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婚姻の身分上の効力について
はじめに
歴史的な文化や社会構造の変化によって婚姻に対する考え方も変化してきています。
私が民法を勉強していた頃は、婚姻の効力については成年擬制が重要な論点でしたが、現在では条文は削除され、他の条項についても改正がされています。そこで、今回は婚姻の身分上の効力について解説したいと思います。
夫婦同氏の原則
夫婦は、婚姻関係が継続する限り、つまり、婚姻中は必ず同一の氏を称さなければなりません。民法等の法律では、「姓」や「名字」のことを「氏(うじ)」と呼んでいることから、同じ姓や名字を称さなければならないと読み替えても問題ありません。
法律上は夫婦どちらの氏を称してもよいのですが、実際には男性の氏を選び、女性が氏を改める例が圧倒的多数です。このようなことから、女性の社会進出等に伴う職業上の不利益、アイデンティティの喪失等を理由に選択的夫婦別姓制度の導入が議論されています。関心を寄せている方も多いでしょう。
平成27年の最高裁判決では、夫婦同氏の原則について、「氏には、夫婦及びその間の未婚の子が同一の氏を称するとすることにより、社会の構成要素である家族の呼称としての意義がある」、「夫婦同氏制度は、家族を構成する一員であることを対外的に公示し、識別する機能を有している」、「家族を構成する個人が、同一の氏を称することにより家族という一つの集団を構成する一員であることを実感することに意義を見いだす考え方も理解できる」、「夫婦同氏制度の下においては、子の立場として、いずれの親とも等しく氏を同じくすることによる利益を享受しやすいといえる」旨の判示がされています。
対して、選択的夫婦別姓制度については、「例えば、夫婦別氏を希望する者にこれを可能とするいわゆる選択的夫婦別氏制度について、そのような制度に合理性がないと断ずるものではない」、「この種の制度の在り方は、国会で論ぜられ、判断されるべき事柄にほかならないというべきである」旨の判示がされています。
生存配偶者の復氏
夫婦の一方が死亡したときは、生存配偶者は、婚姻前の氏に復することができます。離婚の場合と違い、当然に復氏するわけではありません。
同居、協力及び扶助の義務
夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければなりません。判例によれば、理由なく同居を拒む配偶者に対しては、他方は同居を請求することができますが、その者の意思に反した同居の強制執行は認められません。
貞操義務
貞操義務は、民法において明示的に規定されているわけではありませんが、婚姻の本質若しくは一夫一妻制に起因し、または、配偶者に対する誠実義務として解釈され、判例においても当然のこととされています。また、不貞行為が裁判上の離婚事由とされていますが、貞操義務を前提としているものと考えることもできます。
なお、離婚事由のうち「配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。」が民法等の一部を改正する法律(令和6年法律第33号)により、削除されています。この法律は、一部の規定を除き、令和6年5月24日から起算して2年を超えない範囲内において政令で定める日に施行されます。
成年擬制
令和4年4月1日施行の民法改正により、成人年齢が18歳に引き下げられ、また、婚姻可能な年齢も男女ともに18歳と改正されたことで、婚姻による成年擬制の条文は削除されています。
夫婦間の契約の取消権
夫婦間でした契約は、婚姻中、いつでも、夫婦の一方からこれを取り消すことができるとされていましたが、上記の令和6年5月17日に成立した「民法等の一部を改正する法律」により条文が削除されます。施行については、上述したとおりです。
不動産の付合とは
添付制度
民法が規定する所有権の取得原因の一つに添付があります。添付とは、付合、混和、加工を総称したものです。
添付制度は所有者が異なる2つ以上の物が結合したり、加工を施した結果、元に戻すことが著しく困難であるか、損傷することなく分離することが不可能な状態になり、社会的、経済的に1つの物と見られる関係にあたる場合に、これを所有権の対象物と認め、各所有者に分離の請求を認めないこととするものです。
これによって、原状に戻すことによる不利益を避けることができます。添付によって当事者の一方は所有権を失う等の不公平が生じますが、償金請求を認めることによって均衡が図られています。
要は、所有権の取得を認めることで誰のものになるのか分からないといった事態を避け、その結果生じた当事者間の不公平はお金によって解決しようということです。なお、添付によって生じた物を誰の所有とするかについての規定や償金に関する規定は任意規定とされていますので、当事者の意思によって変更することができます。
条文
不動産の所有者は、その不動産に従として付合した物の所有権を取得する。ただし、権原によってその物を附属させた他人の権利を妨げない。
「付合」とは、物(動産)が不動産に付着合体して独立性を失い、一般に不動産そのものと認められ、その分離復旧が社会経済的に不利益となる場合をいいます。付合した物には付着しても独立性を失わない従物はこれに含まれません。
弱い付合
不動産に動産を附属させた場合に、附属させた物が付合の要件を満たすときであっても、それが権原(地上権、賃借権等の不動産に附属させる動産の所有権を留保することができる権利)によってされたときには付合は生じません。この場合、附属された動産は独立性を有するいわゆる弱い付合でなければなりません。
例えば、権原のある者が土地に立木を植栽したときです。なお、同条ただし書きによって留保した立木の所有権を第三者に対抗するためには、明認方法、用益権の登記等の対抗要件を備える必要があります。
強い付合
附属させた動産が不動産の構成部分となり、独立の所有権の存在を認めることができないようないわゆる強い付合の場合には、同条ただし書きの適用はありません。
例えば、賃借人が賃貸人の承諾を得て、その権原により賃借建物を増築しても、増築部分が従前の建物と別個独立の存在を有せず、その構成部分となっているときは、増築部分は建物の所有者に帰属します。
同様に、権原のある者が他人の土地に農作物の種子をまいたときは、独立性がなく土地の構成部分となりますので、強い付合に該当します。ただし、農作物が成熟してある程度独立性を有するに至れば、同条ただし書きが適用されます。
権原のない者による付合
不動産の所有者は、その不動産に従として付合した物の所有権を取得します。例えば、権原のない者が他人の土地に種苗を植栽したときは、種苗の所有権は土地所有者が取得します。前述したように、それに伴う不公平は償金によって解決が図られます。
なお、動産の所有者はもはやその物の分離復旧を請求することができず、また、不動産の所有者はその動産の除去を動産の所有者に請求できなくなります。
明認方法と立木の物権変動
明認方法とは
立木ニ関スル法律の適用を受けない立木、未分離果実、稲立毛等の土地と一体となっているものの権利関係を公示する方法で、対抗要件として慣習上認められているものです。
例えば、伐採のために植林した檜、杉等は不動産である土地の一部ですから、一般的には土地と共に取引の対象となりますが、植林した立木のみを伐採目的で売買することがあります。このように立木を土地から独立した取引の対象とする場合には、土地と分離した存在であることを公示して取引の安全に資することが求められます。
具体的方法
土地と分離して立木のみを譲り受けた場合等、その物権変動を対抗するための明認方法の具体的方法には以下のものがあります。
立木の皮を削って所有者であることを墨書する、山林内に炭焼小屋を作って製炭事業に従事する、現場に所有者を記した標識を立てるなどの方法が認められています。
立木の二重譲渡
事例:AがBに立木を譲渡した後、Cにも当該立木を譲渡した。
結論:先に明認方法を施した者が優先します。B・Cは明認方法を施さない限り、相互に立木の所有権を対抗することはできません。
土地と立木の譲渡
事例:AがBに立木とその地盤である甲土地を譲渡し、Bが立木について明認方法を施した後に、AがCに当該立木及びその地盤である甲土地を譲渡して所有権移転登記をした。
結論:甲土地の登記の先後によって決すべきであり、Bは立木及び甲土地の所有権をCに対抗できません。
Bは明認方法を施しているのになぜCに対抗できないのかと思われるかもしれません。前述したように立木は土地の一部に過ぎませんので、原則として土地の所有者がその土地上の立木の所有権を取得します。仮に所有者以外の他人が権原なく立木を植栽したとしても同様です。
取引関係に入ろうとするCは甲土地の登記簿をチェックするでしょうし、明認方法を施すより登記の方が公示方法として広く認識されているのですから、その負担をBに課したとしてもBに著しく酷であるとはいえないということです。
明認方法の消失
事例:AがBに立木を譲渡し、Bが明認方法を施したが、これが消失した後にAがCに当該立木を譲渡した。
結論:Bは、立木所有権をCに対抗することはできません。
明認方法は、立木の物件変動の公示方法として慣習上認められているものに過ぎません。それは、登記に代わるものとして第三者が容易に所有権を認識することができる手段で、しかも、第三者が利害関係を取得する当時にもそれだけの効果をもって存在するものでなければならないからです。
立木所有権の留保
事例:AがBに甲土地(地盤)を譲渡し、Bが登記をしないで立木を植栽した後、AがCに甲土地を立木を含むものとして譲渡し所有権移転登記をした。
結論:Bは明認方法を施していない限り、立木所有権をCに対抗することはできません。
Bは所有権によって立木を植栽していますので、民法第242条ただし書きが直接適用される場面ではありませんが、それを類推適用することによって立木所有権を留保することは認められています。それを第三者に対抗するためには明認方法などの公示を備えることが必要とされているのです。