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はじめに
以前の記事「遺贈による登記手続(令和5年4月1日改正)」において、遺贈による所有権移転登記手続を解説しましたが、今回は遺贈者の登記簿上と最後の住所が相違する場合の名変登記について解説する内容となります。氏名が相違する場合も同様ですが、以下、住所変更があったことを前提として話を進めます。
前提としての名変登記が必要
相続を原因として所有権移転登記を申請するときには、名変登記は不要だということは司法書士なら誰でも知っています。
遺言書に基づいて登記申請をする場合には、原因が「相続」であろうと、「遺贈」であろうと、一般の方は「相続登記」で一括りにすることが多いように感じます。相続登記をお願いしたいとのご相談を受け、よくよくお話を伺ってみると実は遺贈であったということがあるのです。
言うまでもなく、共同申請となる「遺贈」を原因とする所有権移転登記の前提として、名変登記が必要となります。ちなみに、改正による相続人に対する遺贈の登記を単独申請する場合には、名変登記は不要です。
登記申請書の記載例
遺言執行者が名変登記申請を代理人に委任する場合の申請書の記載例を以下に掲げます。
登記申請書
登記の目的 所有権登記名義人住所変更
原 因 令和○年○月○日住所移転
変更後の事項 住所 東京都三鷹市野崎一丁目1番1号
申 請 人 東京都三鷹市野崎一丁目1番1号(注1)
亡法務太郎
添付情報 登記原因証明情報 代理権限証明情報(注2)
令和○年○月○日申請 東京法務局府中支局
代 理 人 東京都三鷹市下連雀三丁目44番13-403号
司法書士 藤山晋三
連絡先の電話番号 0422-47-8677
登録免許税 金1,000円
不動産の表示
不動産番号 1234567890123
所 在 三鷹市野崎一丁目
地 番 123番
地 目 宅地
地 積 123.45平方メートル
対象登記の順位番号 ○番
(注1)遺贈者の最後の住所氏名を記載します。遺言執行者の住所氏名を記載する必要はありません。
(注2)遺言書、死亡事項の記載ある戸籍謄本等、委任状などを添付しますが、後件で申請する遺贈による所有権移転の添付情報を援用することが多いでしょう。
遺贈による登記申請増加の可能性
司法書士などの専門職が遺言書の作成に携わる場合には、「遺贈する」より「相続させる」の文言を使うことが多いと思います。
ただ、遺言者が甥姪に財産を遺したいときに、その親(遺言者の兄弟姉妹)がご存命でいらっしゃる場合には、「相続させる」を使うことはできません。このことから、「○○に遺贈する。(この遺言の効力発生時に受遺者が相続人の立場にあるときは、「遺贈する」を「相続させる」と読み替える。)」のような記載が多く用いられていました。
改正によって、相続人に遺贈する際の登記の単独申請ができるようになりましたが、税務面や特定遺贈、包括遺贈の差異等を考慮すると、今後も遺言書には同様な記載がされることになると考えられます。また、単身者及び子供のいない夫婦が増加傾向にありますので、甥姪や第三者等に遺贈する内容の遺言書の作成が増加するのではないでしょうか。