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講座を受けてきました
以前の記事「認知症の人の支えとなる認知症サポーターとは?」に続き、認知症サポーター向け講座の事を書いてみたいと思います。今回の講義は、作業療法士が講師を務め、認知症になっても好きなことを続けるために、その人達に対して作業療法士がどのようなことを行っているかというものでした。
作業療法士の作業って何のこと?
作業療法士(occupational therapist、以下「OT」と記載します。)の作業って何のことでしょうか。作業療法士は日本固有の資格者ではなく、世界的な職能であり、世界作業療法士連盟(World Federation of Occupational Therapists:WFOT)が設立されています。
つまり、「occupation」という言葉が先にあって、それをどう和訳するかの問題だったようです。それは日本にはない概念であり、人の日常生活に関わる全ての諸活動を指します。
例えば、家事、仕事、遊び、日課、地域活動、休息などです。そこで、日本ではoccupationを「作業」と訳した経緯があるようですが、医療や介護の現場では「OT」の呼称が使われています。
何をするの?
一般的にはリハビリ専門の医療職と捉えられ、その活躍の場は病院、介護施設、訪問看護などの訪問サービス、市区町村役場など多岐にわたります。認知症の人に対しては、その人らしく生活を送ることができるように環境を整えたりし、家族や介護する側には介助方法をアドバイスします。
また、できないことに着目するのではなく、現状持っている能力をできる限り活かして、どのような援助が必要なのかといったことや可能な活動についての提案を行っています。
具体例を挙げてみましょう。手指の麻痺などが原因でお箸やスプーンなどが使えずに1人で食事ができない人がいるとします。短絡的に、食事全介助をしたらどうなるでしょう。食事を摂ることで、身体的な健康は維持できるのかもしれませんが、介助される側の幸福感や満足感は得られるでしょうか。
そんな時に、スプーンの柄を太くしたり、角度を変えたり、利き腕ではないほうで使えるようにしたりする自助具を使う方法があります。(下のイラスト参照)そういった自助具のデザインなどもOTの仕事です。最近では、3Dプリンタを自助具の製作に活用しているようです。
ちなみに、今回講師役を務めてくださったOTの方は、色んな自助具を目の当たりにして、OTという職業に魅了されたと話されていました。
認知症の人への作業療法
認知症の人は、その症状故に上述した作業をするにあたって危険を伴ったり、うまくできなかったり、時間がかかってしまいます。周りに気を遣うようになって自分ではやりにくくなり、最終的に他の人が代わりにするようになり、一切その活動をしなくなってしまいます。
自分が今までできていた作業が徐々に減っていき、その存在価値を低く感じるようになり、認知機能が更に低下していくという悪循環に陥ります。
そこで、OTは療法対象者の人となり(育った環境、仕事、趣味、性格)を先ず把握することに努めます。対象者にとってどんな作業(家事なのか、仕事なのか、余暇なのか)に意味があるのかを推測するために不可欠な要素だからです。
その後、作業遂行能力の理解、作業難易度の把握及び調整、認知症対象者への支援介入度の調節などをします。
「作業」が認知症の人にもたらす効果
・自分の価値を再確認できる
できなくなってしまった作業ができるようになるまたは新しいことに挑戦してできるようになることで、喜びや楽しさを感じることができます。また、達成感や社会とのかかわりをもつことで、前向きな人生を送ることができます。
・自己表現の機会を得ることができる
家族や介護者に危険、時間がかかるなどの理由から自分の好きなことややりたいことを制限されてしまうと、言いたいことを言えずに飲み込んでしまいがちです。それが解消されることにより、作業をするか否か、どのような作業をするかの意思表示が容易にできるようになります。
・今までの人生を肯定し、今後の人生も楽しく過ごせる
認知症になっても、人にはそれぞれできるだけ介助されずに独力でやりたい作業があります。それが人本来のニーズであり、普遍的な能力でもあるのです。