Archive for the ‘商業・法人登記’ Category

特例有限会社の登記事項

2023-12-25

特例有限会社とは

2006(平成18)年5月に会社法が施行されましたが、その会社法施行前に有限会社として設立され、会社法施行後も存続が認められている会社のことです。会社法施行により有限会社を規定していた有限会社法が廃止され、会社法には有限会社に関する規定は存在しません。

存続する特例有限会社については、「会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」(以下、「整備法」と言います。)中に規定があります。

商号

特例有限会社は株式会社です。廃止前の有限会社法の規定による有限会社であって会社法の施行の際現に存するものは、会社法の施行の日以後は、会社法の規定による株式会社として存続するものとされました。つまり、会社法上、特例有限会社を株式会社として扱い、原則として株式会社の規定を適用しますが、適用を除外する例外については整備法にその旨が定められています。

商号には「有限会社」の文字をそのまま用いなければなりません。「株式会社」の文字を使用するためには、定款の変更によって通常の株式会社に移行する手続を経る必要があります。

株式の譲渡制限に関する規定

特例有限会社の定款には、その発行する全部の株式の内容として当該株式を譲渡により取得することについて当該特例有限会社の承認を要する旨及び当該特例有限会社の株主が当該株式を譲渡により取得する場合においては当該特例有限会社が譲渡の承認をしたものとみなす旨の定めがあるものとみなされます。

「当会社の株式を譲渡により取得することについて当会社の承認を要する。当会社の株主が当会社の株式を譲渡により取得する場合においては当会社が承認したものとみなす。」のように登記されます。

この株式の譲渡制限に関する規定を定款変更して廃止することはできませんので、株式の譲渡制限に関する規定の廃止の登記もできないことになります。

機関の設置

特例有限会社は、株式会社と同様に株主総会と取締役を必ず置かなければなりません。それ以外に置くことができる機関は監査役のみとなります。取締役会、会計参与、会計監査人などを置くことはできません。また、監査役設置会社である旨、監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがある旨は、登記事項ではありません。

取締役と監査役の住所が登記されること、代表取締役でない取締役がいる場合のみ代表取締役の氏名を登記することが通常の株式会社と異なります。したがって、取締役の退任、代表取締役の就任等によって会社を代表しない取締役がいなくなった場合には、代表取締役の氏名を抹消する登記をしなければなりません。

役員の任期

特例有限会社には、役員の任期の規定がありません。したがって、役員の任期満了による変更登記が不要となりますので、12年以上登記がされないことは普通にあり得るわけです。このことから、休眠会社のみなし解散が適用されることはありません。

組織再編

言うまでもなく、新たに有限会社を設立することはできません。それを踏まえて、存続することとなる吸収合併、他の会社の権利義務の全部または一部を承継する吸収分割はできないことになっています。また、株式交換、株式移転及び株式交付をすることもできません。

上記以外の組織再編行為は可能です。例えば、吸収合併消滅会社、吸収分割会社になること、合同会社などの持分会社に組織変更することなどです。

取締役会を置かない株式会社の取締役の増員について

2023-12-04

はじめに

旧商法時代に設立された株式会社は、取締役3名以上及び監査役1名以上を置き、取締役会の設置が義務付けられていました。会社法の施行によって、取締役会、監査役を置かない株式会社の機関設計が認められるようになりました。取締役が1名のみである一人会社も会社法施行時以降に設立可能となり、実務上よく目にします。

この記事では、取締役会を置かない株式会社の取締役を新たに選任する場合の注意点について触れていきます。

業務の執行と決定

これ以降は、取締役会設置会社以外の株式会社について話を進めていきます。例えば、一人会社が取締役を増員して取締役が2名になったとします。この場合、業務の執行は各取締役が単独で行うことができますが、業務の決定は取締役の過半数で行います。どちらも、定款に別段の定めを設けることができます。

ただし、支配人の選任、解任、支店の設置、移転、廃止などについての決定を各取締役に委任することはできないと定められており、原則通り取締役の過半数によって決定しなければなりません。

代表取締役

取締役を増員した場合には、取締役全員が代表取締役となります。取締役に就任した者は当然に代表取締役にも就任したことになりますので、新たな取締役と代表取締役の就任登記をします。

増員取締役を代表取締役にしない場合

会社法には、株式会社(取締役会設置会社を除く。)は、定款、定款の定めに基づく取締役の互選又は株主総会の決議によって、取締役の中から代表取締役を定めることができると定められています。

つまり、各自代表が原則なのですが、3つの方法によって代表取締役を定めることができるのです。言い換えれば、取締役の代表権を奪うことも可能だということです。

株主総会の決議

代表権を有しない取締役を増員する場合には、改めて代表取締役を選任する決議を要するのでしょうか。第1号議案で新たな取締役を選任し、第2号議案で現代表取締役を選任する決議をした株主総会議事録を添付しても登記申請は可能です。

ただ、株主総会の決議で代表取締役を定めるというのは、株式会社を代表させたくない取締役から代表権を剥奪する行為であるともいえます。このことから、増員取締役を株主総会で選任する際に代表権を有しない取締役であることを決議すれば足りるのです。

以下に、株主総会議事録の議案の記載例を掲載しますが、役員変更登記が補正なく完了することを保証するものではありません。利用される際には自己責任でお願い申し上げます。

第○号議案 取締役の選任に関する件
議長は、取締役を新たに選任する必要がある旨を述べ、その選任方法を諮ったところ、出席株主中から議長の指名に一任したいとの発言があり、一同これを承認したので、議長は下記の者を指名し、この者につきその可否を諮ったところ、満場異議なくこれに賛成したので、下記のとおり選任すること及び代表権を有しない取締役とすることに可決確定した。なお、被選任者は、席上その就任を承諾した。

株主総会以外の機関の設置について

2023-09-19

置くことができる機関

株式会社が必ず置かなければならない機関は株主総会と取締役です。それ以外の機関については定款の定めによって、取締役会、会計参与、監査役、監査役会、会計監査人、監査等委員会又は指名委員会等を置くことができます。

また、定款の定めにおいて、「取締役会を置くことができる」のように置くのか置かないのかわからないような定めは認められず、「取締役会を置く」のように定めなければなりません。

公開会社とは

機関の設置について理解するためには、公開会社とは何かを知ることが大前提となります。株式を譲渡することは原則として自由にできるのですが、株式会社は定款で定めることによって、株式の譲渡を制限することができます。

株式会社がその発行する全部又は一部の株式の内容として譲渡による当該株式の取得について当該株式会社の承認を要する旨の定めを設けている場合における当該株式を譲渡制限株式といいます。そのうえで、会社法は公開会社をその発行する全部又は一部の株式の内容として譲渡による当該株式の取得について株式会社の承認を要する旨の定款の定めを設けていない株式会社をいうと定義しています。

要するに、全部の株式が譲渡制限株式である株式会社以外の株式会社は公開会社となります。これでも分かりにくいかもしれませんので、別の言い方をすれば譲渡制限株式ではない譲渡が自由にできる株式を発行することができる株式会社が公開会社です。

取締役会設置会社

取締役会設置会社とは、取締役会を置く株式会社又は会社法の規定により取締役会を置かなければならない株式会社をいいます。公開会社、監査役会設置会社、監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社は取締役会を置かなければなりません。非公開会社は取締役会を置かなくてもよいのですが、監査役会設置会社である場合には取締役会の設置義務があります。

また、取締役会設置会社(監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社を除く。)は、監査役を置かなければならないと規定されています。監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社では、監査役以外の機関が監査業務を行いますので、監査役を置くことはできません。

一方、取締役会設置会社である非公開会社では、会計参与を置けば監査役を置く必要はありません。つまり、監査役か会計参与のどちらかを置かなければならないのです。

監査役設置会社

監査役設置会社とは、監査役を置く株式会社(その監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがあるものを除く。)又は会社法の規定により監査役を置かなければならない株式会社をいいます。

監査役は業務及び会計の監査を行う機関ですが、非公開会社である株式会社(監査役会設置会社及び会計監査人設置会社を除く。)は、その監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨を定款で定めることができるとされています。

前述した監査役の設置義務に加えて、会計監査人設置会社(監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社を除く。)は、監査役を置かなければなりません。

大会社における機関の設置義務

大会社とは、最終事業年度に係る貸借対照表に資本金として計上した額が五億円以上である、または、最終事業年度に係る貸借対照表の負債の部に計上した額の合計額が二百億円以上である株式会社をいいます。

大会社(非公開会社、監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社を除く。)は、監査役会及び会計監査人を置かなければなりません。一方、非公開会社である大会社は、会計監査人を置かなければならないと規定されています。

つまり、公開会社である大会社は、取締役会、監査役、監査役会及び会計監査人を置かなければならないということになります。そして、非公開会社である大会社は、監査役及び会計監査人の設置が義務となるのです。

実務では

今まで、私が司法書士として商業登記業務を行った株式会社は非公開会社だけです。上述したものは会社法の規定であり、司法書士なら誰もが持っている知識なのですが、実務で必要となるのはほんの一部といえるでしょう。

実務では、会社法施行前に設立した株式会社で監査役の監査の範囲に関する事項を登記すべき場合の知識などが要求されます。

発行可能株式総数と発行可能種類株式総数

2023-09-11

発行可能株式総数

発行可能株式総数とは、株式会社が発行することができる株式の総数のことであり、発起人は、株式会社の成立の時までに、その全員の同意によって、定款でその総数の定めを設けなければならないと定められています。

したがって、発行可能株式総数を超えるような株式の発行は無効となりますので、増資、株式の分割の際には注意が必要です。自己株式の交付により増資、株式の無償割当てでは、発行済株式の総数の増加を抑えることができますが、株式の分割では、自己株式数も他の株式数と同様に増加します。なお、発行可能株式総数は定款で定めますが、その定めを廃止することはできません。

発行可能種類株式総数

発行可能種類株式総数とは、株式会社が発行することができる種類ごとの株式の総数のことであり、種類株式発行会社においては種類ごとに発行可能種類株式総数を定款で定めなければならないとされています。

また、発行可能株式総数との関連性はなく、例えば、発行可能株式総数3,000株の種類株式発行会社が内容の異なる普通株式とA種株式を発行するものとして、それぞれの発行可能種類株式総数を1,000株ずつとすることも可能です。つまり、発行可能種類株式総数の合計が発行可能株式総数である必要はないのです。

発行可能株式総数の上限

株式会社では原則として、株主が会社を所有し取締役が経営をするといった所有と経営の分離がされた形態をとっています。その上で取締役が自由にいくらでも株式を発行することができるとすると、株主の権利が害されるおそれがあります。

それを踏まえて、会社法においては以下の2つの場合に、定款の変更後の発行可能株式総数は、当該定款の変更が効力を生じた時における発行済株式の総数の四倍を超えることができないとして上限を設けています。
①公開会社が定款を変更して発行可能株式総数を増加する場合
②公開会社でない株式会社が定款を変更して公開会社となる場合

上限が問題となるのは上記2つの場合だけであり、自己株式の消却により発行済株式の総数が減少して、結果的に発行可能株式総数が発行済株式の総数の四倍を超えても問題ありません。

対して、株式の併合の際には発行可能株式総数を定めなければなりませんが、必ずしも併合比率に応じて発行可能株式総数を減少させる必要はないものの、公開会社では発行可能株式総数が発行済株式の総数の四倍を超えないように定めなければなりません。

発行可能種類株式総数の上限

発行可能株式総数のような上限はありません。種類株式発行会社であるためには定款で内容の異なる2以上の種類の株式を発行できることが規定されていればよく、その株式会社が現に2以上の株式を発行している必要はありませんので、発行済種類株式の数が「0」の場合もあり得ます。

ですから、発行済種類株式の数の四倍を上限とするような規定を設けることはできないわけです。

下限について

事柄の本質として、発行可能株式総数は発行済株式の総数以上でなければなりません。現在要件を満たしていても、将来満たさないおそれがある場合を考慮して制限が設けられています。

新株予約権を発行している場合には、新株予約権の行使によって株式の発行・交付が可能となるような発行可能株式総数でなければなりません。なお、新株予約権の行使の際に自己株式を交付することもできますので、その数は除外します。

取得請求権付株式・取得条項付株式の対価である株式の数については、発行可能株式総数の下限に影響を及ぼすことはありません。取得により自己株式となり、株式の消却によって発行済株式の総数を減少させることができるからです。

一方、発行可能種類株式総数の下限においては、対価となる種類株式の発行が可能となるようにすることが求められます。取得請求権付株式・取得条項付株式については、自己株式を除外する必要もあります。

代表取締役の住所の非表示措置について

2023-07-24

はじめに

令和4年9月1日から、DV被害者等である会社代表者等からの申出により、登記事項証明書等におけるDV被害者等の住所を非表示とすることが可能になりました。

先ず、前提として会社の登記事項証明書は誰でも取得することができます。会社代表者(株式会社の代表取締役、有限会社の取締役、合同会社の代表社員など)の住所は登記事項とされていますから、配偶者に住所を知られることによりDV被害者は生命または身体に危害を受けるおそれがありました。改正によって、そのような被害の発生を防止する措置が講じられたといえます。

申出ができる被害者等とは

登記事項証明書に記載された自然人(個人)の住所の非表示の申出(以下「住所非表示措置申出」といいます。)の対象となる「被害者等」は、住所が登記記録に記録されている個人に限られます。法人は合同会社等の持分会社の社員になることはできますが、法人の住所(本店)は含まれません。

被害者等の範囲は、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(「DV防止法」)に規定する配偶者からの暴力を受けた被害者、ストーカー行為等の規制等に関する法律(「ストーカー規制法」)に規定するストーカー行為等に係る被害を受けた者、その他これらに準ずる者とされています。

申出方法

被害者等又は登記の申請人は、申出書に必要事項を記載し、必要な書面を添付し、登記の申請人が申出をするときは申出書又は委任による代理人の権限を証する書面に当該申請人が登記所に提出している印鑑を押印しなければなりません。なお、登記の申請と同時に行う住所非表示措置申出は、オンラインにより行うことができます。

添付書面

①住所が明らかにされることにより被害を受けるおそれがあることを証する書面
市区町村が発行しているDV等支援措置決定通知書や、ストーカー規制法に基づく警告等実施書面、配偶者暴力相談支援センターのDV被害者相談証明といった公的書面がこれに該当します。

②申出書に記載されている被害者等の氏名及び住所が記載されている市町村長その他の公務員が職務上作成した証明書
被害者等の住民票の写し、戸籍の附票又は外国に居住する取締役等の氏名及び住所が記載されている日本国領事が作成した在留証明書のほか、運転免許証やマイナンバーカード等のコピーであって、被害者等が原本と相違ない旨を記載したものなどです。

③代理人によって住所非表示措置の申出をするときは、当該代理人の権限を証する書面
委任状などが該当します。

最後に

そもそも、代表取締役個人の住所を公示する必要があるのかといった問題があるかとも思いますが、商業登記法の条文には、「会社法(平成十七年法律第八十六号)その他の法律の規定により登記すべき事項を公示するための登記に関する制度について定めることにより、商号、会社等に係る信用の維持を図り、かつ、取引の安全と円滑に資することを目的とする。」と定められています。

ところで、不動産登記においては現状、DV被害者等の登記名義人の住所の変更登記をすることを要しない、前住所を住所として登記をすることも認めたり、住所の閲覧を特別に制限する取扱いなどがされています。

こちらについては改正が決まっており、令和6年4月1日から、DV被害者等についても相続登記や住所変更登記等の申請義務化の対象となることに伴い、現在の取扱いについて必要な見直しをした上で、DV被害者等の保護のための措置が法制化されます。

具体的には、対象者が載っている登記事項証明書等を発行する際に現住所に代わる事項を記載することとされ、委任を受けた弁護士等の事務所や被害者支援団体等の住所、あるいは法務局の住所などを想定しています。詳細は、今後不動産登記規則等の省令で規定されることになるでしょう。

電子提供措置をとる旨の定めが登記事項となったことについて

2023-07-18

はじめに

令和4年9月1日(以下「施行日」といいます。)から、会社法第325条の2の規定による電子提供措置をとる旨の定めがあるときは、その定めが登記事項とされました。なお、施行日において振替株式を発行している会社(上場会社)は、施行日をその定款の変更が効力を生ずる日とする電子提供措置をとる旨の定款の定めを設ける定款の変更の決議をしたものとみなすとされました。

株主総会資料

会社法の条文では「株主総会参考書類等」の文言を用いていますが、株主総会資料とは、株主総会参考書類、事業報告、監査報告、計算書類、連結計算書類等を指します。

電子提供措置

電子提供措置とは、定款の定めに基づき、株式会社(特例有限会社を含みます。)の取締役が株主総会資料(種類株主総会資料を含みます。)の内容である情報を自社のホームページ等のウェブサイトに掲載し、株主に対して当該ウェブサイトのアドレス等を株主総会の招集の通知に記載等して通知した場合には、株主の個別の承諾を得ていないときであっても、取締役は、株主に対して株主総会参考書類等を適法に提供したものとする制度のことを指します。

電子提供措置は、株主総会の日の3週間前または招集通知の発送日のいずれか早い日から開始し、株主総会の日後3か月を経過する日まで継続して行わなければなりません。

議決権行使書面について

取締役は、株主総会を招集する場合には、株主総会に出席しない株主が書面によって議決権を行使することができることとするときは、その旨を定めなければなりません。また、定めた場合には株主総会の招集の通知は書面でしなければならず、株主に対し、議決権の行使について参考となるべき事項を記載した書類及び議決権行使書面を交付しなければならないとされています。

議決権行使書面に記載すべき事項は電子提供措置をとらなければならない事項に含まれていますが、取締役が株主総会の招集の通知に際して株主に対し議決権行使書面を交付するときは、議決権行使書面に記載すべき事項に係る情報については、電子提供措置をとることを要しません。

登記記録例

「電子提供措置に関する規定」
「当会社は株主総会の招集に際し、株主総会参考書類等の内容である情報について、電子提供措置をとるものとする。」

設立の際の定款に電子提供措置をとる旨の定めがある場合は上記のとおりとなります。施行日において振替株式を発行している会社(上場会社)は、原因年月日を「令和4年9月1日設定」とし、電子提供措置をとる旨の定款の定めを設けた場合は、当該定款変更の効力が生じた日とします。

なお、電子提供措置をとる旨の定款の定めは、原則として当該株式会社の実際の定款の定めのとおり登記する(登記すべき事項となる)こととなり、上記記録例どおりに記載して登記申請する必要はありません。

支店の所在地における登記の廃止と変遷

2023-07-10

令和4年9月1日改正

令和4年9月1日、支店・従たる事務所の所在地における登記が廃止されました。したがって、同日から、支店の所在地における登記は不要となり、仮にこれを申請しても、商業登記法第24条第2号により却下されることとなります。

なお、本店の所在地における支店の設置、移転又は廃止等の登記は引き続き必要です。

旧商法時代

平成18年5月1日から会社法が施行されましたが、それ以前の旧商法においては支店の所在地における登記事項は本店の所在地と同様のものでした。また、支配人の登記が本店ではなく、支配人を置いた営業所(支店)の所在地における登記事項とされていました。

当時、登記事項証明書(登記簿謄本)、印鑑証明書は本店所在地を管轄する法務局でしか取得することができませんでしたので、会社の代表権を有する者の確認等のためには本店所在地と同様な登記簿を支店所在地においても公示する意味合いを有していたと思います。

また、不動産登記において法人が申請人となる場合には代表者の資格証明書の添付が求められていましたが、支店所在地において代表権を有する者の照合ができる場合には、添付省略ができたことも挙げることができるでしょう。

会社法施行

会社法の施行により、支店所在地の登記所には、索引的な登記事項である商号、本店の所在場所及び支店(その所在地を管轄する登記所の管轄区域内にあるものに限る。)の所在場所のみを登記することとされ、施行日に現にある支店の登記所の登記簿についても、登記事項は同様となったのです。

支店所在地の登記所に登記されている支店の登記事項を商号、本店及び支店所在地のみとする登記は、登記官が職権で行うこととされました。

また、支配人の登記はすべて本店の登記所の登記簿に記録することとされ、施行日に現にある支配人の登記についても、本店の登記所の登記簿に移されることとなりました。したがって、施行日後は、支配人を置いた支店の登記所でなく本店の登記所に対し当該支配人の登記事項証明書や印鑑証明書を請求する扱いになりました。

本支店一括申請

支店所在地においてする登記の申請は、本店所在地においてする登記の申請完了後に登記事項証明書(登記簿謄本)を添付する必要がありました。後に、コンピュータ化されている登記所間において、他の登記所管轄の登記記録の閲覧が可能となったことから、紙媒体の証明書の添付は不要となったのです。

このような手間がかかることから、商号変更、本店移転等の全ての支店所在地において登記申請が必要となるときには、申請人の大きな負担となっていました。

そこで、法務大臣の指定する登記所の管轄区域内に本店を有する会社による本店及び支店の所在地において登記すべき事項について支店の所在地においてする登記の申請は、その支店が法務大臣の指定する他の登記所の管轄区域内にあるときは、本店の所在地を管轄する登記所を経由してすることができるとする、本支店一括申請の制度が創設されました。

私自身、開業前の勤務時代にこの制度を1回だけ利用したことがあります。支店移転登記だったと記憶していますが、手数料(支店所在地の登記所1庁につき、300円)が安く、手間もかからないし便利だなあと感じました。しかし、その申請は取下げることになったのです。どうやら、過去に本店移転をした際に支店所在地にも登記申請をすべきところ、申請人がその申請を怠ったことが原因だったようです。

最後に

支店の所在地における登記の廃止に至るまでの変遷を記してきましたが、やはり時代の流れを強く感じます。ただ、支配人の登記など実務家として知っておかなければならない知識もあると思います。

それについては、過去の記事「40年以上放置された抵当権の抹消」で触れていますので、ご参照いただければ幸いです。

役員の氏名と旧姓の併記について

2023-07-03

平成27年の改正

役員の氏名に婚姻前の氏を記録することができるようになりました。(平成27年2月27日施行)例えば、取締役甲野花子さんが婚姻によって乙原花子さんとなった場合には、「取締役 乙原花子(甲野花子)」のように旧氏がかっこ書きで記録されます。

令和4年9月1日改正

令和4年9月1日から、併記可能な旧氏の範囲が拡大され、婚姻前の旧氏に限らず、養子縁組前の旧氏や、離婚後婚姻中の旧氏なども併記可能となりました。

また、登記簿(閉鎖した登記事項を除く。)にその役員等について旧氏の記録がされていたことがあるときは、最後に記録されていた旧氏より後に称していた旧氏に限り、登記簿に記録するよう申し出ることができます。

さらに、会社の代表者は、当該会社の登記簿に旧氏の記録がされている者について氏の変更の登記がされた場合には、登記簿に記録がされている旧氏を当該変更の登記の直前に称していた旧氏に変更するよう申し出ることができるとされました。

申出の方法

会社の代表者は、申出書に必要事項を記載し、必要な書面を添付し、申出書又は委任による代理人の権限を証する書面に当該会社の代表者が登記所に提出している印鑑を押印しなければなりません。

・申出書の記載事項
①申出に係る会社の商号及び本店の所在場所並びに当該会社の代表者の資格、氏名、住所及び連絡先
②旧氏を記録すべき役員又は清算人の氏名
③上記②の役員又は清算人について記録すべき旧氏
④代理人によって申出をするときは、当該代理人の氏名又は名称、住所及び連絡先並びに代理人が法人であるときはその代表者の資格及び氏名
⑤申出の年月日

申出書の提出をする方法のほか、株式会社の設立の登記、役員等の就任による変更の登記、清算人の登記又は役員等の氏の変更の登記と同時に行う旧氏の記録の申出等については、申請書に申出事項を記載する方法で行うものであっても差し支えありません。

添付書面

併記しようとする旧氏の記載がある除籍抄本等から現在の氏の記載がある戸籍に至る全ての戸除籍抄本等が必要となります。

例えば、婚姻によって氏が変わった場合に現在の戸籍謄本を取りますと、従前戸籍の記載があります。従前戸籍には本籍と筆頭者が記載されていますので、その戸籍も必要となります。父親が筆頭者となっている戸籍で婚姻した方が除籍された旨の記載があるもの等が該当します。

なお、住民票やマイナンバーカード、運転免許証に既に併記されている旧氏と同じ旧氏の併記を希望する場合には、これらの写しを添付することでも足ります。

旧氏の記録を希望しない場合

会社の代表者は、当該会社の登記簿に記録がされている旧氏の記録を希望しない旨を申し出ることができます。登記記録にその氏名とともに旧氏をも記録された役員又は清算人について、旧氏の記録を希望しない旨の申出があったときは、その旧氏は記録しないこととなります。

また、当該申出書の添付書面については、記録を希望しない旧氏を証する書面を要しません。

株式会社の役員変更登記を忘れていませんか?

2023-05-08

非公開会社の取締役の任期

取締役の任期は、選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとされています。公開会社でない株式会社(監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社を除く。)においては、定款によって、取締役の任期を選任後10年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで伸長することができます。

非公開会社とは、定款において全ての株式について譲渡制限が付けられている株式会社のことをいいます。株式の譲渡制限に関する規定は登記事項とされていますので、履歴事項全部証明書には、「当会社の株式を譲渡により取得するには株主総会(当会社、取締役会となっている場合もあります。)の承認を受けなければならない。」と記載されています。

会社法施行日である平成18年5月1日以降に設立された上場会社を除く株式会社のほとんどは非公開会社であることから、取締役の任期を10年に伸長しているケースが多くなっています。

みなし解散のおそれ

毎年10月頃、12年以上登記がされていない株式会社及び5年以上登記がされていない一般社団法人又は一般財団法人に対して、法務大臣による官報公告をし、管轄登記所から通知書の発送を行います。

前記の株式会社や一般社団法人又は一般財団法人に該当する場合には、必要な登記申請又は「まだ事業を廃止していない」旨の届出をする必要があり、これらの手続がされなかったときは、対象の会社等について「みなし解散の登記」がされることになります。

取締役の任期を10年に伸長している場合であっても、少なくとも10年に1回は登記申請をしなければならないことが理由となっています。ですから、役員変更登記をせずに12年以上放置すると株式会社は解散したとみなされるおそれがあるのです。

今すぐチェック!

会社や法人の設立後、登記した事項に変更があったときは、2週間以内に変更の登記をする義務があります。登記をしないでいると会社や法人の代表者、外国会社の日本における代表者は、裁判所から100万円以下の過料に処せられると会社法に規定されています。

商業・法人登記記録(不動産も同様)の日付には西暦ではなく和暦が用いられます。平成25年に設立し、または、役員が就任する登記をした場合の役員10年の任期満了は平成35年となります。平成は31年が最後ですから、元号の変換をして令和5年になることが判明します。

このように和暦の使用が10年経過を分かりにくくしている側面もあるとは思いますが、10年後に登記申請をしなければならないことをずっと把握しておくことは非常に困難でしょう。何年も登記していないと思われる方は、今すぐ会社の登記記録を調べることをお勧めします。

辞任する代表取締役に対する意思確認はすべきなのか

2022-11-21

事例

司法書士甲は、株式会社乙の代表取締役Aから、前代表取締役Bの辞任に伴う取締役及び代表取締役の変更登記を依頼された。Aの話によると、Bが代表取締役たる取締役を辞任したので、取締役の互選でAが新たな代表取締役に選任されたということであった。

甲が、Aが持参した乙の登記事項証明書、原始定款を見ると、Bが取締役を辞任しても、定款上の取締役の員数は欠くことにはならなかった。Aが住所・氏名を含め全文ワープロで打たれたBの辞任届も持参していたので、甲はAにつき本人確認を行い、依頼どおりの登記申請を行った。

ところが、登記完了後1か月して、甲は、Bから、甲がBの辞任の意思を確認せず、虚偽の登記申請を行ったと苦情を申立てられた。

問題点

Bの辞任届に会社実印が押印されていれば登記申請は受理されます。(商業登記規則第61条第8項)会社実印の管理が杜撰でB以外の者が簡単に持ち出せるような環境にありますと、辞任届の偽造は容易です。

司法書士は、添付書類等の確認により実体関係の把握に努めなければなりませんが、全文ワープロ打ちの書面が偽造であるか否かを判断することは非常に困難だと思います。

参考判例(東京地判平成23・3・7)

上記事例と同様の事案につき、参考判例を掲げます。
原告X(B)は、Y(甲)に対し、Xの辞任の意思を確認しなかったことは、司法書士としての確認義務違反があるとして、民法第709 条に基づき金1000 万円の損害賠償を求めて訴えを提起したというものです。

※判旨
原告Xは、司法書士Yが本件登記(原告が株式会社乙の代表取締役及び取締役を辞任する旨の登記)をする際、原告Xの意思確認をすべきであった旨主張し、その根拠として、東京司法書士会規程を挙げる。しかし、同規程は、司法書士に対して事務の依頼者及びその代理人等について、本人確認及び意思確認をすべきであるとして、その方法を定めるものであって、役員変更の登記においてその対象となる役員の意思を確認すべきとするものではない。

本件登記の申請を司法書士Yに依頼したのは、本件会社の取締役であり、原告Xの代表取締役及び取締役の辞任によって本件会社の代表者となった新代表取締役Aであって、前記規程によって、司法書士Yが当然に原告Xの意思確認をすべきであったということはできない。また、原告Xは、他の司法書士からも本人の確認をすべきだと聞いているとか、司法書士の意見書等が手元にあるので提出するなどと述べるものの、当該意見書等を一向に提出しないなど、司法書士Yが原告の意思確認をすべきであったという注意義務の根拠についての前記以外の具体的な主張や立証をしない。

以上によれば、原告Xの主張・立証に照らしても、本件において、司法書士Yが本件登記をする際、原告Xの意思確認をすべきであったと認めるに足りる証拠はなく、司法書士Yに、原告X主張の不法行為が成立するとはいえない。なお、仮に、司法書士Yに、原告X主張の不法行為が成立するとしても、それによって原告Xにいかなる損害が生じたかについて主張・立証がなく、この点においても、原告Xの請求は認められない。

弊事務所における対応

上記事例のような場面において、Bの意思確認は行いませんが、辞任届には自署のうえ、会社実印ではなく個人実印(印鑑証明書添付)を押していただくようにお願いしております。

後のトラブル発生を防止する意味もありますが、司法書士は真正な登記の実現に努めなければならない責務を負っているのです。

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