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はじめに
配偶者が自宅に住み続けられるようにする制度として、2020年に導入された「配偶者居住権」。これを確実に残すために遺言を作成するケースが増えています。しかし、遺言の文言として「妻に配偶者居住権を相続させる」と書いてしまうと無効になるのではないか、と不安に思う方も少なくありません。
実は、配偶者居住権は民法第1028条第1項により遺産分割または「遺贈」によって取得させる必要があるとされています。相続ではなく遺贈を要件とするのは、配偶者の不利益を避けるためです。もし相続方式を認めると、配偶者が居住権だけを拒否することができず、不要な場合でも相続放棄を選ばざるを得なくなるからです。
また、配偶者居住権には善管注意義務や通常の必要費負担など一定の義務が伴うため、負担付の「相続させる遺言」との整合性も問題となります。では、「相続させる」と書かれた遺言は無効なのでしょうか。
先例の変遷
令和2年の通達(民二324号)では、文言が「相続させる」であっても、遺言全体から遺贈の趣旨と読み取れれば遺贈として扱うという柔軟な解釈が示されていました。しかし、令和3年通達(民二744号)では、さらに踏み込んだ整理が行われます。
令和3年通達のポイント
- 建物の所有権部分については、特定財産承継遺言(相続させる遺言)として扱える場合がある。
→ この場合、所有権移転登記の原因は「相続」となり、相続人が単独で申請できる。 - 配偶者居住権そのものは、従来どおり「遺贈」でしか取得できない。
- 遺言全体から遺贈の趣旨と解釈できる場合は、遺贈として登記申請が可能。
ここで重要なのは、所有権移転登記の取扱いが「相続」でもよい場合があると明確にされた点です。
配偶者居住権設定登記には前提となる所有権登記が必須
配偶者居住権の設定登記は、所有権以外の権利として乙区に登記されます。そのため、まず前提として所有権移転登記(相続または遺贈)を備える必要があります。
前提登記が「相続」の場合
→ 相続人が単独申請でOK。
前提登記が「遺贈」の場合
- 受遺者が相続人であれば単独申請が可能(不登法63条3項)。
※この単独申請制度は令和5年4月1日施行だが、施行日以後の申請であれば、相続発生がそれ以前でも適用される。 - 受遺者が相続人以外の場合は共同申請が必要(不登法60条)。
また、遺贈者(被相続人)の登記上住所が死亡時と異なる場合、
- 受遺者が相続人なら同一性証明情報で足り、住所変更登記は不要
- 受遺者が相続人以外なら住所変更登記が必要
という違いもあります。
結論:文言だけで遺言が無効になるわけではない
配偶者居住権は「遺贈」で与える必要がありますが、遺言に「相続させる」と書かれていても、遺言全体から遺贈の趣旨と解釈できれば有効に扱われるというのが現在の実務です。さらに、令和3年通達により、建物の所有権部分は「相続」扱いにできる場合があるという柔軟な運用が認められました。
つまり、文言の誤りだけで直ちに遺言が無効になるわけではないものの、誤解や登記手続の混乱を避けるためには、「配偶者居住権を妻に遺贈する」と明確に書くことが最も安全です。

司法書士の藤山晋三です。大阪府吹田市で生まれ育ち、現在は東京・三鷹市で司法書士事務所を開業しています。人生の大半を過ごした三鷹で、相続や借金問題など、個人のお客様の無料相談に対応しています。
「誰にも相談できずに困っていたが、本当にお世話になりました」といったお言葉をいただくこともあり、迅速な対応とお客様の不安を和らげることを心掛けています。趣味はドライブと温泉旅行で、娘と一緒に車の話をするのが楽しみです。甘いものが好きで、飲んだ後の締めはラーメンではなくデザート派です。
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