辞任する代表取締役に対する意思確認はすべきなのか

事例

司法書士甲は、株式会社乙の代表取締役Aから、前代表取締役Bの辞任に伴う取締役及び代表取締役の変更登記を依頼された。Aの話によると、Bが代表取締役たる取締役を辞任したので、取締役の互選でAが新たな代表取締役に選任されたということであった。

甲が、Aが持参した乙の登記事項証明書、原始定款を見ると、Bが取締役を辞任しても、定款上の取締役の員数は欠くことにはならなかった。Aが住所・氏名を含め全文ワープロで打たれたBの辞任届も持参していたので、甲はAにつき本人確認を行い、依頼どおりの登記申請を行った。

ところが、登記完了後1か月して、甲は、Bから、甲がBの辞任の意思を確認せず、虚偽の登記申請を行ったと苦情を申立てられた。

問題点

Bの辞任届に会社実印が押印されていれば登記申請は受理されます。(商業登記規則第61条第8項)会社実印の管理が杜撰でB以外の者が簡単に持ち出せるような環境にありますと、辞任届の偽造は容易です。

司法書士は、添付書類等の確認により実体関係の把握に努めなければなりませんが、全文ワープロ打ちの書面が偽造であるか否かを判断することは非常に困難だと思います。

参考判例(東京地判平成23・3・7)

上記事例と同様の事案につき、参考判例を掲げます。
原告X(B)は、Y(甲)に対し、Xの辞任の意思を確認しなかったことは、司法書士としての確認義務違反があるとして、民法第709 条に基づき金1000 万円の損害賠償を求めて訴えを提起したというものです。

※判旨
原告Xは、司法書士Yが本件登記(原告が株式会社乙の代表取締役及び取締役を辞任する旨の登記)をする際、原告Xの意思確認をすべきであった旨主張し、その根拠として、東京司法書士会規程を挙げる。しかし、同規程は、司法書士に対して事務の依頼者及びその代理人等について、本人確認及び意思確認をすべきであるとして、その方法を定めるものであって、役員変更の登記においてその対象となる役員の意思を確認すべきとするものではない。

本件登記の申請を司法書士Yに依頼したのは、本件会社の取締役であり、原告Xの代表取締役及び取締役の辞任によって本件会社の代表者となった新代表取締役Aであって、前記規程によって、司法書士Yが当然に原告Xの意思確認をすべきであったということはできない。また、原告Xは、他の司法書士からも本人の確認をすべきだと聞いているとか、司法書士の意見書等が手元にあるので提出するなどと述べるものの、当該意見書等を一向に提出しないなど、司法書士Yが原告の意思確認をすべきであったという注意義務の根拠についての前記以外の具体的な主張や立証をしない。

以上によれば、原告Xの主張・立証に照らしても、本件において、司法書士Yが本件登記をする際、原告Xの意思確認をすべきであったと認めるに足りる証拠はなく、司法書士Yに、原告X主張の不法行為が成立するとはいえない。なお、仮に、司法書士Yに、原告X主張の不法行為が成立するとしても、それによって原告Xにいかなる損害が生じたかについて主張・立証がなく、この点においても、原告Xの請求は認められない。

弊事務所における対応

上記事例のような場面において、Bの意思確認は行いませんが、辞任届には自署のうえ、会社実印ではなく個人実印(印鑑証明書添付)を押していただくようにお願いしております。

後のトラブル発生を防止する意味もありますが、司法書士は真正な登記の実現に努めなければならない責務を負っているのです。

 

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