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はじめに
旧商法時代に設立された株式会社は、取締役3名以上及び監査役1名以上を置き、取締役会の設置が義務付けられていました。会社法の施行によって、取締役会、監査役を置かない株式会社の機関設計が認められるようになりました。取締役が1名のみである一人会社も会社法施行時以降に設立可能となり、実務上よく目にします。
この記事では、取締役会を置かない株式会社の取締役を新たに選任する場合の注意点について触れていきます。
業務の執行と決定
これ以降は、取締役会設置会社以外の株式会社について話を進めていきます。例えば、一人会社が取締役を増員して取締役が2名になったとします。この場合、業務の執行は各取締役が単独で行うことができますが、業務の決定は取締役の過半数で行います。どちらも、定款に別段の定めを設けることができます。
ただし、支配人の選任、解任、支店の設置、移転、廃止などについての決定を各取締役に委任することはできないと定められており、原則通り取締役の過半数によって決定しなければなりません。
代表取締役
取締役を増員した場合には、取締役全員が代表取締役となります。取締役に就任した者は当然に代表取締役にも就任したことになりますので、新たな取締役と代表取締役の就任登記をします。
増員取締役を代表取締役にしない場合
会社法には、株式会社(取締役会設置会社を除く。)は、定款、定款の定めに基づく取締役の互選又は株主総会の決議によって、取締役の中から代表取締役を定めることができると定められています。
つまり、各自代表が原則なのですが、3つの方法によって代表取締役を定めることができるのです。言い換えれば、取締役の代表権を奪うことも可能だということです。
株主総会の決議
代表権を有しない取締役を増員する場合には、改めて代表取締役を選任する決議を要するのでしょうか。第1号議案で新たな取締役を選任し、第2号議案で現代表取締役を選任する決議をした株主総会議事録を添付しても登記申請は可能です。
ただ、株主総会の決議で代表取締役を定めるというのは、株式会社を代表させたくない取締役から代表権を剥奪する行為であるともいえます。このことから、増員取締役を株主総会で選任する際に代表権を有しない取締役であることを決議すれば足りるのです。
以下に、株主総会議事録の議案の記載例を掲載しますが、役員変更登記が補正なく完了することを保証するものではありません。利用される際には自己責任でお願い申し上げます。
第○号議案 取締役の選任に関する件
議長は、取締役を新たに選任する必要がある旨を述べ、その選任方法を諮ったところ、出席株主中から議長の指名に一任したいとの発言があり、一同これを承認したので、議長は下記の者を指名し、この者につきその可否を諮ったところ、満場異議なくこれに賛成したので、下記のとおり選任すること及び代表権を有しない取締役とすることに可決確定した。なお、被選任者は、席上その就任を承諾した。