ネット上、書籍などでは「民事信託」と「家族信託」の言葉がよく用いられていますが、両者の違いはあるのでしょうか。
このページの目次
商事信託と対になる名称
民事信託と区別され、対になるものとして商事信託というものがあります。受託者が営業として引き受ける信託がそれに当たります。信託銀行や信託会社が受託者となる場合です。
一般的には投資信託が商事信託に該当しますが、厳密には後述する民事信託とは仕組みが異なります。受益者である投資家が受託者である信託銀行等に財産を預けて、信託銀行等は自身の財産とは分別してそれを管理します。運用については、委託者である運用会社が受託者に指図することによって行います。
信託業の免許や登録がなければ、営業として信託を受託することはできません。したがって、司法書士等が営業として信託を受託することはできないのです。
対して、民事信託では信託行為が個人間でなされます。中でも親族内で信託行為がなされるものを家族信託と呼ぶようになりました。親族(家族)は営業として信託を引き受けているわけではありませんから、家族信託は民事信託に含まれるということになります。
民事信託が活用される理由
例えば、親が所有している不動産を(商事)信託したい場合で考えてみます。不動産の規模にもよりますが、一般的な戸建てやマンションを信託したい場合には信託銀行に相談に行ったとしても断られます。
信託銀行にとっては、ある程度の信託報酬の見込みがなければ受託者になるメリットはありません。受託者には重い責任がありますし、営業として信託を受託するには適さないと言えます。毎月数百万円以上の賃料収入を生み出す不動産なら商事信託も可能かと思われますが、多くの信託銀行が新規の不動産信託には消極的です。
このように、高額な信託報酬がネックとなりますので商事信託で目的を叶えることはできない現状があります。
信託銀行においても「家族信託」なる商品を扱っているところもあります。信託銀行が受託者となり、受益者代理人を親族、信託終了時の受取人(残余財産受益者)を推定相続人とすることが多いようです。ただし、信託できる財産は金銭に限られ、上述したように不動産を信託することはできません。
受託者は営業として信託を受託していますので、当然のことながら信託報酬を請求されますし、それ以外にも契約手数料、管理手数料等の名目で多くの費用がかかります。
不動産を信託したい場合には、家族信託を勧められます。上で「断られます」と書きましたが、お客様を門前払いするわけではなく、家族信託を勧めたうえでそれをサポートするための高額な手数料を取る商品が多いようです。
また、遺留分については一切考慮してくれませんので、相続発生時にトラブルに発展する可能性があります。
私見になりますが、家族信託を検討されている方は、最初から司法書士等に相談されたほうがよろしいかと存じます。信託銀行に依頼されても、実際の契約書案文は司法書士等の家族信託の専門家が作成しますし、信託登記については司法書士が申請します。
まとめ
民事信託とは営利を目的としない個人間でなされる信託行為のことをいいます。中でも信託当事者が家族(親族)である信託を特に家族信託と呼ぶようになり、家族信託は民事信託、商事信託どちらにも存在しうることになります。
実際のところ、「民事信託」と「家族信託」の両者を峻別して使用しているのではありませんから、同じ意味だと解釈しても全く問題はないと思います。