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設例
Aが死亡して相続人は子B・C(Cは海外在住、日本国籍)の2人の場合に、A名義の不動産をBの単独名義にしたいケースを想定します。
遺産分割協議書の作成
相続人が複数いる場合の不動産の名義変更を含んだ相続手続を進めるためには、遺産分割協議書の作成が必要となります。ただし、遺言書がある場合にはその必要はありませんが、実務上遺言書が作成されているケースは少ないです。
相続人全員が遺産分割協議に参加しなければなりませんし、相続人の印鑑証明書を取得することが求められます。相続人が海外に居住しているときは、日本における住民登録は抹消され、住民票の取得はできなくなります。また、印鑑登録は住民登録地でしかできませんので、印鑑証明書の取得もできません。
したがって、設例のCについては署名証明(サイン証明)を在外公館で取得することが必要となるのです。
署名証明(サイン証明)とは
日本に住民登録をしていない海外に在留している人に対し、日本の印鑑証明に代わるものとして発行するもので、申請者の署名(及び拇印)が確かに領事の面前でなされたことを証明するものです。証明には以下の2種類があります。
形式1(貼付タイプ)は在外公館が発行する証明書と申請者が領事の面前で署名した私文書(遺産分割協議書、委任状等)を綴り合せて割り印を行います。形式2(単独タイプ)は申請者の署名を単独で証明するものです。
形式2は使いまわしができますので便利なのですが、相続登記においては形式1を求められることが多いです。多いと書きましたが、今まで形式2の署名証明を添付して相続登記を申請したことがありませんので、必ず形式1の署名証明を取得していただくように相続人の方にお願いをしております。
相続人の同一性確認
上記設例においては、Bの戸籍謄本と印鑑証明書を登記申請の際に添付します。戸籍謄本には住所の記載がないために、両者に共通する記載事項は氏名と生年月日のみです。つまり、相続人の同一性確認は氏名及び生年月日によって行っているものと考えらえます。
署名証明は印鑑証明書に代わるものとして位置付けられていますが、身分事項等記載欄には氏名、生年月日、日本旅券番号の記載があるのみで住所の記載がありません。
在留証明添付の必要性
ネット上では、在留証明は相続財産を取得する場合のみ必要となるとの情報掲載が多く見られます。しかしながら、当事務所では遺産分割協議書に住所を記載することから、相続財産を取得しない相続人の在留証明も添付しています。
ところで、印鑑証明書は不動産登記手続上、住所を証する書面として使用することが可能です。住民票の代わりとなるのです。ですから、印鑑証明書は在外公館が発行する署名証明と在留証明を兼ねている書面といえるのです。
在留証明の要否については、登記官の立場になって考えてみましょう。印鑑証明書や署名証明は遺産分割協議書の真正を担保するために添付するものです。用意できる資料はできるだけ添付するに越したことはないのではないでしょうか。
署名証明と在留証明は同時に取得することができますので、特に大使館、領事館から遠方に居住してなかなか行くことが出来ない場合には、在留証明も併せて取得しておきましょう。