認知症高齢者の家族の監督義務責任が問われたJR東海事件とは

概要

認知症高齢者Aが線路に立ち入ったことにより電車と衝突して死亡したのですが、原告であるJR東海がAの妻Bと子ら5名に対して、719万円余の損害賠償請求訴訟を提起したという事案です。賠償額の内訳は振替輸送費用、事故対応に係る人件費等でした。

Aはアルツハイマー型認知症であり、事故前には一人で外出して行方不明になったり、警察に保護されるなど徘徊とみられるような行動をとっていました。事故当時、要介護4の認定を受けており、重度の認知症だったようです。成年後見制度は利用しておらず、Aの介護にはBが当たり、長男Cの妻がA宅近隣に居住することによって介護の補助をしていました。

第1審判決・名古屋地判平成25年8月9日

第1審の名古屋地裁判決はBとCに請求全額の賠償を命じ、原告の請求を認容しました。

Bについては、Aから目を離せば、Aが外出して徘徊し、その結果本件事故のような他人の生命、身体、財産に危害を及ぼす事故を具体的に予見することができたといえる。Aから目を離さずに見守ることを怠った過失があり、かつ、仮にBがこれを怠っていなければ本件事故の発生は防止できた。

Bには、民法709条により損害を賠償する責任があるとし、Cについては、社会通念上、民法714条1項の法定監督義務者や同条2項の代理監督者と同視し得るAの事実上の監督者であったと認めることができると判示しました。B・Cは控訴します。

第2審判決・名古屋高判平成26年4月24日

第2審の名古屋高裁判決はBについてのみ約360万円の賠償を命じ、原告の請求を一部認容しました。

Aは、本件事故当時、重度の認知症による精神疾患を有する者として、精神保健福祉法5条の精神障害者に該当することが明らかであった者と認められるから、同法20条1項、2項2号により、BはAの配偶者として、その保護者の地位にあったものということができるとしました。

その後、精神保健福祉法は改正され、改正法は平成26年4月1日から施行されています。事故当時、精神障害者については、その後見人又は保佐人、配偶者、親権を行う者及び扶養義務者が保護者となり、保護者が数人ある場合のその義務を行うべき順位は①後見人又は保佐人、②配偶者(以下、略)とする保護者制度が採用されていましたが、現在は廃止されています。B、JR東海がそれぞれ上告します。

最判平成28年3月1日

最高裁はJR東海の請求を棄却する内容の判決を出しました。

精神障害者と同居する配偶者であるからといって、その者が民法714条にいう「責任無能力者を監督する法定の義務を負う者」に当たるとすることはできないとし、精神上の障害による責任無能力者について法定の監督義務者に該当しない者であっても、その監督義務を引き受けたとみるべき特段の事情が認められる場合には、「法定の監督義務者に準ずべき者」として、民法714条1項が類推適用されると判示しました。

最後に

B・Cが法定の監督義務者に準ずべき者に当たるか否かについて、Bは当時85歳で左右下肢に麻痺拘縮があり要介護1の認定を受けており、Aの介護につきCの妻の補助を受けていたこと等、Cは当時20年以上もAと同居しておらず、上記の事故直前の時期においても1か月に3回程度週末にA宅を訪ねていたにすぎない等の事情により、いずれも否定されています。

認知症高齢者の家族が介護に熱心であったり、専門職後見人が身上監護に事実上も関与する等によって法定の監督義務者に準ずべき者に該当することも考えられます。そうなると、できるだけ介護に関わらないようにしようとか、専門職後見人であれば本人の希望を軽視して安易に施設入所をさせてしまうといった問題が生じることが懸念されます。遺族の責任が否定されたからといって、手放しで受け入れることができない判決だと思います。

 

お問い合わせフォーム

 

ページの上部へ戻る

keyboard_arrow_up

0422478677 問い合わせバナー