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支払督促の無視は厳禁!差押えのおそれもあります
支払督促とは
金銭、有価証券、その他の代替物の給付に係る請求について、債権者の申立てにより、その主張から請求に理由があると認められる場合に、支払督促を発する手続であり、債務者が支払督促を受け取ってから2週間以内に異議の申立てをしなければ、裁判所は、債権者の申立てにより、支払督促に仮執行宣言を付さなければならず、債権者はこれに基づいて強制執行の申立てをすることができます。
要するに何なの?
例えば、お金を知人に貸したが、期限になっても返してくれないような場合、どうしたらよいでしょう。知人は給料債権、預貯金、不動産等を有しており、払おうと思えば払えるはずなのに一向に支払おうとしない。
このように借金の存否について争いがなく、債務者の怠慢等によって任意に支払いがされない場合に債権者に簡易迅速に債務名義を取得させる手続が支払督促です。最終的に債務者の財産を差押えることが目的となります。
実際には、貸金業者が債務者に対し貸金の返還を求める、NHKが受信契約に基づき視聴者に対し受信料の支払を求めるなどの場合に利用されています。
国外、公示送達は認められない
支払督促は債権者の言い分のみを聞いて債務名義を取得させ、強制執行を可能にする手続です。そのために、債務者の所在不明により公示送達を認めてしまうと、債務者から異議申立ての機会を奪うことになってしまいます。その機会を保障するため、支払督促においては、日本において公示送達によらないでこれを送達することができる場合に限って利用できるものとされているのです。
債務者の受取拒否、不在、居留守等によって送達できない場合には付郵便送達も可能です。付郵便送達とは書留郵便を利用した送達であり、郵便を発送した時点で、有効な送達があったものと扱われます。
支払督促の申立て
請求の価額にかかわらず、相手の住所地を管轄する簡易裁判所の裁判所書記官に対して申し立てます。
仮執行宣言の申立て
債務者が支払督促の送達を受けた日から2週間以内に督促異議の申立てをしないときは、債権者は支払督促に仮執行宣言を付するよう申し立てることができます。
仮執行の宣言を付した支払督促に対し督促異議の申立てがないとき、又は督促異議の申立てを却下する決定が確定したときは、支払督促は、確定判決と同一の効力を有するとされています。これにより、債権者は強制執行手続に着手することが可能となるのです。
督促異議
支払督促に不服があれば、異議を申し立てることができます。その際に理由を提示する必要はありません。支払督促を受け取ってから2週間以内に異議の申立てをしないと、上述したように支払督促に仮執行宣言が付されることがあります。仮執行宣言が付されると、直ちに強制執行を受けることがあります。
仮執行宣言が付された後でも異議申立ては可能ですが、仮執行宣言付支払督促を受け取ってから2週間以内にしなければなりません。期限として定められている2週間とは、送達を受けた日の翌日から数えて2週間以内です。
なお、仮執行宣言後の督促異議によって支払督促の確定を妨げることはできますが、仮執行宣言の効力は当然には停止しません。したがって、強制執行を免れるためには、執行停止の手続をとらなければなりません。
通常訴訟への移行
適法な督促異議の申立てがあったときは、督促異議に係る請求については、その目的の価額に従い、支払督促の申立ての時に、支払督促を発した裁判所書記官の所属する簡易裁判所又はその所在地を管轄する地方裁判所に訴えの提起があったものとみなされます。
司法書士にできること
請求の目的の価額が140万円以下である場合の、支払督促の申立て、支払督促に対する仮執行宣言の申立て、督促異議の申立て、支払督促から移行した訴訟手続等を代理人として行うことができます。
訴え提起前の和解について
訴え提起前の和解とは
訴え提起前の和解は、裁判上の和解の一種で、民事上の争いのある当事者が、判決を求める訴訟を提起する前に、簡易裁判所に和解の申立てをし、紛争を解決する手続です。
当事者間に合意があり、かつ、裁判所がその合意を相当と認めた場合に和解が成立し、合意内容が和解調書に記載されることにより、確定判決と同一の効力を有することになります。
設例
例えば、賃料の不払いにより賃貸借契約を解除したにもかかわらず、賃借人が建物に居座って退去しない場合には、賃貸人は賃借人に対し、建物明渡しと未払賃料の支払を求めることとなり当事者間に争いが生じます。
話し合いによって両者間で建物明渡しについて合意がされそれを書面にしても、明渡しがされるとは限りません。また、合意書に基づいて強制執行することもできません。
債務名義
強制執行するには債務名義が必要です。債務名義には、確定判決、仮執行宣言付判決、執行証書(強制執行受諾文言のある公正証書)、和解調書などがあります。
上記設例の場合、合意がされた際に訴え提起前の和解手続を利用することが考えられます。和解調書を作成しておけば強制執行が可能となるからです。つまり、訴え提起前の和解とは、訴訟提起をせずに債務名義を取得することを目的とする手続と言えます。
和解の申立て
和解の申立ては、請求の趣旨及び原因並びに争いの実情を表示して行います。管轄は、相手方の住所または主たる営業所の所在地を管轄する簡易裁判所です。請求金額が140万円を超えるものであっても同様です。
ちなみに、建物明渡しにおける請求金額は目的物の価額の2分の1となります。アパートの一室など建物の一部を目的とする場合、固定資産税評価額の平米単価に対象部分の床面積を乗じて算出します。140万円以下の場合のみ、司法書士が代理人として手続をすることができます。
和解期日
和解期日当日、当事者双方が和解条項について合意し、かつ、裁判所が相当と認めた場合に和解が成立し、和解調書が作成されることになります。和解調書正本は、原則、和解期日当日に双方に交付送達します。
申立人または相手方が和解の期日に出頭しないときは、裁判所は、和解が調わないものとみなすことができます。
訴訟への移行
和解が調わない場合において、和解の期日に出頭した当事者双方の申立てがあるときは、裁判所は、直ちに訴訟の弁論を命じます。この場合においては、和解の申立てをした者は、その申立てをした時に、訴えを提起したものとみなされます。
ちなみに、手形訴訟による審理及び裁判を求める旨の申述は、和解手続から訴訟手続への移行の申立ての際にしなければなりません。
判決による抵当権抹消登記手続き
はじめに
抵当権が残っている場合に抵当権者が抹消登記申請に協力しない場合には、訴訟を提起したうえで勝訴判決を取得して抵当権設定者が単独で抹消登記申請をすることができます。
所有権に基づく妨害排除請求
例えば、他人の土地に無断駐車をすればその土地を自由に使用することができなくなり、所有権が侵害されます。同様に、自己所有の不動産に抵当権が残っている場合には、抹消しない限り売却することができませんので、所有権の内容の一つである自由に所有物を処分する権利が侵害されていると言えます。
どちらのケースにおいても物権内容の実現のため、所有権に基づく妨害排除請求として、前者では車の移動、後者では抵当権抹消登記手続を求めることが認められています。
請求原因
請求原因とは、裁判において請求を基礎づける法的根拠のことをいいます。抵当権設定登記抹消登記手続請求訴訟における請求原因は、原告が現在、不動産を所有していることとその不動産に抵当権設定登記が存在することになります。
これだけと思われるかもしれませんが、この2つを請求原因として原告は訴訟の提起ができるのです。
登記の権利推定力との関係
不動産登記の効力の一つに権利推定力というものがあります。登記があれば、その記録通りの実体法上の権利関係が存在するであろうという推定を生じさせる効力のことをいいます。法律上の推定・事実上の推定のいずれに当たるかについては解釈が分かれ、事実上の推定力を認めるに過ぎないとする判例もあります。
難しいことは割愛しますので、抵当権設定登記に理由があること(登記保持権原といいます。)の主張立証を被告側がしなければならず、原告側にその理由がないことの立証責任はないということを押さえておきましょう。
ちなみに、原告による弁済によって抵当権が消滅したことの主張立証は再抗弁(後述します。)となります。
登記保持権原の抗弁
被告側は、被担保債権の発生原因事実(金銭消費貸借契約等)、債権担保のために抵当権設定契約を締結したこと、設定契約時、抵当権設定者が担保不動産を所有していたこと及び原告の主張する抵当権設定登記が、抵当権設定契約に基づくことを主張立証しなければなりません。
登記識別情報ができる前には、差入形式の抵当権設定契約証書に登記済の判が押され、受付年月日と受付番号が記載されていましたので、その当時設定された抵当権については立証が容易であることが考えられます。
再抗弁
登記保持権原の抗弁に対して、原告は被担保債権の弁済等の再抗弁を主張立証することができます。
被担保債権・抵当権は、その成立・消滅において運命を共にします。つまり、被担保債権が存在しなければ抵当権も存在することができず、被担保債権が消滅すれば抵当権も当然に消滅します。このような担保物権の性質を「付従性」といいます。
ちなみに、確定前の根抵当権は付従性を有していませんので、被担保債権が消滅しても根抵当権は存続します。
少額訴訟債権執行について
はじめに
以前の記事「少額訴訟について解説します!」で少額訴訟手続の制度について解説しましたが、債権者が勝訴判決を得たとしても、債務者が観念して任意に支払いに応じるとは限りません。そのような場合には地方裁判所における強制執行手続に頼らなければならず、債権の実現を簡易迅速に図ることができないことになります。
そこで、少額訴訟において債務名義(債権の存在、範囲を公的に証明した文書)を取得した債権者が、簡易裁判所の裁判所書記官に対して、金銭債権の執行を求めることができる制度を設けることとし、それを少額訴訟債権執行といいます。
ちなみに、司法書士は強制執行手続について代理することはできませんが、少額訴訟債権執行の手続については、請求の価額が140万円までのものであれば代理人となることができます。
利用することができる債務名義
1.少額訴訟における確定判決
2.仮執行の宣言を付した少額訴訟の判決
3.少額訴訟における訴訟費用又は和解の費用の負担の額を定める裁判所書記官の処分
4.少額訴訟における和解又は認諾の調書
5.少額訴訟における民事訴訟法第275条の2第1項の規定による和解に代わる決定
1または2により、これに表示された当事者に対し、またはその者のために少額訴訟債権執行を行う場合を除き、執行文(債務名義の執行力の存在と範囲を公証するため、執行文付与機関が債務名義の正本の末尾に付記した文言)の付与を受ける必要があります。
執行証書以外の執行文は事件の記録の存する裁判所の書記官が付与するものとされていますので、簡易裁判所に事件の記録がある場合には、簡易裁判所の書記官が執行文を付与することになりますが、前述したように、強制執行に関する手続になりますので司法書士が代理することはできません。
対して、少額訴訟に係る債務名義についての執行文の付与の申立については、少額訴訟債権執行の手続に含まれるものと解されますので、司法書士が代理することができるものと解されています。
換価
少額訴訟債権執行においては、原則として、金銭債権を差し押さえた債権者が、債務者に対して差押命令が送達された日から1週間を経過したときに、その債権を取り立てることにより行われます。転付命令(被差押債権を支払いに代えて券面額で債務者から差押債権者に移転させること)等は認められていません。
また、被差押債権について第三債務者が供託を行った場合に、配当手続不要のときには裁判所書記官による弁済金の交付手続が行われます。
地方裁判所への移行
転付命令等を求めようとする差押債権者は、執行裁判所に対し、転付命令等のいずれの命令を求めるかを明らかにして、債権執行の手続に事件を移行させることを求める旨の申立をしなければならないとされています。
この申立を司法書士が代理人としてすることは可能ですが、移行後の地方裁判所における債権執行の手続においては代理することは許されません。
他にも、配当手続が必要なとき、執行裁判所の裁量によって移行されることがあります。上記移行の決定に対しては、不服を申し立てることはできません。
少額訴訟について解説します!
少額訴訟とは?
原則1回の審理で行う迅速な手続で、60万円以下の金銭の支払を求める場合に限り利用できる制度です。紛争の内容があまり複雑でなく、契約書等の証拠となる書類や証人をすぐに準備できる場合は、少額訴訟によることが考えられます。
このように、簡易裁判所の管轄に属する事件において、一般市民が訴額に見合った経済的負担で、迅速かつ効果的な解決を裁判所に求めることができる手続のことを指します。
60万円以下の金銭支払請求
簡易裁判所においては、訴訟の目的の価額が60万円以下の金銭の支払の請求を目的とする訴えについて、少額訴訟による審理及び裁判を求めることができる。ただし、同一の簡易裁判所において同一の年に最高裁判所規則で定める回数を超えてこれを求めることができない。
2 少額訴訟による審理及び裁判を求める旨の申述は、訴えの提起の際にしなければならない。
3 前項の申述をするには、当該訴えを提起する簡易裁判所においてその年に少額訴訟による審理及び裁判を求めた回数を届け出なければならない。
訴訟の目的の価額が60万円以下の金銭支払請求を目的とする訴えに限り少額訴訟の対象となります。貸金、売買代金、家賃・地代の請求などが該当します。建物明渡し、登記手続請求などは認められません。
また、利用回数の制限が設けられており、同一の原告が、同一の簡易裁判所において、同一の年に10回を超えて少額訴訟手続を利用することはできません。一般の方には無関係な規定だと思いますが、貸金業者等の反復利用を許さないという趣旨で設けられています。
証拠調べの特則
証拠調べは、一期日審理の原則から、即時に取り調べることができる証拠に限りすることができます。したがって、原告当事者本人や証人は口頭弁論期日に出廷する必要があります。
被告の移行申述権
被告は、訴訟を通常の手続に移行させる旨の申述をすることができます。ちなみに、被告に司法書士、弁護士などの代理人が付いている場合には、ほぼその申述がなされます。移行後は、反訴の提起禁止、証拠調べの制限などの制約がなくなります。
また、裁判所は、少額訴訟手続による審理及び裁判をするのが相当でないと認めるときなどの場合には、訴訟を通常の手続により審理及び裁判をする旨の決定をしなければならないとされています。
控訴の禁止
通常手続においては、終局判決に対して控訴等の上級審への不服申立が認められますが、少額訴訟では、その判決をした簡易裁判所に対する異議の申立だけが許されています。
少額訴訟制度が迅速な紛争解決を目的とするものですので、控訴を認めてしまうと解決までに多くの時間と費用を要することになってしまうからです。
手続利用上の注意点
迅速な紛争解決が期待できますが、手続利用のためには周到な準備が必要となります。
例えば、貸金返還請求をする場合に被告が消滅時効を主張して争ってくることが予想されるときには、被告が債務承認をしたこと(再抗弁)を立証する証拠を準備しておくなどです。書証や証人の在廷が該当します。
被告の欠席により、準備が空振りに終わることがあるかもしれませんが、少額訴訟手続を利用する際にはその点を心掛けることが重要だと考えています。