根抵当権の債務者の相続、債務引受による変更登記

相続開始後6か月以内の債務者、債権の範囲の変更登記の可否

元本が確定する前に債務者に相続が開始した場合、相続・債務引受による債務者、債権の範囲の変更登記を申請することはできるのでしょうか。答えはノーです。

債務者が死亡してから指定債務者の合意の登記がされるまで、または相続開始後6か月を経過するまでは、根抵当権の元本は確定するのか否かわからない状態にあります。そのために、元本確定前にのみ、または元本確定後にのみすることができる登記は申請することができないのです。

相続開始後6か月を経過すると、根抵当権は、相続開始のときにおいて元本が確定したものとみなされます。元本が確定しないようにするための登記が必要となりますが、それについては次項で説明します。

相続開始後6か月以内の指定債務者の合意の登記

甲が所有する事業用不動産にX銀行を根抵当権者、債務者甲、債権の範囲「銀行取引、手形債権、小切手債権」とする根抵当権が設定されているとします。

甲が死亡し、法定相続人は長男A及び長女Bである場合に、甲の事業をAのみが承継して債務者をAに変更したいケースが実務上よく見られます。その場合に、甲の債務はA及びBが法定相続分に応じて相続しますので、Bが相続した債務をAが免責的に引き受ける契約がなされます。

債権の範囲に属する債権について免責的債務引受がされ、債務者に変更が生じたときには、その債権は根抵当権によって担保されませんので、引受債務を特定債務として債権の範囲に追加しなければなりません。その前提として、相続開始後6か月以内の指定債務者の合意の登記が必要となるのです。

債務者の相続による変更登記

この登記をする前に、所有権登記名義人を甲からAにする相続登記を済ませておきます。
登記権利者 X銀行
登記義務者 A
変更後の事項 債務者(被相続人 甲) A B

債務者甲が死亡し、A及びBが債務を承継したことを公示する登記となります。ちなみに、この時点では債務者甲に下線は引かれません。

指定債務者の合意の登記

登記権利者 X銀行
登記義務者 A
指定債務者 A

この登記により、根抵当権は甲の相続開始の時に存する債務とAが相続開始後に債権の範囲に属する新たに負担する債務を担保するものとなります。建前はそうなりますが、後件の登記のために元本確定を阻止する意味合いが強いものと考えます。

債務者及び債権の範囲の変更登記

登記権利者 X銀行
登記義務者 A
変更後の事項
債務者 A
債権の範囲 銀行取引 手形債権 小切手債権
○年○月○日債務引受(旧債務者B)にかかる債権
○年○月○日相続によるAの相続債務のうち変更前根抵当権の被担保債権の範囲に属するものにかかる債権

Aが甲の相続により承継した債務及びBが相続した債務を免責的に引き受けたものにかかる債務は根抵当権によって担保されませんので、特定債権として追加する必要があります。債務者をAとする変更登記は交替的変更となりますので、変更前に生じたXのAに対する債権の範囲に属するものにかかる債権も根抵当権によって担保されることになります。

 

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