家族信託の活用例-事業承継のために自社株式を信託する方法とは?

Xからの相談

私は、食品加工業を営む会社の経営者兼オーナーです。私には、長男Aと長女Bがおり、Aだけが会社の経営に携わっています。
後継者であるAに自社株式の全てを承継させるつもりにしていましたが、Bから遺留分の請求をされるおそれがあり、会社経営にも問題がおこりうるとの指摘を知人から受けました。
ちなみに、自社株式以外の資産はほとんど持っておりません。
何か良い方法はありませんか?

問題点

このままの状態を放置して、Xの相続が発生すると株式をAとBが2分の1ずつ取得します。Bが株主になると、株主としての様々な権利行使が可能となり、会社経営に携わっていないBが会社経営に口出しすることができることになります。AとBの関係が良好であれば、そのような心配は不要なのでしょうが、相続による株式の分散は避けるべきです。

では、生前に株式全てをAに贈与する方法はどうでしょう。株式の価値が高ければ高いほど多額の贈与税が課せられますし、後に説明する遺留分の問題も出てきます。また、Xが元気なうちは会社経営に携わって会社のオーナーとしての地位を維持したいと考えていた場合には、それも叶わなくなります。

Xの死後に株式を承継させるために、Xが、自社株式の全てをAに相続させる旨の遺言書を作成する方法も考えられます。設例のケースでは、自社株式以外の資産はほとんどないわけですから、BからAに対し、遺留分の侵害額請求をされるおそれがあります。

Xが認知症になってしまうとどうなるでしょう。判断能力を欠いた状態では、会社の代表者としての行為や株主総会において議決権の行使をすることができません。事実上、会社経営がストップしてしまいます。

Xの後見人を選任したとしても、後見人はX本人の利益となることしかできません。会社の設備投資などの行為をすることはできませんし、そもそも後見人がXの法定代理人として会社の経営に携わることは想定されていないと考えます。

自益権と共益権

信託の活用にあたって、株主の権利には自益権と共益権があることを理解する必要があります。

自益権とは、経済的利益を受ける権利のことを言います。配当を受け取る権利、株式を売却してその代金を受け取る権利、会社が解散した場合に残った財産を受け取る権利などを指します。

共益権とは、会社の経営に口出しする権利と言えます。具体的には、株主総会において議決権を行使することなどを指します。

信託の活用法

委託者兼受益者をX、受託者をAとします。株主は、XからAになります。

Aは議決権(共益権)を行使することもできますが、Xが判断能力を有しているうちはXの意思を会社経営に反映させるために、Xを議決権行使の指図権者として、AはXの指図に従って議決権を行使します。Xが認知症になってしまった場合には、Aに対する指図はできなくなりますので、議決権はAの裁量によって行使することになります。

Xが死亡した場合には、受益権(自益権)をAに75%、Bに25%の割合で取得させます。Bが取得した受益権は自益権のみなので、議決権(共益権)は行使できません。Aが全ての株式について議決権を行使できますので、無用なトラブルを防止できます。

このように信託を活用すれば、自益権と共益権を分離して承継させることができるのです。Bが取得した受益権の相続評価額は、Bが株式を相続で取得した場合と同じになります。Bは議決権を行使できませんが、それによって評価額が下がるわけではないのです。

補足説明

設例の信託は長期にわたることが予想されるため、後継の受託者として孫Cを定めたり、一般社団法人を設立してそれを受託者とする方法も考えられます。

同族会社においては、ほとんど株式の譲渡が制限されていますので、Bが株式を売却して現金に換えることは困難だと思われます。また、配当金も多くは貰えないでしょう。

したがって、将来的にはAまたは会社がBの株式を買い取って、Bに現金を手渡すことを検討した方がよいでしょう。

 

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