空き家特例の落とし穴 買主解体方式は本当に安全なのか?

はじめに

令和6年1月1日改正により、被相続人居住用家屋等の3,000万円特別控除(いわゆる空き家特例)は利用しやすくなりました。相続人が2人であれば、それぞれ3,000万円まで控除を受けることができるため、所得税・住民税を大幅に減らせる可能性があります。

私は以前、「空き家特例の注意点を解説します!(令和6年1月1日改正対応)」という記事を書きました。しかし、最近相談を受けた案件を通じて、改めて実務上の大きなリスクを感じましたので、今回はそのことについてお話ししたいと思います。

相談内容

相談者のご両親が相次いで亡くなり、父親名義の土地・建物について相続登記をしたいという内容でした。相続人は子ども2人のみ。建物は昭和50年頃に建築された古い住宅です。相続登記後は売却を予定しており、空き家特例の適用を希望していました。

ところが問題があります。建物解体費用を用意できないため、「建物付きで売却し、買主に建物を解体してもらう方法(買主解体方式)を利用したい」とのことでした。

近年、この方法を紹介する記事をインターネット上で見かけることがあります。しかし私は、この方法には相当なリスクがあると考えています。

売買契約書に特約を書いても安心とは言えない

買主解体方式では、

  • 買主が一定期限までに建物を取り壊す
  • 買主が空き家特例に必要な書類を交付する
  • 買主の責任で特例を受けられなかった場合は損害賠償する

という特約を売買契約書に定めることがあります。国土交通省も参考となる特約条項例を公表しています。しかし、ここで重要なのは、契約書に特約を書いても、空き家特例の適用が保証されるわけではないということです。

税務署が判断するのは、「契約書に何が書いてあるか」ではなく、「実際に期限までに建物が除却されたか」です。つまり、
特約あり→ 買主が解体しない→ 空き家特例不適用
という結果は十分にあり得ます。

買主解体方式には三重のリスクがある

私は買主解体方式には、税務リスク・履行リスク・回収リスクの三重のリスクがあると考えています。

税務リスク

買主が予定どおり解体しなかった場合、空き家特例を受けられなくなる可能性があります。相続人が2人であれば、場合によっては合計1,000万円を超える節税効果が失われることもあります。

履行リスク

買主に悪意がなくても、

  • 解体業者の人手不足
  • 工事の遅延
  • アスベストの発見
  • 近隣対応

などにより工期が遅れることがあります。結果として期限に間に合わない可能性があります。

回収リスク

仮に買主が契約違反をしたとしても、損害賠償金を任意に支払うとは限りません。訴訟をして勝訴判決を取得できたとしても、実際に回収できるかは別問題です。権利があることと、お金を回収できることは全く別なのです。

大手仲介会社に確認してみた

そこで私は大手仲介会社に、建物解体費用を用意できない場合でも、買主解体方式による売却を行うのかを確認してみました。回答は意外なものでした。

  • 契約時の手付金を解体費用に充てる
  • 不足する場合は決済時に精算する

というものでした。つまり実質的には、売主が建物を解体して更地で引き渡す方法を提案していたのです。この回答を聞いて私は、少なくとも大手仲介会社は、買主解体方式を積極的に推奨していないのではないかと感じました。

私は司法書士補助者時代に約12年間決済事務所に勤務し、多数の不動産決済に立ち会ってきました。その経験から率直に申し上げると、仲介会社の力量には大きな差があります。仲介会社選びを誤れば損害を受けることさえあります。

一方で、大手仲介会社はリスク管理や契約実務が非常にしっかりしています。詳細な社名については控えますが、長年の実務経験の中でその差を何度も見てきました。

税理士との連携が不可欠

私は今回のような案件については、税理士との共同受任を前提にしています。なぜなら、依頼者が本当に求めているのは相続登記そのものではなく、空き家特例を活用して税負担を軽減することだからです。司法書士は登記の専門家です。一方で税務の専門家ではありません。だからこそ、税理士と連携することが顧客にとって最大のメリットになると考えています。

空き家特例は非常に有効な制度です。しかし、多額の節税効果が期待できる一方で、適用要件を満たせなければその効果は失われてしまいます。インターネット上の「大丈夫です」「特約を入れておけば安心です」という説明だけを信じるのではなく、司法書士と税理士の両方に相談しながら慎重に進めることをおすすめします。

 

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