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事実関係
被相続人Aは生前、公正証書遺言を作成し、特定の財産(以下「本件財産」といいます)を相続人Xに承継させる旨を定めていました。その後、AはBを任意後見受任者とする任意後見契約を締結し、判断能力が低下したため家庭裁判所の審判を経てBが任意後見人に就任しました。
Bは任意後見人として本件財産を売却しましたが、これに対し、Xの兄弟Yは「遺言では本件財産をXに相続させることとなっていたにもかかわらず、任意後見人による売却は遺言内容と抵触し、遺言は無効である」と主張しました。
これに対し、Xは「売却行為はA自身によるものではなく、遺言との抵触はない」として、本件財産の所有権確認を求めて訴えを提起しました。
判旨
東京地裁は、任意後見人Bによる売却行為は民法第1023条第2項にいう「生前処分その他の法律行為」には該当しないと判断しました。したがって、本件遺言は無効とはならないとしました。
遺言は相続開始時に効力を生じるものであり、生前の法律行為を直接制約するものではありません。後見人の行為が遺言内容と抵触していても、それ自体が直ちに無効となるわけではなく、後見人の権限行使の適法性は「本人の利益保護」という観点から判断されるべきです。
もっとも、後見人が本人の意思や利益を顧みず、遺言を無視して財産処分を行った場合には、信義則違反や権限濫用として無効となり得ると付言しました。
考察
この判決は、遺言と任意後見制度の交錯に関する実務上の重要な指針を示しています。遺言は将来効を有する制度であり、後見人の行為を直接拘束するものではありません。しかし、後見人は本人意思を尊重すべき立場にあり、遺言という「本人意思の最終的表明」を軽視することは許されないのです。
したがって、後見人の財産処分が遺言内容と矛盾する場合には、本人意思尊重義務との関係で適法性が厳しく問われることになります。
実務的には、
- 任意後見契約締結時に遺言との整合性を確認すること
- 後見人が財産処分を行う際には遺言の存在を考慮し、本人意思を最大限尊重すること
が求められます。
この東京地裁判決は、「遺言は後見人を直接拘束しないが、後見人は遺言を無視できない」というバランスを示した点で、後見制度と相続法の接点を理解する上で極めて有益です。司法書士や弁護士にとって、任意後見契約の設計や遺言作成の助言に際して必ず参照すべき判例といえます。
一般の方にとっても、遺言と任意後見制度の関係を理解することで、将来の財産管理や相続対策に役立つ知識となります。

司法書士の藤山晋三です。大阪府吹田市で生まれ育ち、現在は東京・三鷹市で司法書士事務所を開業しています。人生の大半を過ごした三鷹で、相続や借金問題など、個人のお客様の無料相談に対応しています。
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