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相続登記の依頼で判明する放置された抵当権
相続登記(相続による不動産の名義変更)のご依頼を受けたときに登記簿を見ると抵当権が残っていることがあります。ほとんどの場合、既にローンを完済されて抵当権抹消書類一式を預かったまま登記申請をしていないことによるものです。
ローンの完済により抵当権は消滅し、その効果は誰に対しても主張することができます。ただ、不動産取引の実務においては抵当権が残ったままでは売却することはできません。相続した不動産を売却するケースは非常に多く、そこに住む者がいないために空き家になることが原因となっています。
買主の立場に立って考えてみればわかりますが、いくら実体的には消滅しているとはいえ、抵当権の付いた不動産は買わないということなのです。
参事からの委任状
今回、私が依頼を受けた案件では抵当権抹消書類が40年以上の長期間にわたり保管されていました。紛失されてしまうと、金融機関に抹消書類の再発行依頼をしたうえで抹消登記申請をしますが、その登記申請も通常の手続とは異なったものとなります。
抹消書類があってよかったと安堵したのですが、金融機関の委任状は参事が作成したものでした。支配人や代理人からの委任状は目にしたことはありますが、参事というものを初めて見ましたので、先ずはそれを調べることになったのです。結果、株式会社に置かれる支配人と同様のものだということがわかりました。
支配人の登記はどこでされる?
本店所在地に決まっているじゃないかと言われるかもしれません。確かに会社法が施行されてからはそうなっています。(会社法第918条)ただ、それ以前の旧商法においては、支配人を置いた営業所にのみ登記することになっていたのです。
何が言いたいのかといいますと、委任状を作成した参事(支配人)が代表権を有していた期間を調べるための閉鎖抄本の請求先は本店所在地を管轄する法務局ではなく、参事を置いた営業所(事務所)を管轄する法務局になるということです。
保存期間を経過しても閉鎖抄本が取れることもある
閉鎖された商業登記簿の保存期間は20年ですが、今回は昭和62年に閉鎖されたものが取得できました。しかし、求めていたのは40年以上前のものでしたから、委任状を作成した者が有していた代表権を証明するものは廃棄済みとなっていたのです。
そこで、抹消書類を発行した金融機関に連絡を取って、新たに解除証書と委任状を発行してもらいました。その結果、抵当権抹消登記は無事に完了したのです。
抹消書類受け取ったならすぐ登記
これを標語にしてこの記事の結びにしたいと思います。繰り返しになりますが、ローンを完済しても抵当権が残ったままでは不動産売却はできません。
お手元に抵当権抹消書類があるなら、そのうちに登記をやっておこうではなく、今すぐにされることをお勧めします。