等により取得した空き家の譲渡所得3,000万円特別控除の特例をチェック
賃貸することを検討する前に、特別控除の要件を満たしているかを確認する必要があります。譲渡までに賃貸してしまいますと、特例は使えません。
もっとも築40年以上(昭和56年5月31日以前に建築された建物)の古い建物にしか適用されませんので、特例を使う場合には建物を取壊して更地で売却することが圧倒的に多くなるでしょう。
売却に比べてかかる労力は3倍以上
そのくらいの覚悟で臨まれた方がよろしいのかと思います。賃貸需要の調査、家財処分、リフォーム、管理会社の選定、不動産所得の申告、空室や家賃滞納リスクなど、売却する場合と比較すると大変なことが多いです。
売ってしまえばその後は楽ですが、不動産を売ることは非常に困難ですから、どちらが良いとも一概には言えないのかもしれません。
賃貸需要の調査
リフォームにお金をかけても物件が全く賃貸需要のないエリアに存在するのであれば意味がありません。エリアにもよりますが、アパートや賃貸マンション等の共同住宅は供給過剰の状態にあることが多く、その点戸建であれば数が少ないことからある程度の需要は見込めるのかと考えます。
ネット上の一括査定を利用して、どのくらいの賃料収入が見込めるのかを調べてみることが手っ取り早い方法ですし、ある程度需要を把握することもできると思います。
家財処分
言うまでもなく必須です。売却であれば残置物をそのままにして引き渡すことも可能です。家財処分については業者に依頼する一択だと思います。間違っても自分達だけでされることを考えるのは避けたほうがよろしいのかと。
また、複数の業者に相見積もりを取ることも必須です。業者によって料金が全く違いますし、できれば買取りも行っているところに依頼すると費用を抑えることができます。
リフォーム
一番難しい項目と言えるでしょう。重要なのはお金をかけ過ぎないことです。管理会社からは、和室を洋室に変えた方がいいとか、色々と提案されるかもしれませんが、一々そんなことを聞き入れていたらお金がいくらかかるかわかりませんし、そもそもリフォームはお金をかけようと思えばいくらでもかけられるものだと思います。
ですから、複数業者に相見積もりを取ることがこちらも必須と考えます。選定基準としては、貸主側の目線に立ってリフォームの提案をしているかどうかです。管理会社が紹介する業者に見積りを依頼することもよいでしょう。一般的なリフォーム業者より、貸主側の目線に立った提案をしてくれることが多いです。
管理手数料は5%以下
自主管理をすれば管理手数料はかかりませんが、不動産賃貸業を自ら営んでいるような特別な場合を除いて、管理委託をしたほうが良いと思います。入居後のトラブルは時間を選んでくれませんから、対応をお任せできることは大きなメリットになります。
上述したネット上の一括査定を利用すると複数の管理会社から連絡が来ることになりますが、管理手数料はまちまちです。これは私見になりますが、5%を超える管理手数料を要求するところは候補から除外した方がよいでしょう。
不動産所得の申告
固定資産税、修繕費、火災保険等の損害保険料、管理費、修繕積立金などが経費となるのは分かりやすいと思いますが、減価償却費が一番重要となります。減価償却を計算するのに必要となるのは、建物の取得費、耐用年数(構造により決まります。)、取得時期などになります。
相続した実家は居住用ですから、非業務用として耐用年数が1.5倍になります。経過年数による累積償却額を算出し、取得費からそれを控除したものが未償却残高となります。
まとめ
相続した実家は資産ですから、売却せずに残しておきたいと考えられるかたもいらっしゃると思います。また、不動産のまま保有することで相続税対策になることもありますので、売る以外の選択肢の貸す場合の注意点を私なりに列挙したつもりです。少しでも参考になることがあれば幸いです。
単独名義にする方法による換価分割の注意点を解説します
単独名義にするメリット
実家などの不動産を相続した場合において、今後居住、賃貸等の利活用をする予定が全くないときにその不動産を売却して代金を相続人間で分ける遺産分割方法を換価分割といいます。他の分割方法が使えないときにも利用されます。
「相続において不動産を売却するメリット・デメリット」にて解説していますので、ご参照いただければ幸いです。
売却する前提として、先ずは相続登記を申請して亡くなった方から相続人への名義変更手続をしなければなりません。手続には2通りあって、相続人全員の共有名義にする方法と相続人代表者の単独名義にする方法です。今回の記事は単独名義にする方法を選択した場合の注意点を解説する内容となります。
最大のメリットは、売却活動をスムーズに進められることです。相続人が離れて住んでいる、相続が複数発生していて相続人の中に高齢の伯叔父母がいるなどの場合には媒介・売買契約の際に全員が集まることが非常に困難となります。単独名義にすれば契約当時者は一人になりますので、契約書面への署名押印も一人がすることで足りるのです。
デメリットは?
贈与税が課されるリスクが挙げられるでしょう。単独名義にするには、登記申請手続及び税務面両方に配慮した遺産分割協議書を作成しなければなりません。
作成を誤りますと、贈与税が課されるリスクが高まります。また、相続登記後すぐに売却できなかった場合には、売却代金を贈与したとみなされるリスクもあります。
遺産分割協議書の記載例
父Xが亡くなって長男Aと二男Bが相続人である場合に、換価分割のためにA単独名義にする場合の記載例を掲げます。
1.相続財産のうち、次の不動産(以下「本件不動産」という。)については、A及びBが、本件不動産を売却・換価し、売却代金から仲介手数料、契約書作成費用、登記費用その他の売却に伴う費用を控除した残金をA2分の1、B2分の1の割合で取得する。なお、被相続人X名義の本件不動産は便宜上、Aが取得し、Aの単独名義とする。
2.Aは、共同相続人を代表して本件不動産の売却・換価手続を行うものとし、本件不動産を売却後、Bに対して、上記1に定める割合に応じた残金を支払う。
3.A及びBは、本件不動産を売却し買主に引き渡すまで、これを共同して管理することとし、その管理費用は、上記1に定める割合に従って負担する。
誰が不動産を取得するのかが明記されていなければ登記申請は受理されません。だからといってストレートに書いてしまいますと、贈与税が課されるリスクがありますので換価分割のために便宜上単独名義にして、相続人を代表して売却することを記しておくことが重要です。
また、固定資産税の納税通知書は登記名義人に送付されますので、費用負担をめぐって相続人間でトラブルにならないような条項を定めておくことも大事かと思います。管理費用には修繕費も含まれます。古い建物であれば修繕しなければならないことも想定されます。
譲渡所得税について
譲渡益が出れば譲渡所得税が課されます。相続した空き家を譲渡した場合には3,000万円の特別控除が使える可能性がありますので、要件に当てはまるかを十分にチェックする必要があるでしょう。
また、相続税を納めた場合には、納税額のうち売却した不動産の全遺産に占める割合に応じた額を取得費に含めることができます。
特別口座(信託銀行などの口座管理機関が管理しているもの)の相続手続
株式の相続手続が漏れている!?
上場株式の相続手続は、一般的には証券会社に必要書類を提出して行います。相続人が証券会社に口座を持っていない場合には、新規に口座を開設する必要があります。
このように株式の相続手続を済ませたつもりでも、亡くなった方宛に配当金計算書などが信託銀行等の株主名簿管理人から届くことがあります。この場合、特別口座の相続手続が必要となることが考えられますので、郵便物に記載された株主名簿管理人に連絡を取りましょう。その際、被相続人(亡くなった方)が特別口座で保有する株式の銘柄、株式数、未受領配当金の有無を確認するようにします。
特別口座とは?
従来紙であった株券が、2009(平成21)年1月5日に電子化されました。株券電子化実施前に証券保管振替機構に預託されていない株式を、株主の権利を保護するため各上場会社の申出により、口座管理機関(信託銀行等の株主名簿管理人)に開設されたものが特別口座です。
証券会社に開設される特定口座に似ていますが、全く別のものとなりますので注意してください。
相続発生時により手続が異なる
相続発生時が株券電子化実施の前後により、相続手続が異なります。
・2009(平成21)年1月4日以前に亡くなった場合
相続人名義で特別口座を開設して、被相続人の特別口座から株式を振替える手続になります。
・2009(平成21)年1月5日以降に亡くなった場合
被相続人の特別口座から、相続人名義で開設されている証券会社の口座に振替える手続になります。
両者の差は、相続人名義での特別口座開設の要否となるのです。
特別口座の株式は売却できません
証券会社の特定口座と異なり、特別口座の株式は取引ができません。そうは言っても、配当金を受け取る権利や議決権(単元未満株式を除きます。)を有することには変わりはありませんので、相続手続を行わないと亡くなった方宛に株主名簿管理人からの郵便物が届くことになるのです。
例外として、単元未満株式の買取請求は可能です。その場合に譲渡益に対する所得税、住民税の源泉徴収がされませんので確定申告が必要となる場合があります。証券会社の口座に振替えた場合も同様となります。
特定口座では源泉徴収がされますが、特別口座から振替えた株式については特定口座内の株式とは分けて管理されます。証券会社によっては、一般口座と呼ばれる口座で管理することもあります。
単元株式数以上の株式を売却する方法
例えば、被相続人甲が特別口座でA株式会社の株式を198株保有していたとします。上述したとおり、98株の単元未満株式については買取請求ができますが、100株については証券会社の口座に振替えたうえで売却する手続を踏まなければなりません。
では、甲の相続人が乙・丙である場合に両者間の遺産分割協議でAの株式を99株ずつ取得することにしたらどうなるでしょう。乙・丙共に相続により取得したのは単元未満株式ですから、証券会社の口座に振替えることなく買取請求することができるのです。
遺産分割中の共有持分放棄は絶対にお勧めしません!(負動産限定)
事の発端
以前の記事「どうする?実家の家と土地」で書いていますので、そちらを先にお読みいただくと話が分かりやすいと思います。要するに、相続によって自宅から遠く離れた不動産を取得したわけですが、とりわけ農地の処分ができずに非常に悪戦苦闘したわけです。
この記事は、私自身が経験した遺産分割協議での農地の押し付け合いと、要らないからといって安易に共有持分の放棄をしてはいけないことを忠告する内容となります。私と同様の遺産分割中の方の参考となれば幸いです。
非農家が農地を相続する問題
農地といっても厳密には色々な種類があるのですが、この記事においては売買や贈与によって所有権を移転する場合に農地法第3条の許可を得なければならない農地について触れていきます。
なぜ、許可が必要なのかですが、農地を農地としてちゃんと利活用するために農地を取得する人が他の用途に使ったり、放置したりしないような人であるかを農業委員会が審査する決まりになっているからです。土地を譲渡するにあたって、このような縛りがあるのは農地だけです。
つまり、農地を譲り受けることができる人は農業従事者または新規就農者だけということになるのです。ところが、相続によって農地を取得する場合には農地法の許可が不要と農地法に定められています。相続は包括承継だからと説明されます。
このようなことから、非農家であっても農地を取得することができてしまうわけで、当然のことながら農地は放置され、耕作放棄地となり雑草に覆いつくされることになるのです。
遺産分割での押し付け合い
冒頭で書いたように私自身も経験しているのですが、相続財産に管理が必要な農地がある場合には遺産分割で相続人間の押し付け合いとなります。雑草の刈取り費用に結構な費用がかかりますし、農地を所有している限り、自分の代だけでなく子孫の代までそれが続くのです。
誰だって要りませんよね。だからといって、共有持分の放棄をしてはいけないことをここで強調しておきたいと思います。遺産分割が成立するまでは遺産は相続人全員の共有となります。農地も共有となりますから、その共有持分を放棄することもできるのです。
持分放棄は単独ですることができ、相手の同意も不要のうえ農地法の許可も不要です。持分放棄がされますと、他の共有者にその持分が移転しますので農地を相続せずに済むのです。だからといって、押し付け合いの状態で持分放棄をすると、余程相手に有利な条件を提示しない限り遺産分割協議はまとまらないだけでなく、調停、審判の手続へ移行して争いが長期化する可能性が非常に高いです。
しかしながら、インターネット上には持分放棄は早い者勝ちだから、書面にして確定日付をとっておくことを勧めるような情報が見受けられます。
自分がされたらどう思うかを考えてみる
正直なところ、持分放棄することを思いついたこともありましたが、火に油を注ぐようなことになると考えて思いとどまりました。結局、私が農地を相続することにして、その代わりこちらに有利な条件を提示することで遺産分割協議を調えることができました。
この度、相続した農地を譲渡することができましたので、また別の記事で書いてみたいと思います。
売れない不動産は贈与!?無償譲渡物件のマッチングサイトについて
不動産を無償であげたい人ともらいたい人のマッチングサイトが存在する
以前の記事「どうする?実家の家と土地」で私の体験談をご紹介しました。まだお読みになっていない方は、是非お読みいただきたいと思います。
相続によって空き家、農地、再建築不可の土地などを取得した場合に、処分したくてもできない悩みを抱える方が多くいらっしゃいます。そんな悩みを解消するべく売れない、貸せない不動産を贈与するためのマッチングサイトが存在するのです。
タダであげたい側にとっては、持っているだけで負債を抱えているのと同様な「負」動産を処分でき、もらう側は税負担などを伴いますが、生活拠点の確保などが容易にできるのです。不動産を有効活用するための新たな手法ともいえます。
私自身、サイトの存在を知りませんでしたが、贈与者(あげる側の人)の視点に立って注意点を解説したいと思います。
個人から法人への贈与には、贈与者にみなし譲渡所得税が課される
個人から個人への贈与では、どんな高額な不動産であっても贈与者に税金が課されることはありません。ところが、法人へ贈与した場合には、贈与時の時価で譲渡があったものとみなされ、不動産の取得時から贈与時までの値上がり益に対して所得税が課税されます。(所得税法第59条第1項第1号)
ただし、公益法人等に贈与した場合において、その贈与が教育又は科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に著しく寄与することなど一定の要件を満たすものとして国税庁長官の承認を受けたときは、この所得税について非課税とする制度が設けられています。(租税特別措置法第40条)
欲しいとの申し出が法人しかいなかった場合や費用負担を厭わない場合を除いて、個人に贈与した方が無難です。
確実に登記名義を移す
先ず、登記名義を移さないことによる贈与者の不利益についてご説明します。
・固定資産税
固定資産税(都市計画税も同様)は不動産の所有者に課されますが、所有者とは登記簿上の所有者を指します。真の所有者に課すとなりますと、所有権が譲渡されたにもかかわらず登記名義が譲渡人のままであった場合に真の所有者を探し出すことは非常に困難ですし、課税に伴う業務が煩雑となるからです。
従って、登記名義を受贈者(もらう側の人)に移さないと翌年以降も納税義務を負うことになります。贈与者が支払ったときは、受贈者に対して支払った金額を請求することができますが、相手方が必ずしも支払いに応じてくれるとは限りません。
・工作物責任などの不法行為責任
例えば、空き家を贈与した場合に登記名義を移さなかったとしましょう。受贈者が引き続き空き家を放置することによって建物が老朽化し、台風で屋根瓦が飛散して近所の車を損傷させた場合には、誰が損害賠償の責任を負うのでしょうか。
贈与者が損害賠償請求されたときに、「建物は譲渡したので、私は所有者ではありません。」と言って責任を逃れることができるかが問題となります。所有権は受贈者に移転しているわけですから、所有者ではない贈与者は責任を問われないとも考えられますが、登記名義人の贈与者も責任を負うべきとする見解があります。
理由として、日本の不動産取引の慣習に照らせば登記名義を移すことは容易であり、それを怠ったのなら登記名義人に落ち度があると言えますし、譲渡を理由に責任逃れをするのは信義にもとることが挙げられます。また、被害者が真の所有者にしか損害の賠償請求をできないとしたら、所有者を探し出すことは非常に困難であり、被害者に酷であるでしょう。
登記名義が移っていない場合には、登記引取請求訴訟を提起することで解決を図ることもできますが、そのようなトラブルが生じないように登記申請は司法書士に任せた方がよいと考えます。
司法書士は贈与者、受贈者双方の本人、意思及び贈与の目的物を確認する責務を負います。その責務を怠ってトラブルに発展したときは、業務停止などの懲戒処分がなされます。
知らないと損をする!?相続登記の登録免許税の免税措置について
不動産の登記申請をするには、原則として登録免許税という税金を納めなければなりません。相続による所有権移転登記申請(名義変更)についても同様です。この記事では、相続登記における登録免許税の免税措置について解説します。
知らなかったからといって後から税金が返ってくることはありませんので、損をしないために要点をおさえておきましょう。なお、これからご説明する免税措置の適用期限は2025(令和7)年3月31日までとなっています。
土地の相続登記をせずに相続人が亡くなった場合
登記名義人がAとなっている土地があり、Aが亡くなりその相続人Bが相続登記をしないまま亡くなった時には、AからBの名義にする相続登記の登録免許税は課されません。
Bが生前にその土地を第三者に売却していたとしても、AからBへの相続についての相続登記の登録免許税は免税となります。わかりにくいと思いますので、次項で詳しく解説します。
土地は相続しなくても売主の登記申請義務は承継する
上記設例(Bの相続人はCとします。)において、Bが生前に土地を第三者Dに売却した場合には、登記名義をAから直接Dに移すことはできません。売主Bが相続未登記の土地を売却した場合には、Dへの売買による所有権移転登記をする前提としてAからBへの相続登記をしなければならないのです。
当該土地の所有者はDですから、Cが当該土地を相続するわけではありませんが、Bが登記をしないまま亡くなった時には、Bの登記申請義務をCが承継します。この場合のCが申請するAからBへの相続登記の登録免許税が免税となります。
売買契約において所有権移転時期の特約があるとき
Bが生前に土地を第三者Dに売却し、売買契約には代金全額の支払時に所有権が移転する旨の特約があり、代金全額が支払われる前にBが亡くなったケースで考えてみます。売買契約後、残代金支払いの決済までの間に売主が亡くなったということです。
このケースにおいては未だDに所有権は移転しておらず、当該土地の名義をAからB(1次相続)、BからC(2次相続)にする相続登記を申請しなければなりません。この1次相続の相続登記の登録免許税が免税となります。
その後、Cが売主の地位を承継して残代金が支払われた場合には、相続登記後に売買による所有権移転登記を申請します。
不動産の価額が100万円以下の土地
土地について相続による所有権移転登記または表題部所有者の相続人が所有権保存登記を受ける場合において、不動産の価額が100万円以下の土地であるときは、当該土地の相続による所有権移転または表題部所有者の相続人が受ける所有権保存登記については、登録免許税は課されません。
不動産所有権の持分の取得に係るものである場合には、不動産の価額に持分割合を乗じた額が不動産の価額になります。例えば、価額500万円の不動産の持分5分の1について、相続による持分全部移転登記を申請する場合の不動産の価額は100万円となります。
免税を受けるには申請書への法令の条項の記載が必要
登録免許税の免税措置の適用を受けるためには、免税の根拠となる法令の条項を申請書に記載する必要があります。ここが、最も重要だと思います。記載を忘れると免税措置は受けられません。
土地の相続登記をせずに相続人が亡くなった場合の相続登記の登録免許税の免税措置については、「租税特別措置法第84条の2の3第1項により非課税」、不動産の価額が100万円以下の土地の所有権移転または所有権保存登記の登録免許税の免税措置については、「租税特別措置法第84条の2の3第2項により非課税」と記載します。
相続登記が義務化されます!罰則規定もあります。
いつから?
2021年4月21日に成立し、同月28日に公布された「民法等の一部を改正する法律」(令 和3年法律第24号)について、施行期日を定める政令が同年12月14日に閣議決定されました。
「民法等の一部を改正する法律の施行期日を定める政令」の規定により、2024(令和6)年4月1日から相続登記申請が義務化されます。
いつまでに申請するの?
相続が開始し、かつ、それにより不動産を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請しなければなりません。
甥姪が相続人になるようなケースにおいては、相続の開始を知らないことも想定されますので、起算日の1つ目として規定されています。
子供が相続人になるケースにおいては、相続の開始を容易に知ることができるとしても、親が不動産を所有していたことや所有していた不動産の全てを把握していないことも十分に考えられますので、起算日の2つ目として定められました。
つまり、両方を知った日から義務が課されることになります。
既に相続が発生している場合
施行日までに相続が発生している場合には、相続人が相続により不動産の所有権を取得したことを知った日と施行日である令和6年4月1日との前後を比べていずれか遅い方の日から義務が課されます。
一般的には法律が遡って適用されることはありませんが、それでは所有者不明土地問題は解消しませんので、そのように規定されました。
罰則はあるの?
正当な理由がないのに相続登記の申請を怠った場合には、10万円以下の過料に処されるという罰則規定が設けられます。
相続人申告登記について
登記を申請するには、原則として登録免許税という税金を納めなければなりません。相続登記においても、何代にもわたって登記がされていないときや100万円以下の土地について免除する特例が適用される場合を除き、同様です。
相続登記申請を義務化することは国民に対して納税を強いる面があることを考慮し、自分が相続人の一人であることを示す登記として、相続人申告登記という制度が設けられます。
何らかの事情で3年以内に相続の登記の申請ができないときは、相続人が、所有権の登記名義人につき相続が開始したこと及び自らがその所有権の登記名義人の戸籍上の相続人であることを申し出ることにより、その申出をした相続人については、相続登記の申請義務が免除されます。
登録免許税は課されませんし、相続登記申請のように他に相続人がいないことを被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本を取得することにより証明する必要はありません。
注意点として、相続人申告登記をしても登記名義人はあくまでも被相続人ですから、そのままでは売却はできません。相続登記を申請して相続人への名義変更が必要となります。
また、遺産分割により不動産の所有権を取得したとき(法定相続分による相続登記がされた後に遺産分割により所有権を取得したときを除きます。)は、遺産分割の日から3年以内に相続登記を申請しなければなりません。
まとめ
令和6年4月1日より、相続により自分が不動産の所有者になったことを知った日から3年以内に相続登記を申請しなければならなくなります。令和6年4月1日の時点で相続登記が未了の不動産についても申請義務が課されます。
自分でする相続登記・マンション編
土地は登記しなくてもいいの?という疑問
敷地利用権
このような疑問を抱いた方は目の付け所が非常に素晴らしいです。戸建ての相続登記は土地と建物両方登記を申請しますが、マンションの場合はどうでしょう。
前提として建物を所有するためには、敷地を利用する権利を持っていなければなりません。土地を所有している場合だけではなく、借地の場合もあります。その場合には、その土地に地上権や賃借権が設定されているのです。また、土地を親族が所有していてタダで使わせてもらっている(使用借権といいます。)場合もあるでしょう。
このように、マンションの一室(専有部分といいます。)を所有するための建物の敷地に関する権利を敷地利用権といいます。
分離処分の禁止
マンションにはたくさんの専有部分がありますから、その敷地利用権を有する者もたくさんいることになります。多くの場合、敷地は専有部分の所有者の共有となります。所有者の数だけ敷地を分割して、それぞれが単独で所有する分有という形態もありますが、レアケースのためこの記事では触れません。
ここで一つ法律の条文を掲載します。
敷地利用権が数人で有する所有権その他の権利である場合には、区分所有者は、その有する専有部分とその専有部分に係る敷地利用権とを分離して処分することができない。ただし、規約に別段の定めがあるときは、この限りでない。
順に解説していきますが、数人で有するとは共有のことを指します。その他の権利とは、上述したとおり地上権、賃借権、使用借権などです。
本来、土地と建物は別個独立した物ですから、別々に処分することは可能です。マンションの場合には、専有部分の所有者と敷地利用権を有する者が多いので別々に処分をしてしまうと権利関係が複雑になり、混乱が生じます。
例えば、Aさんが、専有部分をBさん、敷地利用権(敷地の共有持分)をCさんに売却したとします。Bさんは敷地利用権を持っていないので、専有部分を所有することはできないことになります。
このようなことから、原則として専有部分と敷地利用権を分けて処分することは禁止されています。例外として、マンションの規約により分離して処分をすることができる旨を定めることができます。
敷地権とは?
敷地利用権(登記されたものに限る。)であって、専有部分と分離して処分することができないものを敷地権といいます。使用借権は登記することができませんので、敷地権とはなりえません。
マンションの登記事項証明書を取り寄せると、敷地権の表示を見ることが多いと思います。敷地権があるときには、表題部(専有部分の建物の表示)に敷地権の表示が登記されます。(不動産登記法第44条第1項第9号)不動産取引の安全と円滑に資するために、分離処分が禁止されているマンションであることを公示しているとも言えます。
分離処分が禁止されるということは、専有部分と敷地利用権を一体として処分しなければならず、登記も一体としてなされます。具体的には、専有部分である建物の登記記録にのみ登記がされ、敷地である土地の登記記録には何も登記はされません。
そして、建物に所有権などの権利に関する登記がされたときは、その登記は一定の例外を除き、土地の敷地権についてされた登記としての効力を有します。(不動産登記法第73条第1項柱書)
冒頭の土地は登記しなくてもいいの?という問いに対しては、する必要はないという回答になります。厳密には、建物の登記により、土地についても同様の登記がされた旨の効力が生じるということです。
登録免許税について
納税通知書と登記事項証明書
登録免許税の計算については、以前の記事である不動産を相続した時の名義変更を自分でする方法で紹介しています。
マンションの相続登記においては、戸建ての場合より計算が複雑となりますので、ご説明をしていきたいと思います。先ずは、固定資産税納税通知書と登記事項証明書を見ていきます。
納税通知書には、非課税部分(公衆用道路など)が載りませんので、登記事項証明書で敷地権の目的となっている土地がないかを確認します。登記事項証明書を見ただけでは、規約共用部分(集会所など)の有無がわかりませんので、納税通知書でそれを確認します。
また、敷地権の目的となっている土地の一部が非課税(道路や公園など)になっていることがありますが、その場合には納税通知書の登記地積と課税地積が一致していません。
敷地権の目的である土地が非課税の場合
・30/100を乗じる場合
評価証明書には、0円または非課税としか記載がされません。このような場合においては、欄外に近傍宅地の平米単価の記載があります。記載がないときは、証明書発行窓口でその旨を申し出て載せてもらうことができる場合があります。
次に、非課税の根拠条文の記載の有無を確認します。法348条2項5号の記載がある場合には、平米単価に地積を乗じたものに30/100を乗じます。条文の記載がなく、現況地目が公衆用道路になっている場合も同様です。
・30/100を乗じない場合
非課税の根拠条文として、法348条1項の記載がある場合などです。一筆の土地の一部が非課税となっていて、登記事項証明書を見ただけでは判明しないところです。
・上記2つの混合型
これは本当に厄介で、評価証明書を取っただけでは足りません。30/100を乗じるところと乗じないところが混在しているので、証明書発行窓口で地積の内訳書を出してもらうようにします。
公衆用道路 〇㎡
それ以外 △㎡
こんな感じで出してもらえます。
規約共用部分がある場合
先ず、共用部分とは、マンションの一室(専有部分)以外の建物の部分のことをいいます。 例えば、廊下、階段、エレベーター、エントランスなどです。これらは、専有部分の所有者の共有に属します。
納税通知書の建物の課税床面積が登記床面積を上回っているのは、共用部分が上乗せされているためです。
規約共用部分とは、専有部分や別棟の建物の集会所などをマンション規約により共用部分としたもののことです。ちなみに、規約共用部分の登記をすると表題部所有者(マンション分譲会社など)の登記は、登記官により職権抹消されます。
規約共用部分の評価額は、建物の評価額に上乗せします。
評価証明書の枚数ですが、リゾート地の分譲マンションやホテルなどは一室につき10枚近くに及ぶこともあります。
借地の場合の税率に注意
敷地権の種類が地上権、賃借権の場合は、税率が2/1000となります。所有権の場合の半分の税率です。
余談ですが、平成31年度の司法書士試験で敷地権の種類が所有権と賃借権である区分建物の登録免許税を計算させる問題が出されました。試験会場には、当然のことながら電卓の持ち込みはできませんので、税率の異なる敷地権の登録免許税の計算を筆算でしなければならなかったのです。酷ですよね。
敷地権付ではないマンションの場合
かなり少数とはなりますが、敷地権付ではないマンションもあります。その場合には、建物の登記に加えて土地の共有持分の移転登記も申請します。
土地の登記事項証明書を取得する場合には、注意が必要です。全部事項証明書(謄本)を請求するとものすごい枚数になることが多いです。
取得したい被相続人の氏名を指定して「何区何番事項証明書(抄本)」を請求しましょう。また、オンライン請求はできませんので、窓口または郵送請求となります。
不動産を相続した時の名義変更を自分でする方法
はじめに
相続手続の主なものとして、不動産、株式等の名義変更、預貯金の名義変更や解約及び相続税の申告などがあります。相続人の方が全て自分ですることも可能ですが、最もハードルが高いのは相続税申告でしょう。
税申告が必要な方が自己判断で遺産分割をしてしまうと、予期しない高額な納税をしてしまうことがありますので注意が必要です。遺産分割によって納める相続税が異なってくることについては、2次相続を踏まえた相続税対策を参照して下さい。
相続税申告が不要な方であっても、不動産を相続によって取得される方は多くいらっしゃいますので、今回の記事はそのような方々が自分で名義変更(相続登記)をする方法についてご説明する内容となります。
準備するもの
戸籍謄本と戸籍の附票
相続人が配偶者と子供の場合には、被相続人の出生から死亡までの戸籍(原戸籍、除籍)謄本と相続人の現在戸籍謄本(被相続人の死亡日より後に発行されたもの)と戸籍の附票(住民票の写しでも可)を取得します。
郵送で請求もできますが、手数料は定額小為替証書(額面は1,000円までで、郵便局で購入できます。)で支払いますので、戸籍謄本請求書や返信用封筒と併せて同封します。
被相続人と登記名義人の同一性を証する書面
次の項目で取得する登記事項証明書には、登記名義人の住所と氏名が記録されています。死亡事項の記載ある戸籍(除籍)謄本を添付しただけでは、死亡した者の氏名しかわかりません。
したがって、被相続人の戸籍の附票や住民票の除票の写し(本籍の記載あるもの)を添付しなければなりません。戸籍の附票には本籍・筆頭者氏名の記載が原則省略されますので、申請書に本籍・筆頭者の記載を求める旨を記入するか、窓口で申し出る必要があります。
住所と氏名が一致することで、登記名義人と被相続人が同一人物であると証明することができるのです。
転居等で住所が一致しないことが実務上多く見られます。住民票または戸籍の附票の除票の保存期間が5年とされていたために、被相続人の過去の住所を遡って調べようとしても廃棄済みで入手不可となるのです。ちなみに、改正(令和元年6月20日施行)により保存期間は150年になりました。(住民基本台帳法施行令第34条第1項)
後にも述べますが、住民票の除票等で登記名義人の住所と氏名が一致しない場合には、法務局と事前相談をした方がよいと思います。権利証、不在住不在籍証明書、納税証明書、上申書などの添付を求められる場合があります。
不動産の登記事項証明書
固定資産税納税通知書を参照して法務局で登記事項証明書を取得します。民事法務協会の登記情報提供サービスを使って登記情報を取得しても構いません。
気を付けるべき点は、相続登記を漏らさないことです。納税通知書には、公衆用道路や保安林などの非課税不動産は載りません。その場合には市町村役場の資産税課(東京23区の場合は都税事務所)で名寄帳の写しの請求をします。戸建ての場合の私道部分やセットバックに注意しましょう。
評価証明書
登録免許税を算出するために市町村役場の資産税課(東京23区の場合は都税事務所)で評価証明書を取得します。名寄帳の写しが必要な場合は、一緒に請求すれば一回で用事が済みます。
所有者(納税義務者)の相続人から請求する場合には、戸籍謄本の添付を求められます。ただし、相続人代表者届出書を提出済みであるときは相続人代表者が請求することができます。市町村役場によって取扱いが異なることがありますので、事前に問い合わせをした方がよいでしょう。
収入印紙
登録免許税は収入印紙で納めます。計算方法については、登録免許税の計算を参照してください。
相続登記においては、免税措置が定められています。亡くなった方の名義にする土地の相続登記の登録免許税は課されません。例えば、お父様が亡くなられて登記名義人がご祖父様の場合に、いったんお父様名義にする相続登記には登録免許税はかかりません。注意すべきなのは、土地にのみ適用されて建物には適用されないことです。
他には、市街化区域外の土地で市町村の行政目的のため相続登記の促進を特に図る必要があるものとして法務大臣が指定する土地のうち、不動産の価額が10万円以下の土地に係る登録免許税の免税措置が定められています。詳しくは、知らないと損をする!?相続登記の登録免許税の免税措置についてを参照してください。
免税措置の適用対象が全国の土地に拡充され、不動産の価額が100万円以下(10万円以下から引き上げ)の土地であれば、この免税措置が適用されることになりました。
上記2つの適用期限は、令和7年3月31日までとなっています。
登記申請書と添付書類
法務局の不動産の所有者が亡くなった場合の不動産登記申請手続を参考に作成していきます。色んなケースがあるとは思いますが、最も多いであろう遺産分割協議書を添付した登記申請書の作成方法について述べてみます。
・遺産分割協議書
記載例のように相続財産全てについて協議する必要はなく、不動産の記載だけで登記申請は可能です。もちろん、預貯金などの他の相続財産の記載があっても問題はありません。
氏名は自署ではなく、ワープロ打ち(記名)で構いません。実印で押印して、相続人全員の印鑑証明書(期限はありません。)を添付します。
・相続関係説明図
登記原因証明情報として、戸籍謄本等と遺産分割協議書(印鑑証明書を含みます。)を添付しますが、登記完了後にそれらの原本を返却してもらうためにコピーを付けなければなりません。
戸籍謄本等全てのコピーを付けるのは大変なので、相続関係説明図を添付することでコピーの添付が不要となります。あくまで不要となるのは戸籍謄本等だけであり、住民票や戸籍の附票のコピーは付けなければなりません。
併せて、遺産分割協議書、印鑑証明書及び評価証明書のコピーも付けるようにします。
・住所証明情報
不動産を相続することになった相続人全員の住民票の写しまたは戸籍の附票を添付します。 「準備するもの」の冒頭に記載しています。
法務局での事前相談
登記申請書と添付書類が揃ったら、申請する法務局で予約をして事前相談することをお勧めします。書類に不備がないかをチェックしてもらえます。
登録免許税分の現金を持参し、問題がなければ収入印紙を購入してその日に申請することもできます。
郵送による申請について
直接窓口に登記申請書を提出する以外に、郵送による申請もできます。申請書を入れた封筒の表面に「不動産登記申請書在中」と記載の上、書留郵便により送付します。
登記識別情報を返送してもらう場合には、本人限定受取郵便等(レターパックプラスは使えません。)の方法によります(不動産登記規則第63条第4項第1号)ので、返信用封筒に必要な切手を貼るようにします。申請人が2人以上の場合には、それぞれの住所に登記識別情報を発送しますので、人数分の返信用封筒を用意します。
共有名義で登記申請をする場合には、申請人のそれぞれが登記申請書に押印します。相続人の1人から登記申請をすることもできますが、申請人とならなかった相続人には登記識別情報は交付されませんので、注意が必要です。
最後に
相続登記を含めた不動産登記申請(表示登記を除きます。)は義務ではありません。そのために相続登記がされずに放置され、所有者不明土地問題など社会問題となっています。
上記問題の発生予防の観点から、相続登記がされるようにするための不動産登記制度を見直す民法等の一部を改正する法律が令和6年4月1日に施行され、相続登記の申請が義務化されます。
この記事がご自身で相続登記をされる方の一助となれば幸いです。
2次相続を踏まえた相続税対策
事例
被相続人Xの相続人は、同居している妻Y(80歳、資産1億円)、長女A及び長男B(どちらも別居、持ち家あり)です。遺産は、自宅5000万円(土地(200㎡)4500万円、建物(木造、築25年)500万円)とその他の財産5000万円の計1億円です。
このような状況で、Xの相続(1次相続)時にY、A及びB間でどのような遺産分割をするかでYの相続(2次相続)時に負担する相続税の額が違ってきます。したがって、節税のためには1次相続時の税額だけでなく、2次相続を踏まえた対策が不可欠となります。
1.自宅をYに相続させた場合
1次相続時の相続税
自宅をY、その他財産を各2500万ずつAとBが取得したケースで考えてみます。
法定相続人は3人ですから、基礎控除額は4800万円です。小規模宅地の特例により、土地の評価額4500万円の80%が軽減されます。
1億円-4800万円-3600万円=1600万円
1600万円が課税遺産額になります。相続税総額160万円のうち、それぞれの納付税額を求めます。
Y:160万円×14/64=35万円
A:160万円×25/64=62.5万円
B:160万円×25/64=62.5万円
Yの負担額は、配偶者税額軽減の特例により0円です。
よって、1次相続での相続税負担額は、125万円となりました。
特例の適用には相続税申告と遺産分割が必要
上記の小規模宅地、配偶者税額軽減の特例を受けるには、相続税の申告が必要です。小規模宅地の特例により相続税が0円となる場合にも同様となります。
申告期限(被相続人が亡くなってから10か月以内)に遺産分割が終わらないときには、法定相続分で申告します。法定相続分による申告額は以下の通りです。
小規模宅地の特例を受けられないので、課税遺産額は5200万円、相続税総額は630万円となります。
Y:630万円×1/2=315万円
A:630万円×1/4=157.5万円
B:630万円×1/4=157.5万円
申告期限から3年以内に遺産分割をすれば、納めすぎた税金を取り戻すことができます。
2次相続時の相続税
Y死亡時の相続税を計算してみます。法定相続人は2人ですから基礎控除額は4200万円となり、A・B共に別居、持ち家ありですから小規模宅地の特例を受けることはできません。
1億5000万円-4200万円=1億800万円
課税遺産額は1億800万円になりますので、相続税総額は1840万円になります。
1次相続と2次相続の合計納税額
125万円+1840万円=1965万円
2.Yが配偶者居住権のみを取得した場合
1次相続時の相続税
Yが配偶者居住権のみを取得して、残りの財産をA・Bが2分の1ずつ取得したケースで考えてみます。設定期間を終身として、配偶者居住権の評価額を計算しますが、方法については割愛します。
上記事例の配偶者居住権の評価額は1750万円(建物500万円、土地1250万円)となります。配偶者居住権についても小規模宅地の特例を受けることができますので、1250万円の80%が軽減されます。
1億円-4800万円-1000万円=4200万円
4200万円が課税遺産額になります。相続税総額480万円のうち、それぞれの納付税額を求めます。
Y:480万円×750/9000=40万円
A:480万円×4125/9000=220万円
B:480万円×4125/9000=220万円
Yの負担額は、配偶者税額軽減の特例により0円です。
よって、1次相続での相続税負担額は、440万円となりました。
2次相続時の相続税
Y死亡時の相続税を計算してみます。Yが取得した配偶者居住権は死亡と同時に消滅してしまい、A・Bが承継することはありません。A・Bは制限のない完全な所有権を取得しますが、それに対して相続税が課されることはありません。
1億円(Yの遺産総額)-4200万円=5800万円
課税遺産額は5800万円になりますので、相続税総額は770万円になります。
1次相続と2次相続の合計納税額
440万円+770万円=1210万円
3.Yが全財産を取得した場合
これは最もやってはいけないパターンとなります。1次相続時の相続税は、配偶者税額軽減の特例(1億6000万円以下)により0円です。
以下、2次相続時の税額を計算してみます。
2億円-4200万円=1億5800万円
課税遺産額は1億5800万円になりますので、相続税総額は3340万円になります。
1次相続と2次相続の合計納税額
0円+3340万円=3340万円
まとめ
AまたはBが同居、賃貸住まい(いわゆる家なき子の場合)であれば、2次相続時に小規模宅地の特例を受けることができますし、Yの資産が潤沢であったことから配偶者居住権のみを取得させる遺産分割ができました。
したがって、相続税の節税を考える要素として、小規模宅地の特例適用の有無並びにYの資産状況及び余命を挙げることができると言えます。