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定額減税を受けるための確定申告について

2025-01-14

はじめに

定額減税の制度ですが、とにかく複雑すぎだと思いませんか。所得税が源泉徴収される給与所得者、予定納税をしている個人事業主等は2024年のうちに減税の恩恵を受けられているようですが、それらに当てはまらない方も多く、いくつものパターンが存在するためにご自身はどうなるのかが分からないといった事態が起きているようです。

また、会社の経理担当者の負担を増加させ、所得税税額から控除しきれない定額減税の金額がある場合は市町村が調整給付金の支給をすることから、担当部署の方々も大変な思いをされているようです。

住民税非課税世帯の場合

年金受給者等の住民税非課税世帯はどうなるのかについて解説します。結論から申し上げますと、所得税・住民税均等割を納めていない人は対象者にはなりません。

65歳以上で扶養親族がいない年金受給者の場合、控除額110万円、所得税基礎控除48万円、住民税非課税限度額45万円(1級地)により、年金収入のみであれば所得税158万円、住民税155万円が非課税基準となります。ただし、遺族・障害年金は非課税となりますし、ひとり親・寡婦に該当する場合等、扶養親族や社会保険料控除等の所得控除の適用によって非課税基準額が上がる場合があります。

このような住民税非課税世帯で令和5~6年に3万円、7万円の給付金を受け取っているケースにおいては定額減税制度による給付金7万円を受け取ることはできません。

令和6年に初めて住民税非課税世帯になった場合等には非課税世帯で7万円、均等割世帯で10万円の給付金が受け取れたようです。既に申請期限は経過していますので、この記事を執筆している2025年1月時点においては、給付金支給は完了しています。

確定申告書の記載例

確定申告によって定額減税の適用を受けようとする場合には、令和6年分の「所得税及び復興特別所得税の確定申告の手引き」が国税庁ホームページに掲載されていますので、参考にするとよいでしょう。

先ず、第1表の㊹に人数と金額を記載します。問題なのは控除しきれない場合はどのようにするのかです。配当控除や住宅ローン控除がある場合には所得税が0円になることもあり得ます。この件について某市に問い合わせたところ、国税に関することなので税務署に聞いてくださいと言われ、税務署に問い合わせたのですが、税務署が還付するわけではないので市町村に聞いてくださいと言われました。

結局のところ不足額給付を受けるためには金額の記載はマストだと思います。上記「手引き」にも記入漏れにご注意くださいとの記載もあります。

続いて、第2表の「配偶者や親族に関する事項」欄に同一生計配偶者又は扶養親族の氏名、マイナンバー(個人番号)、続柄、生年月日、「その他」 欄の☐に「2」を記入します。通常、16歳未満の子は記入しませんが、それも対象となりますので、対象者の「住民税」欄「16」に○をします。

最後に

要件を満たすことで青色事業専従者等への調整給付が決まるなど、ただでさえ確定申告の時期で忙しい税理士にとっては定額減税への対応がかなり大変なようです。

私は、税金の専門家ではないですから、わからないことがあれば納得のいくまで調べることにしています。物価高騰や円安に歯止めがかからない状況が続いています。金融リテラシーを身につけ、維持していくことが今後も求められるということなのだと思います。

免責的債務引受で生じる利益相反取引について

2025-01-06

事例

株式会社Xが所有する甲土地に抵当権者をY銀行、債務者をAとする抵当権が設定されたところ、Aが死亡し、B・Cが相続した。その後、Y銀行、B及びC間でBが免責的に債務を引き受ける契約が締結された。なお、Bは株式会社Xの代表取締役である。

抵当権変更登記

実際には、B所有の複数の不動産を共同担保とする共同抵当権だったわけですが、分かりやすくするために事例は簡略化しています。とにかく、上記事例による抵当権変更登記をすることになったのです。

民法第472条の4第1項、第2項によれば、Yは、あらかじめ又は同時にBに対する意思表示によってCが免れる債務の担保として設定された担保権をBが負担する債務に移すことができます。ただし、Xの承諾を得なければなりません。

間接取引

Xが承諾するということは、取締役Bの債務を物上保証するという間接取引に該当するのではないかと考えました。そうであるならば、株主総会議事録(Xは取締役会を置いていません。)を添付しなければなりません。

Yからは議事録の提出を求められましたので、私と同様の認識だったと思います。ところで、AはXの取締役ではないのにもかかわらず、抵当権設定時にもYはXに対し議事録の提出を求めたようです。

株主総会議事録の作成

間接取引を承認する株主総会議事録を作成することになりましたので、議案の記載例を以下に掲げます。補正なく登記が完了することを保証するものではありませんので、その点はご了承ください。

なお、株主総会議事録には議事録作成者の押印義務はありませんが、添付書類としては代表取締役が会社実印を押すことが求められます。そのうえで会社法人等番号を提供し、印鑑証明書を添付します。なお、印鑑証明書は会社法人等番号を提供することで添付を省略することができます。

債務引受実行日の登記申請が求められましたので、印鑑証明書の用意をお願いして、登記完了後に返却することとしました。商業登記なら最悪取下げてしまえば済むことですが、そうはいかなかったので念のため印影の確認をしたかったのがその理由です。

※記載例
第○号議案 取締役債務の物上保証の件
議長は、取締役Bより、Bが債権者Y銀行との間で、令和○年○月○日付免責的債務引受契約を締結するにあたり、当会社が民法第472条の4第1項ただし書きの承諾(以下、「本件承諾」という。)をしたい旨の提案がなされたことを述べた。議長から、本件承諾により下記の当会社が所有する不動産(以下、「本件土地」という。)をもって、取締役Bが債務者Cより引き受けた債務を物上保証することになる旨並びにCはBの長男で支払能力がないこと及び本件土地に設定されている抵当権(令和○年○月○日受付第○○号)の共同担保となっている本件土地以外の不動産はBが所有していること等の説明がなされた。審議の後、本件承諾の賛否を諮ったところ、満場異議なく可決承認された。

甲土地の表示

最後に

今回の事例は非常にレアなケースでしたので、初めて扱う案件となりました。補正の電話がかかってくるのではないかと内心ドキドキしていたのですが、あっさりと登記は完了しましたので本当によかったです。

株式配当金の確定申告はするべきか?個人事業主向け

2024-12-27

2024年の改悪

2023年の確定申告までは所得税を総合課税、住民税を申告不要とすることで源泉徴収された所得税の還付請求をしつつ、住民税、国民健康保険料の負担増を抑えることができました。

皆さんもご存じのとおりそれが改悪されて、2024年からは所得税を総合課税とするなら住民税も総合課税というように同一の課税方式によることとなり、住民税、国民健康保険料の負担増となって総合課税、分離課税(申告不要)のどちらを選択した方がよいのかを判断しなければならなくなりました。

もちろん、所得が低く所得税も住民税も非課税となる方は総合課税を選択することになるかと思いますが、その場合でも国民健康保険料の負担は増加しますので、改悪であることに変わりはありません。

誤解を招くSNS上の配当控除の解説

よく見られるのが源泉徴収の税率は20.315%(所得税15.315%・住民税5%)だから、実質的な税率がそれよりも低くなる課税所得金額695万円以下であれば総合課税を選択した方が得になるというものです。100%間違っているとは言いませんが、配当控除は税額控除なわけですから、実質的な税率が当てはまるのは配当所得しかない人です。

個人事業主であれば、配当所得以外にも事業所得、不動産所得等の所得がある場合の方が多いと思いますので、配当所得以外の所得については課税所得金額に応じた所得税率、住民税は一律10%で課税されるのです。ですから、一律に実質税率を持ち出して、ボーダーラインを判定する説明には違和感を覚えます。

住民税の試算

前述したように配当所得以外の所得には10%課税されますので、確定申告した方が良いのか否かについては住民税自動計算サイト等を使って試算してみることをお勧めします。

配当控除2.8%、源泉徴収された配当割額控除などは分かりやすいと思いますが、調整控除というものもあります。詳しい説明は割愛しますが、課税所得金額が200万円以下の場合には控除額がある程度の金額となる場合もあるので、控除額として無視することはできません。

自動計算ツールは住民税非課税の判定に対応してないこともあるようですので、お住まいの市町村のホームページ等で確認することも重要となります。また、2024年には定額減税もありますので、引ききれない個人事業主、同年起業された方等はそれも考慮したほうがよいでしょう。

国民健康保険料の試算

個人事業主が配当金を確定申告するうえで、最も注意しなければならないのは国民健康保険料の負担増です。

ちなみに、東京都武蔵野市の令和6年度所得割率の基礎課税額については、前年度から0.52%増の5.62%となっています。同市のホームページ上には税額試算シート(Excelファイル)が掲載されており、世帯員区分や所得額等を入力することによって概算額を試算することができます。

他の市町村においては、同様のことが可能かはわかりませんが、全国の市町村に対応したサイトもあるようですので、是非とも利用しておきたいところです。

最後に

税負担が増えていくのは仕方のないことだと思いますので、受け入れるしかないです。それにしても、個人事業主が負担しなければならない国民健康保険料は高いと感じています。扶養家族が増えるほどそれを痛感することになるでしょう。

節税対策として、マイクロ法人を設立する方法もあるようですが、子供が2人以上いる世帯なら考えてみても良いと思います。ただ、そのような方法が一般的になってしまいますと、できなくなるような法整備がされる気がします。

認知症高齢者の家族の監督義務責任が問われたJR東海事件とは

2024-12-23

概要

認知症高齢者Aが線路に立ち入ったことにより電車と衝突して死亡したのですが、原告であるJR東海がAの妻Bと子ら5名に対して、719万円余の損害賠償請求訴訟を提起したという事案です。賠償額の内訳は振替輸送費用、事故対応に係る人件費等でした。

Aはアルツハイマー型認知症であり、事故前には一人で外出して行方不明になったり、警察に保護されるなど徘徊とみられるような行動をとっていました。事故当時、要介護4の認定を受けており、重度の認知症だったようです。成年後見制度は利用しておらず、Aの介護にはBが当たり、長男Cの妻がA宅近隣に居住することによって介護の補助をしていました。

第1審判決・名古屋地判平成25年8月9日

第1審の名古屋地裁判決はBとCに請求全額の賠償を命じ、原告の請求を認容しました。

Bについては、Aから目を離せば、Aが外出して徘徊し、その結果本件事故のような他人の生命、身体、財産に危害を及ぼす事故を具体的に予見することができたといえる。Aから目を離さずに見守ることを怠った過失があり、かつ、仮にBがこれを怠っていなければ本件事故の発生は防止できた。

Bには、民法709条により損害を賠償する責任があるとし、Cについては、社会通念上、民法714条1項の法定監督義務者や同条2項の代理監督者と同視し得るAの事実上の監督者であったと認めることができると判示しました。B・Cは控訴します。

第2審判決・名古屋高判平成26年4月24日

第2審の名古屋高裁判決はBについてのみ約360万円の賠償を命じ、原告の請求を一部認容しました。

Aは、本件事故当時、重度の認知症による精神疾患を有する者として、精神保健福祉法5条の精神障害者に該当することが明らかであった者と認められるから、同法20条1項、2項2号により、BはAの配偶者として、その保護者の地位にあったものということができるとしました。

その後、精神保健福祉法は改正され、改正法は平成26年4月1日から施行されています。事故当時、精神障害者については、その後見人又は保佐人、配偶者、親権を行う者及び扶養義務者が保護者となり、保護者が数人ある場合のその義務を行うべき順位は①後見人又は保佐人、②配偶者(以下、略)とする保護者制度が採用されていましたが、現在は廃止されています。B、JR東海がそれぞれ上告します。

最判平成28年3月1日

最高裁はJR東海の請求を棄却する内容の判決を出しました。

精神障害者と同居する配偶者であるからといって、その者が民法714条にいう「責任無能力者を監督する法定の義務を負う者」に当たるとすることはできないとし、精神上の障害による責任無能力者について法定の監督義務者に該当しない者であっても、その監督義務を引き受けたとみるべき特段の事情が認められる場合には、「法定の監督義務者に準ずべき者」として、民法714条1項が類推適用されると判示しました。

最後に

B・Cが法定の監督義務者に準ずべき者に当たるか否かについて、Bは当時85歳で左右下肢に麻痺拘縮があり要介護1の認定を受けており、Aの介護につきCの妻の補助を受けていたこと等、Cは当時20年以上もAと同居しておらず、上記の事故直前の時期においても1か月に3回程度週末にA宅を訪ねていたにすぎない等の事情により、いずれも否定されています。

認知症高齢者の家族が介護に熱心であったり、専門職後見人が身上監護に事実上も関与する等によって法定の監督義務者に準ずべき者に該当することも考えられます。そうなると、できるだけ介護に関わらないようにしようとか、専門職後見人であれば本人の希望を軽視して安易に施設入所をさせてしまうといった問題が生じることが懸念されます。遺族の責任が否定されたからといって、手放しで受け入れることができない判決だと思います。

競業・利益相反取引の制限(会社法第356条)とは?

2024-12-16

不動産登記法の論点

取締役と株式会社間における不動産の売買等、不動産登記において論点となる利益相反取引ですが、今回は会社法に規定されている利益相反取引の制限について解説する内容となります。

利益相反取引に該当する場合には、株主総会または取締役会の承認を受けていることを証するために株主総会議事録または取締役会議事録を添付しなければなりません。議事録を作成するにあたり、会社法の規定をよく理解しておく必要があります。

条文

会社法第356条第1項

取締役は、次に掲げる場合には、株主総会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。
一 取締役が自己又は第三者のために株式会社の事業の部類に属する取引をしようとするとき。
二 取締役が自己又は第三者のために株式会社と取引をしようとするとき。
三 株式会社が取締役の債務を保証することその他取締役以外の者との間において株式会社と当該取締役との利益が相反する取引をしようとするとき。

取締役会設置会社においては、「株主総会」の部分が「取締役会」となります。取締役会で承認を受ける取締役は、特別の利害関係を有する取締役となりますので、取締役会の議決に加わることができません。

また、競業・利益相反取引をした取締役は、当該取引後、遅滞なく、当該取引についての重要な事実を取締役会に報告しなければならないとされています。

直接取引

第1号に規定されているのは競業取引ですが、割愛させていただきます。第2号に規定されている取引は直接取引と呼ばれています。例えば、取締役が所有する不動産を株式会社に売却することは直接取引に該当します。取締役が自分自身で行う取引のほか、第三者のために行うものが含まれます。

第三者のためとは第三者を代表してという意味であり、A社(代表取締役甲)とB社(代表取締役甲)間の取引で、甲が2つの会社を代表して取引をすれば、両社で利益相反取引に該当します。

A社の立場から見ると甲は第三者であるB社のためにA社と取引をしていることになり、同様に、B社の立場から見ると甲は第三者であるA社のためにB社と取引をしていることになるのです。このように、原則を押さえておけばもっと複雑な事案においても応用することができます。

間接取引

第3号に規定されている取引は間接取引と呼ばれています。典型的な例として、株式会社が取締役の債務を保証する行為が挙げられています。保証契約は債権者と保証人間の契約ですから、取締役は契約の当事者ではありませんので直接取引には該当しません。

このように、株式会社が取締役以外の第三者と取引をする場合であっても、利益相反取引は制限の対象となるのです。

一人会社における利益相反取引

実務上、よく問題となるのが一人会社における利益相反取引です。

判例によれば、競業・利益相反取引の制限は、株主の利益を保護するための規定だから、株式全部を所有している株主が取締役となっている場合等、実質的な個人経営である場合には、株式会社と取締役間の利害の対立はなく、利益相反取引についての承認は必要ないとされています。

だとすれば、株主総会議事録の添付は不要となるのでしょうか。会社の登記記録からは株主が誰かは判明しませんので、登記申請データを調査する登記官には一人会社かどうかは分かりません。

過去の記事でも述べましたが、このようなケースに遭遇したときには登記官の立場になって考えてみることが重要です。私なら株主総会議事録を添付しますが、ネット上で調べると利益相反取引の承認不要であることを証するために株主名簿を添付することもあるようです。ただし、後者は法定の添付情報ではないため問題が生じる可能性があるように感じます。

マイナ保険証スタート!従来の保険証は使える?

2024-12-09

運用開始

令和6年12月2日、健康保険証の新規発行が停止され、保険証とマイナンバーカードを一体化したマイナ保険証制度の運用が開始されました。

従来の保険証は使えなくなるのか、マイナ保険証を使えるようにするにはどうしたらよいのかといった疑問を持つ方が多数いらっしゃるようです。そこで、今回はそのような疑問に答えていきたいと思います。

従来の健康保険証

従来の健康保険証は、問題なく最長で令和7年12月1日まで使えます。ただし、国民健康保険、後期高齢者医療制度の保険証は有効期限が設定されています。お手持ちの保険証には有効期限が記載されていますので、確認することは容易だと思います。

また、自己負担割合にも変更はありませんので、マイナ保険証を持っていないからといって全額自己負担になるようなことはありません。

資格情報のお知らせとは何か

これは、後に説明する資格確認書とは全く別物の書面となります。

会社員や公務員等を対象に、それぞれが所属する保険組合等からマイナ保険証を持っているかどうかにかかわらず各家庭に届けられています。対して、国民健康保険や後期高齢者医療制度では、マイナ保険証をもっている加入者に12月2日以降、交付される予定です。

この資格情報は、マイナ保険証を持っている人が、自分が入っている健康保険組合や自分の保険者番号等を確認するためのものです。マイナ保険証に対応していない医療機関を受診する場合、システムの不具合でマイナ保険証が使用できない場合等、マイナ保険証とともに資格情報を持ち歩くことで不測の事態に対応できるといったことを想定しています。

また、資格情報のお知らせだけでは保険診療は受けられませんので、その点も資格確認書と異なります。

資格確認書

従来の健康保険証には有効期限が設定されていることは上述しました。では、期限後に保険診療を受けるためにマイナ保険証を作らなければいけないのかというとそうではありません。

マイナンバーカードを持っていない人やマイナ保険証の利用登録をしていない人などに、健康保険組合や国民健康保険組合などの保険者から、順次、「資格確認書」が交付されます。自動的に交付されますので、被保険者の交付申請等の手続は不要です。

「資格確認書」は従来の保険証に代わるものであり、保険証と同じように使うことが可能です。

マイナ保険証の利用登録

マイナンバーカードがそのままマイナ保険証になるわけではありません。マイナ保険証の利用登録をしなければなりません。利用登録は、医療機関の窓口、セブン銀行のATM、オンライン上のマイナポータルで行うことができます。

一旦、利用登録をした場合でも保険者に対して申請をすることで、マイナンバーカードの健康保険証の利用登録を解除することができます。有効な保険証がない場合には資格確認書の交付を受けることも可能です。

未成年者の養父母が死亡した場合の親権者は?法定代理人不在!

2024-12-02

相続対策と養子縁組

相続対策として祖父母と孫が養子縁組をすることがあります。孫が未成年者の場合は、祖父母双方と養子縁組をしなければならず、15歳未満であるときはその法定代理人である実父母が孫に代わって縁組の承諾をすることができるとされています。

また、原則として未成年者を養子とするには家庭裁判所の許可を得なければなりませんが、祖父母が孫を養子とする場合には、許可は不要となります。

養父母双方の死亡

孫が未成年のうちに養父母双方が死亡した場合はどうなるでしょう。子が養子であるときは養親の親権に服するとされていますので、養子縁組がされると孫の親権者は祖父母となり、実父母は親権者ではなくなります。

養父母の死亡により、実父母の親権が復活するのかという疑問が生じますが、結論から申し上げますと、復活することはなく親権者不在の状態となります。

実親の虐待等、子の利益を著しく害することを避けるために養子縁組がなされることもあり、一律に実親の親権を復活させることにすると問題が生じ得るからです。

未成年後見人の選任

上述した親権者不在の状態を解消するためには2つの方法があります。1つめは家庭裁判所に未成年後見人の選任を申立てるという方法です。

実親を後見人候補者として申立てることはできますが、孫が不動産等の多くの財産を所有しているときには、司法書士等の専門職後見人、後見監督人が選任される場合があります。専門職に対しては未成年者本人の財産から報酬を支払わなければなりません。

また、実親等の親族が後見人に就職した場合でも家庭裁判所に財産目録の提出、定期報告等をしなければなりません。親権者は未成年者の財産につき自己のためにするのと同一の注意義務を負うのに対し、未成年後見人は未成年者の財産の管理につき善管注意義務を負い、親権者より重い注意義務が課せられます。

養親である祖父母の遺言によって、実親を未成年後見人に指定することもできますが、親権者と異なる多くの負担を抱えることになるでしょう。

死後離縁

2つめの方法は死後離縁です。死後離縁とは、養子縁組をした当事者の一方が亡くなった後に、生存している他方が相手との血族関係を終了させる手続きです。死後離縁は家庭裁判所の許可を得る必要があり、養子が15歳未満であるときは離縁後に法定代理人となる実父母が申立人となります。

なお、離縁は養子縁組によって生じた権利義務などを将来に向かって消滅させるものですから、養子(孫)が養親(祖父母)の相続人の地位を失うわけではありません。

養方の財産を相続しておきながら扶養義務を免れるといった不純な目的がある場合には家庭裁判所の許可が得られないといったことが懸念されますが、今回の事例では該当しないと考えられます。

実質的支配者リスト制度について

2024-11-25

実質的支配者とは

議決権の25%超を直接または間接に保有する等、法人の事業活動に支配的な影響力を有すると認められる自然人のことをいいます。間接保有とは、例えば、自然人Aが、甲株式会社の株主である乙株式会社を介して間接的に甲株式会社の議決権のある株式を有していることをいいます。

この場合において、間接保有というためには、自然人Aは、乙株式会社の50%を超える議決権を有していることが要件となります。この場合、乙株式会社を支配法人(実質的支配者が議決権の総数の50%超の議決権を有する法人)といい、要件を満たせば自然人Aが甲株式会社の実質的支配者となります。

議決権の25%超を保有する者がいない場合には、出資・融資・取引その他の関係を通じて事業活動に支配的な影響力を有すると認められる自然人が実質的支配者に該当しますが、該当者がいないときは法人を代表し、その業務を執行する自然人が実質的支配者に該当します。

議決権の50%超を保有する自然人(法人の収益総額の50%超の配当を受ける自然人)がいる場合は、この者のみが実質的支配者に該当し、他の25%超の議決権を有する者は該当しないことになります。

信託銀行が信託勘定を通じて25%超の議決権を有する場合、病気等により事業経営を支配する意思を欠く場合、名義上の保有者に過ぎず、他に出資金の拠出者等がいて当該議決権を有している者に議決権行使に係る決定権がない場合等、事業経営を支配する意思又は能力を有しないことが明らかな場合には、実質的支配者に該当しません。

国、地方公共団体、人格のない社団又は財団、上場会社等及びその子会社等の法人が実質的支配者となる場合もあり、それらは自然人とみなされます。

制度の概要

本制度は、株式会社(特例有限会社を含みます。)からの申出により、商業登記所の登記官が、当該株式会社が作成した実質的支配者リスト(実質的支配者について、その要件である議決権の保有に関する情報を記載した書面)について、所定の添付書面により内容を確認した上でこれを保管し、登記官の認証文付きの写しの交付を行うものです。

制度の利用により、信頼性の高い実質的支配者情報を得ることができ、金融機関、司法書士等の実質的支配者の本人特定事項の確認がスムーズにできる等のメリットがあります。

利用することができる法人

本制度を利用することができる法人は、資本多数決法人である株式会社(特例有限会社を含みます。)です。投資法人、特定目的会社その他の資本多数決法人は対象外となります。

持分会社(合名会社、合資会社及び合同会社)、一般社団・財団法人、学校法人、宗教法人、医療法人、社会福祉法人、特定非営利活動法人その他の資本多数決法人以外の法人も対象外です。

対象となる実質的支配者

上述した実質的支配者の全てが対象となるわけではありませんので注意が必要です。

具体的には、会社の議決権の総数の50%を超える議決権を直接又は間接に有する自然人が該当し、該当者がいない場合には会社の議決権の総数の25%を超える議決権を直接又は間接に有する自然人が該当します。

申出手続とその変更

実質的支配者リストの写しの交付を受けるためには、実質的支配者情報一覧の保管及び交付の申出をする必要があります。

また、申出をした実質的支配者リストに記載している実質的支配者が変更された場合には、申出をし直す必要は必ずしもありません。本制度は、任意の申出に基づいて実質的支配者リストの写しを発行するものですので、実質的支配者リストに記載されている情報に変更があった場合であっても、変更後の実質的支配者リストの保管及び写しの交付の申出をするかどうかも任意となります。

新たな情報が記載された実質的支配者リストの写しを必要とする場合には、改めて申出をすることとなります。

登記識別情報のシールが剥がれない!

2024-11-18

ここまで剥がれないとは!

登記識別情報のシールが剥がれないことはよく耳にします。今回は今までで一番大変な思いをしたので記事にしてみます。

登記識別情報は平成17年の不動産登記法の改正によって新たに登場しました。その後、シールが剝がれにくいといった事象が多発したため、その対応策として、平成21年に証明書用紙(地紋紙)のデザインを変更(透かし部分を小さくしたようです。)しました。

しかし、シールで目隠しをする方法が改められることはなく、問題の解決には至りませんでした。そこで、平成27年頃から折込式といわれる現在の様式に変更されることになり、シールを剥がすのに苦戦するといったことから解放されたのです。

登記識別情報の再作成

シールが剥がれずに登記識別情報を読み取ることができなければ、登記申請はできません。この場合の対応策として、法務省は剥がれない登記識別情報通知書を添付して申出をし、登記識別情報を再作成する手続を設けています。

私が今回苦戦したのは抵当権抹消の登記識別情報です。もし、読み取り不可ということになれば、抵当権者である金融機関に再作成手続をしてもらうか、委任状を交付してもらうかのどちらかです。司法書士が金融機関に対して、シールが剥がれないからといってそれらを依頼するなんてことはできないですよね。

私はそう思いましたし、多くの司法書士が同様ではないでしょうか。本人申請なら、本人からの要請に応じることがあるかもしれませんが、今までそのような話を聞いたことがありません。

書面申請へ

オンライン申請では登記識別情報を暗号化しなければなりませんので、読み取り不可の場合使えません。書面申請に切り替えて登記識別情報通知書の原本を添付する方法がありますが、法務局でもやることは一緒です。剥がして読み取ることができなければ、再作成せざるを得ないでしょう。

対応策

今回は抵当権抹消だったので時間をかけることができましたが、決済などその日に登記申請をしなければならないものだと相当マズイことになりそうです。毎回、書面申請の準備をするわけにもいかないでしょうし、決済事務所の方々はどうされているのでしょう。

ネットで検索すると、アイロンを使うことで上手く剥がれることがあるようですが、さすがに事務所にアイロンを常備しておくことはできないです。

シールは2層構造になっています。登記識別情報が印字されている用紙にシールを貼りますが、用紙の上に透明のシール、その上に目隠しをする紙の部分となっています。剥がれないのは透明のシールと紙の間の接着剤が透明のシールにこびりついてしまうことが原因かと思います。

硬貨等で力任せに擦ってしまうと、印字されている用紙部分を損傷してしまうおそれがあり、そうなると再作成です。ちなみに、今回は爪を使って少しずつ剥がしていきました。かかった時間は30分。3日間爪の痛みが残りました。

最後に、悪戦苦闘した登記識別情報通知書の写真を載せて終わりたいと思います。登記は完了していますので隠す必要はないとは思うのですが、登記識別情報をネット上に晒すのにはさすがに抵抗を感じますのでそうさせていただきました。以後、貧乏くじを引かないように願うばかりです。

利益相反行為(民法第826条)とは?

2024-11-11

利益相反行為とは

複数の当事者がいる場合における一方の立場では利益になるものの、他方の立場では不利益になる行為を意味する言葉です。

民法第826条では、親権を行う父又は母とその子との利益が相反する行為については、親権を行う者は未成年者を代理することができず、その子のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならないと規定されています。なお、同条違反の利益相反行為は無権代理行為となります。

具体例

親権者父A・母Bの親権に服する未成年の子Cがいるとします。

親子間で不動産の売買をする場合には、A・BがCの法定代理人として契約を締結することになりますが、それを認めてしまうとどうなるでしょう。親権者の所有する不動産を未成年の子に高く売りつける、または、未成年の子が所有する不動産を安く買いたたくといったことができてしまいます。

このようなケースにおいては、家庭裁判所に対して特別代理人の選任を請求し、利益相反しない他方の親権者と特別代理人が共同して子を代理することになります。

判例の採る外形説

利益相反行為であるかどうかは、行為の外形から客観的に判断すべきであって、親権者の意図や動機から判断すべきではないとされています。事例を掲げて検討してみます。

事例1
借入金を子の養育費に充当する意図で親権者が金員を借り受けるに当たり、その債務を担保するため、その親権に服する未成年の子の所有する不動産に抵当権を設定するケース

親権者が借入金を取得しますが、子のために消費しますので実質的には子に不利益は生じないものとも考えられますが、判断基準においては考慮されません。結果として利益相反行為に該当することになります。

事例2
親権者が借入金を自己の用途に供する意図で、親権者が未成年の子を代理して未成年の子の名義で債務を負担し、未成年の子の不動産に抵当権を設定するケース

親権者の意図や動機からは判断しませんし、子自身の債務を担保するために抵当権を設定していますので、親権者との間で利益が相反するわけではありません。したがって、利益相反行為に該当しないことになります。

遺産分割協議で該当する場合

上記具体例において、Aが死亡してBとCが相続人となって両者で遺産分割協議をする場合には親子間で財産を取り合うような関係となります。利益相反行為に該当するため、Cの特別代理人を選任する必要があり、Bと特別代理人との間で遺産分割協議をしなければなりません。

相続放棄

上記具体例において、Aが死亡してBが自らは相続放棄をしないで、Cの相続放棄をするとBの法定相続分が増えることによりCの不利益となり、利益相反行為に該当します。Aには借金しかなく、債務を相続しないことが目的であっても同様です。したがって、Cの特別代理人の選任が必要となります。

なお、B自らが相続放棄をした後にまたはこれと同時に、Cを代理して相続放棄をするときは、利益相反行為には当たりません。

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