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事例
A、Bが共有する甲土地について、X銀行がAの持分のみを目的として抵当権を設定した。その後、AがBの持分を取得して甲土地はAの単独所有となった。
A・X間でAが取得した持分につき抵当権の追加設定契約を締結し、甲土地全体を目的とした抵当権にしたい場合、どのような登記を申請するべきなのか。
申請すべき登記
同一名義人が数回に分けて各別の登記により持分を取得している場合には,その登記に係るそれぞれの持分につき抵当権設定の登記を申請することができるとする先例があります。
しかし、既に所有権の一部を目的として抵当権の設定の登記がされており、その追加担保として残余の部分を目的として抵当権を設定した場合には、抵当権の効力を所有権全部に及ぼす変更の登記を申請します。
登記申請手続
実質的には抵当権の追加設定ですが、申請する登記は変更登記となりますので、申請情報の内容は特殊なものとなります。上記事例の場合、申請情報の申請人として「抵当権者 X銀行、設定者 A」ではなく、「権利者 X銀行、義務者 A」のように提供します。
申請情報の内容
・登記の目的
「○番抵当権の効力を所有権全部に及ぼす変更」
登記上の利害関係を有する第三者が存在する場合に、当該第三者の作成した承諾を証する情報若しくはその者に対抗することができる裁判があったことを証する情報を提供したとき、または、登記上の利害関係を有する第三者が存在しないときには、及ぼす変更登記は付記登記でなされます。
確実に付記登記でしてもらうために、「○番抵当権の効力を所有権全部に及ぼす変更(付記)」と記載することもあります。主登記、付記登記のいずれかで登記がされるものについては、括弧書きは登記官に対するアピールのようなものに過ぎません。
・登記原因及び日付
「年月日金銭消費貸借年月日設定」等
形式的には変更登記ですが、追加設定と同様となります。「年月日変更」ではありません。
・その他
「債権額」、「利息」、「損害金」、「債務者」などを提供する必要はありません。主登記を見れば分かるからです。
添付情報
・登記原因証明情報
「抵当権追加設定契約証書」等を添付します。通常はコピーを添付して原本還付手続をします。
・登記識別情報
実質的に追加設定と同様であることから、新たに持分を取得した際の登記識別情報を提供します。
・登記義務者の印鑑証明書
・登記上の利害関係を有する第三者が存在する場合の当該第三者の作成した承諾を証する情報またはその者に対抗することができる裁判があったことを証する情報
提供しない場合には、及ぼす変更登記は主登記でなされます。利害関係を有する第三者は、新たに抵当権の効力が及ぶ持分についての後順位抵当権者等が該当します。
登録免許税
変更登記であれば不動産1個につき金1,000円となりますが、及ぼす変更登記は実質的には追加設定登記となりますので、不動産1個につき「金1,500円(登録免許税法第13条第2項)」となります。
登記識別情報の通知について
及ぼす変更登記が完了しても、登記識別情報は通知されません。その後、抵当権を抹消する際には、主登記の抵当権を設定した際の登記識別情報または登記済証を添付すれば足ります。
ただし、及ぼす変更登記を平成17~20年頃より前に申請した場合には、法務局の大判が押され、受付年月日と受付番号を印字する取扱いがされていましたので、抹消する際にはその登記済証も添付する必要があります。