会社代表者住所非表示措置の適用範囲拡大について

令和6年改正で制度化された仕組みが、令和8年改正で大きく広がります

会社の代表者の住所を登記事項証明書などに表示しない住所非表示措置は、令和6年10月1日に施行された商業登記規則の改正により新設された制度です。商業登記規則第31条の3において、株式会社の代表取締役・代表執行役・代表清算人について、住所のうち都道府県・市区町村以外の部分を非表示とする仕組みが規定されました。

法務省は、この制度を安心して起業できる環境整備と代表者のプライバシー保護を目的とするものと位置付けています。代表者の住所が広く公開されることによるストーカー被害や嫌がらせのリスクを軽減し、起業の心理的ハードルを下げることが期待されています。

令和6年改正で制度そのものはすでに整備されましたが、今回公表された令和8年の省令案では、この制度の適用範囲が大きく拡大されることが示されています。

今回の省令案のポイント

今回の改正案は、制度の新設ではなく、既存の第31条の3を他の法人にも準用するための拡大改正です。主なポイントは次のとおりです。

① 対象となる会社の拡大
これまで株式会社のみが対象でしたが、今後は合同会社などを含むすべての会社に適用されます。

② 非表示措置の対象者の拡大
代表者(代表取締役・代表執行役・代表清算人)に加え、支配人も対象になります。

③ 法人の種類の拡大
次のような会社以外の法人にも、代表者住所非表示措置が準用されます。

  • 一般社団法人・一般財団法人
  • 特定目的会社
  • 投資法人
  • 投資事業有限責任組合
  • 有限責任事業組合
  • その他各種法人等登記規則の対象法人

これにより、制度は株式会社の代表者のプライバシー保護から、幅広い法人の代表者のプライバシー保護へと大きく拡大します。

制度趣旨

法務省は、代表者住所の公開がもたらすリスクを次のように整理しています。

  • 代表者個人への嫌がらせ・ストーカー被害
  • 自宅住所の公開による心理的負担
  • 起業をためらう要因となる可能性

これらを踏まえ、代表者の住所のうち行政区画以外を非表示とすることで、プライバシー保護と起業環境の改善を図ることが制度趣旨とされています。

司法書士として感じる制度上の課題

制度趣旨には賛同しつつも、実務上は次のような課題があると考えています。これらは東京司法書士会が提出した意見書でも指摘されており、私自身も概ね同じ問題意識を持っています。

申出できるタイミングが限定されている

非表示措置は、代表者住所が登記されるタイミングでしか申出できません。任期のない法人では、申出の機会が長期間訪れない可能性があります。

非表示措置に期間制限がない

DV被害者の住所非表示には3年の期間制限がありますが、代表者住所非表示には期間制限がありません。代表者が長期間変わらない法人では、住所が半永久的に非表示となり、利害関係人が住所を確認できなくなるおそれがあります。

取引の安全性への影響

代表者住所が証明書で確認できないため、金融機関や取引先が追加資料を求めるケースが増えています。マネロン対策の観点でも、代表者住所の確認は重要です。

消費者被害への対応の遅れ

悪質商法などの被害が発生した際、代表者住所が確認しづらいと、迅速な対応が難しくなります。

改正後に求められる仕組み

制度の対象が広がることで、プライバシー保護のメリットは確かに大きくなります。しかし、取引の安全性や消費者保護の観点からは、次のような仕組みが求められます。

  • 必要な場合に代表者住所を確認できる制度の整備
  • オンラインで住所確認ができる仕組みの新設
  • 本店所在地の実在性確認の強化(転送不要郵便など)

制度の趣旨を活かしつつ、実務に支障が出ないようなバランスの取れた運用が求められます。

まとめ

代表者住所非表示措置は、令和6年改正で制度化された新しい仕組みです。今回の令和8年省令案は、この制度をより広い法人に適用するための拡大改正であり、代表者のプライバシー保護を一層強化するものです。

一方で、取引の安全性や消費者保護の観点からは、住所確認のための新たな仕組みづくりが不可欠です。制度の趣旨と実務のバランスをどのように取るかが、今後の運用における重要な課題となります。

 

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