任意後見制度の見直し

補助制度と連携し、本人の意思をより反映できる新しい仕組みへ

2026年の民法改正は、成年後見制度全体を「本人の意思の尊重」という理念に沿って再構築する大きな転換点となりました。その中でも任意後見制度は、従来の運用上の制約が大幅に見直され、本人の意思をより柔軟に反映できる制度へと進化しています。

施行日は、公布の日(令和8年6月24日)から起算して2年6月以内(令和10年12月24日まで)に政令で定められる予定です。

任意後見制度の基本

任意後見制度は、判断能力があるうちに、自ら選んだ受任者に財産管理や生活支援を任せる契約です。公正証書で契約を締結し、判断能力が低下した段階で家庭裁判所が任意後見監督人を選任すると効力が発生します(任意後見契約法3条、2条1号)。

【改正の3本柱】 今回の改正は、任意後見制度の柔軟性を高めるために、次の3点が大きく変更されました。

任意後見と補助制度の併存が可能に

従来

任意後見監督人が選任された後に補助・保佐・後見の審判がされると、任意後見契約は終了していました。この併存不可の構造が、実務上の柔軟な支援設計を妨げていました。

改正後

補助開始の審判がされても、任意後見契約は終了しません。これにより、

  • 任意後見人の代理権
  • 補助人の同意権・取消権・代理権(審判で付与された範囲)

を、本人の状況に応じて組み合わせることが可能となりました。

補助制度の権限付与

  • 同意権付与の審判(改正民法9条)
  • 取消権(同条5項)
  • 代理権付与の審判(同法11条)

任意後見人は代理権のみですが、補助人には審判により多様な権限を付与できるため、併存により保護の幅が大きく広がります。

任意後見監督人の選任が非必須に

従来の課題

任意後見監督人が選任されると、

  • 監督人報酬の負担
  • 定期的な報告義務
  • 監督人との調整

など、本人・受任者双方に一定の負担が生じていました。そのため実務では、

  • 任意後見契約+財産管理委任契約をセットで締結する移行型任意後見契約が普及
  • 受任者が財産管理委任契約で代理権を行使し続け、任意後見開始(監督人選任申立て)を行わない

という運用が広く行われ、任意後見制度が形骸化する一因となっていました。

改正後

家庭裁判所は、明らかに任意後見監督人による監督の必要がないと認める場合には、任意後見監督人を選任しないことができます。

実務への影響

  • 不要な報酬負担を避けられる
  • 本人の状況に応じて監督人の有無を柔軟に判断できる
  • 受任者が任意後見開始を躊躇する理由が減る
  • 任意後見制度が本来の姿で活用されやすくなる

制度の形骸化を防ぐ、極めて重要な改正点です。

次の任意後見人を指定できる仕組み

従来

任意後見人が死亡・辞任等で欠けた場合、次の任意後見人を指定する制度がなく、

  • 任意後見契約が事実上機能停止
  • 法定後見の申立てを検討せざるを得ない

という問題がありました。

改正後

複数の任意後見契約を締結し、効力発生の順序を合意で定めることが可能となりました(改正任意後見契約法4条1項・5条1項3号)。

具体例

Aを主たる任意後見受任者、Bを予備的受任者として契約しておけば、Aが死亡・辞任等で欠けた場合に、Bが任意後見開始の申立てを行い、支援が途切れません。

一般の方にとってのメリット

今回の改正により、任意後見制度は次のように使いやすくなりました。

  • 任意後見人の代理権を維持したまま、補助人を追加できる
  • 本人の状況に応じて、同意権・取消権・代理権を柔軟に組み合わせられる
  • 任意後見監督人の選任が不要となる場合があり、費用負担が軽減
  • 契約時点では想定できなかった事情にも対応しやすい
  • 任意後見制度が形骸化しにくくなる
  • 複数の任意後見契約を締結し、効力発生順序を定めることで、任意後見人が欠けても支援が途切れない

任意後見契約の価値は、従来以上に高まったと言えるでしょう。

まとめ

任意後見制度の見直しは、本人の意思を中心に据えた成年後見制度の再構築の一環です。任意後見人の権限を尊重しつつ、補助制度を柔軟に組み合わせることで、本人の生活状況に応じた支援を設計できるようになりました。

特に、任意後見監督人の選任が非必須となったことは、制度の形骸化を防ぎ、任意後見制度を本来の姿で活用するための極めて重要な改正点です。

 

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