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損失填補と原状回復
受託者がその任務を怠って、信託財産に損失が生じた場合や信託財産に変更が生じた場合、受益者は、受託者に対し、損失の填補や原状の回復を請求することができます。
ただし、信託財産に変更が生じた場合の措置については、原状の回復が著しく困難であるとき、原状の回復をするのに過分の費用を要するとき、その他受託者に原状の回復をさせることを不適当とする特別の事情があるときは、原状回復の請求をすることはできません。(信託法第40条第1項)
信託事務の処理を第三者に委託した際の責任
信託事務処理の委託については以下を参照して下さい。
「受託者は信託事務の処理を他人に依頼することはできるのか」
信託事務処理を第三者に委託する場合には、原則として、信託行為(信託契約書など)において第三者に委託できる旨を定めておくことが必要です。
第三者に委託できる旨の定めがなくても第三者に委託することが信託の目的に照らして相当であると認められるとき、または信託行為(信託契約書など)に信託事務処理を第三者に委託してはならない旨の定めがある場合において、信託事務処理を第三者に委託することにつき信託の目的に照らしてやむを得ない事由があると認められるときには、委託することが認められています。(信託法第28条)
これらの規定に違反して信託財産に損失や変更が生じた場合には、受託者は上記の損失填補や原状回復の責任を負うことになります。受託者は、第三者に委託をしなかったとしても損失または変更が生じたことを証明しなければ、責任を免れることができません。(信託法第40条第2項)
受託者の違反行為の際の責任額
損失の額の推定
受益者が、受託者に対し、信託財産の損失の填補請求をする場合には損失の額を主張立証しなければなりません。その受益者の負担を軽減するために、受託者が違反行為(下記の3つの違反行為)をした場合には、その行為によって受託者またはその利害関係人が得た利益の額と同額の損失を信託財産に生じさせたものと推定されます。(信託法第40条第3項)
したがって、受託者の反証(得た利益の額と損失の額が違うことを証明すること。)がない限り、推定を覆すことはできません。
受託者の3つの違反行為
1.忠実義務違反
受託者は、受益者のため忠実に信託事務の処理その他の行為をしなければならないと規定されています。(信託法第30条)したがって、受益者の利益を害するおそれのある受託者の行為は忠実義務違反となります。
2.利益相反行為
当事者の一方の利益が、他方の不利益になる行為のことを指します。例えば、受託者が信託財産に属する財産を固有財産に帰属させたり、受託者が第三者に負担する債務につき信託財産たる不動産に抵当権を設定するなどがそれに当たります。原則として、受託者の利益相反行為は禁止されています。(信託法第31条第1項)
3.競合行為
例えば、信託財産及び受託者の固有財産に賃貸不動産があるとします。受託者が、信託財産たる賃貸不動産の賃貸借契約を締結する権限を有している場合に、それをせずに固有財産たる賃貸不動産の賃貸借契約を締結して信託財産に利益をもたらさない行為のことなどを指します。
受託者は、受託者として有する権限に基づいて信託事務の処理としてすることができる行為であってこれをしないことが受益者の利益に反するものについては、これを固有財産又は受託者の利害関係人の計算でしてはならないと規定されています。原則として、受託者の競合行為は禁止されています。(信託法第32条第1項)
分別管理義務違反の責任
分別管理義務については以下を参照して下さい。
「家族信託の用語解説-分別管理義務とは?」
受託者が信託財産を分別管理していなかった場合において、信託財産に損失又は変更を生じたときは、受託者は、仮に分別して管理をしたとしても損失又は変更が生じたことを証明しなければ、損失填補や原状回復の責任を免れることができないとされています。(信託法第40条第4項)
法人である受託者の役員の連帯責任
受託者が法人である場合、その法人の役員等が責任を問われることがあります。 法人である受託者の理事、取締役若しくは執行役またはこれらに準ずる者は、その法人が上記の責任を負う場合において、法人の行った法令または信託行為(信託契約書など)の定めに違反する行為につき悪意または重大な過失があるときは、受益者に対し、その法人と連帯して、損失の填補または原状の回復をする責任を負うとされています。(信託法第41条)
責任の免除
受益者は、受託者の損失填補・原状回復の責任を免除することができるとされています。法人である受託者の役員の連帯責任についても同様です。(信託法第42条)
消滅時効
受益者が受託者に対し、責任を問うことができる期間については消滅時効があります。時効の起算点は、受益者が信託財産に損失または変更が生じたことを知ったとき(主観的起算点)、及び信託財産に損失または変更が生じたとき(客観的起算点)の2つがあります。
消滅時効の期間は、主観的起算点から5年、客観的起算点から10年となります。法人である受託者の連帯責任に係る債権の消滅時効期間は10年とされていましたが、上記と同様に改正されました。(信託法第43条第2項)以上は、民法の改正(2020年4月1日施行)に伴うものです。(民法第166条第1項)