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建前とは違う実務上の取扱い
世帯とは、住居および生計をともにする者の集まり・単位です。世帯分離は、建前では同居していても生計は別々なのでという理由でなされることを想定しています。ところが、実際は親の介護費用を軽減するため等の理由によって世帯分離がなされることが少なくありません。
私の身の回りにおいても、実父母が祖母を他県から呼び寄せて同居するにあたり、三鷹市の職員から転入届を提出する際に、「世帯を分けた方がお得ですよ。」とのアドバイスを受けたことがありました。また、義父が骨折して入院した際に限度額適用・標準負担額減額認定証の交付を受けるために親子間の世帯分離をしました。
このように、多くの市町村では世帯分離の申請の際には理由を深く追及するようなことをしていませんし、介護保険課等の窓口では介護費用負担軽減のために世帯分離を勧めるようなこともなされているようです。
扶養は外れるのか
年金受給者の親を子の扶養に入れることがあります。扶養は「社会保険の扶養」と「税法上の扶養」の2種類に分けられます。
先ず、社会保険の扶養から解説しますが、親が75歳未満で要件を満たせば、子の勤務先の健康保険において親を扶養に入れることができます。親が75歳になると後期高齢者医療制度に加入することになりますので、扶養から外れることになります。
子が自営業等で国保加入の場合には、世帯分離によって国保税が増えるおそれがありますので注意が必要です。結論として、健康保険の扶養に入っている場合には世帯分離のみによっては扶養から外れることはないでしょう。
次に、税法上の扶養です。要件を満たすことで70歳以上の親と同居している場合、1人あたり58万円(2024年現在)の所得税の扶養控除が得られます。要件の一つに「生計を一にしていること」というものがあり、世帯分離をすることで要件を満たさなくなるということが懸念されます。
これに関して、所得税基本通達2-47に生計を一にするの意義が触れられています。「親族が同一の家屋に起居している場合には、明らかに互いに独立した生活を営んでいると認められる場合を除き、これらの親族は生計を一にするものとされる。」というものですが、要するに、親子が同居しているのであれば生計を一にすると推定されるわけです。
したがって、世帯分離を理由として税法上の扶養から外れることもないでしょう。ただし、構造、利用上独立した2世帯住宅で親子がそれぞれ独立した生活を営んでいる、財布が別々であって一切送金もされていないような場合には税法上の扶養は認められません。
小規模宅地の特例は使えるのか
親子が同居している場合に、世帯分離をしてしまうと同居している子供が相続する際に小規模宅地の特例は使えるのかの疑問が生じます。
他の要件は全て満たすものとして、結論から申し上げますと、問題なく使えます。要件の一つである「同居親族」とは、相続発生時(死亡時)に被相続人と生活の拠点を同じとする同居していた親族のことをいいます。要するに、居住の実態があるか否かで判断しますので、住民票を移して同一世帯となっているだけでは同居親族の要件を満たさないことになるのです。
なお、建物に区分所有登記がされている場合には、特例を使えませんので注意が必要です。