Author Archive

所有者不明土地・建物管理制度について(令和5年4月1日施行)

2023-03-13

対象を「人」とする現行法の財産管理制度

具体的事例を挙げます。甲土地、乙建物の所有者Aが死亡し、登記名義はAのままとなっています。Aには配偶者Bと長男Cがいましたが、B、Cの順番に死亡しました。

この場合に、公共事業の用地取得や空き家の管理など所有者の所在が不明な土地・建物の管理・処分が必要であるケースでは、現行法上、相続財産管理人の選任が必要です。管理の対象は財産全部に及びますので、不動産以外の財産を調査して管理しなければならず、管理の長期化、予納金の高額化が申立人の負担となっていました。

相続人のあることが明らかでない場合における相続財産の清算手続において、①相続財産管理人の選任の公告、②相続債権者等に対する請求の申出をすべき旨の公告、③相続人捜索の公告を順に行うこととしていますが、それぞれの公告手続を同時にすることができない結果、権利関係の確定に最低でも10か月間を要します。改正法では、これらの期間を短縮し、相続財産管理人の名称を「相続財産清算人」に改めることになっています。

対象を「物」とする新たな財産管理制度

特定の土地・建物のみに特化して管理を行う所有者不明土地管理制度及び所有者不明建物管理制度が創設されます。これらにおいては、他の財産の調査は不要となり、管理期間も短縮化する結果、予納金の負担も軽減します。また、所有者を全く特定できない土地・建物についても対応可能です。

申立は利害関係人が行い、不動産所在地の地方裁判所が管轄となります。1か月以上の異議届出期間等を定めて公告をして、管理命令の発令・管理人の選任がなされます。

所有者不明土地・建物管理命令が発せられた事実は、裁判所書記官の嘱託により登記がされます。その結果、登記名義人からの登記申請はできなくなります。

売却には裁判所の許可が必要

民法第264条の3第2項(第264条の8第5項)

所有者不明土地管理人が次に掲げる行為の範囲を超える行為をするには、裁判所の許可を得なければならない。ただし、この許可がないことをもって善意の第三者に対抗することはできない。
一 保存行為
二 所有者不明土地等の性質を変えない範囲内において、その利用又は改良を目的とする行為

 

所有者不明土地・建物管理人は、保存・利用・改良行為を行うほか、裁判所の許可を得て、対象財産の処分(売却、建物の取壊しなど)をすることも可能です。土地・建物の売却等により金銭が生じたときは、管理人は、供託をし、その旨を公告しなければなりません。

まとめ

所有者不明土地・建物管理制度の創設によって、上記事例以外の現行法の制度が利用できなくなるわけではありません。不在者財産管理制度(不在者最後の住所地の家庭裁判所が管轄)、会社法第478条第2項の規定による清算人選任(本店所在地の地方裁判所が管轄)などは引き続き利用できます。

土地・建物の所有者が、調査を尽くしても不明である場合における、土地・建物の管理・処分を容易にするための財産管理制度の選択肢が増えたといえるでしょう。

共有物の変更・管理に関する改正について(令和5年4月1日施行)

2023-03-06

共有物の管理の範囲の拡大・明確化

現行法上は、「各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更を加えることができない。」と規定されており、軽微な変更であっても変更行為として共有者全員の同意が必要と扱わざるを得ず、共有物の円滑な利用・管理を阻害しているという問題がありました。

共有物の「変更」とは、共有物の性質または形状を物理的または法律的に変更することをいうとされ、変更・管理行為の区分については解釈に委ねられていたのです。

民法第251条第1項

各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。次項において同じ。)を加えることができない。

 

共有物に変更を加える行為であっても、形状又は効用の著しい変更を伴わないもの(軽微変更)については、持分の過半数で決定することができるようになります。

例えば、A、B及びCが各3分の1の持分で建物を共有している場合において、台風により屋根瓦が吹き飛ばされてしまい、屋根の葺き替え等の大規模修繕工事が必要となった場合には2名の決定(持分の過半数である3分の2)によりできるということです。

短期賃借権等の設定

以下の〔 〕内の期間を超えない短期の賃借権等の設定は、持分の過半数で決定することができます。
⑴ 樹木の栽植又は伐採を目的とする山林の賃借権等 〔10年〕
⑵ ⑴に掲げる賃借権等以外の土地の賃借権等 〔5年〕
⑶ 建物の賃借権等 〔3年〕
⑷ 動産の賃借権等 〔6か月〕

借地借家法の適用のある賃借権の設定は、法定更新により契約で定めた期間内に終了するとは限りませんので、共有者全員の同意が必要となります。例えば、相続した実家を賃貸する場合などが挙げられます。ただし、存続期間が3年以内の定期建物賃貸借については、持分の過半数の決定により可能です。

定期建物賃貸借をしようとするときには、「建物の賃貸人は、あらかじめ、建物の賃借人に対し、同項の規定による建物の賃貸借は契約の更新がなく、期間の満了により当該建物の賃貸借は終了することについて、その旨を記載した書面を交付して説明しなければならない。」(借地借家法第38条第2項)と規定されていますので注意が必要です。

所在等不明共有者がいる場合

所在等不明共有者(必要な調査を尽くしても氏名等や所在が不明な共有者)がいる場合には、その所在等不明共有者の同意を得ることができず、共有物に変更を加えることについて、共有者全員の同意を得ることができません。また、管理に関する事項についても、所在等不明共有者以外の共有者の持分が過半数に及ばないケースなどでは、決定ができないという問題が生じます。

その場合には、裁判所の決定を得て、所在等不明共有者以外の共有者全員の同意により、共有物に変更を加えること(民法第251条第2項)、所在等不明共有者以外の共有者の持分の過半数により、管理に関する事項を決定すること(民法第252第2項第1号)ができます。

ただし、所在等不明共有者が共有持分を失うことになる行為(共有物の売却、共有不動産全体に対する抵当権の設定等)には、利用することができません。

越境した木の枝は勝手に切ることができる!?改正点について解説!

2023-02-27

2023(令和5)年4月1日改正法が施行されます

民法第233条

土地の所有者は、隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切除させることができる。
2 前項の場合において、竹木が数人の共有に属するときは、各共有者は、その枝を切り取ることができる。
3 第一項の場合において、次に掲げるときは、土地の所有者は、その枝を切り取ることができる。
一 竹木の所有者に枝を切除するよう催告したにもかかわらず、竹木の所有者が相当の期間内に切除しないとき。
二 竹木の所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき。
三 急迫の事情があるとき。
4 隣地の竹木の根が境界線を越えるときは、その根を切り取ることができる。

 

同時期に民法の相隣関係、共有、財産管理制度、遺産分割等の見直しがされ、改正法が施行されます。今回の記事は、相隣関係のうち越境した木の枝の切除等に関する改正後の条文を掲げて解説する内容となります。

維持された原則

竹木の所有者に枝を切除させる必要があります。枝を切除しない場合には、訴えを提起して切除を命ずる判決を得て、強制執行(代替執行)しなければなりません。

土地所有者による枝の切除

次のいずれかの場合には、土地所有者が枝を切り取ることができるようになります。

(1)竹木の所有者に枝を切除するよう催告したにもかかわらず、竹木の所有者が相当の期間内に切除しないとき。
切除をお願いしても応じてもらえないときには、越境された土地所有者が切り取ることが可能となります。相当な期間は2週間程度と考えればよいでしょう。

(2)竹木の所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき。
隣地に空き家が存在し、庭木等が何年も放置されているような場合に問題となります。その場合であっても、所有者の調査を尽くさなければなりません。土地の登記事項証明書(登記簿謄本)は誰でも取得できますので、登記名義人を把握することは容易だと思います。

相続未登記の場合には注意が必要です。相続人を調べるためには、登記名義人の戸籍謄本等を取得しなければなりません。そのためには住民票の除票の写しを取る必要があるのですが、保存期間(150年、改正前は5年。)経過により取れないことが多いでしょう。したがって、登記名義人の不在住・不在籍証明書が入手できるようなら、相続人調査は非常に困難となりますから、上記(2)に該当することになると考えます。

詳細は割愛しますが、今後、所有権の登記名義人の死亡情報についての符号の表示がされる予定です。その表示により登記名義人の死亡の有無が確認できるようになります。

(3)急迫の事情があるとき。
自然災害により越境した枝を切除しなければ建物が損壊するおそれがある場合、竹木に接しているブロック塀等が倒壊するおそれがある場合などが考えられます。

竹木の各共有者による枝の切除

竹木が共有物の場合には、各共有者が越境している枝を切り取ることができます。改正前においては、共有物の変更行為として共有者全員の同意が必要とされていましたが、竹木の円滑な管理を阻害する要因であったことから見直しがされました。

遺言の撤回方法について

2023-02-20

遺言の方式に従った遺言の撤回

遺言とは、遺言者が自分の財産について誰に何を残したいのか、最終の意思表示をするものですが、その最終意思は十分に確保しなければなりません。一度作成した遺言を撤回して新たな遺言を作成したいということも起こり得ます。

そこで、遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができると定められています。

遺言の方式

民法の定める遺言の方式は、普通方式と特別方式に大別され、普通方式には、1.自筆証書遺言、2.公正証書遺言、3.秘密証書遺言があります。 特別方式には、危急時遺言や隔絶地遺言などがあります。

遺言は方式に則って作成しなければなりませんので、定められた方式を満たしていない遺言に効力は認められません。撤回をするにあたり、遺言の方式はどれを選んでも構いません。例えば、公正証書遺言を自筆証書遺言で撤回することも可能です。

ちなみに、特別方式はほとんど利用されていませんが、特別方式によりした遺言は、遺言者が普通方式によって遺言をすることができるようになった時から6箇月間生存するときは、その効力を生じないと規定されています。

前の遺言と抵触する遺言を作成する方法

前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなされます。

例えば、前の遺言の「甲土地をAに相続させる。」の記載を後の遺言で「甲土地をBに相続させる。」とした場合です。両者の遺言内容は両立させることができませんので、抵触に該当します。したがって、前の遺言は撤回したものとみなされます。

生前処分その他の法律行為と抵触する場合

上の例で、「甲土地をAに相続させる。」を内容とする遺言作成後に、遺言者が甲土地を売却することがあります。不動産を相続させる予定にしていたところ、遺言者の高齢者施設入所資金に充てるために売却しなければならなかったなどが考えられる理由となります。

遺言者が遺言後にその内容と抵触する生前処分その他の法律行為をしたときは、これらの行為で遺言の抵触する部分を撤回したものとみなされます。

遺言書または遺贈目的物の破棄

遺言者が故意に遺言書を破棄したときは、その破棄した部分については、遺言を撤回したものとみなされます。遺言者が故意に遺贈の目的物を破棄したときも同様です。

自筆証書遺言は対象となりますが、公正証書遺言は原本が公証役場に保管されますので、対象とはなり得ません。

遺言の撤回の撤回

撤回された遺言は、その撤回の行為が、撤回され、取り消され、又は効力を生じなくなるに至ったときであっても、その効力を回復しない。ただし、その行為が錯誤、詐欺又は強迫による場合は、この限りでないと規定されています。

例えば、第1遺言を撤回した第2遺言を更に撤回しても、原則として第1遺言の効力は回復しません。ただし書きについては、錯誤、詐欺又は強迫によって撤回する行為は遺言者の真意に基づくものではありませんので、第1遺言の効力が回復することを定めた例外となります。

不動産を財産分与するときにかかる税金について

2023-02-13

財産分与とは?

離婚をした夫婦の一方が他方に対して財産の分与を請求することができる制度です。夫婦が婚姻期間中に共同生活を送る中で築き上げた財産の公平な分配、離婚後の生活保障(扶養)及び離婚の原因を作ったこと(不貞行為等)への損害賠償(慰謝料)の3つの性質があると解されており、特に冒頭に掲げた財産の清算を主たる目的とするものです。

贈与税

無償で財産を取得するわけですから、贈与税が課されるのではないかと心配される方もいらっしゃると思います。上述したように財産分与は、夫婦が婚姻期間中に築いた財産を清算する意味合いで行われるものですから、その財産の範囲内でなされる財産分与について、もらう側に贈与税が課されることはありません。

どのような割合で分けるかについては夫婦間の協議で定めるものですから、対象となる財産の2分の1を超えるものを譲り受けたとしても同様です。ただし、財産分与の対象となる財産を超えるものを分与したり、贈与税・相続税逃れのために財産分与を利用した場合には、課税されるおそれがありますので注意が必要です。

不動産取得税

不動産を婚姻期間中に取得し、実質的に夫婦の共有と推定されるものを財産の清算として財産分与するのであれば課税されることはありません。例えば、夫単独名義のものを妻名義に変更する場合などです。

登記名義人が婚姻前から所有している、または、相続により取得した不動産を財産分与の対象とした場合には、不動産取得税が課税されます。他に課税されるケースとして、財産分与の性質が扶養・慰謝料の場合、夫婦共有名義の不動産の持分移転をする場合などが挙げられます。

譲渡所得税

財産分与する側に課税されるおそれがあります。例えば、婚姻期間中に甲不動産を3,000万円で購入して、夫Aの単独名義にしたとします。妻Bに財産分与をする際には、甲の時価を把握することが重要です。

時価が5,000万円なら、譲渡益2,000万円が所得税の課税対象となります。甲が居住用不動産のときに3,000万円の特別控除を使いますと、実質的には非課税となりますが、この場合でも申告が必要となります。

時価を把握して、A、B及びBの子などがそれを共有しておくとよいでしょう。BやBの子が今後売却する際の甲の取得費は3,000万円ではなく、財産分与時の時価である5,000万円となります。ちなみに、時価とは不動産会社の買取価格ではなく、売却した場合の売却代金のことを指しますので、複数の業者に査定依頼をするのがよいと思います。

登録免許税

不動産の登記申請(名義変更)の際に納めるもので、固定資産税評価額の2%が税額となります。固定資産税評価額は納税通知書・課税明細書、評価証明書などに記載されています。

1,000万円の不動産であれば納税額は20万円となり、かなり高額となりますので、離婚協議書に登記費用の負担者を定めておくことが望ましいでしょう。

少額訴訟について解説します!

2023-02-06

少額訴訟とは?

原則1回の審理で行う迅速な手続で、60万円以下の金銭の支払を求める場合に限り利用できる制度です。紛争の内容があまり複雑でなく、契約書等の証拠となる書類や証人をすぐに準備できる場合は、少額訴訟によることが考えられます。

このように、簡易裁判所の管轄に属する事件において、一般市民が訴額に見合った経済的負担で、迅速かつ効果的な解決を裁判所に求めることができる手続のことを指します。

60万円以下の金銭支払請求

民事訴訟法第368条

簡易裁判所においては、訴訟の目的の価額が60万円以下の金銭の支払の請求を目的とする訴えについて、少額訴訟による審理及び裁判を求めることができる。ただし、同一の簡易裁判所において同一の年に最高裁判所規則で定める回数を超えてこれを求めることができない。
2 少額訴訟による審理及び裁判を求める旨の申述は、訴えの提起の際にしなければならない。
3 前項の申述をするには、当該訴えを提起する簡易裁判所においてその年に少額訴訟による審理及び裁判を求めた回数を届け出なければならない。

訴訟の目的の価額が60万円以下の金銭支払請求を目的とする訴えに限り少額訴訟の対象となります。貸金、売買代金、家賃・地代の請求などが該当します。建物明渡し、登記手続請求などは認められません。

また、利用回数の制限が設けられており、同一の原告が、同一の簡易裁判所において、同一の年に10回を超えて少額訴訟手続を利用することはできません。一般の方には無関係な規定だと思いますが、貸金業者等の反復利用を許さないという趣旨で設けられています。

証拠調べの特則

証拠調べは、一期日審理の原則から、即時に取り調べることができる証拠に限りすることができます。したがって、原告当事者本人や証人は口頭弁論期日に出廷する必要があります。

被告の移行申述権

被告は、訴訟を通常の手続に移行させる旨の申述をすることができます。ちなみに、被告に司法書士、弁護士などの代理人が付いている場合には、ほぼその申述がなされます。移行後は、反訴の提起禁止、証拠調べの制限などの制約がなくなります。

また、裁判所は、少額訴訟手続による審理及び裁判をするのが相当でないと認めるときなどの場合には、訴訟を通常の手続により審理及び裁判をする旨の決定をしなければならないとされています。

控訴の禁止

通常手続においては、終局判決に対して控訴等の上級審への不服申立が認められますが、少額訴訟では、その判決をした簡易裁判所に対する異議の申立だけが許されています。

少額訴訟制度が迅速な紛争解決を目的とするものですので、控訴を認めてしまうと解決までに多くの時間と費用を要することになってしまうからです。

手続利用上の注意点

迅速な紛争解決が期待できますが、手続利用のためには周到な準備が必要となります。

例えば、貸金返還請求をする場合に被告が消滅時効を主張して争ってくることが予想されるときには、被告が債務承認をしたこと(再抗弁)を立証する証拠を準備しておくなどです。書証や証人の在廷が該当します。

被告の欠席により、準備が空振りに終わることがあるかもしれませんが、少額訴訟手続を利用する際にはその点を心掛けることが重要だと考えています。

行政書士試験の振り返りと勉強方法

2023-01-30

令和4年度行政書士試験合格発表

令和5年1月25日、令和4年度試験の合格発表がされるようです。この記事を書いている時点では発表前ですので、合格者人数や合格率などはわかっていません。

例年11月上旬に試験が行われ、発表まで3か月待たされますので択一だけで合格点に達しない受験者は記述の採点待ちとなり、発表まで悶々とした日々を過ごすことになります。私自身も平成30年~令和2年の3回受験しましたが、足切りとなった初年度以外は同様でした。

使用した教材

合格革命シリーズの基本テキストと基本問題集です。同シリーズの肢別問題集が人気あるようですが、全く中身を見たことがありませんのでコメントできないです。

独学での合格の可能性

科目別に書いていこうと思いますが、憲法からです。正直なところ、このテキストではちょっと足りない気がします。司法書士試験でも憲法が択一3問出題されますが、行政書士試験では択一5問プラス多肢選択1問が出題されます。憲法に限らないのですが、全科目を1冊にまとめた都合上簡潔な記述に終始せざるを得なかったのかなあと感じます。

800ページほどあるのですが、これ以上本を厚くすると扱いにくく初学者がとっつきにくくなることを考慮してのことなのでしょう。本文に書かれている部分はもちろんですが、側注のところも全てマスターする必要があると思います。

行政法は、配点比重が高いので一番時間をかけなければなりません。図表などは覚えるのが大変ですが、繰り返し読み込んで映像記憶できるようになれば理想ですね。過去問が豊富にあるので、過去問回しも有効だと思います。

民法ですが、この科目については記述式問題が2問出されますから、暗記に頼らずに理解を重視しなければなりません。基本テキストはまとめ本として使用するには適していると思いますが、これを繰り返し読んだところで民法を理解するのは困難でしょう。

他の資格試験の教材に手を出すことを勧める人もいらっしゃるようですが、私はそれには反対の立場です。資格試験においては、完璧主義を捨ててわからないところは深く追求しないことが合格のための近道になるのではないかと考えます。

次に商法・会社法です。司法書士としては得点源としたいところです。出題数が少ないし、コスパが悪いので捨てる方もいらっしゃるかと思いますが、開業を考えている資格ホルダーではない方は対策したほうがよいと考えます。実務上、行政書士からの商業登記依頼が非常に多いからです。

基礎法学は、このテキストに書かれていることは非常に有益なので繰り返し読んでおけば十分かなと思います。一般知識は、一度足切りを経験していますので頭が痛いです。ちなみに、テキストに載っているものからの出題は1問もないことがほとんどです。引っ掛けっぽい肢に注意して、現場思考で何とか乗り切るしかないでしょう。

結論として、合格革命などの市販のテキストだけでも合格の可能性はありますが、記載の分量が抑えられている関係で法律初学者が理解することは難しい。かといって手を広げすぎることは効率が悪くなるので、そこをいかにクリアしていくかが鍵となるといったところでしょうか。

司法書士との兼業について

行政書士と司法書士を両方登録している方が多くいらっしゃいます。事務所が都市部以外にあるのであれば、それなりのニーズはあるでしょう。ただ、行政書士が扱うことができる業務は非常に多岐にわたりますので、個人事務所レベルではできることも限られてくるのではないでしょうか。

ちなみに、私は今のところ行政書士の登録をする予定はありません。必要性を感じないことと、手広く案件を受任することがお客様に提供するサービスの質を低下させることに繋がるのではないかと考えているからです。

遺贈による登記手続(令和5年4月1日改正)

2023-01-23

共同申請の原則

不動産の権利に関する登記を申請する場合には、登記権利者(権利に関する登記をすることにより、登記上、直接に利益を受ける者をいい、間接に利益を受ける者を除く。)と登記義務者(権利に関する登記をすることにより、登記上、直接に不利益を受ける登記名義人をいい、間接に不利益を受ける登記名義人を除く。)が共同ですることになっています。

例えば、A名義の不動産をBに売却した場合の所有権移転登記申請においては、新たに所有権の登記名義を取得するという利益を受けるBが登記権利者、所有権の登記名義を失うことになるという不利益を受ける登記名義人であるAが登記義務者となります。

なぜ、Bが単独で登記を申請することができないかについてですが、上記の例の場合、所有権移転登記によって不利益を受けるAを登記の申請に関与させることによって、登記の正確性(真実性)を確保するためです。

遺贈による登記手続はこの共同申請の原則に従い、受遺者を登記権利者、遺贈者を登記義務者とする共同申請によるべきものとされています。

共同申請の原則には例外がありますが、一般の方に馴染みがあるものとして相続登記と住所変更登記を挙げることができます。これらは単独で申請することが可能です。公の機関が発行する戸籍謄本や住民票の写しを添付しますので、登記の正確性を担保することができますし、住所変更登記においては、そもそもその登記により不利益を受ける者は存在しないことになります。

令和5年4月1日から、相続人に対する遺贈登記の単独申請が可能になっています

令和5年4月1日から、遺贈により不動産を取得した相続人(受遺者=登記権利者)は、単独で所有権の移転の登記を申請することができるようになっています。(不動産登記法第63条第3項)なお、令和5年4月1日より前に開始した相続により遺贈を受けた相続人(受遺者)についても同様に、令和5年4月1日からは、単独で所有権の移転の登記を申請することができるようになっています。

遺言執行者がいないとき

遺贈者を登記義務者とすると説明しましたが、言うまでもなく登記申請時点において遺贈者は既に亡くなっています。この場合には、遺贈者の相続人全員が登記申請義務を承継します。

登記申請義務は不可分であり、相続分に応じて承継するという相続の原則に馴染むものではありませんから、必ず相続人全員が登記申請に関与しなければなりません。相続人が登記申請の義務者となる場合には、共同相続人の一人を登記義務の承継人とする登記申請は認められません。

遺言執行者がいるとき

遺言執行者が登記義務者となって、登記権利者である受遺者と共同で申請します。遺言書は遺贈者が作成しますので、その遺言で定められた遺言執行者は遺贈者の代理人という性質を持っているといえます。委任契約と異なるのは、遺言は単独行為であってそこで定められた遺言執行者がその職に就くか否かの選択が可能であることです。

旧法においては、「遺言執行者は相続人の代理人とみなす」という規定がありましたが、現在では削除され、新法においては遺言執行者の権限が強化され、権限の範囲については明文化されました。ですから、遺言執行者という言わば独自の地位に基づいて登記申請人となると考えることもできるでしょう。

受遺者と遺言執行者が同一人であるとき

受遺者を遺言執行者に定めることもできます。その場合でも共同申請(上述した改正により単独申請可能な場合があります。)をしなければならないことに変わりはありません。ただ、登記権利者と登記義務者が同一人となりますので、実質的には単独申請のようになります。

添付情報は権利者、義務者それぞれに要求されますので、登記識別情報、印鑑証明書、住所証明情報など共同申請と同様のものが必要となります。なお、相続人である受遺者が単独申請する場合の添付情報は、登記原因証明情報と住所証明情報です。

根抵当権の債務者の相続、債務引受による変更登記

2023-01-16

相続開始後6か月以内の債務者、債権の範囲の変更登記の可否

元本が確定する前に債務者に相続が開始した場合、相続・債務引受による債務者、債権の範囲の変更登記を申請することはできるのでしょうか。答えはノーです。

債務者が死亡してから指定債務者の合意の登記がされるまで、または相続開始後6か月を経過するまでは、根抵当権の元本は確定するのか否かわからない状態にあります。そのために、元本確定前にのみ、または元本確定後にのみすることができる登記は申請することができないのです。

相続開始後6か月を経過すると、根抵当権は、相続開始のときにおいて元本が確定したものとみなされます。元本が確定しないようにするための登記が必要となりますが、それについては次項で説明します。

相続開始後6か月以内の指定債務者の合意の登記

甲が所有する事業用不動産にX銀行を根抵当権者、債務者甲、債権の範囲「銀行取引、手形債権、小切手債権」とする根抵当権が設定されているとします。

甲が死亡し、法定相続人は長男A及び長女Bである場合に、甲の事業をAのみが承継して債務者をAに変更したいケースが実務上よく見られます。その場合に、甲の債務はA及びBが法定相続分に応じて相続しますので、Bが相続した債務をAが免責的に引き受ける契約がなされます。

債権の範囲に属する債権について免責的債務引受がされ、債務者に変更が生じたときには、その債権は根抵当権によって担保されませんので、引受債務を特定債務として債権の範囲に追加しなければなりません。その前提として、相続開始後6か月以内の指定債務者の合意の登記が必要となるのです。

債務者の相続による変更登記

この登記をする前に、所有権登記名義人を甲からAにする相続登記を済ませておきます。
登記権利者 X銀行
登記義務者 A
変更後の事項 債務者(被相続人 甲) A B

債務者甲が死亡し、A及びBが債務を承継したことを公示する登記となります。ちなみに、この時点では債務者甲に下線は引かれません。

指定債務者の合意の登記

登記権利者 X銀行
登記義務者 A
指定債務者 A

この登記により、根抵当権は甲の相続開始の時に存する債務とAが相続開始後に債権の範囲に属する新たに負担する債務を担保するものとなります。建前はそうなりますが、後件の登記のために元本確定を阻止する意味合いが強いものと考えます。

債務者及び債権の範囲の変更登記

登記権利者 X銀行
登記義務者 A
変更後の事項
債務者 A
債権の範囲 銀行取引 手形債権 小切手債権
○年○月○日債務引受(旧債務者B)にかかる債権
○年○月○日相続によるAの相続債務のうち変更前根抵当権の被担保債権の範囲に属するものにかかる債権

Aが甲の相続により承継した債務及びBが相続した債務を免責的に引き受けたものにかかる債務は根抵当権によって担保されませんので、特定債権として追加する必要があります。債務者をAとする変更登記は交替的変更となりますので、変更前に生じたXのAに対する債権の範囲に属するものにかかる債権も根抵当権によって担保されることになります。

債権回収会社や法律事務所から債権譲渡通知書が送られてきたときの対処法

2023-01-10

債権譲渡通知書、受任通知書が送られてくる

クレジットカード会社に対し未払いの利用代金がある場合には、カード利用者に督促がなされます。カード会社の債権は5年で時効消滅してしまいますから、時効が完成する前に支払の催告をするのです。

「催告があったときは、その時から6か月を経過するまでの間は、時効は、完成しない」と規定されていますので、催告は時効完成猶予事由となります。要するに、時効が完成しそうなときに催告をすればそこから6か月は完成を遅らせることができるのです。しかしながら、さらに時効の完成を妨げるには、裁判上の請求等をするか、債務者に債務の承認をしてもらうことによって、時効更新をしなければなりません。

前置きが長くなりましたが、このような時効が完成してしまいそうな債権を債権回収会社に債権譲渡することがあります。例えば、10万円の債権を半額の5万円で譲渡するような場合です。譲渡人のカード会社にとっては全額の回収はできないけれども、裁判上の請求をして時効更新するよりも手間がかからないというメリットがあります。

譲受人の債権回収会社にも、債務者から時効援用されるリスクはありますが、倍額の債権を回収できるかもしれないというメリットが存在するのです。

債権譲渡をした場合に譲受人が債務者に請求するには、譲渡人が債務者に通知をし、または債務者が承諾しなければならないとされています。債務者にしてみれば、誰に弁済をしたらよいのかわかりませんし、二重払いのおそれも出てきます。債務者を保護するための規定です。

また、通知は譲渡人からしなければならず、譲受人からなされた通知は効力を生じません。ただし、譲受人が譲渡人の代理人として譲渡通知をすることは可能です。「債権譲渡通知書」には、譲渡人は、譲受人に対し、債権譲渡に係る通知の送付に関する一切の代理権を付与している旨の記載がなされていることが一般的です。

債権譲渡通知書の送付の目的は、債権譲渡の通知または承諾があるまで債権者として認めない旨の債務者からの反論を封じるためと捉えればよいでしょう。ところで、債権回収会社が債権回収業務を弁護士に委託することがあります。その場合には、弁護士が所属する法律事務所から債権回収会社代理人に就任したことを記載した受任通知書が送られてきます。

時効消滅している可能性があります

送られてきた書面には、連絡先電話番号と振込先口座情報が記載されています。電話をすることは避けた方がよいでしょう。電話をすることで債務を承認してしまい、時効を援用することができなくなるおそれがあります。フリーダイヤルを載せているのには、それなりのメリットがあるからなのです。

時効は援用しなければ完成しません

時効は時間の経過によって自動的に完成するものではありません。援用することによって初めて債権消滅(消滅時効の場合)という利益を享受することができる制度です。世の中には、借りたお金を時効でチャラにすることを潔しとしない方もいらっしゃいますので、援用するか否かを選択することができるようになっています。

先ずはご相談ください

時効消滅している債権を請求することは違法ではありません。ですが、法律事務所が送付する書面には、「連絡がとれない場合など、話し合いによる解決が困難であると弁護士が判断した場合には、やむを得ず法的手段を検討します。」のような記載をしています。

一般の方が、そのような書面を受け取られた場合には驚かれることが多いと思います。先ずは当事務所でも構いませんし、司法書士や弁護士にご相談されることをお勧めします。

« Older Entries Newer Entries »

keyboard_arrow_up

0422478677 問い合わせバナー