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相続放棄を自分でする方法を司法書士が解説します!
はじめに
前回の記事「相続放棄をする場合に必要な戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本について」にて、必要な戸籍謄本の解説をしていますので、先にお読みいただくことをお勧めします。今回は、相続発生日に相続の開始を知り、3ヶ月以内に相続放棄の申述(申述人が成人の場合)を自分でする方法を解説していきます。
管轄する家庭裁判所を調べる
裁判所の管轄区域で管轄する家庭裁判所を調べます。申述の際に収入印紙800円分と連絡用郵便切手が必要となりますが、郵便切手については申述先の家庭裁判所によって異なりますので、電話で確認してください。
相続放棄申述書を作成する
申述書書式と書式記載例はダウンロードすることができます。申述先の家庭裁判所が支部・出張所であるときはその名称も記載します。放棄の理由については、どれを選択しても構いませんが、後に送られてくる照会書(回答書)の記載と一致していなければなりません。債務超過が理由になることが多いとは思いますが、理由を原因として相続放棄が不受理となるようなことはありません。
また、相続財産を調査する必要はありませんし、相続財産の概略については分かる範囲で記載をし、不明な箇所は空欄または「不明」と記載すればよいです。
相続放棄申述書と添付書類を郵送する
申述書の記載が終わったら、申述人の記名押印欄に押印します。印鑑は認印で構いませんが、後に送られてくる照会書(回答書)に同じ印鑑を押さなければなりませんので、コピーを取るなどしてどの印鑑を押したかがわかるようにしておきます。
押印後に800円分の収入印紙を貼り、戸籍謄本等の添付書類と所定の連絡用郵便切手を同封のうえ、申述先家庭裁判所に郵送します。
照会書(回答書)を返送する
1~2週間ほどで家庭裁判所から照会書が送られてきます。郵送でも申述ができることから、その目的は申述人の真意に基づいて相続放棄の申述がなされたのかを家庭裁判所が確認することです。照会書(回答書)の文面は家庭裁判所によって様々であり、照会書に質問事項の記載があって回答書を兼ねているものや、照会書と回答書が分かれているものもあります。
回答書には署名押印をしますが、上述したように申述書に押した印鑑と同じものを使用して押印します。質問事項には申述書と食い違いがないように記載していきますが、中にはどのように回答したらよいのかわからないものもあります。一例を挙げて説明します。
・あなたは、被相続人の遺産の全部又は一部について、これまでに、処分、隠匿又は消費したことがありますか。
法定単純承認に該当しないかを尋ねるものです。該当しますと相続放棄をすることができませんし、相続放棄後でも単純承認したものとみなされることがあります。
相続放棄申述受理通知書が送られてくる
回答書を返送して相続放棄の申述が受理されますと、家庭裁判所から「相続放棄申述受理通知書」が送られてきますので、それで完了となります。必要に応じて、債権者に提出又は提示するために「相続放棄申述受理証明書」を申請します。
相続放棄をする場合に必要な戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本について
はじめに
相続放棄は自分ですることも可能です。平日に仕事をされている方であっても、お昼休みに郵便局に行く時間が取れるのであれば、定額小為替証書、収入印紙、郵便切手を入手することができますし、戸籍謄本の取得及び相続放棄の申述も郵送ですることが可能です。この記事がそのような方の参考になれば幸いです。
必ず必要な書類
・被相続人(亡くなった方)の住民票の除票又は戸籍の附票
相続放棄の申述先は家庭裁判所になりますが、どこの家庭裁判所でもよいわけではなく、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申述しなければなりません。実際に住んでいた場所ではなく、住民登録されていたところがこの場合の住所地となります。家庭裁判所が管轄を確認するためにこの書類が必要になります。
・申述人(相続放棄する方)の戸籍謄本
相続人であること及び被相続人の死亡時点において現に存在する相続人であることを証するために必要になります。したがって、発行日が死亡日より後の戸籍謄本を取得しなければなりません。
その他必要な戸籍謄本等
(1)申述人が、被相続人の配偶者の場合
・被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
被相続人の死亡は戸籍で確認をします。死亡後に転籍をした場合には、転籍先の戸籍には死亡事項は記載されませんので、転籍前の除籍謄本を取らなければなりません。配偶者は相続人の順位に関わらず必ず相続人になりますので、他に相続人がいないことを証する必要がありません。
(2)申述人が、被相続人の子又はその代襲者(孫、ひ孫等)(第一順位相続人)の場合
・被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
・申述人が代襲相続人(孫、ひ孫等)の場合、被代襲者(本来の相続人)の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
被相続人の子又はその代襲者(孫、ひ孫等)は第一順位の相続人ですから、配偶者の場合と同様に他に相続人がいないことを証する必要がありません。相続人であることを証することで足りるのです。代襲相続人も同様で、被代襲者の死亡事項の記載のある戸籍を添付すればよいこととなります。
(3)申述人が、被相続人の父母・祖父母等(直系尊属)(第二順位相続人)の場合(先順位相続人等から提出済みのものは添付不要)
・被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
(2)までとは違い、第二順位以下の相続人の場合には先順位の相続人がいない(相続放棄した場合も含みます。)ことを証する必要があります。所謂「ないこと証明」が求められるのです。出生時から死亡時までの戸籍により、被相続人の子の有無がわかります。子には認知した子などの婚外子、養子を含みます。
・被相続人の子(及びその代襲者)で死亡している方がいらっしゃる場合、その子(及びその代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
子(及びその代襲者)の代襲相続人が一人もいないことを証する必要があります。一般的に、ないことを証明するのは、あることを証明するより困難になりますから、添付する戸籍謄本も大幅に増えることになるのです。
・被相続人の直系尊属に死亡している方(相続人より下の代の直系尊属に限る(例:相続人が祖母の場合、父母))がいらっしゃる場合、その直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
こちらも「ないこと証明」になります。民法の規定によれば、「親等の異なる者の間では、その近い者を先にする。」となっていますので、先順位の相続人がいないことを証する必要があるのです。
(4)申述人が、被相続人の兄弟姉妹及びその代襲者(おいめい)(第三順位相続人)の場合(先順位相続人等から提出済みのものは添付不要)
・被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
第三順位の相続人の場合には、第一・第二順位の相続人がいないことを証する必要がありますから、最も戸籍集めが大変と言えるでしょう。
・被相続人の子(及びその代襲者)で死亡している方がいらっしゃる場合、その子(及びその代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
ここまでの戸籍謄本等は、第二順位の相続人に添付が求められるものと同様です。
・被相続人の直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
第二順位の相続人がいないことを証する必要があります。被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本に、父母の死亡事項の記載がある戸籍が含まれていると思われます。祖父母については、生きていれば100歳を超えるようであれば死亡事項の記載のある戸籍謄本等の添付は不要でしょう。
・申述人が代襲相続人(おい、めい)の場合、被代襲者(本来の相続人)の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
上記3つとは違い、代襲相続人であることを証する「あること証明」を求めるものです。被相続人の兄弟姉妹が、相続の開始以前(同時死亡の推定がされる場合を含みます。)に死亡したときは、その者の子がこれを代襲して相続人となることから、被代襲者の死亡事項の記載が必要となります。
まとめ
戸籍謄本等の添付が求められるのにはそれぞれ理由があり、大まかに「ないこと証明」と「あること証明」の2種類のためとなります。「ないこと証明」の方が添付する戸籍謄本等の通数が多くなることが両者の違いです。
理由を理解すれば、添付書面を見なくても必要な戸籍謄本等がわかるようになります。出生時からの戸籍を求める理由は子の有無を調べるためですから、例えば、5歳まで遡って戸籍を取得した場合に出生時から5歳までの戸籍の添付を求めるのは、既に目的を達成していると言えるわけですから無意味なことになります。
連帯保証人の相続人として請求された場合の対処法
裁判となった事案
M銀行が金銭消費貸借契約に基づき主債務者に対して貸金等の支払いを求めるとともに、連帯保証契約に基づき、連帯保証人であるAに対して、連帯保証債務として各8,000万円の支払いを求める訴えを提起しました。その後、M銀行の請求を認める判決が出されて確定します。
判決確定後にAは死亡し、Aには子Cと弟Bがいました。CはAの死亡日から3ヶ月の熟慮期間内に相続放棄をして、BがAの相続人となりましたが、BがAの相続の承認・放棄をしないまま死亡します。Bには、子Dがいました。
Aの死亡から3年経過後に、M銀行はDに対する強制執行(差押え等)を可能にするための手続をとり、B名義の不動産を差し押さえました。Dは裁判所から送られてきた書面により、自分が8,000万円の債務を負担していることを知り、当該書面を受け取った日から3ヶ月の熟慮期間内に相続放棄をしました。
Dは、M銀行を被告として、Dに対する強制執行を可能にするための手続に対する異議の訴え(承継執行文付与に対する異議の訴え)を提起しました。相続放棄の熟慮期間は3ヶ月とされていますから、Dの相続放棄の効力の有無が熟慮期間の起算点をいつの時点とするかによって決するために、裁判ではそこが争点となりました。
※実際の事案ではM銀行が債権譲渡をしたり、相続人となった当事者の数が多くなっていますが、話を分かりやすくするために簡略化しています。
最高裁の判断(令和元年8月9日判決)
従来の考え方は、第1の相続(Aの相続)の熟慮期間の起算点は第2の相続(Bの相続)と同じであり、同時に進行するというものでした。ただ、それではあまりにもDに酷であることから、AとB・Dが疎遠であったなどの特段の事情があった場合には起算点を遅らせるという例外を認めていたのです。
対して、直近の最高裁判決では、DがBを相続したことを知っても、それをもってBがAを相続したことを知るわけではないので、D自身が、BがAの相続人となったことを知る必要があると示しました。要するに、従来の考え方を覆したわけですが、結果的には相続人の保護を優先するというものでした。
相続を承認するか放棄するかを選択する機会は保障されるべき
自分が8,000万円の債務を負担することになったという事実を突きつけられたときに、相続を放棄する余地がなかったとしたら、あまりにも酷なことでしょう。
上記判決の理由では、相続の承認又は放棄の制度は、相続人に対し、被相続人の権利義務の承継を強制するのではなく、被相続人から相続財産を承継するか否かについて選択する機会を与えるものであると述べられています。
1日でも早くご相談ください
ページタイトルに回答するなら、できるだけ早くご相談くださいということになります。相続放棄は、明らかに要件を満たしていないような場合を除いて受理されます。詳しくは、3ヶ月(熟慮期間)を超えた相続放棄についてをご参照ください。
相続放棄をしたからそれで終わりということではなく、単純承認をしたとみなされる場合や3ヶ月を超えて相続放棄をした場合には、後に債権者から訴訟を提起されて相続放棄の効力を争うことを余儀なくされる可能性があるのです。
ただ、そのような事態になったとしても、相続放棄の時期が早ければ裁判において立証を要する事項が減るのです。今回掲載した裁判は、1審、2審とも原告が勝訴しましたが、被告債権者の上訴により、最高裁まで争うことになりました。結果が覆ることはありませんでしたが、原告の相続人は多くの時間と労力を費やすことになりました。
叔父叔母に多額の借金や連帯保証債務があり、知らぬ間にご自身が相続人になっていたということは身近に起こり得ます。繰り返しになりますが、できるだけ早くご相談いただきたいと思います。