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原則
委託者は受託者を信頼して財産を信託するわけですから、原則として受託者自らが信託事務の処理をしなければなりません。受託者の「自己執行義務」とも呼ばれています。
しかし、受託者も生身の人間なのですから病気になることもあれば、転勤などで遠方に居住しなければならないこともあります。税申告や不動産管理においては、より専門的な知識が要求される場面も考えられます。
このようなときでも、全て自己執行義務を要求するのは非効率的ですし、専門・分業化が当たり前の現代に合わない制度だと言えるでしょう。
他人(第三者)に委託することができる場合とは
以下の場合には、他人(第三者)に委託することができるとされています。(信託法第28条)
1.信託行為に信託事務の処理を第三者に委託する旨又は委託することができる旨の定めがあるとき。
2.信託行為に信託事務の処理の第三者への委託に関する定めがない場合において、信託事務の処理を第三者に委託することが信託の目的に照らして相当であると認められるとき。
3.信託行為に信託事務の処理を第三者に委託してはならない旨の定めがある場合において、信託事務の処理を第三者に委託することにつき信託の目的に照らしてやむを得ない事由があると認められるとき。
2番目の「信託の目的に照らして相当である」とは、具体的には信託事務のうち受託者自らが処理するよりもより高い能力を有する専門家(弁護士、税理士、司法書士など)を使用するほうが適当であると認められる場合や、費用・時間の面で効率的な場合を指すとされています。
このように、事務処理を第三者に委託してはならない定めがあったとしても、受託者は、一定の要件を満たせば事務処理を第三者に委託することができます。
第三者の選任及び監督に関する義務
信託事務の処理を第三者に委託するときは、受託者は、信託の目的に照らして適切な者に委託しなければならないとされています。(信託法第35条第1項)委託後においては、受託者は、当該第三者に対し、信託の目的の達成のために必要かつ適切な監督を行わなければならないと定められています。(同条第2項)
これらの受託者に課せられた選任・監督義務の規定は、以下に掲げる第三者に信託事務の処理を委託した場合には適用されません。ただし、受託者は、当該第三者が不適任若しくは不誠実であること又は当該第三者による事務の処理が不適切であることを知ったときは、その旨の受益者に対する通知、当該第三者への委託の解除その他の必要な措置をとらなければなりません。(同条第3項)
1.信託行為において指名された第三者
2.信託行為において受託者が委託者又は受益者の指名に従い信託事務の処理を第三者に委託する旨の定めがある場合において、当該定めに従い指名された第三者
実際の家族信託での活用例
「受託者は、信託事務の一部又は全部を、受益者の指図に基づき又は受託者の責任において選任する第三者に委託することができる。」のような条項を設けることが多いです。
受益者の指図に基づいて第三者を選任した場合には、受託者は上述した選任・監督義務を負いませんが、第三者が不適任若しくは不誠実であること又は第三者による事務処理が不適切であることを知ったときは、受益者に対して通知をし、委託の解除その他の必要な措置をとらなければなりません。
信託法においては、受託者が受益者に対する通知義務等を負わない定めを設けることも可能となっています。(同条第4項)
しかしながら、家族信託の場合、受託者個人を信頼して組成されるものが多いこと及び決して受益者がないがしろにされてはならないことから、通知義務等を排除するような条項を設けるべきではないと考えています。